どこかで聞いたことがあるフレーズですが新築住宅の、特に木造住宅で極端な二極化が進んでいます。
一つは性能にはあまりこだわらず、デザイン・設備・価格を重視した建売を含めたローコスト住宅。
もう一つが住宅性能にこだわったハウスメーカーなどによる建築で、こちらは主に注文住宅になります。
どちらが良いかについては予算や性能・デザイン・建築メーカーなど顧客により選択が分かれますので、優劣をつけることはできません。
ただし税制や補助金などで優遇されるのは、性能重視の住宅ですので注文住宅が有利ではないでしょうか。
国が主導する住宅先進モデルとしては将来的に義務化が予定されるZEHなどがありますが、基本的な要件として一定レベル以上の住宅性能が必要です。
国が目標とする二酸化炭素削減を実現するためには、民生部門において目標とする削減量も達成しなければなりませんので、そのために一定の住宅性能が求められます。
そのような時代の背景を受けてでしょうか、国交省では2022年4月からの開始を予定として、住宅広告サイトに掲載される新築住宅を対象とした「年間目安光熱費」を表示する制度の導入をすすめています。
基本的な表示方法としては星マークの数により、目安光熱費が安くなる省エネルギー性能を表示する方法で検討されています。
日本においては当面、表示は任意とされていますが、月々の電気やガスなど暖房光熱費に影響のある目安光熱費ですから、消費者にとっては住宅を選ぶ際の判断基準に利用されるでしょう。
つまり価格や賃料などを含めた諸条件が同等であれば、目安光熱費が表示されている物件に人気が偏る可能性です。
それに呼応するように、他社との差別化を図りたい業者を中心として、積極的に表示する住宅会社の増加が予想されます。
ただし表示制度が導入されても、その内容を説明できる不動産営業がどれくらい存在するのかといった疑問は残ります。
国交省がまとめたレポートを見ても、EU諸国は住宅取得年齢における若年層を中心としてEPC(エネルギー評価証明書)の提示を求める傾向が高いとされており、フランス・ポルトガル・ドイツにおいては広告表示が義務化されています。
義務化されていますので広告表示をしていても、説明は「求められない限りおこなっていない」と回答されるなど、説明するだけの基礎知識を有していないのか、はたまた面倒だから説明を省いているのかまでは分かりません。
筆者はハウスメーカーの支店長や営業マンなど、新築販売を手掛ける知人も多くいますが、性能面も含めた自社の特徴は熟知しているものの、少し深い内容の質問をすると答えられないなど、根本的な理解が不足しているのではないかと思われるケースがあります。
新築を専門に扱う営業マンですらその状態ですから、仲介営業を専門にしている不動産業者が説明できなくても恥ずかしいことはありません。
ただし任意とはいえ目安光熱費の表示が来年度から実施される以上は、基本的なポイントについては理解しておきたいものです。
今回はそのような「目安光熱費」に影響を与える住宅性能に関しての基本を、できる限り分かりやすく解説します。
Ua値・C値」住宅性能を表すキーワードは2つだけ覚える
住宅の性能を表すキーワードは幾つかありますが、「Ua値・C値」だけは必ず覚えておきましょう。
逆説的に、今回の目安光熱費算出における住宅性能はBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)が根底にありますから「Ua値」の基本と、施工性の指標となる「C値」だけを理解しておけば目的を達することができます。
Ua値
「外皮平均熱還流率」のことです。
実際の会話では「外皮性能はどれくらい?」などと使用されます。
室内側から見て「床(基礎)・壁(外壁)・天井(屋根)・窓(開口部)」などから外へ逃げる「熱」を平均した数値のことです。
当然のことですが、室内から室外へ熱が逃げないということは、反対に外気の影響も受けにくい訳ですから「冬暖かく・夏は涼しい」住宅である(高性能な住宅)といえます。
Ua値=熱損失量(w/k)×外皮面積(㎡)で求められますが、このような計算式まで暗記する必要はありません。
設計段階で使用予定の建築部材のうち、下記の断熱性能を考慮して計算されます。
1.窓面の断熱性能
サッシ枠の種類(樹脂・木製・アルミなど)と、そこにはめ込むガラスの種類(単板・ペアガラス・トリプルガラ)
2.断熱材の種類と厚み
断熱材にはさまざまな商品がありますので細かい説明は省きますが、熱伝導率の低い(熱を伝導しにくい)断熱材を厚く充填すれば、壁の断熱性能が高くなります。
3.断熱材の施工方法
同等性能の断熱材を使用した場合には「内断熱・外断熱・W断熱(外・内の両方を採用)」の順番で断熱性能が高くなります。
C値
「隙間相当面積」のことです。
Ua値は、設計段階で工法や使用する断熱部材の断熱性能から計算した、建物の断熱性能であることにたいし「C値」は建物の「気密性能」を表します。
出来上がった建物にどの程度の隙間が存在しているのか、完成建物で「気密測定」を実施することにより測定します。
測定した数値が低いほど「気密性能が高い」つまり「施工性が高い」と判断することができます。
施工性を高めるには、工法もさることながら大工などの職人技術が必要です。
断熱性能が優秀であっても、建物に隙間があれば本来の性能は発揮できません。
「高性能なダウンジャケットを着ても、サイズが合わずに裾や襟元から風が入り込んでしまう状態」です。
建物性能は両方がそろって初めて発揮できる
「Ua値とC値」は、片方だけが優れている状態では片手落ちです。
机上計算による住宅性能が機能するためには、施工精度も当然に必要とされるからです。
ところがZEHには、完成後の気密測定が条件とされていません。
あくまでも机上計算であるUa値のみで申請できますので「ZEH住宅だから高性能」というのは思い込みに過ぎないことになります。
そもそもZEHは「ネット・ゼロ・エネルギー」ですので、机上計算で得られる外皮性能を有した住宅に、高効率設備の導入と創エネシステム(太陽光発電)を搭載し、計算上年間の一次エネルギー収支が「ゼロ」になるだけのことです。
あくまでも計算上ですから、職人の技量が伴わず家中が隙間だらけの住宅でもクリアできてしまいます。
有識者の間では、気密測定を条件としなかったことにたいして異議を唱える意見が、いまだに根強くあります。
これについては民生部門における計算上の二酸化炭素排出量削減実績が欲しかったのか、良質な住宅を施工できる職人の不足を考慮したのか定かではありません。
不動産のプロである私たちは、住宅性能とは「Ua値・C値」の両方が大切であるという点については正しく理解しておきたいものです。
「年間目安光熱費」はいつからどのように実施されるか?
現在は新築分譲(マンション・戸建て)と、新築賃貸住宅が対象とされています。
表示は新築分譲が2022年4月から、新築賃貸が2022年10月から予定されています。
表示するデータは建築士により、住宅のエネルギー消費性能計算プログラムを用いて計算されたものとされています。
創エネシステムが搭載されている場合には、設備機器の消費電力量から発電分を差し引いてもよいとされていますが、売電した場合の収入などは計算から除外するとされています。
分譲や賃貸のマンションの場合には最低値と最高値を表示することとされており、目安金額については「○○円~○○円」、性能表示については「★★~★★★」と言った表示が予定されています。
日本の目標は?
改正建築物省エネ法により2019年11月から大手のハウスメーカーや大規模住宅」事業者には「平成28年基準」の省エネ性能が義務付けされています。
また今年(2021年)4月から、すべての小規模住宅において建築士が、施主に省エネ基準の適否などを説明することが義務付けされています。
住宅性能が購入者や入居者の選択基準になれば、総じて高性能な住宅需要が増加して性能の低い住宅などは淘汰され、結果的に民生部門における二酸化炭素排出量削減の根幹であるエネルギー消費量が減少するだろうという思惑があるのでしょうが、思うようにはすすんでいません。
やはり「価格・立地・広さ・間取り」が優先されているのが原状です。
そこで考えられたのが「年間光熱費」の表示です。
考えて見れば、冷蔵庫やエアコンにおいては電気料金、車は燃費性能の表示がされていますが住宅に関してはそのような表示がされていません。
もっとも「住宅性能0.24w/(㎡・k)の高性能住宅」なんて表示されても、一般の方には何のことか分かりません。
やはり具体的な金額を明示する必要があるでしょう。
そこで物件の間取りや概要など従来公開している情報に、下記のような表示を併せて掲載する方法が有力です。
住宅情報提供サイト表示例。枠内に★による段階評価と年額の目安光熱費を表示(国交省資料から)
様々な問題点の指摘もあるが・・・・・・
住宅情報サイトや自社のホームページなどで情報を掲載するのは不動産事業者ですから、掲載物件が数年後に売り出されれば、中古住宅として「年間目安光熱費」を提示することにより市場優位性が確保できることになります。
この制度が普及し、当初は新築のみの表示ではあっても、その住宅が中古市場に回れば情報がサイト等に掲載されていくことになり、新築・中古いずれにおいても表示が標準化していく可能性があるでしょう。
但し一方では掲載された「年間目安光熱費」と、実際に必要であった「光熱費」がことなった場合にクレームの温床になるなど、検討会に参加した不動産業者から否定的な意見が多くあげられました。
それ以外にも制度が運用されれば、これまでの業務に加えて情報掲載に手間が増加することが明確ですし、目安であるとはいえ「光熱費」という金銭の表示は、不正確な情報を掲載した場合には公正取引委員会から罰則の適用を受ける可能性があるなどです。
このあたりの見解については「計算責任は設計士」、その表示(広告掲載等)については不動産事業者であると明確に回答されていますので、表示をする際には十分に注意する必要があります。
まとめ
実際に表示制度が開始されれば、検討会に参加していた大手業者を中心に導入されるでしょう。
消費者にとっては目安とはいえ、年間光熱費等が確認できる訳ですから、少なからず興味を引くであろうことが予想されます。
数字で性能を表示されるより、金額で表示される方が選択理由として明確ですから、今後はこれらの表示が主流となっていくのではないでしょうか?
不動産仲介業は建築・住宅産業・消費者を結ぶ「橋渡し」といった役割を持ちますから、制度の概要や表示方法、また根底にある住宅性能について理解をして、その役割を果たす責任があると言えるでしょう。