不動産に関する裁判でも、私道についての判例がよく見受けられます。
実際に裁判に至らない、もしくは訴訟まで行っても和解により取り下げられた事例は無数にあるでしょう。
それだけ、私道に関してのトラブルは日常的であるとも言えます。
インターネットで私道を検索すると様々な注意喚起の記事を見つけることが出来ます。
トラブルの危険性が常にあることから、出来れば積極的に取り扱いたくない私道がらみの土地や中古住宅ですが、不動産取引を行っている私たちは避けて通ることは出来ません。
この記事では私道に関する法律を正しく理解し、事前調査や顧客への説明を行うことにより余計なトラブルを抱えることがないように基本から解説を行います。
囲繞地通行権では自転車が通れない?私有道路通行の注意点
・私道に接道している場合の説明が自分でできる
・私道に関しての裁判事例がわかる
道路に関する法律を理解する
まず道路に関する定義を正しく理解しましょう。
道路関連の法律は、昭和27年6月10日法律_第180号で施行され、現行法でもある道路法を始めとして道路交通法・高速自動車国道法・道路構造法・車両制限法など多岐に分かれています。
これらの法律の中で、その管理や定義に関しては道路法に定められています。
道路法第3条による道路は下記の4種類に分類されます。
2. 一般国道
3. 都道府県道
4. 市町村道
そして道路法第4条では「道路を構成する敷地、支壁その他の物件については、私権を行使することが出来ない。但し、所有権を移転し、又は抵当権を設定し、若しくは移転することを妨げない」と、私権の制限を定めています。
ですが私道に関するトラブルの多くは、道路所有者による私権の行使が問題となっています。それは何故でしょうか?
私道は道路法による道路ではない!!
皆さんも一度は目にしたことがあるかも知れませんが、住宅地内の道路で時折、見受けられる「私有道路につき通り抜け禁止!!」などの立て看板。
この看板を見て、なぜ道路なのに通行できないのだろうと考えてしまいます。
道路法4条では私権の行使を認めていませんから、自由に往来が出来そうです。
ですが、この「通り抜け禁止」の看板は違法ではありません。
その理由は道路法3条で定める道路に「私道」は含まれていないからです。
つまり、「私道」は道路法上の道路ではないのです。
アスファルト舗装もされ、見た目は完全に道路で住宅も立ち並んでいる。
でも、道路法上では道路ではない。
このように私道には、一見して道路の体裁をなしている物も多く、目視だけで判断がつきません。
道路であっても道路法に含まれない、私道とはいったい何?
道路法の区分は全て、道路としての条件を満たし、政令もしく都道府県知事・市町村長などが、その路線を認定したもと定められています。
つまり管理者(道路所有者)が自ら道路を整備して認定をする性質です。
もともとの旧道路法(大正8年法律第58号)では、道路は全て国道とされていました。
その後、国による道路の一元管理が、効率上でも無理があることから道路法が改正され現在にいたります。
管理者が個人である時点で、この道路法の要件は満たされません。
ただし所有が個人である場合であっても、古くから道路として使用されていたものが突然、道路でないとするには様々に弊害が生じることになります。
そこで、一定の裁量権を特定行政庁に付与することにより、管理者が個人であっても道路として認定すると言った救済の必要が生じました。その救済が「建築基準法第42条1項5号」になります。
このような私道は、管理者が個人であるにも関わらず、特定行政庁により便箋的に位置の指定を受けたことにより、建築基準法においては土地の接道要件を満たすことになります。
道路法上の道路ではないが、建築基準法では道路となる。
道路であっても私権行使を容認するしかない理由は、ここにあります。
位置指定道路を正確に理解する
今回は「私道」を、位置指定道路と定義します。
一般的には旗竿地と呼ばれ、建築に関しての接道要件を満たすために道路法上の道路に間口2mを設置させている形状の土地などの、「竿」にあたる部分は、あくまでも敷地であるとして説明を割愛します。
そのような形状でも、図のように「竿」形状の宅地が複数あつまり幅員を広げ「通行および掘削」に関して相互同意していることにより位置指定を与えられている道路もありますが、そのような説明を行うと話が長くなりますので割愛いたします。
建築基準法42条に関しての私道
ご存じかと思いますが、建築基準法では原則として幅員が4m以上の道路に間口が2m以上接道していることが、建築を行うことが出来る土地の基本条件とされています。
囲繞地と呼ばれる土地では、道路にあたる部分を、隣接する土地の所有者が単独もしくは共有していることになります。
例えば、下記の図のような袋地形状の場合には、A所有の私道を使用する以外に公道へ出る方法がありません。
そのために所有者Aから「通行同意」を得ている必要があります。
また私道ではありますが位置指定を受けている場合には、建築に関しては建築基準法の42条の道路になります。
従って、囲繞地であっても建築基準法の接道要件を満たせることになるのですが、建築を行うためには水道や下水管などの接続のために道路を掘削するための「掘削同意」や「工事車両の通行同意」が必要となります。
「通行の同意」を得ているからと、私道所有者の承諾を得ずに工事車両を出入りさせ、所有者との関係をこじらせたことから「通行同意」を取り消され工事が中止となったケースもあります。
位置指定道路は名称に「道路」がつくことから、一般の道路と同じように誰しもが自由に通行できると思いがちですが、そうではないと理解しましょう。
このような個人所有の位置指定の場合、接道する土地や住宅の媒介契約を締結する前に、予め地主に承諾書を貰っておかなければ、せっかく客付けしてもキャンセルになるばかりか、顧客が正確に理解していない場合には建築にも支障が出ることになり思わぬトラブルになるケースが後を絶ちません。
私道で自転車が通行できない可能性がある理由
私道の所有者と、運悪く折り合いがつかない場合。
法律では袋地において、他人の土地を通行できる権利を認めています。
無論、これは袋地で道路が無い場合には、他人の土地を通らなければ自分の土地にたどり着けないのですから納得のいく法律です。
この囲繞地に関する通行権を「囲繞地通行権」と言います。
それでは、囲繞地通行権を主張すれば、他人の土地を自由に通れるのかといえばそんなことはありません。
法律では確かに「袋地の所有者は、公道へ出る為に袋地を取り囲む土地を通行することが出来る」、と定められており、袋地を取り囲む土地所有者は通行に関しての拒否が出来ないとしています。
ただし通行する方法や場所については「通行するのに必要で、かつ囲繞地の所有者が取り囲む土地の所有者に対して与える損害が最小限に抑えられる範囲」に限られるとも定めています。
つまり徒歩で、最小限の幅を歩くことが認められるだけで、自転車による通行や車の通行まで含めて無制限に認められている訳ではありません。
それらの行為を行うには、管理者の承諾を必要とします。
通行掘削同意はタダではない
私道によるトラブルを回避するためには、「公道」と「私道」の違いを正確に理解し、説明出来るレベルになる必要があります。
まずは今回、解説をした「道路法」と「建築基準法第42条1項5号」の違いを正確に理解しましょう。
また「私道」に関しては、「道路・掘削同意」に高額な費用を請求されるケースや、囲繞地の代替わりや私道所有者の変更により、従来は認められていた車の乗り入れが否定されると言ったケースもあります。
このように位置指定道路に接する土地を仲介する場合には、接道する土地や住宅の契約を締結する前に、予め管理者から承諾書を貰っておかなければ、せっかく客付けしてもキャンセルになりかねません。
また、この「通行・掘削同意」には相場が存在しません。
有利に交渉を進めるのも、こじらせるのも営業マンの腕次第と理解しましょう。
まとめ
営業担当者が安易に私道管理者に交渉を持ちかけることにより、話をこじらせるケースをよく耳にします。
道路管理者である個人は、その経験から私道に関しての法律に精通していることも多く「知ったかぶり」交渉は事態を悪くします。
経験の長い不動産熟練者でも、位置指定道路案件には慎重に、準備周到に望みます。
徹底的な情報収集や調査、そして理論武装をしたうえで交渉するようにしましょう。