2020年10月に世界に向け宣言された「2050年カーボンニュートラル宣言」により、日本の全体エネルギーのうち約3割を消費する民生部門(業務・家庭部門)について、2050年までに二酸化炭素排出量を実質“0”とするカーボンニュートラルを実現すべく、国土交通省・経産省・環境省が連携して達成するための方針や施策立案の方向性を定めるべく、有識者・実務者を交えての検討会が開始されました。
カーボンニュートラルは世界的における喫緊の課題です。
本年度だけをみても日本では猛暑日が連続し、熱中症による搬送報道や注意喚起を耳にします。
日常会話でも「やっぱり温暖化の影響で気温が上がっているの?」と聞こえてきます。
その通りです。
世界的な現象として、確実に平均気温は上昇しています。
今回の記事で皆様にご理解いただきたいポイントは3つです。
① 皆様の活動エリアにおける平均気温がどれくらい上昇しているのかを気象庁データから確認する方法
② 政府は根本原因とされる二酸化炭素排出量をどのように抑制しようとしているのか
③ 不動産業にたいする規制や方向性
これらを理解することにより将来的な不動産動向を見据えた戦略を立てやすくなり、また日頃の営業トークとして取り入れることが出来るようになるでしょう。
動エリアの温度上昇はどのくらい?
世界的な規模で地球温暖化を力説しても、誰しもが関心を持っている訳ではありませんからピンときません。
そこで身近なエリアでの気温上昇、つまり物件所在地もしくは活動エリアで平均気温がどのくらい上昇しているのか確認してみましょう。
これには気象庁の公開している過去気象データで確認するのがもっとも簡単です。
まず下記リンク先へアクセスしてください。
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/
1.過去の気象データ検索ページが開かれます。その左上にある都道府県選択をクリックします。
2.日本地図から、過去の温度変化を参照したい地域をクリックします。
3.調査したい地域を指定したら、年ごとの値を表示します。
4.気象庁では1876年以降のデータを公開していますが、日平均のデータを順に追っていくと1~2℃平均気温が上がっているのが確認できるでしょう。
パリ協定における2018年の報告書によると産業革命前と比較した場合に世界の平均気温は温暖化により1℃上昇していると報告されています。
この上昇数字は、先ほど解説した各地域の気象庁データと合致します。
毎年のように夏が暑くなっていると思われるのは気のせいではありません。
実際に上がっていることが先ほどご紹介した身近な地域の温度データで確認できます。
試算データによる研究報告では、現状維持の状態が続けば2030年~2052年に世界平均気温は1.5℃まで上昇が見込まれるとされています。
たかが1.5℃の上昇と思われるかも知れませんが、世界平均で気温が1.5℃上昇すると農産物に壊滅的被害が生じます。
さらに決定打とも言える対策を講じない仮定で試算した場合には、今世紀末の予測上昇温度は2.6~4.8℃にまで跳ね上がるとされています。
平均気温が上昇すれば海面は上昇し、水質は酸性化します。
これにより世界の至る地域で干ばつ被害や洪水が頻繁に発生します。
これらの試算は各国の研究機関でも個別におこなわれていますが、それらの研究をとりまとめ地球温暖化に関する最新知見の評価を提供している「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」も、各国において最優先で対策を講じなければならないと警告しています。
二酸化炭素排出量の増加が地球温暖化の根本原因であるとの説にたいし、古くは有識者の間でも賛否両論ありました。
ただし現在では、疑う余地のない原因とされています。
パリ協定はどのような内容か?
パリ協定の取り決め内容はどのようなものでしょうか?
ご覧いただいた通り2050年までの温度上昇を2℃以内、可能な限り1.5℃以内に抑える努力を継続するとされています。
つまり各国が努力しても気温上昇を完全に防ぐことはできないとの考え方です。
最悪のシナリオである2.6~4.8℃の上昇だけは回避し、可能な限り抑えるといった指針です。
そのため、すべての国が目標達成に向け相応の努力が義務付けられています。
削減目標を設定し、具体的な結果について5年ごとに報告しなければなりません。
本来であれば自国で二酸化炭素削減目標を達成しなければならないのですが、立派な目標を立てても実績が得られない日本は二国間クレジット制度を利用しています。
大義名分として外務省はこの制度を
「途上国への優れた脱炭素技術等の普及を通じ、地球規模での温暖化対策に貢献するとともに、日本からの温室効果ガス排出削減等への貢献を適切に評価し、我が国の削減目標の達成に活用します」としています。
この制度を分かりやすく表現すると「お金」を払って、もともと二酸化炭素排出量の少ない途上国の目標余剰分を自国実績にマイナス分として計上し辻褄を合わせるという、まことに日本らしい発想です。
脱炭素社会の実現は世界的時流ですが、日本政府の発信方法や国民理解への努力が欠如しているからでしょうか、2050年までにカーボンニュートラル、つまり実質的に二酸化炭素排出量をゼロにし脱炭素社会の実現に向けて具体的な指標が見えてきません。
説明責任を果たさずに民間を置き去りにし、民意が反映されない密室で議論されているような気がしてなりません。
菅総理による「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会への実現」の宣言を見ても、安全最優先で原子力政策を進めるとのコメントを発し、脱原発を実践している先進諸国から嘲笑をかっています。
不動産業界にたいし検討されている内容
世界的に気温が上昇している。
これは事実であり、日本政府としてもパリ協定で定められたカーボンマイナスゼロを達成しなければならない。
そこで冒頭に解説した国土交通省・経産省・環境省で討論されている内容の理解が必要とされます。
不動産ビジネスで成功するには、つねに情報を仕入れ先んじて手を打つ必要があります。
つまり検討会の議題を理解することにより、将来的な住宅動向を推測することです。
検討会における論点は2点です。
住宅・建築物における省エネ対策の強化
この分野では、中・長期的に目指すべき建築物の姿について、一定の省エネ性能を確保するための規制的処置の基準や進め方について議論されています。
つまり将来的に定められた基準以下の建築物は、規制の対象となり建築できないといった内容が示唆されています。
また既存ストック市場においても省エネ改修の基準を定め、義務化する方向性が議論されています。
これによりストック市場においては一定の性能を有している、もしくは基準に達する改修工事を実施しなければ売買に制限が加えられる可能性が予測できます。
エネルギー転換
再エネ・未利用エネルギーの利用拡大に向けての施策が検討されていますが、現状では太陽光発電の導入拡大、最終的には設置義務化までを視野に入れて議論が進められています。
議論の段階ではありますが、検討内容をみるとかなり過激です。
ストック市場や新築住宅においては建物に一定レベル以上の省エネ性能という基準を定め、クリアできない場合には売買取引自体に制限を設ける。
再生可能エネルギーについては太陽光発電の設置を義務付けするといった内容です。
不動産業として対策を講じる必要性
政府が議論している内容は、脱炭素社会の実現という大義名分はあるものの、民意を無視してでも世界に向けて達成をアピールするにはどうするかを検討しているようにしか見えません。
ですが国が方針を定めるならば、私たち不動産業者はその方針を踏まえたうえで対策を講じておかなければなりません。
現在の住宅ストック(中古住宅)は約5,000万戸といわれていますが、全体の67%(約3,350万戸)については断熱改修工事を実施しなければならないレベルの住宅です。
現在は任意とされているインスペクション(建物現況調査)も、近い将来には完全義務化になるのではないかと予想されます。
断熱改修工事を提案するのであれば、少なからず断熱に関して顧客に伝える程度の知識を有している必要があります。
創エネについても同様です。
太陽光パネルのメーカーにより異なる性能や発電効率の違い、設置費用などについても理解を深めておく必要があるでしょう。
まとめ
世界的な温暖化が問題視され、様々な特集番組などが組まれています。
それらの番組を見て温暖化を防止する必要性は感じても、個人として具体的に何をするか、もしくは何をなすべきかなどを考えると、そのスケールの大きに一般の方はピンとこないものです。
やはり身近な話をされたほうが得心もいくでしょう。
そのような意味から温暖化に関しては物件エリアにおける現状を、そして対策の必要性については政府の検討状況を踏まえた未来予想について充分に説明する必要があるでしょう。
つまり断熱性能の向上や太陽光発電システム搭載など、その備えをしておくことが不動産の資産価値を高めることにつながるといった説明です。
そのような不動産を取得することにより、個人レベルにおいて電気・ガスなどのエネルギー消費量が減り、冷暖房費は削減される。
省エネ設備の導入により少ないエネルギーでも普段の生活に支障はなく、さらに創エネシステムを採用することにより必要なエネルギーを創り、そして自己消費する。
これら設備導入などにたいしては補助金や税制優遇などの恩恵が与えられますから、イニシャルコストが割高でも長い目で見れば充分に採算ラインに乗せられます。
質の高い住宅を増加させることにより、結果的に民生部門の二酸化炭素排出量の削減につながります。
世界レベル・政府レベルで温暖化問題を論じるよりも、そのような観点から顧客に提案することが出来るようになれば、政府主導で義務化とされるまえに私たち不動産業者としての社会的な役割を果たせるといえるでしょう。