新築住宅の需要が減少し、リフォーム工事に活路を見出そうとする住宅業界、大手ハウスメーカーも含めリフォーム業界では日々激しい競争が展開されています。
工務店経営において引くに引けない毎日ですが、目を転じると有利な立場でビジネスチャンスを手に入れることも可能な方法があります。
それは不動産仲介業への参入です。
不動産仲介も競合する会社は多くたいへんな競争ですが、工務店の兼業だからこそ勝ち残れる道もあります。
工務店が不動産仲介業に参入するメリット
中古住宅の取引が活発化
一般社団法人不動産流通経営協会(FRK)は、2019年の中古住宅流通量が新築も含めた住宅流通量の40%に達したとの速報値結果を発表しました。
参考:R.E.port「19年の既存住宅流通量、全国60万戸超に」
FRKの推計方法は、総務省および国土交通省が発表する「既存住宅流通量シェアの推移」とは異なり、所有権移転登記個数をベースにしたものであり、市場の実態に近いものといわれています。
総務省および国土交通省のデータにもとづく既存住宅流通量シェアの推移は、下図のごとくおよそ15%が中古住宅の流通量比率と発表されています。
推計値の違いはあるとしても、住宅ストックの活用を政策としている現在、中古住宅の流通量が伸びていくことは疑いようがありません。
(注:国土交通省も試験運用として登記データを基にした既存住宅販売量指数を公表しています2021年3月31日。)
新築需要の落ち込みは工務店の事業ボリュームに直結します。
また新築の減少はリフォーム市場の競争激化を招くことでもありますが、逆に中古住宅の流通量拡大はリフォーム需要の拡大を意味することに気づかねばなりません。
不動産取引と建築受注
・築年数の古い住宅を購入する
・空き家を購入して介護事業を開始する
・現在住んでいるマンションを売却し、一戸建てを建てたい
これらは物件取得の後に建築工事を伴う不動産取引の例を示したものです。
建築工事の前に不動産取得をする人の情報が入手できると、建築工事の受注機会が増大します。
不動産取得をする人の情報を得るためには、不動産仲介の業務に係ることが最適であり、事業の多角化をも実現する方法といえるのです。
住宅の新築やリフォームを業としてきた工務店が、その前段階の不動産取引に係ることに不自然さはありません。
逆に住宅用地の選定やリフォーム目的の物件として、相応しいものであるかどうかをプロの目からアドバイスすることも可能になります。
不動産仲介業の開業
不動産仲介業をはじめるには宅地建物取引業の免許が必要であり、事務所には宅地建物取引士が常勤しなければなりません。
宅地建物取引士は国家資格であり、むずかしい試験を突破しなければなりません。
宅地建物取引業許可と宅地建物取引士の免許取得について、概要をお伝えします。
建設業許可と宅地建物取引業許可
宅地建物取引業は建設業と同様に、国土交通省管轄の免許を受けなければ開業できません。
建設業にはいくつか免許の要件があり、なかでも経営業務管理責任者の存在や、財産的基礎や金銭的信用が必要です。
対して宅地建物取引業は宅地建物取引士の在籍要件を満たすと建設業ほどのむずかしさはなく、既に建設業許可を有している工務店は比較的容易に免許取得が可能です。
また不動産仲介業の開業にあたって特別な資金を必要とするようなことはなく、同一事務所で開業することが可能です。
事業としての成否は「売りたい・買いたい」といった、顧客になり得る見込み客をいかに集客できるかがポイントとなります。
建築士と宅地建物取引士の共通性
工務店には建築士もしくは施工管理士が在籍するのが一般的です。建築士事務所も兼ねることが多く、建築士の在籍が多いかもしれません。
一方、不動産取引に関しては、宅地建物取引士が専門家として媒介業務における重要な役割を担うことはご存知のとおりです。
建築士が宅地建物取引士の資格を取得することは、それほどむずかしいことではありません。
逆に宅建士が建築士の資格を取得することはむずかしいかもしれません。
建築士は都市計画法・建築基準法などの、宅建士にも必要な法律的知識をすでに身につけており、宅建業法や民法などの不動産関係の法律知識を学ぶと資格取得は容易といえるでしょう。
宅地建物取引士は試験に合格しただけでは資格の活用はできず、都道府県知事の登録が必要になっています。
その登録には宅地建物取引業の実務経験2年以上が必要ですが、実務経験に代わる「登録実務講習」を受けることにより登録が可能です。
したがって工務店在籍の建築士が宅建士の資格を取得し登録することはむずかしくなく、工務店が不動産仲介業に参入する道が拓けるわけです。
不動産仲介業のスタート方法
不動産仲介業をスタートさせて軌道に乗せるには、いくつかのアプローチがあります。
・購入希望者を集客する
アプローチとしては「売り」と「買い」に大きく分かれますが、売り情報はさらに次の2つに分かれます。
・他社が媒介する物件情報を収集する
買い情報は購入希望者の集客に尽きるので、具体的な集客方法を考え実践していきます。
どちらが先ということはなく同時並行で、これらのアプローチを実行に移し、具体的には折込チラシ・情報誌・インターネットなどのメディアを駆使して、営業展開を図っていくことになるでしょう。
チラシやインターネットなどリフォーム客を集客する場合においても、同様のメディアを使い経験していることなので、工務店にとってはむずかしいことではないと考えられます。
ただし不動産査定や購入見込み客との商談など、不慣れな部分もあり経験者の増員なども必要になるケースも考えられるでしょう。
他社物件の情報は不動産業者のネットワークである「レインズ」から収集でき、物件情報を独自のメディアに掲載し集客活動につなげることができます。
他社物件を広告宣伝アイテムとして使えることは、建設業界では考えられないことで有効に活用したいものです。
不動産仲介から新築・リフォーム受注へ
住宅を建てたい、直したいといったニーズに対応してきた工務店が、不動産を買いたい、売りたいといった顧客を取り込むことにより、新築やリフォームの見込み客を獲得できるようになります。
ご縁があって新築住宅を建てていただいたお客さまですが、将来はリフォームの希望もあれば、住み替えを考える場合もあります。
建築工事+不動産仲介と、お客さまの住宅をトータルにそしてワンストップで、長い期間フォローすることによりビジネスチャンスは広がっていきます。
同居していたお子さんが独立し新たに住まいを求めるときにも、仲介業も兼業しているからこそ係れる役割があるのです。
住宅のジャンルを絞る「選択と集中」戦略により、古民家再生やリノベーション住宅に特化した、仲介+リフォームといった専門会社を目差す方法もありそうです。
待ちの営業から脱皮し、物件を開発しマッチする顧客を探し出す攻めの営業を目差してみませんか。
まとめ
工務店と不動産仲介業はどちらも住宅に関わる事業であり、親和性の高いものと感じられるのですが、工務店経営者には職人気質があり仲介業者には商人気質という違いがあります。
そのため不動産仲介業者が建売住宅事業に進出する事例から比べると、工務店が不動産仲介業へ進出する事例は少ないのではと感じています。
あくまでも私見ですが、そこには上述のように「気質の違い」があるのではないかと想像しています。
しかし工務店という業態が生まれて既に100年以上が経過し、宅地建物取引業もおよそ70年が経過します。
2つの業態を統合した『住宅の誕生から役割を終えるまでの住宅の一生を担う』新しい業態の誕生が必要とされているのではと思います。