不動産業に従事されている皆様であれば『行政代執行』という言葉をご存じでしょう。
専門士業などは『代執行』と略しますが、ご存じの通り行政による強制手続きの一つです。
手順や要件は行政代執行法(昭和23年法律第43号)により定められていますが、基本的な部分を要約すると下記のようになります。
「行政庁により命じられた行為を義務者が履行しない場合、他の方法や手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ放置することが著しく公益に反すると認められるときは、行政が自ら、もしくは第三者により義務者のなすべき行為をなすことができる」
例として草刈り条例に違反している雑草の除去や、時折、テレビなどで見かけるゴミ屋敷のゴミ処分も行政による強制的な代執行です。
そのような行政による権限行使の中でも目を引く大掛かりな処分として、ニュースなどでも取り上げられる「代執行による放置空き家の解体」があります。
コラムで何度も取り上げていますが、放置空き家の問題は喫緊に解決しなければならない国の重要課題とされています。
私たち不動産業者から見れば「なぜこんな良い場所で空き家が放置されているのだろう?」といった放置空き家などを見かけることがあります。
そのような空き家の所有者にたいして解体して更地販売、もしくはリノベーション工事を実施して再販するなど、うまくアプローチして取引に繋げたいものです。
相続が「争続化(あらそいぞく)」して処分できない、もしくは将来的に親族が戻ってくることに備え所有しているなど、放置を続けている理由は様々にあるでしょう。
ですが手入れをして適切に維持管理している空き家とは違い、放置状態であることにメリットがないのはご存じの通りです。
今回は行政代執行による強制的な解体や、高騰を続ける解体費の原因を理解することにより、空き家を放置していることにメリットはないという理由を所有者に説明し、有利にアプローチできるよう解説をおこないます。
放置している空き家の所有者は逃げ道がなくなりつつある
平成26年に「空き家対策特別措置法(正式名称_空き家対策の推進に関する特別措置法)」が施行されたのはご存じかと思いますが、法律の施行後も増加を続ける空き家については、根本的な原因として所有者不明の問題があります。
空き家対策特別措置法は所有者が不明で『承諾』が得られない状態であっても、行政は民有地へ立ち入り調査が実施でき、併せて固定資産税情報などの所有者特定に必要な情報の利用や取得が認められています。
もっとも所有権移転がおこなわれておらず、登記事項や課税台帳に記載されている所有者の所在が不明であれば、行政による調査も難航し段階的な助言や指導も実施できず、空き家対策特別措置法が有効に機能していないという指摘があります。
個人情報については、従来の縦割り行政による弊害であった、共有されているとは言い難い状況もマイナンバー(個人番号)の割り当てにより共有化が達成されました。
これに登記義務化が加われば、放置空き家の所有者は逃げ道がなく炙り出されてくることでしょう。
行政代執行による解体費が高い理由
所有者が空き家を管理せず、放置した状態で老朽化がすすみ「近隣に影響を及ぼす可能性が著しく高い状態」になれば、行政は所有者にたいして助言・指導と段階的に進め、それでも改善しないと判断された場合には、行政代執行法及び空き家対策特別措置法に基づく強制執行、つまり解体が待ち受けています。
当然として、解体費が税金で賄われることはありません。
費用は全額、所有者に請求されます。
この請求は税金と同等の扱いで請求されますから「お金がありません」などの言い訳は通用せず、差し押さえなど強硬手段で回収が図られます。
解体費ですが、行政による解体費は割高です。
上手い表現とは言えませんが、行政にとって近隣に悪影響を及ぼす空き家を解体することが重要であり、解体金額は「他人事」だからです。
複数の業者から見積もりを取って最安値を検討する、さらに「もっと安くなりませんか……」と値引き交渉などしてくれません(それほど暇ではないでしょうから)
掲載記事からみる「代執行」の現実
「放置空き家の管理を実施しなさい!!」と、行政から助言や指導が入っているのに放置を続ければどうなるのか……
つい先日『秋田魁新報社』のネットニュースに、代執行による解体の記事が掲載されていました。
sakigake.jp/news/article/20211129AK0022/
記事によると空き家は築48年の木造2階建て延べ床面積約46㎡と報じられていますが、状況は写真の通り、屋根・壁のトタンが劣化しており強風により剥がれ、通行人や周囲の住宅に危険が及ぶ可能性が高く、先ほど解説した「放置することが著しく公益に反すると認められる」状態でした。
記事には所有者に関しての記載がなかったので、行政による所有者所在の把握状況や助言・指導の実施状況などまでは分かりませんが、結果的に行政代執行による解体がおこなわれました。
「空き家対策特別措置法」を適用して代執行による解体を行うには、その前提として「解体によるほか公益の安全性を確保できない」との行政判断が根底にありますが、いきなりそのような手段を講じる訳ではありません。
あらかじめ「解体除去」に関しての助言・指導が実施され、それに従わない場合には行政が解体見積を取得し、その金額を所有者に送付して「解体命令に従わなければ、送付した解体金額で発注し行政が解体を代行しますよ。費用は当然に請求しますからね」と通達(所有者不明の場合には公示送達による)します。
これにも応じなければ、いよいよ代執行により解体されてしまうのですが……
行政からの解体費請求は、ある意味で税金と同じ性質のものですから速やかに支払わないと、速やかに「差し押さえ」が実施されます。
所有者不明の場合においては、業者への支払いは行政が建て替えますが、所有者が判明した場合には当然に請求され、状況により延滞金も加算されることになります。
解体費が下がらない理由
さてここから解体費についての現状を解説しますが、「解体費」は毎年のように値上がりしているのはご存じでしょうか?
業界情報によると解体費は今後、上がることはあっても下がることはありません。
私たち不動産業者は、劣化が著しい住宅の場合など、解体して更地販売を推奨する場合も多くあり、それにより見積もりも頻繁に取得していることかと思います。
この解体見積ですが「金額が上がっているのは気のせいだろうか?」と思ったことはありませんか?
気のせいではありません。
間違いなく値上がりしています。
筆者が親しい解体業者に「なんか年々、解体費が高くなっている気がするのだけれど、気のせいではないですよね?」と質問したところ、「ええ、企業努力はしているのですが値上げするしかないのが実情です」との返答がありました。
背景には、ご存じのリサイクル法があります。
リサイクル法は容器包装・家電・自動者など、その対象により管轄省も施行年度も様々ですが、建物に関してのリサイクル法(建設リサイクル法_管轄・国交省)は平成14年3月5日に公布されました。
それ以前は混載ゴミとして分別もされず、重機でバラしたらまとめてトラックに積み込み処理場に搬入していた解体ゴミですが、現在は職人の手作業により定められた分別を実施しますから、解体には日数も必要となり処理費も増加しました。
また人工代(人件費)も、非正規雇用の最低賃金引き上げや、同一労働同一賃金などの背景から、アルバイトを雇用して総体的な人件費を下げるといった従来の方法も効果が得られなくなっています。
続く理由としてコロナ禍による原油高の影響による運賃・処理費の上昇もあるのですが、もっとも大きかったのは廃棄物輸入を段階的に停止した中国の影響が大きいようです。
これまで中国は、海外から再生可能な廃棄物を輸入して再利用していました。
そのために世界中から廃棄物を買い続けていたらしいのですが、2017年に世界貿易機構にたいして輸入を段階的に停止すると宣言し、ほぼ実現しつつあるのだとか。
これにより国内解体施設の資源ゴミ(プラスチック・古紙・木材チップなど)の多くは行き場を失い、再生可能でありながらも処分されているようです。
余談ですが、これもコロナ禍の影響でプラスチックや木材チップなどが値を上げているのに、再生可能ゴミが処分されているのは矛盾ではないのかと思ったのですが、最終処分場による処理能力の問題が大きく、再生材は割高になり、高騰を続けるプラスチックや木材チップを買い付けた方が再処理品よりも安く手に入るそうです。
このような背景から解体費が下がる要因はまったく見当たらず、今後、登記義務化が実施されれば放置空き家の所有者も発覚し、行政指導による解体需要が増加する可能性が高いことから、更に値上がりすると予測されています。
まとめ
今回解説したように、空き家を管理せず放置しておくことにメリットは存在しません。
また解体費が今後も上昇していくであろうことを勘案すれば、売却予定がなくても、管理しきれていない空き家は早々に解体して更地にしておくほうが良いでしょう。
放置した状態で失火など、何らかの問題が生じた場合の責任は所有者に帰属します。
とはいえ、所有している当人からすれば日々の生活で忙しく、悪気はないのだけれど手が回らないなど、なし崩し的に放置状態が継続しているのかも知れません。
ですがそのような甘えた考え方は、これからは通用しません。
具体的な処分について真剣に考えなければならない時代が到来したからです。
このような状況は、私たち不動産業者にとってビジネスチャンスです。
『不動産会社のミカタ』で推奨している情報発信の方法などを参考に、集客につながる情報を拡散し、「管理ができないなら、何らかの方法を一緒に考えましょう」といったスタンスで売却物件を増加させる方法を検討できるからです。
そのためにも正確な知識と現状における状況の理解、そして顧客の信頼を得るための情報発信を行っていくことが大切であると言えるでしょう。