サブリース事業には2020年から法的な規制が掛けられるようになりました。
〇〇業法と名の付く法律は事業者の育成を図り、業界の健全な発展を意図した法律が多いのですが、サブリース新法と言われる法律には不適切な事業者を排除する明確な意図が含まれています。
ここでは「賃貸管理業法」に設けられた「申出制度」のしくみと、内容について解説します。
賃貸管理業法に設けられた「申出制度」とは
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸管理業法)は、2020年12月15日に「特定賃貸借契約(マスターリース契約)の適正化のための措置等」の部分が施行されました。
賃貸管理業法第28条から第45条まではサブリース業者を規制する、マスターリース契約についての各種規定が定められています。
この部分を通称「サブリース新法」と言います。
第35条には次の条文が記載されています。
第三十五条 何人も、特定賃貸借契約の適正化を図るため必要があると認めるときは、国土交通大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2 国土交通大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。”
引用:e-GOV「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」
この条文ではサブリース事業者が賃貸住宅オーナーと締結する「マスターリース契約」において、適正とはいえない契約方法などになっている場合は、この契約に係る者が国土交通大臣に申出をすることが可能です。
国土交通大臣は申出に対し調査を行い、不適正な事実が認められると法律に基づいた措置をとることになります。
このしくみを「申出制度」と言います。
申出制度における不適正な事実
「適正とはいえない契約方法など」とは賃貸管理業法における次の禁止事項などに抵触することを言います。
2. 不当な勧誘等の禁止
3. 契約締結前の重要事項説明義務
4. 契約書の交付義務
5. サブリース業者の業務や財産の状況を記載した書類の開示義務
サブリース業者がこれらの禁止行為などに該当した場合またはその恐れがある場合、オーナーなどは申出によりサブリース業者の監督処分が可能になります。
ただし監督処分によってサブリース業者とのトラブルが解決できる、あるいは解決のためのあっせんを期待することはできず、届出制度は被害の拡大を防ぐ役割を担うものと位置づけられます。
もし不適正な行為により被害が生じている場合は、別の手段で被害の救済を求める必要があるでしょう。
また被害を未然に防ぐためにも、マスターリース契約の締結前に申出することが望ましいのは言うまでもありません。
申出書のひな形は国土交通省「申出制度」で入手できます。
申出の方法は上記申出書のひな形に沿って作成した書面を、添付ファイルとして下記アドレスにメール送信します。
引用:国土交通省「申出制度」
申出制度の効果
賃貸管理業法の申出制度は一種の告発制度ですが、業者の規制法のなかに制度として明確に規定した例としては珍しいものと思われます。
宅地建物取引業法では、不動産取引に関し当事者が何らかの被害を受けるか、苦情があった場合の規定として法第65条の「指示及び業務の停止」、第66条の「免許の取消し」における行政処分の規定があります。
また法第64条の5第1項には宅地建物取引業保証協会による、苦情解決への義務が規定されています。
しかし当事者からの申出に係る手続きについては明確な制度がなく、苦情や被害の申出をするにしても受け付けた行政機関の判断によることが多くなります。
賃貸管理業法の申出制度は申出様式が定まっており、受付は全国で一元化されしかもオンラインで可能になっています。
また法律の建付けが『サブリース業者の違反行為などを行政が逐一把握できない』ことを認めるところからスタートしており、より現実に即した運用方式になっていると言えるでしょう。
ここまで踏み込んだ制度設計は、業界団体がおこなう自主規制の内容を法制化したものといえ、国土交通省が悪質なサブリース事業者の排除に乗り出す姿勢をみせたものと思われます。
申出制度に関するガイドライン
国土交通省は「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」を公表し申出に係る考え方を提示しました。
・申出書には申出人の氏名または名称と住所を記載する
・申出の趣旨として、取引の公正性が疑われる事実やオーナーなどの利益が害される恐れがある事実について具体的に記載する
・参考になる事項として、被害状況の詳細、誇大広告と考えられる広告媒体、同様の被害を受けた人の証言などを記載する
申出の方法は前述したように電子メールにより、国土交通省の担当部署へ直接送付します。
注意したいのは「利益が害される恐れ」があれば、申出できることであり実際の被害がまだ出ていない時点でも申出ができると解釈できることです。
とくにマスターリース契約の勧誘においては、誇大広告や不当勧誘による不適正な営業行為が予想され、賃貸住宅管理業法 FAQ集(令和3年4月23日時点版)には、次のような誇大広告を例示しています。
誇大広告と不当勧誘の例
1. 誇大広告とは「著しく事実に相違する表示」をいい、その判断は1つずつの文言の表記だけではなく、表示内容全体からオーナーが受ける印象や認識について判断する
2. 「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」も誇大広告であり、その判断は上記1.と同様、表示内容全体からオーナーが受ける印象や認識についておこなう
3. 「家賃保証・賃料保証」などの一定期間、一定の家賃を支払うことを約束する表記の隣接には、家賃の見直しや減額があり得ることが明記していなければならないが、その表記がない
4. サブリース事業の関係者が知っていることをあえて言わない、あるいは故意に不実のことを告げてマスターリース契約を締結しようとする行為は不当勧誘行為に該当する
5. オーナーに対しマスターリース契約の締結または更新をさせる目的で、迷惑を覚える時間に電話や訪問をすることは不当勧誘に該当する
6. オーナーが契約締結を拒絶する意思表示をしたにもかかわらず、再度勧誘する行為は不当勧誘に該当する
このほかにも不当な勧誘行為による契約締結の強要は、申出制度の対象となります。
まとめ
かぼちゃの馬車で注目されるようになったサブリース事業は、新法のもとでルールに則った成長と発展が期待されるようになりました。
サブリース事業は賃貸オーナーの安定経営とプロによる質の高い管理運営が望めるシステムです。
住環境の提供を受ける入居者にとっては直接影響を受けるものではありませんが、不動産証券化が進むなかアセットマネジメント機能も担う賃貸管理会社のレベルアップは、ストックビジネス活性化にとって必要なことです。
「申出制度」が事業者のレベル向上に役立つことを期待したいです。