投資用物件の取引では入居者付きの物件、つまりオーナーチェンジ物件の売買の割合が多くなります。
購入後に新たに入居者を募集する手間が省け、家賃収入が即時に得られるのでオーナーチェンジ物件には一定数の需要があります。
しかし、一般的な空き家の取引とは違い入居者がいるので室内の状況を細かく調査することが難しいのが難点です。
今回はオーナーチェンジ物件を調査する際、どのような点に気を付ける必要があるのか解説します。
1.まずは通常の物件と同じ調査
もちろんですが、重要事項説明書に記載すべき内容は通常の物件と同様の調査が必要です。
中の状況以外は把握できるので現地調査や役所調査の大部分は通常の物件と差異はありません。
異なるポイントは付帯設備表や物件状況報告書の調査です。
入居者に協力してもらい中の状況を確認できることが一番望ましいのですが、入居者の協力を得られないなど室内の状況確認が難しいケースも多くあります。
付帯設備や物件状況報告書は「第3者が占有中につき、中の状況を把握できていない」旨の文言を入れ、契約不適合責任を免責にしておくのが一般的です。
2.入居者との賃貸借契約の調査
賃貸借契約の内容の調査がオーナーチェンジ物件には必要です。
基本的には賃貸借契約は前オーナーから新オーナーが引き継がれ、オーナーチェンジ後も継続します。
しかし、賃貸借契約は物件によって内容が大きく変わります。
集合住宅によっては部屋ごとで内容が異なる場合もあります。
賃貸借契約の内容によってはオーナーチェンジ後、入居者とのトラブルに悩まされたり設備の補修などで思わぬ出費がかかったりするケースがあります。
特に売買物件を専門に扱っており賃貸物件の取引の経験が少ない方には見落としがちな思わぬ落とし穴がるので注意が必要です。
(1)賃貸借契約の内容確認
賃貸借契約には大きく分けて2つの様式があり、それは普通契約と定期契約という様式です。
普通契約は更新があり、さらに更新料が有る場合と無い場合があります。
また、居住権が優先されるためオーナー側に正当理由がないと入居者に退去してもらうことはできません。
一方で定期契約は更新がありません。
また、入居者から中途解約できる場合とできない場合があります。
期間満了後は正当理由なしに退去してもらうことも再契約して延長してもらうことも協議によって選択できます。
ただし、契約期間満了時であってもオーナー側から通知をしないと退去してもらうことができません。
次に契約内容で確認すべきことは設備の有無です。
賃貸借契約においての設備の有無は売買契約の付帯設備表などとは意味合いが異なります。
賃貸借契約での設備は実際に有るか無いかということは関係ありません。
賃貸借契約で設備が「有」というのはオーナー側が修繕義務負うという意味です。
例えば浴室乾燥機が「有」になっていれば、浴室乾燥機の故障時は修繕しなければいけません。
「無」であれば修繕する必要はありません。
設備の「有」の項目が多いということはオーナーチェンジ後に修繕義務を負う箇所が多い賃貸借契約であるということです。
(2)火災保険と賃貸保証
契約内容を確認する上で見落としてはいけないのは火災保険と賃貸保証の加入の有無です。
ここ5年以内ほどで仲介会社が介入して締結された契約では火災保険と賃貸保証の加入と更新が義務付けられている契約が多いです。
しかし、長く居住している入居者や悪質な入居者は賃貸保証や火災保険が必須になっておらず、加入していない場合もあります。
火災保険と賃貸保証が無い入居者は注意が必要です。
さらに、火災保険はただ加入していればいいというわけでは無く、「借家人賠償」付帯の保険に加入しているかも重要です。
火災保険は起こった事故が補償の対象か否かは事故の原因に左右されます。
入居者が原因で起こった事故でオーナー側に賠償する場合、借家人賠償が付帯していないと入居時の保険で補償を受けることができません。
それ以外にも入居者が原因の水漏れや原状回復が必要な偶然な事故なども入居者の火災保険で賄えるケースがあります。
火災保険が無いとこれらすべてが実費負担となります。
また、賃貸保証は家賃の滞納を代位弁済してもらうことだけが目的ではありません。
保証会社や保証契約の内容によっては・・・
・滞納の督促をしてくれる
・明け渡し訴訟を行ってくれる
・強制執行まで行ってくれる
・強制執行完了までの期間の家賃の保証を行ってくれる
など様々です。
火災保険と賃貸保証の加入がないとオーナーチェンジ後に思わぬトラブルに巻き込まれることがあるので注意が必要です。
(3)契約書の有無
入居者の中には契約書が無い方もいます。
オーナーの知り合いであったりオーナーと直接やり取りしていた入居者、古い契約で契約書が紛失している場合などが契約書の無い事例の一般的なものです。
契約書の無い入居者は取り決めも曖昧で賃貸保証や火災保険も未加入のケースが多いです。
売買契約締結前に新たに新オーナーとの賃貸借契約を締結してもらえるか交渉しておく必要があります。
できれば売買契約前に「売買契約が履行されなかったら白紙解約する」旨の特約付き賃貸借契約を新オーナーと入居者で結んでから売買契約をしたいところです。
(4)敷金の有無
敷金の返還義務がある場合は売買契約時に清算しておく必要があります。
また、トラブルを避けるために売買契約書にもその旨を記載しておきましょう。
最近はあまり使われなくなりましたが敷引も敷金・礼金に合わせて入っているときもあります。
(5)家賃の前払いや未払いはないか?
また、契約書に記載していることだけでなく家賃の前払いや未払いも確認が必要です。
前払い家賃に関しても敷金同様、売買契約時に清算するのが一般的です。
また未払い家賃に関してはどのように清算するか?
事前に確認して有無を確認して売買契約書を作成する必要があります。
(6)入居者はどんな人か?
どんなにしっかりとした賃貸借契約が取り交わされていても入居者がそれを守ってくれなければ意味がありません。
なぜならいくら契約不履行があったからといって即座に退去してもらえるわけではなく、場合によっては裁判費用などが発生してしまいオーナー側が負担を負うケースもあるからです。
家賃の入金状況や過去にオーナーとのトラブルや契約違反がないか事前に確認するようにしましょう。
入金状況やトラブルなどはオーナー側も物件を高く売りたいためにあまり言いたがらない傾向にあります。
しかし調査時には近隣住民の聞き込みや外部から物件をよく観察することでトラブルなどを推測できる場合もあります。
例えばゴミ屋敷にしていたり、黙ってペットを飼育しているなどは簡単に発見できます。
また、トラブルや契約違反が無くても高齢者の一人暮らしには注意が必要です。
室内での孤独死のリスクが高いからです。
緊急連絡先や連帯保証人の有無などは調査しておきたいポイントです。
3.室内状況の確認
実際に入居者がいる場合は室内の状況を見せてもらえるケースは稀です。
また、見れたとしても家具や生活用品、什器、備品などが置かれているため全てを把握することはできません。
ただし、最低限抑えておくべきポイントがいくつかあります。
(1)入居前の室内の状況
入居する前には入居前写真を撮影しておくのが一般的です。
退去のときの原状回復の際には入居前写真をもとに請求が行われるからです。
逆に入居前写真が無いのであれば原状回復費の請求は困難になります。
「入居時から破損、汚損していた」
と言い切られれば証拠がないので泣き寝入りするしかありません。
(2)直近の室内の状況
修繕や工事を行った物件では直近の室内の状況をオーナーや工務店、管理会社などが把握していることもあります。
ゴミ屋敷などになっていないか?
ペットの飼育はしていないか?
入居者が契約時と変わっていないか?
など知っているケースもあります。
修繕状況をヒアリングするさいに際に合わせて確認するようにしましょう。
(3)過去の修繕状況
建物の主要な部分だけでなく、室内の設備の修繕などをしている場合は開示してもらいましょう。
新しい設備が付いていたりマメにメンテナンスを行っているのは大きなセールスポイントです。
しかし言い換えれば修繕箇所が多すぎるのは建物の老朽化が進んでいたり、細かい要望の多い入居者がついていたりするサインです。
4.まとめ
オーナーチェンジ物件では入居者と賃貸借契約の調査がとても重要です。
念入りに調査することで契約後のトラブルを未然に防ぐことはもちろんですが、セールスポイントが見つかることも多いです。
わずかな違和感を見逃さずポイントを抑えた調査を行うことが重要です。