令和2年6月に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律」が成立・公布されています。
国交省では改正法の適用範囲をさらに見直し、実際の事案に柔軟に対応することを目的として改正マンション建替円滑化法により定められた「除却の認定基準」について議論するため、有識者による検討会を設置しています。
第1回は令和3年5月13日に開催され、第二回も同年6月7日に予定されています。
委員には東京大学や工学院大学の教授陣を配し、協力委員として国土交通省の建築関連部署の主任研究官などで構成されています。
不動産業に従事していても「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化法」の存在は知っていても、その具体的な内容や除去認定に関する判定基準について知らないかたが多いように見受けられます。
顧客からマンション建て替えに関しての質問をされても、「マンション建て替え円滑化に関しての法律がありますので、ご心配には及びません」などの具体的な根拠をしめさない回答により、内心で納得していない顧客が私のような不動産コンサルタントに相談してきます。
国交省が令和2年7月1日に更新している「マンションに関する統計・データ等」から推測された築40年超のマンション戸数が現在でもストック総数の14%にあたる91.8万戸もあり、10年後には2.3倍となる213.5万戸、さらに20年後には4.2倍となる384.5万戸に達するという事実をご存じでしょうか?
今後の新規マンション分譲戸数の増減により、総ストック数に対する築40年超マンション比率は変動しますが、現在のコロナ禍による資材高騰の影響から建築資材価格の上昇に歯止めがきかない状況を勘案すれば、不動産仲介業者が取り扱う中古マンションの過半数が老朽化による除去指定マンションになる可能性が懸念されます。
そのようなマンションを紹介する場合、建替え動議が議論されていないかなどの議事録精査や、修繕積立金総額の使用状況も含めての調査・説明義務が課せられる日は遠くないと私は考えています。
今回は国交省によるマンション動向の調査結果もふまえ、マンション建替円滑化法が改正された理由や改正ポイントまで解説します。
法律一部改正が必要とされた背景
分譲マンションで、管理組合による長期修繕計画が正しく機能していれば適正に修繕計画が実施され、躯体寿命は理論上の100年に近づくでしょう。
ただし、全てのマンションがそうではありません。
築年数の古い分譲マンションは自主管理方式による管理をおこなっているところも多く、住民が高齢化して管理組合の担い手不足の問題もあるほか、組合が私物化されて修繕計画が破綻しているマンションなども見受けられます。
公開情報として最新版にあたる「平成30年マンション総合調査」によると、ストック総数の34.8%が、修繕積立金が不足しているとされています。
あたりまえの話ですが、修繕積立金が不足していれば当初計画されていた長期修繕計画が遅延されますので、計画の見直しをおこなう必要があります。
公表データによると、5年ごとを目安に修繕計画の見直しをしている管理組合が56.3%ありますが、裏を返せば43.7%が場当たり的な計画になっています。
修繕計画を先送りして、適切な時期に実施しなければ老朽化は加速度的に進行します。
外壁の劣化は剥離や落下事故を引き起こしますし、さらに鉄筋や鉄骨まで水分が浸透すれば、躯体におよぼす損傷は重大です。
そのような状況が放置されると、最終的な選択肢は「建替え一択」となってしまいます。
行政介入が必須とされた理由
マンション建替えを採択するハードルは極めて高いといえます。
重大決議事項ですので組合員の4/5の同意が必要とされるのは当然として、団地型マンションなど複数等の建物の敷地を按分して敷地権を所有している場合は、同意を得ることも容易ではありません。
それ以外にも建築法規などクリアしなければならないなど問題が山積されます。
専門家が介入してリーダーシップを発揮すれば、あるいはスムーズに進めることができるかもしれませんが、実際には法律に精通していると言い難い管理組合代表者が問題に対応しています。
そのような状態を危惧した国交省が、管理体制の適正化や除去認定の権限、建築法規の緩和権限などを地方公共団体に付与したのが「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律」です。
この法律の策定により当初は地方行政に以下の権限が付与されました。
●管理計画認定制度
●管理適正化のための指導
これにより地方自治体が下記の①~③をおこなえるようになりました。
② 適切な管理計画を有するマンションを認定
③ 必要に応じて管理組合にたいして指導・助言ができる
さらに令和2年6月の改正により、以下の項目が追加されました。
●バリアフリー性能が確保されていないマンション等
つまり除去に係わる認定対象の拡充です。
施工当初は除去に関して耐震性の不足に限定されていましたが、改正により外壁剥離の危険性が高いマンションなどについても、4/5以上の同意によりマンション敷地を売却できます。
さらに要除去マンションとして認定された場合には、一団の敷地から分割して当該敷地の利用促進が可能です。
従来は一団の団地などの場合に敷地権割合の問題から4/5同意の取得が困難なことから、なかなか進捗しなかった土地の売却や建替えが、要除去認定マンションの所有者(組合員)の決議だけでおこなえます。
また建替え計画の時に問題となる分割敷地の容積率も、単独で緩和されることから計画が進めやくなりました。
今回、冒頭でご紹介した検討会は、有識者によりさらに除去認定を拡充するために組織されています。
除去認定の範囲はどこまで検討されているか
今回、検討会で重点的に議論される内容は以下の点についてです。
外壁・外装材の劣化により剥離、落下が懸念されるマンション
火災安全性について国が定める基準に適合していないマンション
●容積率緩和特例の適用対象拡大
給排水などの損傷・腐食など衛生上有害なおそれのあるマンション
高齢者・障害者等の移動にかんして国が定める建築物移動等円滑化基準に該当していないマンション
●団地における敷地分割制度の創設
まとめ
今回、ご紹介した内容は直ちに日頃の実務に役立つものではありません。
ただし不動産仲介を「業」としている以上は、取り扱う分譲マンションの多くが40年超となっていくという現実を理解して、一般調査である管理組合の議事録や修繕積立金の活用状況を精査して、購入希望者に説明する必要があります。
不動産のプロとして行政介入の範囲や、管理組合の現状に関しての理解を深めておけば、不要なトラブルを未然に防ぐこともできるようになるでしょう。