既存住宅の流通を促進するさまざまな政策が実施されるようになり、新築需要からストック活用へと大きく流れが変わってきています。
築20年程度で流通価値がなくなると評価されてきた木造戸建住宅への見直しも進むようになり、既存住宅の流通促進策の幅が広がってきました。
ここでは既存住宅購入層の意識調査結果に着目し、今後必要とされる制度や仕組みについて考察します。
意識調査結果の概要
国土交通省が公表している「住宅市場動向調査」は毎年おこなっており、令和2年度の調査では既存戸建住宅の購入価格が過去最高となりました。
参照:国土交通省「既存戸建住宅の購入価格が調査開始以来過去最高値を更新」
同調査では住宅購入者の物件選択時の意識などを、ある程度把握することが可能であり、既存住宅購入に関する消費者意識は今後の流通促進を図るうえで重要なこととなります。
以下に5つの項目に関しての調査結果の概要をまとめました。
なお、データの出典はすべて国土交通省「令和2年度住宅市場動向調査報告書」にもとづいています。
既存住宅を選択した理由
中古戸建住宅や中古マンションを購入した人の意識調査から、決定した理由について多い意見から順に並べると以下のとおりです。
中古戸建住宅 | 中古マンション | |
1位 | 予算的に手頃 | 予算的に手頃 |
2位 | 新築にこだわらなかった | 新築にこだわらなかった |
3位 | リフォームで快適に暮らせる | リフォームで快適に暮らせる |
4位 | 間取りや設備・広さがよい | リフォームされてきれいだった |
5位 | リフォームされてきれいだった | 間取りや設備・広さがよい |
1位から3位は戸建・マンションに違いがなく、4位と5位は順位の違いがあるものの同じ理由がならんでいます。
このことから戸建とマンションの違いを意識して区別する必要がないと言えそうです。
「リフォームされてきれいだった」との理由は、買取再販住宅の取得者であろうと想像でき、再販事業の位置づけは既存住宅流通促進の面で大きな役割を果たしていると言えそうです。
住宅を選択するときの理由と検討した住宅の種類
住宅を検討するときに既存住宅を選択した理由についての質問には、次のような回答がありました。
中古戸建住宅 | 中古マンション | |
1位 | 価格が適切だ | 価格が適切だ |
2位 | 一戸建てだから | 立地環境のよさ |
3位 | 立地環境のよさ | マンションだから |
4位 | デザイン・広さ・設備 | デザイン・広さ・設備 |
5位 | 昔から住んでいた地域 | 昔から住んでいた地域 |
住宅探しをしていろいろ検討しますが、そのときに比較検討した住宅の種類を尋ねた質問には次のような答えが返ってきています。
中古戸建住宅 | 中古マンション | |
1位 | 中古戸建住宅 | 中古マンション |
2位 | 分譲戸建住宅 | 分譲マンション |
3位 | 中古マンション | 中古戸建住宅 |
4位 | 注文住宅 | 賃貸住宅 |
5位 | 分譲マンション | 分譲戸建住宅 |
6位 | 賃貸住宅 | 注文住宅 |
中古戸建住宅を購入した層はやはり中古戸建住宅がもっとも多く、中古マンションを購入した人は中古マンションが第1位でした。
注目したいのは中古戸建住宅を取得した人では「注文住宅」が第4位になっており、中古マンション取得者では第4位に「賃貸住宅」が入っています。
中古戸建住宅取得者は注文住宅への関心が、マンション希望者よりも大きいことがわかります。
また中古マンション取得者は賃貸住宅を同時に検討する傾向が高く、立地環境をより重視している表れといえるでしょう。
リフォームの実施状況
既存住宅のリフォームは売買取引前に売主がおこなうケースと、購入後に買主がおこなうケースがあります。
中古戸建と中古マンションのリフォーム状況について、過去5年間のデータをみていきます。
中古戸建住宅は買主がリフォームをおこなう割合が高く、マンションは売主がリフォームをおこなう割合が高くなっています。
売主には買取再販業者も多くその影響と考えられます。
リフォームにさいしてはインスペクションが欠かせません。
インスペクションについての認知状況は以下のとおりです。
[中古戸建取得者の場合]
・内容を知っている:20.1%
・名前だけ知っている:18.1%
[中古マンション取得者の場合]
・内容を知っている:11.5%
・名前だけ知っている:175%
売主および買主が実施した状況は次のとおりです。
・中古戸建取得者の場合:19.6%
・中古マンション取得者の場合:9.1%
瑕疵保険および長期優良住宅の認定有無
瑕疵保険への加入状況は中古戸建で25.7%、中古マンションで21.0%となっています。
長期優良住宅の認定については中古戸建で12.8%、中古マンションで10.3%となりました。
5年間の推移をみると以下のとおりです。
瑕疵保険および長期優良認定について中古戸建では、わずかですが伸びています。
しかし中古マンションでは横ばいの傾向がみられます。
このことは住宅品質に対する関心について戸建のほうがより強いことが影響していると考えられます。
住宅取得回数
住宅をはじめて取得する一次取得者の推移をみていきます。
はじめて住宅を取得するさいに既存住宅を選択する人は、平成28年から令和1年まで漸減する傾向にありました。
令和2年に一転上昇しているのは新型コロナの影響が捨てきれませんが、今後は上昇傾向に変化する可能性もあります。
また上記の傾向は中古マンションが著しくなっており、都心に近い利便性を求める流れが強くなっているとも考えられます。
意識調査結果から予想される既存住宅の流通活性化策
既存住宅の流通をさらに図るには「買取再販事業」の拡大が望まれます。
調査結果からは、再販事業者によるフルリフォーム・リノベーション住宅の評価が一定程度あることがうかがえ、市場における良質な既存住宅の増加はマーケット全体の活性化を促します。
買主が購入後にリフォームをおこなうケースも多く見られ、インスペクションの認知度を高めることにより、住宅の現状把握にもとづいた適切なリフォームが可能になります。
そのための方法としてインスペクション事業者の育成を図ると同時に、リフォーム事業者との提携や協業も考えられます。
インスペクションに対する認知度や理解度がリフォーム業界ではまだ低く、リフォーム融資と併せた制度的な仕組みづくりも求められます。
また米国では普通となっているように、インスペクションが付随する中古住宅には、適正な評価がされる仕組みも重要です。
買取再販事業のビジネスモデルは確立してきています。
一方インスペクションに関しては宅建業法のなかに位置付けられるようになりましたが、より踏み込んだ制度化が必要になります。
まとめ
「住宅市場動向調査」は平成13年から実施されている調査ですでに20年経過します。
新築住宅着工戸数が年間120万戸を下回り、ストック活用の必要性が叫ばれるころに調査がはじまりました。
住宅市場のなかで既存住宅の割合が増えていく状況を客観的に捉えることが可能であり、流通促進策を検討する貴重なデータを提供するものです。
2030年には新築着工戸数が約60万戸まで減少すると予想されており、良質な既存住宅の流通は大きな課題であり、買取再販事業者、インスペクター、リフォーム事業者のより積極的な関与が必要と言えるでしょう。