他業種と比較してIT活用に疎いとされてきた不動産業界ですが、最近ではIT重説の全面解禁や登記情報サービスのほか、都市計画情報サービスやGoogleマップの活用など、現地に赴かなければできなかった業務がオフィスにいながらできるようになりました。
もっとも正式な調査業務については、境界鋲の有無や高低差・近隣環境など実際に現地でしか確認できない要素がありますので、現地確認は必須ではありますが、簡易査定や相場観と言った程度での初動調査であればIT調査のみで問題ありません。
また交渉や説明に関してもZoomなど、オンラインミーティングのシステムを利用することにより、時間を気にせず非対面でおこなえることから、不動産業は、地域格差なく自由におこなえる環境が整備されたと言えるでしょう。
もっとも内見立ち合いなど、非対面だけでは成り立たないのが不動産業の仕事ですから、遠方の不動産を扱う場合には費用対効果も勘案して、ほどほどにしておく必要もありますが……。
このようにITを上手く活用し、地域格差をものともせず業績を伸ばしている業者が増加している一方で、旧態依然の方法に固執し、コロナ禍の影響を受け疲弊している業者が存在するなど、不動産業界では二極化が進んでいます。
「創業30年 地元密着の○○不動産におまかせください!!」なんてキャッチを否定するつもりは、もちろんありませんし、地元に根付き実直に不動産業に取り組むのは大切なことです。
ただ地元密着という企業スタイルは、IT技術を採用しない理由とはなりません。
後者は時代の流れについていけないだけですから、そのような経営スタイルでは柔軟に技術を採用して業績を上げる業者に、いずれエリアを侵食されます。
国交省がまとめた不動産動向調査でも、住宅購入者の約8割以上が初回購入者です。
さらに購入検討物件の初期情報は、インターネットを利用している世代が大半です。
ホームページからの情報発信や顧客の興味をひく物件情報の掲載、YouTubeの動画配信による集客率上昇を狙うなどが必要とされる時代です。
先ほどご紹介した調査におけるIT利用による効率化も、営業戦略における大切な要素です。
問い合わせもメールが主流ですし、顧客の要望により送付する物件資料などもメールで添付する時代ですから、単なる物件資料だけではなく物件固有の特徴などの補完情報を送付するだけでも、他社との差別化になるのは間違いありません。
そのような意味合いから、今回は国土交通省ウェブマッピングシステムについて解説します。
リンク先など
国土交通省ウェブマッピングシステムへは下記のURLからリンクできます。
国土情報ウェブマッピングシステムは平成15年から公開されていますが、令和3年8月6日に大幅な変更されました。
具体的には、土数値情報を取り入れた全国56都市における3D都市モデルがオープンデータ化されたことですが、それ以外にも、国土数値情報や位置参照情報のほか、国土調査(土地分類調査・水調査)などの地理空間情報がGSIホームページ上からダウンロードできるようになったのもポイントです。
一般的に馴染みのない国土数値情報ですが、国や地方自治体が独自に測量したものや、国勢調査などにより得られたデータなどのことで、具体的には下記のような種類の情報を指します。
これらの情報はウェブマッピングシステムに反映されていますが、別途のグラフ作成などに流用できるよう、下記のURLから個別にダウンロードすることができます。
https://nlftp.mlit.go.jp/index.html
機能が盛りだくさんのネット地図ですので、今回の記事では詳細な操作方法等については割愛しますが、操作方法は下記アドレスで確認することができます。
https://nlftp.mlit.go.jp/webmapc/help/
国土情報ウェブマッピングシステムの特徴
国土地理院地図や今回ご紹介している国土情報ウェブマッピングシステムは、私たち不動産業者にとって、使いこなせば大きな武器となるシステムです。
ネット地図でもっとも多く利用されているのはGoogleマップやyahooマップなどですが、場所の確認や最寄り駅などからの経路探索などについては、間違いなくそれらが上です。
Googleマップのストリートビュー機能などは秀逸ですから、利用しないのは勿体ない。
つまり、目的に応じての使い分けです。
そのためネット地図によりことなる機能や特徴を理解しておく必要があります。
国土情報ウェブマッピングシステムは、地形傾斜度メッシュや地域における土地利用細分などの情報のほかにも、地価公示ポイント・災害履歴図などのデータをダウンロードして、地図に重ね合わせることを可能としている点が、一般的なネット地図との大きな違いです。
つまり単なる位置確認地図ではなく、アイディア次第で様々に活用することができる秀逸なシステムであるということです、
国土情報ウェブマッピングシステムは、街づくりDXの一環として進められてきたProject PLATEAUによるプログラム思想が反映されています。
最大の特徴はセマンティック(意味論)によりモデル作成されていることで、3D画像の場合、一般的なネット地図では景観を再現しているのに留まり、表示される建物の壁や屋根などの属性はすべて一続きで表現されるのにたいし、国土情報ウェブマッピングシステムでは建物属性が識別されていることです。
これは国土情報ウェブマッピングシステムが、国際標準化団体OGCが標準としているデータフォーマットを採用していることによります。
一般的なネット地図では、相応の知識と技術が必要とされ、一般人では不可能とされていた、地図上にデータを重ねていく作業が、国土情報ウェブマッピングシステムでは可能になっています。
つまり地図上のデータにパーツ属性を付加するなど、オリジナル地図が作製できるということです。
さらに、基本として反映されている地図データは、国土数値情報に紐づいていますので精度が高いといった特徴があります。
本来であれば自治体などで保管されるべきデータを広く共有しているのは、Project PLATEAUにおいては、私たち不動産業者などが有する民間データを統合して、利用価値の高い地図を作製したいとの考えがあるからです。
オススメ機能
詳細な操作方法については、先にご紹介した操作説明方法に譲るとして、ここでは不動産業者にお勧めの機能について解説します。
作図機能
自らが知りたい情報、もしくは顧客に提案したい情報を地図に重ね合わせて作図し、できあがった地図をファイル出力できる機能です。
具体的には地図上で選択したポリゴンや線などのほか、指定した土地の簡易面積計算、間口や奥行きの寸法、最寄り交通機関までの計測距離などを地図上に反映させ、データとして取り込むことができます。
断面図作成機能
地図から範囲を指定して、高低差をグラフで表現することができます。
高台などの物件の場合には地点指定をおこない、高低差を表現することによりビジュアル的にも見栄えする資料が作成できるでしょう。
また現地案内時などにおいては、GPS機能を有効にしておくことで即座に地図上で現在地まで移行して、計測機能や高低差などの情報を入手することができます。
スマホ画面ではさすがに小さすぎますが、タブレット端末やノートパソコンなどで利用すれば、現地案内時などで効果を発揮できるでしょう。
3D機能
地図の範囲を指定して、3D表示することができます。
地図上データにパーツ属性を張り付けることができる機能を有していますので、使いこなしたい機能の一つです。
国土数値情報の表示機能
基本的な使用方法となりますが、計測や3Dなど機能を使用する場合には地図上の右上にあるボタンを使用し、国土数値情報を反映するには左上にあるボタンで使用することができます。
全体操作は感覚的に使用できると思いますが、当該地を指定して、ハザードマップや人口メッシュを反映させ、さらに高低差を表示して簡易面積を地図上で計算するなど、流れるように豊富な機能を使いこなすにはそれなりの練度が必要です。
また用途によってベースとなる地図表示が、白地図や写真に変更できる機能がありますので、利用する国土数値情報によって使い分けしたいものです。
まとめ
ご紹介したウェブマッピングシステムもそうですが、存在を知っているということと使いこなしているということは違います。
世の中、便利なシステムが溢れていますが利用方法が単純、つまり便利なものほど深みや奥行きがありません。
それなりの情報を提供し差別化を図りたいのであれば、同じシステムを利用しているとしても、その豊富な機能を確認し、提供方法や表現にいたるまで理解を深め考えることが大切でしょう。
どんなにシステムが優秀でも、それを活用して業績に結び付けるのは本人の意識によるからです。
国土数値情報を表示できるネット地図の利用は、最たるものでしょう。
路線価などの公的価格や都市計画図、ストリートビューや土地の寸法計算・登記情報の取得など、ほとんどの業務がITによりおこなえる時代であるからこそ提案方法などにまで意識を巡らせた差別化が大切とされるのでしょう。