▼この記事でわかること▼
・根抵当権の説明が自分でできる
・根抵当権つき不動産の対処方法がわかる
一般的な売買をしているだけでは馴染みのない、根抵当権。
登記簿に記載された極度額の範囲内であれば、預貯金のように自由に返済と借り入れが行えることは何となく知っているでしょう。
ですが、実際に根抵当権付きの物件を取り扱うには、根抵当権の性質を理解していなければ思わぬ失敗をします。
今回は「抵当権」と「根抵当権」の違いや、根抵当権つきの物件取引を行う場合の注意点について解説いたします。
「根抵当権」とは
「抵当権」については、改めて説明もする必要がないかとは思いますが、簡単におさらいします。
根抵当権も、不動産を担保することを目的とした登記であることに違いはありません。
金融機関(債権者)が、貸付債権を担保するために不動産に抵当権を設定しますが、その際には債権額により異なる登録免許税や収入印紙、司法書士報酬などが必要になることはご存じかと思います。
一般住宅などの場合、融資実行の際に一度だけ抵当権設定を行うと言うのが通常で、新たに2番・3番の抵当権の設定をしなければ、抵当権設定に要する費用も一度限りです。
ただし事業者が、事業資金の融資を受けるために不動産を反復継続して担保とする場合、取引の都度、抵当権の設定や抹消繰り返すと手間や登記費用も馬鹿に出来ません。
そこで一定の範囲内における不特定の債権を、極度額内(根抵当権を行使できる限度額)において担保するための方法が、根抵当権です。
根抵当権の残債確認
一般的な抵当権の場合には、登記簿で調査を行った抵当権の金額をもとに、債務者に残高証明書や償還予定表を提示してもらって確認すれば、債務が幾ら残っているか確認できます。
ところが、反復継続して融資金を調達できる根抵当権の場合には、極度額に対して幾ら借り入れがあるのか分かりません。
そこで、根抵当権の残額に関しては、「ヒアリングにより、債務者から現在の借入金額を聞き出す」ことになります。
もちろん私たち不動産業者は、根抵当権付き不動産の売買を行うために残額を聞いている訳ですから、債務者も正直に答えてくれると思います。
ですが、根抵当権の性質を思い出してみましょう。
正直に残債額を答えてくれたからと言っても、その額はヒアリング時点の金額であり、将来に渡って確定された金額ではないと言うことです。
実際の経験談ではありますが、査定額6,000万円の物件で、ヒアリングをした時点での根抵当権残額が約5,000万円。
これならば決済に問題がないだろうと、売り出しを開始して査定額の6,000万円で客付けしたのですが、販売期間中に借り入れを増やされ、更に共同担保物件であったことから元本確定もスムーズにいかずに大変な苦労をした経験があります。
債務者が申告する残額を信用しつつも、取引を円満に行うためには、万が一に備えることが大切です。
現在の債務が0でも、安心できない根抵当権の性質
根抵当権は債権者との申し合わせにより、自由に借り入れと返済が行える性質を持つことから、調査時点では借入残高が“0”だったとしても、その後において借り入れが行われる可能性が否定出来ません。
根抵当権つきの物件を売買する場合の難しさは、この根抵当権の性質によります。
そこで根抵当権つきの物件を取り扱う場合には、安全な取引を行うための鉄則があります。
契約内容によっては元本確定期日が設定されている場合もありますが、期日未到来もしくは期日が定められていない場合には、媒介契約を受けて販売を開始する前に、予め元本確定を行ってもらうことです。
確定期日が定められていない根抵当権の場合には、開始から3年を経過したうえで、債権者の承諾を得ずに確定請求を行うことが出来ます。この場合、請求から2週間を経過した時点で元本が確定します(民法398条の19)
元本確定とは、言葉通り債権者に現在の残額を確定してもらい、それ以降の借入・返済を行えないように凍結して、金額を確定してしまうことです。
この元本確定は「元本確定請求書」を、所有者(債務者)から債権者(金融機関等)に送付してもらう必要があります。
ただし原則論として根抵当権の抹消には、債権者と債務者双方の了承を必要とされており、確定期日未到来の場合には、債権者の協力なしに元本確定をおこなうことは出来ません。
確定期日未到来の場合には、所有者(債権者)が付き合いのある金融機関(債権者)に対して、いきなり書状を郵送して元本確定を依頼すれば、その後の取引に支障が出かねません。
また金融機関(債権者)にとっては貴重な融資先が1社、減ってしまう可能性がありますので、なかなかすんなりと元本確定に応じて貰えないのが実情です。
また対象物件が共同担保として、複数の不動産も含めて根抵当権設定されている場合には、その物件を共同担保目録から外すにも追加担保が債権者から要求されるなど、事前交渉に時間が必要となる場合もあります。
元本確定は媒介契約前に行う
根抵当権付きの物件を取り扱う場合には、予め所有者(債務者)から金融機関(債権者)に打診をしてもらい「元本確定」が間違いなく出来ると言う確認を優先してもらいます。
安全策としては、確認が出来るまでは売却依頼に応じないことです。
また、どうしても元本確定前の物件を取り扱う場合には「万が一の販売中止」も視野に入れて慎重に販売活動を行う必要があります。
個人情報保護の観点から、債権者と債務者の仲立ちを行うのは難しいのですが、介入が可能であれば積極的に介入する必要もあります。
中立の立場で不動産取引を行うのが、私たち不動産業者の原則である以上、不安なまま販売活動を行うことは慎むべきです。
根抵当権が確実に抹消できると言う確定判断が出来るまでは、根抵当権付きの物件には細心の注意を要します。
元本確定以降は、通常の抵当権抹消と同じ手順となり確定された金額を弁済することにより所有権移転がおこなえるようになります。
まとめ
ここまでのご説明でお分かりになるとおり、根抵当権の現在金額を知る方法は、「当事者である債務者に聞く」以外に方法はありません。
私たち不動産業者が銀行など(債権者)に確認しても、個人情報保護や信義則などの壁に阻まれ教えて貰うことは出来ません。
条件が整っていない状態で客付けをし、決済期日までに元本確定の交渉が出来ずに取引を延期し、違約金が発生するなどの事例は後をたちません。
この記事を読んでいただいた皆様には、「安心・安全な取引」を行う善良な不動産業者として、根抵当権付きの物件を問題なく取引して戴けるようになっていただけたらと思います。