管理会社の役割はこれまでよりもより高度な能力が求められるようになっています。
プロパティマネジメントはもちろんのこと、ときにはアセットマネジメントを考慮した管理業務が必要になることもあります。
管理会社の枠を越えた業務と感じるか、対応して当然と考えるかそれぞれ判断が分かれることもあるでしょう
ここではオーナーが望む管理会社の能力を、どのように捉え現実の業務にどう活かしていくか考えていきます。
オーナーが望む管理会社の最低条件
オーナーには最低限「ここまではやってほしい」と望む、仕事のしかたや業務のあり方があります。
そのなかでも重要と思われる3つにしぼって、オーナーが求めるものを探ってみます。
高い入居率の維持
99.0%を超える入居率を確保したいとオーナーは思っています。
10室あるアパートで10か月間のうち空室となったのは1室、その期間が30日未満であれば達成できる入居率です。
つまり退去したのち30日未満で新規入居があると可能であり、理論的にはむずかしいことではありません。
理由のない退去を防止し退去予定が決まった場合は、新規入居まで最短の期間で済むようスケジュールを逆算して必要な工程を計画します。
計画後は前倒しで工程をすすめ、少しでもアイドルタイムを短くするよう工夫します。
具体的には新規入居者募集の体制整備と適正な家賃設定です。
エリアの仲介会社すべてと良好な関係を作り、管理業務に徹することもその方法のひとつです。
オーナーからの広告料はすべて仲介会社に支払うようにし、客付機能を常にフル稼働できる体制が重要です。
周辺物件との比較を徹底し家賃を的確に設定できる能力は、他社には真似のできないノウハウとも言えるでしょう。
効果のある低コストなリフォーム提案
管理会社が原状回復やリフォーム工事の提案をおこなうのは、上記の高い入居率を高めるためです。
管理会社自体が工事受注による売上アップを目標として、リフォーム提案をするなどは論外と言っていいでしょう。
・リフォームは費用対効果を明確に示す
このような意識にもとづく提案はオーナーの視点にも合致するものであり、管理会社は請負者としての立場ではなく、コンストラクションマネジャーとしての姿勢が必要です。
費用対効果を明確にするには単に机上の計算だけで、信頼できる結果を生みだせるものではありません。
効果を数値化し評価するには、実践したデータの積み重ねが必要です。
そのうえで投資効率をはじき出す評価方法が、オーナーも納得するものである必要があります。
確実な家賃回収力
満室経営であっても家賃滞納があっては空室があるのと同じことです。
確実に支払期日までに家賃を集金できることが大切です。
保証会社の利用が一般的になっていますが、保証会社の選択や集金代行サービスの採用など、オーナー目線でおこないたいものです。
保証会社を利用しない場合は、入居者本人はもちろん連帯保証人の審査や、滞納した場合の督促・回収の素早い対応など、オーナーから求められるものは大きくなります。
・長期滞納を防ぐツール利用
・法的手続き前の対応力強化
など通常業務による家賃回収力を高めなければなりません。
オーナーが本当は望んでいる管理会社とは
前述の「オーナーが望む管理会社の最低条件」は、これまでも言われていたことであり、管理会社も当然のことと認識しています。
ここからは、管理会社に今後求められることになる “もう一段上の” 能力について探っていきます。
キャッシュフローの管理
オーナーのキャッシュフローを管理会社が把握することはできるのでしょうか。
アパート経営などの収入と支出で動くお金は、ほとんどの場合管理会社が把握できます。
直接把握できないのは減価償却費とローン返済額です。
これらをオーナーから知らせてもらうことができると、管理会社がキャッシュフローを把握することは可能です。
キャッシュフローが把握できることは、オーナーの不動産所得を管理会社が知ることになり、信頼関係が深くなければ可能なことではありません。
逆に信頼関係が強くなるとオーナーは管理会社に対し、キャッシュフローも含めた賃貸経営全体に関わってほしいと希望するようになるでしょう。
これはアセットマネジメントの役割を求めているわけで、管理会社としては一段上の評価を得たとも言えるのです。
アクシデントへの対応
賃貸経営は変動要素の少ない事業です。
収入が毎日変わることはなく、売上のために必要な仕入れがあるわけでもありません。
入居者が決まると少なくとも1年以上は収入が見込めます。
しかしビジネスの相手は個人がほとんどであり、ときにはアクシデントやトラブルが起こります。
変動要素が少ないとはいえ変動が起きるときは、大きな変化になります。
・事故
・死亡
・逮捕
・滞納
これらは順調にあったはずの収入が突然なくなることを意味しています。
退去は賃貸経営には付きものであり、管理会社にとっては “あって当然” のものですが、オーナーにとっては入居者がいなくなり収入がストップするアクシデントです。
つまり “あってはほしくないもの” です。
同じ事象でも管理会社には「当然」なことですが、オーナーにはそうではなくあってほしくない「変事」です。
この受取り方の違いはオーナーとの信頼関係に大きな影響を及ぼします。
長期視点による賃貸経営
木造建築の長寿命化が期待できるようになり、木造アパートの経済的耐用年数が長期化します。
一方法定耐用年数は変わらず減価償却期間との関係で、節税効果がなくなったとしても買い増し戦略を採用することにより、収益性の高い物件を長期保有する方法も考えられます。
減価償却を終えたら必ず売却するという固定観念にしばられず、柔軟な考え方にもとづき賃貸経営を継続させる判断は、オーナーだけでは判断できないこともあり管理会社の適切なアドバイスが必要です。
長寿命化は無条件でできることではなく、長期計画にもとづいた適切なメンテナンスが欠かせません。
長期計画には資金計画との整合性も必要であり、月次のキャッシュフローから資金の積み立てをおこなうのか、借入による場合にはその後の返済計画との整合性も図らなければなりません。
長期的な視点に立ってオーナーを支援する能力が、管理会社には本当に求められていると言えるでしょう。
まとめ
管理会社は不動産管理者の視点から、不動産経営者の視点に立場を変えなければなりません。
所有と経営の分離は企業経営の原則ともいえることであり、不動産投資や賃貸経営においても同様の考え方が成り立ちます。
不動産オーナーは必ずしも経営のプロではありません。
管理会社が賃貸経営のプロとして資産運用をおこなう図式が、賃貸事業を取り巻く厳しい環境のなか必要になることではないかと考えられるのです。