2025年には築40年超の分譲マンションが、ストックの50%を超えます。
賃貸マンションも同様と思われ、築古物件の建替えがオーナーにとって重要な課題となってきます。
鉄筋マンション以外の木造や軽量鉄骨造のアパートにおいても、建替えの課題は存在し空室の増加と共に現実的な課題として表面化します。
ここでは築古物件を所有するオーナーに対し、管理会社が建替えについてアドバイスする場合、検討方法や判断の仕方などわかりやすく説明するためのポイントを解説します。
賃貸マンション・アパートの建替えが必要な理由
賃貸マンションやアパートなど不動産投資や賃貸経営をおこなう建物には寿命があり、継続して所有・運用する場合には時期が到来すると建替えをしなければなりません。
建替え時期は建物の構造によっても異なりますが、30年~60年が一般的に言われる使用年数です。
ただし最近の木造建築は耐久性を高める工法に変化しており、鉄筋コンクリート造や鉄骨造と同様に築60年が建替え時期の目安と考えらます。
では約60年で建替えをしなければならない理由は何か?
ひとつには構造部材の劣化による耐力低下があります。
とくに地震国日本では耐震性能の低下は致命的であり、安全に建物を利用するには建替えは必要なことです。
生活の拠点となる住宅にはさまざまな住宅設備が付帯しており、築後の経過年数によって古い設備ほど機能面・性能面で新しい設備と比較すると質が劣り、ニーズに合わなくなってきます。
住宅設備の更新は築年数が経るほど必要性が増してきます。住宅設備の交換には付帯する工事も多く、工事範囲によっては建替えしたほうがコストを押えられる場合もあります。
建物の内装や外装など入居者の目に触れる表装仕上げには、流行や好みの変化そして付加機能があるなど魅力が増しています。
新しい素材のほうが入居率を高める効果が期待できメンテナンスが容易になるなど、賃貸経営上メリットが多くなることもあり、リフォームを繰り返すよりは建替えが合理的になるケースも少なくありません。
建替えの手順と注意点
賃貸物件の建替えは入居者がいる場合、オーナーの意向で自由に進めることはできません。
入居者とのさまざまな調整が必要です。
2. 定期借家契約への切り替え
3. 着工前の退去
4. 再入居の条件設定
5. 設計委託契約と工事請負契約
6. 工事期間中の管理
7. 完成から引渡し
8. 建替え物件の入居開始
理想的には入居者がいなくなってからが望ましいのですが、それまでには家賃収入がだんだんと減少していくので、すべてが退去するのを待つのは合理的ではありません。
建替え計画が具体化した時点で入居者に計画内容を伝え、定期借家契約への切り替えができることが望ましいです。
納得して定期借家契約に変更した入居者へは、立退料の支払を含めた面倒な立退交渉をしないで済ませることができます。
定期借家契約への切り替えに同意しない入居者へは、時期が来たら立退料の支払いを前提とした立退交渉が必須と考えなければなりません。
建替えに必要な建築確認申請が済むと、いよいよ建替え工事に着手できます。
定期借家契約に切り替えた入居者の契約終期に合わせ、定期契約に切り替えできなかった入居者とは契約解約と退去交渉をスタートさせます。
また建築確認済証が交付されたのちは、建替え後の新規入居者募集を開始できますが、立退き交渉が成立し着工日と完成予定日が確定するまでは、募集は保留しておくほうが望ましいでしょう。
立退き交渉が無事終了すると、あとは所定の工事をスタートさせることになります。
建替え時期の判断
建替えをいつ行うかがオーナーにとって重要なことです。
満室経営がつづく状態では建替えの必要性は感じないものです。
築30年を経過した物件で3割~4割の空室があり、3か月~6か月かけてもなかなか埋まらない状態であれば、そろそろ建替えを検討する必要があると言えるでしょう。
空室がつづく原因にはいろいろあります。
・立地条件が悪い
・物件内容の割に家賃が高い
・入居者募集方法が悪い
など建替え以外の改善策で入居率の高まる方法がないか検討することは必要です。
リフォームが必要と判断された場合、高額な費用にならないのであれば選択肢として考えられることは言うまでもありません。
建替えを判断するにあたり外的な条件も考慮する必要があります。
・地盤が弱いにもかかわらず新築時に杭工事などの地盤補強を行っていない
・耐震診断の結果、現行の耐震基準に適合していないことが判明した
自然災害が激甚化し頻発するようにもなっています。
災害に対してリスクのある物件は建替えを決断する大きな理由になるでしょう。
建替え時期を判断するうえで「減価償却期間」が大きな要素になることもあります。
木造アパートは法定耐用年数が22年のため、減価償却が終了する時期に売却するケースもあります。
しかし鉄筋コンクリート造のマンションは47年であり、減価償却期間に合わせて建替えを行うことにより、節税効果を継続させることができます。
相続対策として取得した木造アパートの建替え
賃貸用の土地建物は相続時に評価額が減額できる制度があります。
オーナーのなかには父祖が代々所有していた土地を継承し、資産の有効活用と相続対策のためにアパートを建設して賃貸経営を行っているケースは多いものです。
評価額の減額は土地と建物それぞれで適用できますが、評価額の計算では「賃貸割合」という係数を使います。
・建物の相続税評価額=更地の相続税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
1年以上も空室がつづく場合は賃貸割合にカウントされず、減額制度の適用が少なくなり全室空室となると、相続対策にはまったくならないといったこともあり得ます。
賃貸用建物の建設が相続対策であれば、入居が見込めない築古物件をそのまま放置することは意味がなく、建替えにより賃貸収入と相続対策を継続するのが自然なことです。
管理会社がする建替え時期のアドバイス
管理会社が建替え時期をアドバイスする場合には、次のようなポイントを検証し根拠のある理由にもとづき行います。
2. 間取りや住宅設備など物件のスペックとエリアで求められるニーズとの適合性を検証
3. 建替えによる収支計画と現状の収支実績との比較シミュレーション
4. 建替えに伴う立退料なども含めた全体費用の回収見通しを立てる
老朽化が激しく空室が多くなったという理由は、建替えについての大きな要因ですが、建替えによる費用と現状のまま最低限の改善により、入居率をアップさせる方法とのシミュレーションが最低限必要です。
しかもシミュレーションは一度だけではなく、建替えが検討課題として持ち上がってから、最終的に建替えを決断するまでの数年間にわたって行うことが望ましいと言えます。
まとめ
賃貸物件の建替えは入居者の存在が大きな鍵です。
入居率が高い場合には立退料などの支出が増加し、入居率が低い場合は建替えまでの期間中、収益性の悪い状態での経営となります。
立退き交渉の見通しと、オーナーの財務体力なども勘案しなければなりません。
建替え資金が借入による場合は、オーナーの年齢により事業承継まで検討課題になる可能性もあります。
建替えは新規物件の取得以上に、さまざまな要素を検討し決断する必要があります。
管理会社の存在感が問われる大きな事業となるでしょう。