デジタルを前提とした国土の再構築と不動産業の将来

国土交通省は2021年6月15日『デジタルを前提とした国土の再構築~「国土の長期展望」最終とりまとめを公表します~』を発表し、2050年の国土づくりの概要を明らかにしました。

国土再構築のコンセプトと言えるもので、なんらかの影響を不動産業界にも与えるものと思います。

ここでは24ページにまとめられた「最終とりまとめ」文書から、30年後の国土づくりの概要をお伝えします。

国土交通省が公表した「国土の長期展望」とは

国土の長期展望」のポイントとして大きく3つあげています。

1. 国土づくりの目標を「真の豊かさを実感できる国土」とする
2. 目標実現に向けて3つの視点を設ける
・ローカルの視点
・グローバルの視点
・ネットワークの視点
3. 今後の方向性として「速やかに新たな国土計画の検討を開始すべき」である

では「ローカル」「グローバル」「ネットワーク」の3つの視点について、国土審議会計画推進部会が公表した “「国土の長期展望」最終とりまとめ” ではどのように捉えているのか確認してみます。

国土の長期展望「ローカルの視点」

地域生活圏の形成を全国で図っていくため、人口10万人~15万人程度の圏域を単位とする考え方となっています。

これまで生活圏の範囲には総合病院や大規模商業施設などの都市機能を含めた「人口30万人程度・時間距離が1時間」を目安としていました。

しかしデジタル技術の活用と道路交通網整備により、人々の行動範囲が広域化し行動そのものが多様化するようになり、生活圏の中に都市機能をフルセットさせる必然性が少なくなっています。

必要な都市機能はデジタル技術による提供も可能であり、むしろ人口10万人~15万人程度の小さな圏域であれば行政コストが小さく済むと考えられるのです。

地域生活圏にとって重要なのは経済活力です。

デジタル技術は生活する場と働く場の多様化を生み出します。

テレワークの普及により人口10万人~15万人程度の小さな圏域は、自然環境にも恵まれ「暮らすと働く」を両立させる理想的な生活領域を創りだすでしょう。

このような取り組みにより首都圏一極集中が緩和される一方、多拠点居住の可能性も広まり大都市と地方都市が相互補完的な働きを生みだすと考えらえます。

国土の長期展望「グローバルの視点」

人口減少下においての経済成長は重要事項です。さらに地球環境問題にも対応した経済活動が求められるなかにおいて、国際競争力の維持と向上がより必要となります。

そのような視点から必要と考えられるのが、東京・名古屋・大阪の三大都市圏を一体としたスーパー・メガリージョンの形成です。

国際競争力の面で日本が劣っているIOTやソフトウェア製品のプロダクト能力の向上、低成長が長くつづく背景とされる労働生産性の向上、革新的新規ビジネス創出に欠かせない金融システムの構築などを実現するため大都市のリノベーションが必要と言えます。

その具体策の1つとして位置づけるのが「リニア中央新幹線」です。

リニア中間駅周辺は三大都市圏とも近く、ここにも日常の生活圏がおかれ必要に応じ大都市圏に出勤するというライフスタイルが生まれてきます。

このように国土の活用方法として、空間的・時間的な面においてダイナミックな動きが生まれ、多様化し多元化する全体計画が必要になると考えられます。

国土の長期展望「ネットワークの視点」

ネットワークの視点では次の6つの考え方を掲げています。

1. 情報通信ネットワークの強化
2. 交通ネットワークの充実
3. 人口減少に応じた国土の適正管理
4. 防災・減災・国土強靭化
5. 2050年カーボンニュートラルの実現
6. 真の豊かさの実現に向けた共生社会

このなかで不動産業界にとくに関連するものとして「人口減少に応じた国土の適正管理」「防災・減災・国土強靭化」「真の豊かさの実現に向けた共生社会」について見ていきます。

人口減少に応じた国土の適正管理

人口減少が進むことによりこれまで課題であった「土地の無秩序な開発抑制」から「土地需要の減少による土地の適正管理」が課題となっていきます。

つまり土地利用が少なくなり管理不全土地が増大します。管理不全土地の増加は災害リスクの増大につながり、災害があった場合の復旧コストを肥大化させ、自治体レベルの財政状況はますます悪化することでしょう。

持続可能な社会の実現には土地の有効活用と適正な管理が必要です。

そのため土地利用と共同管理の在り方について検討する「地域管理構想」の取組みを推進します。

地域管理構想は「農地」「宅地」など地目により管理所管が変わる弊害を除くため、地目横断的におこなうこととしており、国土管理に民間投資も含めた人材育成と活用、そして費用の適切な分担を検討していくとしています。

防災・減災・国土強靭化

災害の多い日本において近年の災害激甚化や頻発化は深刻なものになっています。

このため防災・減災対策には抜本的な見直しが必要であり、土地利用には弾力的なコントロールが必要です。

災害を減少させる森林整備と治水対策に加え、土地利用規制による災害リスクの少ないエリアへの誘導が政策の1つとして考えられるのです。

この政策は令和2年12月に閣議決定した「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」にも基づくものであり、土地利用政策に変化が生まれると予想されます。

また仮に被災した場合の復興計画について事前に検討しておく「事前復興」の取組みも必要なこととされ、ハザードマップの位置づけはより重要なものになっていくでしょう。

真の豊かさの実現に向けた共生社会

国内ばかりか世界中の人々との共感による共生社会が求められています。

共生社会の構築には多様性が認められ、なおかつそれぞれが活躍できる場がなければなりません。

それらを可能にするには基盤としてのIT技術の活用があります。

多様な価値観にはテレワークやワーケーションなどの新しいライフスタイルもあり、多拠点居住を可能とするITインフラが必須です。

そのためにはIT人材の確保とITリテラシーの向上が必要となってきます。

不動産業におけるデジタルトランスフォーメーションは、国土の長期展望が描きだす社会を具体化させる大きな力になるのかもしれません。

まとめ

「国土の長期展望」はおよそ30年後の姿を投影したものです。

ようやく本格的にデジタル改革に本腰を入れようとしている現在ですが、テレワークや二拠点居住といったすでに生じている変化を後追いしている印象もあります。

「国土強靭化」については東日本大震災以来、必要な政策としてコンセンサスを得ているものであり、具体的な政策の骨子は「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に記載されています。

・地震時等に著しく危険な密集市街地対策
・住宅・建築物の耐震化による地震対策
・災害に強い市街地形成に関する対策
・大規模盛土造成地等の耐震化に向けた対策

などは住宅・不動産に関して影響のある政策と考えられ、具体的記載はないものの「土地利用規制による災害リスクの少ないエリアへの誘導」は、不動産取引上においてなんらかの影響を与えるものと思われます。

全体としてはデジタル改革によって、より安全でより便利な社会の実現を目指していると言えるでしょう。

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