【路線価による相続計算は誤り?】実勢価格との差を最高裁が指摘

私たち不動産業者が相続相談を受け、財産である不動産の売却などに加入した場合には、相続税の計算について尋ねられることも多いと思います。

その際に基本的として、すでにおこなわれている生前贈与の内容を正確にヒアリングしておき、相続や遺贈による所得財産から課税遺産総額を算出し、相続税の総額計算により計算された金額を、相続人各人が受けた生前贈与分も視野に入れ実際に相続した財産の割合により按分し、税額を計算します。

さらにそこから各人の課税額から控除される分を差し引いて、最終的な納税額を決定します。

ご存じのように不動産の相続計算では、不動産価格として、相続税評価額を計算の土台にします。

相続税評価額は相続税の算定基礎として国税庁が算定していますから、計算根拠として用いるのに何も問題はないと考えて当たり前です。

ところが、国税局が「路線価による評価は適当ではない」として納税計算した金額では足りないとして、相続人による財産評価を否認し、追徴課税したことで裁判が提訴され、最高裁第3小法廷が当事者の意見を聞く上告審弁論を2022年3月15日に開くと決めたことにより、不動産業界を中心に注目を集めています。

詳細な事件のあらましについては次項で細かく解説しますが、相続税評価額による計算が基本であると認識している私たちにとって、この計算の根拠である相続税評価額が、場合によっては税務署から否認されるとあっては根本的な部分での見直しが必要とされます。

例えば、相続税対策として現金で不動産を購入し、更にその不動産を担保(もしくは共同担保)に供して金融機関から不動産担保ローンを引き出し、財産を増やしつつ負債も増加させ、相続税を引き下げるなんて手法はありがちな相続税対策の基本ですが、それも相続税評価額により予め計算できる相続税が予測できるから成り立つ手法です。

おおもとが狂えば、計算が破城してもおかしくありません。

「相続財産はあるけれども、相続税納付の現金足らず」状態になるからです。

今回は、合法であるはずの課税標準額による相続税計算が、なぜ税務署から否認されたかを含め、実勢価格から大きく乖離(かいり)した路線価による相続財産は、実勢価格も考慮して評価しなければならない法的根拠も含め、どうようのミスを起こさないことを目的として解説します。

事件あらまし

原告は、故人が銀行から融資を受けて購入した不動産の相続人です。

すでに一、二審の判決は下されており、現在は最高裁へ上告され、冒頭で解説したように第3小法廷が当事者の意見を聞く上告審弁論を予定している状態です。

一、二審で明かされた事実認定によると、原告は東京都内と神奈川県内のマンション計2棟を相続した際、路線価に基づいて財産を約3億3000万円と評価しました。

銀行からの借り入れもあったため、相続税額を「0」として申告しました。

この計算方法は、もちろん間違いではありません。

もともと故人が購入した価格は2棟で約13億8700万円でした。

ここで注目して戴きたいのが、路線価計算では約3億3000万円ですが、実勢価格は13億8700万円だということです。

国税庁が相続財産の算定基準のひとつとする路線価は、土地取引の目安となる公示地価の約8割とされています。

ところが、今回の事件による金額の差額は8割どころではありません。

不動産市場は生き物ですから実勢価格は日々、動いています。

そのような状況下で、実勢価格と公示価格の差が大きくなると、連動して相続税評価額の差も大きくなりこのような現象がおこりうるのです。

裁判で証拠提出された国税当局の不動産鑑定による評価も2棟合計で約12億7300万円でした。

国税局は不動産鑑定による価格を根拠に、相続人の申請にたいして「路線価による評価は適当ではない」として約3億円を追徴課税しました。

相続人は正しく路線価で相続税額を計算したのに、国税局の追徴課税は不当であるとして訴えました。

なんせ、相続税が「0円」「3億円」かです。

しかも相続税評価額により、正しく相続税計算しているにも拘わらず。

そりゃ裁判もしたくなるでしょう。

ところが一審・二審では国税局が正しいと判決されています。

一審の東京地裁判決では、路線価に基づいて申告した評価額は「不動産の客観的な交換価値を示しているかは相応の疑義がある」と指摘しています。

たしかに相続税評価額は、実勢価格よりも低いのが普通ではありますが……

さらに裁判所は「特別な事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価されることが許される」として、課税処分は妥当だと判断しました。

この考えは、二審の東京高裁判決でも判断を維持されています。

一審判決から、学ぶこと

ビジネスマン,閃き

先ほど解説したように、最高裁が意見聴取するのは2022年3月15日ですが、個人的には一審・二審の判決を、最高裁が維持する可能性が極めて高いと思っています。

ここで私たちが覚えておきたいのは、公示価格や路線価と、実勢価格が大きく乖離(かいり)している場合には、税制面で同様のことがおこるという認識です。

この点を正しく理解するには、裁判で用いられた下記のキーワードを覚えておく必要があります。

「特別な事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価されることが許される」

つまり相続税評価額はあくまでも目安であり、実情にあっていないと勘案される場合にはそれ以外の方法で、国税局が再評価をすることが容認されるということです。

この考えの根底に、国税庁が財産評価基準の在り方を示している『財産評価基本通達』があります。これは同時に、ご紹介した裁判では国税庁の法的な根拠とされました。

具体的には同通達_第6項にある「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」との例外規定です。

ですから国税局の対応も無理難題ではなく、通達の手順を遵守して行われているわけです。

最終的な結審で、司法判断が下される

不動産業界を含め税理士などがこの裁判に注目している理由は、特例である財産評価基本通達_6項の規定適用について、最終的な司法判断が下されるからです。

この特例の適用に関して、最高裁が司法判断を示した場合、不動産購入による相続税対策の根幹が、一気に崩れる可能性があります。

もっとも予め知見を有し適切にアドバイスできれば、それほど大きな影響を受けません。

ですがビジネススタイルとして、建築により借入負債を増加させ、相続税対策であると言い切って営業展開している大手の会社などは、ビジネスモデルを根底から見直す必要性が生じるかもしれません。

まとめ

今回は、相続税評価と実勢価格の差が著しい場合には、適切な手法で相続税計算をしても追徴課税が行われる可能性について解説しました。

事件に関しての最終的な司法判断は2022年ですが、私たち不動産業者は「一物四課」における実勢価格と、公示価格や固定資産評価額、そして相続税評価額において金額に開きがある場合には、常に「何らかの行政手続きがおこなわれる可能性があるかもしれない」といった考えを持ち、顧客にも説明しておく必要があるといえるでしょう。

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