コロナにより増加し続ける自殺者
警察庁による2020年集計によると1年間の自殺者は20,919人と11年ぶりに増加しました。
出展_警察庁HP_自殺者数
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html
同じく警察庁の公開情報によると、令和3年の2月まで自殺者数は下記表の通りとなっています。
これを、11年ぶりに増加した2020年自殺者数と、1月と2月で比較すると1月単月では横ばい、2月は増加していることがお分かりいただけると思います。
警察庁HPでは、過去の自殺者数統計もまとめられています。
公表されているデータでは2008年のリーマンショックを境に、2019年まで自殺者は減少を続けていました。
しかし令和2年には、2008年の自殺者数を上回り、令和3年は、令和2年も含めた過去12年を上回る勢いで自殺者が増加しています。
自ら尊い命を絶つ原因には余人に計り知れない様々な思いがあると思います。
ですが、自殺理由として新型コロナウイルスによる生活環境の変化や、雇い止め、雇用不安などが影響していることは様々な研究機関も指摘しています。
雇い止めや解雇による収入減少のために住宅ローンが支払えず、債権者からの執拗な督促により「鬱」を発症したことが自殺原因であることも少なくはないでしょう。
不動産業者だから出来ること
私たちは不動産のプロです。
ビジネスとして不動産取引を行いますが、本来、不動産は人に幸せを与えることが出来るのが理想です。
誰しもが、人から与えられるのは「涙」より「笑顔」の方が良いと思います。
人を幸せにする手段としての不動産知識として、私たちが「任売に関しての手法や知識、債権者との交渉に長けていれば」救える笑顔があるのかも知れません。
私は個人で不動産コンサルを行っている関係上、住宅融資が支払えず困窮しているクライアントの相談も行っています。
個人ベースで恐縮ではありますが、コロナ以降、確実にその数は増加しています。
思いつめた表情をして相談に来るクライアントに、私は努めて明るく言います。
「たかが、家を取られるだけじゃないですか。可能な限り任売後も手元にお金が残るように、債権者と債権圧縮の交渉を行います。第二の人生をスタート出来るように精一杯、お手伝いさせて戴きます」
真剣に悩んでいる方からすると「なんだ、その言い草は」と、思われるかも知れませんし、対外から賛否両論のご意見もあるでしょう。
ですが、クライアントと一緒に悩んで何か解決するのでしょうか?
重複しますが、私たちは不動産のプロです。
具体的に成果を出すことによって、始めて不動産業者としての社会的な役割を達成することが出来ます。
私たちが的確に、このような案件の処理を有利に進めれば、「救われる命がどれほどあるか分からない」と、私は信じています。
債権者と互角以上に渡り合い債権を圧縮する交渉が出来る、そのようなノウハウについては別の機会にお伝えしたいと思います。
事故物件の法的定義
今回のテーマは事故物件の取り扱いです。
残念ながら自宅で自殺が発生してしまった場合、残された遺族が不動産を売却して生活資金を補いたいと思っても、事故物件として「塩漬け」になる可能性が高まります。
理由は説明するまでもありませんが「心理的瑕疵」です。
不動産業に従事していれば、心理的瑕疵の告知義務については充分に理解されていると思います。
コロナの影響により自殺者が増加傾向にある現在、事故物件が増加することが予想されています。
心情的に事故物件を避けていても、不動産業者である以上、賃貸や売買を問わず事故物件を取り扱わなければならない時が来ます。
この機会に正しく事故物件の取り扱いを覚えておきましょう。
まず「事故物件」の定義を解説します。
定義を解説すると言いながら矛盾が生じますが、日本においては法律で事故物件の明確な定義は存在しません。
原因としては、事故物件に関する心理的な瑕疵は取引当事者の感情に大きく左右されることによります。
そのため事故物件の解釈も曖昧となり、諸説存在することになります。
ケースごとに物件を取り扱う不動産業者により判断されることから、告知義務違反を原因とした訴訟に発展することになります。
具体的な案件や判例などについて詳しく知りたい場合には、国交省が制作し不動産取引推進機構が運営している不動産判例データベースや
https://www.retio.or.jp/trouble/index.html
一般財団法人 不動産適正取引推進機構が運営しているRETIOから事例や判例検索するのが良いでしょう。
https://www.retio.or.jp/case_search/search_result.php?id=39
さて話を、事故物件の定義に戻します。
日本の法律には存在しない「事故物件の定義」ですが、海外では具体的に定義づけされている国もあります。
その中でも、2008年7月に台湾内政部解釈書簡で「事故物件」を定義づけたものが、日本の「心理的瑕疵近」に該当する事故物件の定義として近いのではないかと思います。
具体的な文書を見てみましょう。
「売主の財産権保有期間において、その建築の改良物の専有部分(主たる建物およびその付随建物を含む)において、殺人または自殺による死亡が発生したことがある。ただし、専有部分において切り付けられたが他の場所で死亡した場合は含まない。また売主の担保責任の範囲は売り出した家屋が事故物件でないことのみで、同じ棟の建物は含まない」
台湾では台湾民法66条1項および憲法143条で定められているように「土地は国民全体に属する」として、個人による土地の所有権を認めていません。
日本の場合には上記文章の冒頭を「売主の財産権保有期間において、その建築物及び敷地内において」と変更すれば、かなりの部分で定義づけ出来ると思います。
事故物件に時効は存在するか
個人により心理的瑕疵の存続期間も異なることから、明確な時効は存在しません。
古くからの不動産業者の間では、「事故物件の時効10年説」つまり、心理的瑕疵は事故発生から10年を経て告知義務を免れるという説もありますが、何ら根拠はありません。
先ほど紹介したRETIOの裁判事例を見れば分かりますが、事故の状況や背景、事故発生後の不動産の現況状況により判例も様々です。
17年前に火災による死亡者を出した家屋が、事件直後に取り壊され月極駐車場として一定期間使用され、その後において土地として売却をおこなったところ、契約締結前に説明を受けなかったことが告知義務違反であるとした裁判では、原告の要求は退けられました。
つまり、告知義務違反ではないとの判断です(東京地判平26・8・7)
(大阪高裁S37・6・21判事例)では、8年7か月前土地上にあった共同住宅の一室での焼身自殺の存在は瑕疵にあたらないとされています。
http://www.retio.or.jp/info/pdf/98/98-124.pdf
このように比較的短期間(8年7か月など)で心理的瑕疵を否定した判例があるかと思えば、(平成26年6・19判事2236-101)には、居住目的の土地売買に関し近隣住民の記憶に残る20年前の自殺事件等について、媒介業者が告知しなかったことは告知義務違反であるとした判例もあります。
https://www.retio.or.jp/info/pdf/98/98-126.pdf
この判例では、自殺事件が社会的耳目を集め近隣住民がいまなお記憶にとどめている点と、土地の購入目的がマイホーム建築であることについて重視されました。
このような裁判判例から、私たち不動産業者は以下のことに注意しなければなりません。
② 期間が経過しているからと、告知義務に関しては安易に判断をしない(基本は何年経過していても説明を行う)
③ 取り扱う物件に事故物件である可能性が生じた場合、所有者に対するヒアリングは勿論のこと、事故の背景や状況まで含め独自調査により可能な限り正確な情報を把握する。
【無料配布】心理的瑕疵・事故物件に関する告知書
ミカタストアでは「心理的瑕疵・事故物件に関する告知書」を無料で配布しています。
すぐにお使いいただけますので、是非お役立てください。
まとめ
今回の記事は事故物件に関しての理解を深めて戴き、期間経過によらず心理的瑕疵に該当する場合には必ず説明を行うことを徹底して戴くため解説を行いました。
また記事の前半で解説を行ったように、自殺者は増加傾向にありそれに応じるように事故物件もまた、増加する可能性が高まっています。
文字数の関係で今回は割愛しましたが、次回以降では「事故物件の具体的な調査方法」や「事故物件の査定額算出」「事故物件の販売方法」について、実務レベルでの詳しい解説を行いたいと思います。