不動産テックの進展により「人の手」を必要としない、自動化がさまざまな分野で実用化されています。
この記事では「おとり広告」を自動で表示させないシステムや、人間が介在せずにAIによるマッチング技術により取引相手を探し出すシステムなどを紹介し、急激にすすむ不動産業におけるAI活用について俯瞰します。
不動産業界で進むAI活用
不動産業における業務の特徴として「接客」という要素が必ずあります。
賃貸物件を探す人・マイホームの購入を検討している人・投資物件を探す人に対し、物件情報と比較検討の材料を的確に提供し、物件選択と契約までの意思決定に携わるのが仕事です。
そのプロセスの中にはさまざまなマンパワーを必要とする作業と、たくさんのパラメーターから最適解を導き出す知的作業が混在します。
これらの作業を人間に代わっておこなうのがAIです。
最近リリースされた4つのAIツールについて見ていくと、次のような分類ができます。
マンパワー作業 | おとり広告の自動削除システム |
レインズ図面の他社オビをAIが自動交換 | |
他社物件から反響率の高い物件をAIが抽出し自動で自社HPとポータルサイトに掲載 | |
知的作業 | 登録物件と登録顧客をAIがマッチング |
またAI活用としては先端を走っている「査定ツール」は、知的作業をAIに代替させた典型的なものです。
おとり広告の自動削除システム
賃貸物件の情報データベースをAIによりリアルタイムで管理し、物件の有無を確認する電話にAIが応答する「スマート物確」と不動産ポータルサイトをシステム連携することで、成約済の物件広告を自動で非表示にする実験がおこなわれました。
スマート物確に登録されている15,000件の物件を対象にし、1か月の実験をおこない1,000戸以上の広告を検知し非掲載処理をおこなったのです。
おとり広告と認定される広告のほとんどは、物件確認を怠り成約済物件をウェブサイトに掲載しつづけることが原因と言われます。
なかには空き物件ではないのに人気があるため、集客増を図る目的で故意に掲載しつづける悪質なものもありますが、この自動処理によりおとり広告が排除されサイトの信頼性が高まります。
参照:PR Times「物件のおとり広告撲滅を目指してライナフとLIFULL HOME’Sが取り組みを開始」
登録物件と登録顧客をAIがマッチング
顧客が求める売買物件を豊富な非公開物件から抽出し、顧客とのマッチングをAIが自動でおこなうプラットフォーム「キマール」を構築できるソリューションがリリースされました。
営業スタッフが介在しておこなっていた物件紹介をAIがおこなうことにより、顧客は自らの意思で冷静に物件を検討し、どの顧客がどの物件を閲覧したかを確認することができ、物件紹介の漏れやミスマッチを防止できます。
参照:PR Times「リマールエステート 事業者間の不動産売買クローズドマーケット「キマールマーケット」をサービス開始」
レインズ図面の他社帯をAIが自動交換
物件資料を顧客に渡すには、図面情報をプリントアウトし自社帯を貼り付けコピーする。
このような作業をこれまでおこなっていましたが、図面情報をプリントアウトするときには、すでに帯が貼り替えられており、図面データからAIが文字情報を記憶してデータベースが作成できます。
物出し作業を大幅改善させるAIツール
他社物件から反響率の高い物件をAIが抽出し、自動で自社HPとポータルサイトに掲載できます。
他社サイトや業者間サイトから新着物件を一覧表示させ、1クリックで自社サイトやポータルサイトへ取扱い会社を自社情報に変えて自動掲載させるツールです。
AI活用が進むジャンル
ほかにもAI活用が進むジャンルに注目してみると、IoTとの連携や不動産投資支援に期待を感じさせます。
デジタル制御
AI活用は上記のようにマンパワー作業と知的作業以外にも進むジャンルがあります。
賃貸住宅に設置される住宅設備関係の制御やメンテナンス管理です。
エアコンや給湯器、調理器具などの故障や不具合に対応し、管理会社やメンテナンス会社に自動で通知し担当者の手配をAIがおこなうようになるでしょう。
このようなことはAIが故障や不具合の事例を機械学習し、データが蓄積されることにより対応方法を見つけ出すことが可能です。
AIとIoTを連携させる方法ですが「デジタルメンテナンスソリューション」として、すでに取り組まれている事例もあり、やがてダウンサイジングしたシステムが不動産業界においても活用されるようになると考えられます。
参照:NTTデータ「設備保全業務にAIを活用「デジタルメンテナンスソリューション」を提供開始」
不動産投資支援
不動産投資ツールとしてのAI活用はすでにリリースされているものもありますが、今後はますます増えていくのではと考えられます。
AI査定がかなり普及しその精度も高くなっていますが、マーケット分析と資産評価の最適化が信頼の高いものになると、不動産投資はよりリスクの少ないビジネスになっていきます。
・築年
といった重要要素が売買価格を決定しますが、AIは最適価格をはじき出します。
最適価格>売出価格であれば「買い」となり、最適価格<売出価格であればさらに値下げされると予想できます。
そして最後は「人の頭脳による判断」にもとづき、投資物件が取り引きされるようになるでしょう。
最後のプロセスはAIにも判断はむずかしいものです。
なぜなら「告知事項」はAIにとってのデジタルデータとはならず、人のみが判断できるアナログデータだからです。
まとめ
AIの進歩により仕事がなくなると言われますが、こうしてみると不動産仲介業の現場でおこなわれてきた「コピー」「FAX」などの “雑用的” な作業は大幅に減少しそうです。
追客なども効率化が図られ生産性が上がるようになります。
時間にゆとりが生まれ「考える」対象は、デジタルでは評価できない、よりアナログなものに代わってゆくでしょう。
しかしアナログなものもやがてはAIにより、分析できるようになる可能性もあります。
また現在すすめられている「不動産ID」のルール整備は、AI活用に欠かせないデータ連携の実現を早めることになり、プロップテック3.0はいよいよ成熟期を迎えます。