空き家対策をビジネスチャンスと捉え、積極的な活用を試す動きがあります。
国も政策として「空き家問題」の解消を重要テーマとして掲げており、民間事業として取り組むケースについての支援制度が生まれています。
国土交通省は「空き家対策の課題解決を図る先進的な取組」に対し支援をおこなうこととし、先般1か月の期間で全国から空き家対策の提案を募り、支援をおこなうモデル事業が決定しました。
ここでは全国から寄せられた提案のなかから、民間事業のビジネスモデルとして期待できそうな事業についてピックアップし、その概要をお伝えします。
住宅市場を活用した空き家対策モデル事業
2021年4月20日~5月20日の期間で “令和3年度「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」” を募集し109件の提案があり、寄せられた提案から69件を採択しました。
・住宅市場を活用した空き家に係る課題の解決を行う事業部門(部門2) 46件
参照:国土交通省「空き家対策の課題解決を図る先進的な取組を決定!」
「部門1」は地方自治体と民間との連携を主とした事業であり、事業主体は以下のように分類されます。
2. 社団法人:5件
3. 任意団体:5件
4. 自治体:3件
5. 協同組合:2件
6. 民間企業:2件
7. 協議会:1件
「部門2」は空き家活用をビジネスとして行うことを主としており、事業主体は以下のように分類されます。
2. 任意団体:7件
3. 社団法人:6件
4. NPO法人:6件
5. 協議会:5件
6. 財団法人:2件
「部門2」には民間企業20社が参加し、アットホーム株式会社や株式会社LIFULLが「空き家バンク」事業として採択されました。
採択された事業に対しては定額補助による支援が受けられます。
採択された民間事業の概要
「部門2」に採択された事業の中から民間企業がおこなう事業について、注目したいものを5つ取り上げます。
実施する企業は以下のとおりです。
2. Japan asset management株式会社
3. 株式会社スピーク
4. 有限会社トノコーポレーション
5. FANTAS technology株式会社
地域住民参加型ファンドによる空き家「0円!リノベーションプロジェクト」
【事業主体】
神奈川県鎌倉市の宅建業者で不動産特定共同事業者の許可を受けています。
【概要】
「0円!リノベーションプロジェクト」は同社が運営する投資型クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」を活用したリノベーション事業です。
所有者は空き家物件を提供しますが負担は0円でリノベーションされ、一定期間ファンドが物件の運営をおこない期限が到来した時点で、リノベーションにより価値が高くなった状態で物件を返却してもらえます。
ファンドは物件の運営により収益を上げファンドの投資家へ還元し、投資目的が達成されると投資家・オーナー・運営会社それぞれが win-win の関係になり、空き家問題も解決することを狙ったビジネスモデルです。
空き家戸建て借上事業推進のためのプラットフォームづくり
【事業主体】
東京都港区の宅建業者で一級建築士事務所も兼ねています。
【概要】
Japan asset management株式会社(略称:Jam)は不動産・建築・リノベーションに関するコンサルティング会社「u.company株式会社」との連携により、既存ストックの有効活用と価値向上を目指した事業をおこなっています。
「空き家戸建てのプラットフォーム」は、全国ネットのリノベーションプロデュースを手掛ける「リノべる株式会社」との連携により、戸建の空き家解消のためのプラットフォームを立ち上げ、全国的な既存ストック活用のポテンシャルを底上げしようとするものです。
高齢者サポート事業者と連携した空き家活用と所有者のリスク軽減による空き家活用
【事業主体】
東京都新宿区に拠点があり、新しい視点で不動産情報を発信する東京R不動産の運営をおこなっています。
【概要】
高齢者のサポートを行う事業者と連携を図り、高齢となった建物所有者との関係構築により空き家発生を防ぐ活動を目指しています。
また郊外で顕著な空き家を賃貸マーケットにアップロードさせる仕組みづくりも目指しています。
空き家を活用したエリアリノベーション事業者の育成・事業化サポートプログラム
【事業主体】
千葉県松戸市に本店があり「omusubi不動産」のブランド名で仲介業をおこなっています。
【概要】
古民家やレトロなマンションなど、古くクセのある物件をDIY可・改装可に条件変更し、オーナーの意識改革と市場形成に取り組んでおり、同社の営業エリアである千葉県松戸市と東京都世田谷区でエリアリノベーション事業の展開を目指しています。
地域の空き家の可能性「見える化」プロジェクト
【事業主体】
東京都渋谷区に拠点があり、AIを活用した不動産と金融とのマッチングサービスをおこなっています。
不動産特定共同事業の許可を得ておりクラウドファンディングによる空き家再生もおこなっています。
【概要】
全国にある空き家(土地・建物)の詳細を無償で実施し、空き家を売却・賃貸化・リフォームなどの活用方法と費用の予測を算出してレポートを作成し提供します。
所有者が活用を図るにあたってはクラウドファンディングを実施し、資金調達と物件が存在する地域のファン作りも目指します。
事業推進のためプロジェクトに参加する自治体を全国から募集しています。
空き家対策モデル事業の今後
令和3年度の採択を受けた事業の実施地域は以下のように分布しています。
・東 北:9件
・関 東:17件
・中 部:20件
・近 畿:22件
・中 国:14件
・四 国:4件
・九 州:12件
出典:国土交通省「令和3年度住宅市場を活用した空き家対策モデル事業の評価結果」
空き家の存在が多いと想像される、北海道、東北、四国での事業が少なく、空き家問題の地域的な偏りを感じざるを得ません。
「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」の採択は来年度もおこなわれ、より空き家問題が深刻な地域での取り組みが期待されます。
一方、新事業の創設は資金面で挫折することが多く、これまでは難しい面があったと思います。
しかし空き家活用に必要な資金をクラウドファンディングで募る手法は、ご紹介したモデル事業以外にも2017年の「小規模不動産特定共同事業」の創設により間口が広がっています。
事業者の規模が小さくても投資型クラウドファンディングが可能になっており、積極的な活用を図る機運が生まれてほしいものです。
まとめ
「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」から5つの事業について概要をお伝えしましたが、クラウドファンディングの活用やWebプラットフォームの構築と、いずれもIT技術を基盤としたビジネスモデルです。
ITによるビジネスモデルは、事業を進める主体企業とネットワークで結びつくステークホルダーにより事業の成果が共有され、さらに横展開することにより新たなビジネスが再生産されるといったサイクルを生みます。
こうして多くの不動産に係る民間企業が、なんらかの形で空き家問題に参加することにより、課題解決の可能性が生まれてくるのではないでしょうか。