「反社」という言葉は広く認知されており、私たち不動産業者には「反社チェック」と称する契約当事者が反社に該当するかどうかの調査が義務付けされているほか、万が一見落として契約してしまった場合にも、契約解除できる特約が重要事項説明書などに盛り込まれています。
公益社団法人不動産保証協会標準書式より転用
契約締結後に「反社」だと気付き解除するのは、警察などに相談して協力要請すれば比較的かんたんにできます。
ところが上記約款の16条8項
【本物件を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供したと認められる場合において、売主が第4項の規定により本契約を解除するときは、買主は、売主に対し、第5項の違約金に加え、売買代金の80%相当額の違約罰を制裁金として支払います】
皆さんは、この条文を適用して反者組織もしくは反社に所属する個人から80%相当額の制裁金を回収することができますか?
社会通念上の常識外で生きているから「反社」です。
契約約款に記載されているからと、すんなり回収ができた事例を私は聞いたことがありません。
経験上ですが、警察は「反社立ち退き請求」には積極的に協力してくれますが、「制裁金」の回収について相談すると
「不動産屋も大変だね。制裁金の回収まで警察は関与ができないから頑張ってね。ま、なにか暴力行為でもあれば事件にしてあげるから相談に来て。ハッハッハ……」と、表現はさておきこのようなニュアンスで言われるのがオチです。
もっとも私の経歴をご覧戴ければお分かりになる通り、若かりし頃はそれなりのレベルで活動するアスリートだったことから警察関係の先輩や後輩も多く、このときの相談相手も大学時代の直属の先輩であったことも理由の一つでしょうから、全ての警察関係者がこのような対応をされる訳ではありません。
私たちが「反社」である買主から制裁金の回収ができないからと、売主が同情して権利をスンナリと放棄してくれるかは別の問題です。
制裁金が高額であることから「何としてでも回収してきてくれ」と、言われるケースも考えられます。
回収に苦慮すれば、私たちが板挟みにあい苦労するのは目に見えています。
そのような状態におちいらないために、契約前には徹底調査をおこない、契約を未然に防ぐことが大切です。
ところが調査や記録に関して定めがあっても、具体的な調査方法についての定めはありません。
当事者の見た目で判断しようにも、一昔前のように自分が「反社」に属していると喧伝してくれる個性的なファッションセンスの持ち主は少なくなり、一般社会に溶け込んでいます。
そこで今回は、「反社関連」法の解説と併せて、ハイリスク取引を防止する意味での調査について具体的に解説します。
反社に関する法律
「反社」に関する法律はひとくくりに「反社関連法」と称される場合も多いのですが、実際に私たち不動産業者が関わる法律は、大まかに下記のようなものがあります。
② 「暴力団排除条例」(地方公共団体により内容がことなる)
③ 「暴力団による不当な行為の防止等に関する法律」
まず平成19年法律第二十二号「犯罪による収益の移転防止に関する法律」ですが、これは犯罪による収益が形を変えて交換される、もしくは犯罪組織間において相互に流通することが犯罪の助長につながることから、これらのことを防止する目的で定められた法律です。
この法律で定義する犯罪組織は暴力団だけでなく、犯罪組織処罰法に該当する犯罪組織や、「麻薬及び向精神薬取締法」に該当する組織、テロリズム組織など、広義の犯罪組織(個人も含む)に対して適用されます。
この法律は、すでに犯罪により得られている収益を、使用できないようにしてしまうという封じ込みを目的としています。
そこで収益移転に関与する可能性の高い業者として、同法第二条(定義)で銀行や保険会社を代表的な「特定事業者」として定めていますが、40番目にあたる特定事業者として私たち宅地建物取引業者も指定されています。
混同されがちなのが、②「暴力団排除条例」と③「暴力団による不当な行為の防止等に関する法律」です。
暴力団を排除するという目的は共通しているのですが、厳密には違うものです。
例えば私の活動している北海道の暴排条例では目的を以下のように定めています。
引用_北海道警察HPより
東京都では目的を以下のように定めています。
引用_警視庁HPより
各地方自治警察のHPで「暴排条例」は掲載されていますので、見比べると面白いものです。
ただし目的がことなれば当然としてその後に続く基本政策や処置の内容も変わってきます。(もちろん暴力団を排除しようという理念は同じなのですが)
暴力団排除条例はあくまでも地方公共団体による条例で、現行法とは別の「自主法」です。
つけくわえると「暴排法」という単独の法律は存在していません。
暴力団とは「暴力団による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)」により定義されている団体のことで、この法律を根拠として指定を受けた組織を、「指定暴力団」と称します。
可能な限りこのような方々とお付き合いをしないようにすることが肝心ですが、私たち不動産業者の場合には賃貸斡旋や売買など不特定多数の顧客に対応しますので、意図せずに関りをもってしまうケースがあります。
そのため「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づく「反社会的勢力の排除に関する特約による解除」や、「犯罪収益移転防止法」に基づく契約当事者の素性調査を記録した「確認記録」を作成し、7年間の保存義務が存在する訳です。
反射チェックの具体的な調査方法
調査は当事者が個人か法人かによってことなるほか、予備調査で懸念が残る場合にはさらに詳細な調査を実施する必要がありますので、どこまでやれば大丈夫といったものではありません。
調査に関しての考え方は2つです。
2. 徹底調査して、可能な限り取引を未然に防ぐ。
実際の調査では下記1.で記載する書類を、偽造防止のために原本提示を原則として写しを収集していくことにより、おおよそ7割以上の確率で「反社」である、もしくはその可能性が濃厚であると判断できます。
一番簡単なのが、通帳確認です。
理由は単純で、個人が「反社」である場合には金融機関により反社チェックを受けていますから、該当していれば通帳を作成することができません(法人も同様です)
このような場合には通帳確認を要求しても、プライバシーや情報保護などを理由として拒んできます。
また金融機関の反社チェックをすり抜けて通帳を作成している場合も考えられますが、その場合には通帳の中身を確認します。
支払や入金先が、株式情報や法人番号公表サイトで確認することができる優良企業であれば安心することができます。
それ以外にも「反社」が適切に確定申告をして納税していることは稀ですから、申告書や納税証明も判断材料として役立つ書類の一つです。
このように書類上で怪しいと感じられる部分について質問し、言動の矛盾点を確認していくことにより、7割以上の確率で「反社」である、もしくはその可能性が著しく高いと確認できます。
① 運転免許証
② 印鑑登録証明書
③ マイナンバーカード
④ パスポート
⑤ 在留カード(特別永住者証明書)
⑥ 官公庁発行書類(写真付)
⑦ 健康保険証
⑧ 国民年金手帳
⑨ 住民票
⑩ 戸籍謄本
⑪ 公共料金領収書
⑫ 社会保険料の領収書
⑬ 国税・地方税の領収書・納税証明書
⑭ 預金通帳(本人名義に限る)
① 登記事項証明書
② 印鑑登録証明書
③ 官公庁発行書類
④ 登記情報サービスを利用しての登記情報(サービスを利用して、自ら確認する)
⑤ 法人番号公表サイトからの公表事項(国税庁運営サービスを利用して、自ら確認する)
⑥ 本人確認書類(原則は代表取締役確認)
⑦ 公共料金領収書
⑧ 社会保険料の領収書
⑨ 国税・地方税の領収書・納税証明書
⑩ 行政処分情報(運営サービスを利用して、自ら確認する)
⑪ 対象業者の監督官庁で運営するHPから確認(運営サービスを利用して、自ら確認する)
⑫ 許認可事業情報(運営サービスを利用して、自ら確認する)
利用するサービスなどには以下のようなものがあります。
A.同姓同名の事件履歴や、犯罪歴がないか確認する。
B.行政処分情報の運営サービスを利用して確認する。
C.対象業者の監督官庁で運営するサービスを利用して確認する。
D.許認可事業情報で運営するサービスを利用して確認する。
書類の収集前にインターネットで該当しないかチェックし、何もないと安心されている方がおられますが間違いです。
そもそも当事者が本人(法人)であるかどうか不明です。
偽名の使用や、代理人である可能性を否定することができません。
あくまでも本人確認記録を徹底してから検索するのが基本です。
当事者が法人の場合には、「フロント企業」とよばれる企業舎弟に該当する場合があります。
表向きは不通の会社であることから税務申告や納税もおこなっていますし、書類収集やネット検索で調査しても、確証が得にくいのが特徴です。
経験上ではありますが、フロント企業の人間は表向き一般人と変わらず、自分たちが「フロント」の人間であるという自覚から、実際に対面すると一般企業の社員よりも温厚で柔和な対応をしてくれます。
ところが何か臭う。
上手く表現ができないのですが、会話の端々に違和感がありますし、時折見せる目つきが一般人のソレとは違うのです。
たんなる思い過ごしならよいのですが、30年も不動産業に従事しているとベテラン刑事のように独特の嗅覚が発達するのでしょうか、なにかおかしいのです。
こればかりは経験を積むしかないのですが、そのような場合には万全を期すために事務所や自宅などの立地や周辺状況、必要性に応じて近隣に聞き込みを実施するほか、出入りする人間をチェックします。
また各都道府県にある全国暴力追放運動推進センターに相談するほか、警察に調査状況と併せて相談するのも有効です。
https://www.zenboutsui.jp/index.html
画像_全国暴力追放運動推進センター公式HPより
まとめ
今回は「反社」の定義に関する法的な見解や、具体的な調査方法まで詳しく解説させていただきました。
「反社関連調査」でネット検索すると、様々な情報を検索することができます。
今回の記事を執筆するにあたり、検索上位の記事を確認して見ましたが表面的な情報記事になっています。
もちろん記事の内容が間違っている訳ではありません。
ですが実際の取引でトラブルとなり、望んでもいないのに反社関連の事務所にお持ち帰りされ、彼らによると軟禁(実際は監禁)された経験が一度でもあれば、再発防止のため事前調査にも気合が入るものです。
今回の記事でもふれましたが、最近の「反社」は偽装が徹底され一見すると強面の人が一般人で、普通に見える人が「反社」なので困りものです。
いずれにしても調査不足によりトラブルが発生し、苦労するのは私たち不動産業者です。
「怪しいと思えば徹底調査」
今回の記事が、ハイリスク取引の防止に役立てば幸いです。