2024年から実施される相続登記義務化制度は、まだ認知度が低いようですが今後周知が徹底されると、売却を希望する相続人増加が予想されます。
一方、買取再販事業者の調査からは、空き家に占める一戸建ての割合が多く、空き家を多拠点居住としての活用可能性も見えてきます。
また売却を依頼する業者としては、仲介会社と買取会社の比率が3:1との調査結果もあり、買取再販事業者の認知度の低さが指摘されています。
ここでは相続登記義務化により増加する売却物件に対し、買取再販事業の経営戦略について考察します。
相続登記義務化制度とは
不動産登記法の改正案が2021年4月21日に成立し、3年以内に施行されることになりました。
同改正案の内容は次のとおりです。
「登記等の申請を相続人に義務付ける規定を創設」することになり、不動産を相続した人は相続した日から3年以内に相続登記することが義務になります。
現在、相続に関する手続きには次のようなものがあります。
2. 相続税の申告と納付は10か月以内
相続登記は “任意” になっており登記の期限もありません。
そのため相続があってから長い期間登記が為されず、真の所有者が誰なのかわからない不動産がたくさんあるのが現状です。
空き地や空き家などで管理不全になっている不動産は社会問題になりかねず、相続登記の義務化により所有者不明不動産の増加防止と、改正以前の未登記不動産の登記促進が図られます。
相続登記義務化の認知度が低い
買取再販事業をおこなう株式会社カチタスは、同社が実施した「空き家所有者に関する全国動向調査」の結果をプレスリリースで公表しました。
その結果、相続登記義務化を知らないと答えた割合は76.8%におよび、まだ一般には知られていないことがわかりました。
また相続登記義務化が施行されたとき、どのように対処するかの質問には「まだわからない」が44.8%、次いで「売却をする」が25.5%になりました。
その他の回答は次のようなものとなっています。
・相続登記をおこない利用する-10.2%
・相続登記はするが利用はしない-4.7%
・更地にして「国庫帰属制度」を利用する-2.0%
・その他-0.9%
また空き家の相続に関して家族とこれまでに対話をしたかの質問には、66.7%が対話をしていないと答えており、空き家が放置されている可能性がうかがえます。
売却する空き家の増加が予想される
国土交通省がおこなっている「空き家所有者実態調査」では、空き家取得時に登記をおこなった割合は約8割との結果があります。
さらに相続した空き家に限った場合、登記の有無について約2割が登記をしていないことがわかりました。
この結果から相続登記義務化がおこなわれると、登記期限である3年以内に「売却」を考える相続人が一定数いることが推測できます。
相続や使用しなくなったためなどの空き家には、空き家のまま放置する理由があります。
2. 固定資産税がほとんど負担にならない
3. 利用価値がすくない
4. 将来の二拠点用途として所有しておく
所有するコストが少ないため利活用を考える動機がなく、積極的に売却をしようとする必要性も感じないといった事情が隠れているように思われます。
相続登記が義務化されると登記手続きを契機として、相続財産の利活用や処分を考える確率が増え、結果として売却される空き家が増加すると考えられるのです。
売却時の依頼先
前述した「空き家所有者に関する全国動向調査」では、売却を検討する場合の選択肢として「仲介会社」と考える割合が45.1%であり「買取再販会社」が16.2%との結果が記載されています。
買取再販会社が仲介会社の約1/3になる理由として、一般の認知度が低いと指摘していますがほかにも次のような理由が考えられます。
・選択できる会社数
・売却までのスピード
買取価格は一般に考えられる相場価格の6割~7割といわれ、早く売りたいと考える所有者には「買いたたかれる」といった感覚がありながらも、やむを得ず買取りに応じるケースがあります。
買取りをおこなう不動産会社には資金力が必要であり、すべての仲介会社に買取力があるとは言えません。
所有者には売却する不動産に対して “思い入れ” があることも多く、検討開始から短い時間で “右から左へ” と買取られることに抵抗を感じるケースもあります。
このような空き家所有者の思いに寄り添い、納得のいく売却を可能にするには次のようなポイントを重要視することが必要でしょう。
・仲介による売却価格のより正確な予測
・売却物件に対する市場における客観的な評価
“経験と勘” ではなくAIを活用した客観的なデータにもとづいた、これらの「数値評価」が大切になってきます。
今後の買取再販事業
認知度がまだ低いと指摘する買取再販会社ですが、不動産仲介会社には “オプション事業” として捉えている傾向もあるようです。
『積極的に買取りはしないが売主が希望するなら買取りも・・・』といった姿勢です。
しかし今後は
・買取りをおこない必要なリフォーム後に再販するほうが望ましい物件
と明確に仲介と買取りを区分し、売主にはその評価方法とデータにもとづいた価格を提示し、納得のいくような選択ができる提案をおこなうことが望ましいと考えます。
これまでの「相場価格の6割~7割」といった大雑把な価格提示ではなく、しっかりと客観的な根拠のある価格提示です。
再生工事により物件の価値が大きく上がると、市場での価格は仲介価格とは異なるのが当然です。
ただし立地条件や競合物件などの大きな要因が “競争原理” に影響し、市場価格は上下します。
このような価格の変動に影響を及ぼす要因が明確になると、不動産価格は“経験と勘” から脱皮し再生物件の評価方法が市場において支持され、既存物件の流通が促進していくのではないかと考えます。
仲介と買取りを含めたコンサルティング事業
空き家を売却しないと答えた割合が一定数あり、物置としての利用や将来の多拠点用途として考える相続人もいます。
固定資産税があまり負担とならない地域に建つ空き家は売却もむずかしく、所有し続けることになりますが、国が進める「二拠点居住」政策は、このような物件に対応できる可能性があり、多拠点用物件としての活用が高くなると言えるでしょう。
相続登記を契機に利活用を考えるとき、選択肢として浮上するのが「多拠点居住」ニーズです。
多拠点居住には「お試し移住」というニーズがあり、一定期間賃貸による利用を経て購入にいたるケースも考えられます。
お試し移住に対応するためにはリフォームの必要性もあり、相談を受ける不動産会社には「賃貸」「売却」「リフォーム」といった要求に応える必要があります。
空き家の再生事業は再販だけを目的とするのではなく、空き家の総合的な利活用を図るコンサルティング能力が求められるようになるのではないでしょうか。
まとめ
3年以内に実施される相続登記義務化により、表に出てこなかった空き家がマーケットに登場してきます。
所有者が不明のためアプローチすることのできなかった “掘り出し物件” に巡りあうことも可能です。
買取再販事業が対象とする物件の範囲が広がり、再販以外に “資産活用” といったビジネスチャンスが生まれる期待もあります。
また仲介会社と買取会社といった区分はなくなり、不動産コンサルタント会社としての位置づけが重要になってくるでしょう。