不動産業界の方なら、一般の方よりも認識しているエネルギー政策の基本方針である「2050年カーボンニュートラルを目指す日本の新たな『エネルギー基本計画』」の概要はご存じでしょう。
この計画では2050年までにカーボンニュートラルを実現するために、実現に向けた課題や対応策、日本のエネルギー需要構造が抱えている課題を克服し、随時、修正を行いながら進められています。
私達、不動産業者もZEHや太陽光発電搭載の斡旋など、少なからず実現に向け関与しています。
太陽光発電を手掛けたことがある方ならご存じかと思いますが、太陽光発電搭載時における固定買取制度、いわゆる「FIT制度」は一定の期間、申請時点において定められた固定金額での買取を行う方式ですが、制度開始の2012年以降、毎年のように買取金額が引き下げられています。
また需要ピーク時(市場価格が高い状態)においても金額は一定で、なんらのインセンティブが付与されることはありません。
FIT申請が遅れる、つまり年度が進むほどに買取金額が低くなり売電メリットが少なくなるといった方式です。
そのため「太陽光発電搭載=儲かる」と考えていた方を中心に、新規の太陽光発電設備の導入を見合わせる結果になっています。
当面は高値が続くであろうと、先読みをせず起業した太陽光発電事業者の倒産は2015年から一気に増加し、2019年には過去10年間で最多の86件に達しています。
図_東京商工リサーチHP公開データより
2020年には54件まで減少して一息ついた感もありますが、翌2021年には上半期で38件の倒産が確認されています。
あくまで筆者の予測ですが、2022年度以降は太陽光発電関連、とくにメガソーラー関連企業の倒産件数が増加するのではないかと考えています。
タイトルとしている「FITからFIP」への制度変更が、その契機となるからです。
ただし倒産するのは、FIT制度自体が持つ脆弱な制度部分を援用する不心得業者が中心で、誠実に太陽光発電事業を手掛けている会社ではありません。
冒頭でFITは申請時期が早いほどに買取金額が高いと解説しましたが、この方式を逆手に取り、高い買取金額のFIT契約を締結していながら実際には稼働せず、一般消費者への売電価格の状況を見ながら時期を見て稼働を開始し、過剰に利益を得ようとする「未稼働案件」が問題視されていました。
このような未稼働案件でもFIT認定時の系統容量が保持されていますので、良心的な事業者が系統を利用することができず、新規参入できませんでした。
ご存じかと思いますが、FIT制度を維持するため、電力会社が買い取る金額の一部には私達一般消費者が毎月支払っている電気料金に上乗せされた「賦課金」が使用されています。
未稼働で最大利益を得ようと時期を待つメガソーラー会社のために、賦課金を負担するのかと思えばやりきれません。
そのような不心得業者を淘汰し制度を適正化するために定められた法律が、2020年に改正された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別処置法」です。
この改正法に基づき本年度、つまり2022年4月より発電業者が卸売電力や相対取引で自ら売電し、市場価格を踏まえ算定されたプレミアムとして売電金額が上乗せされる「FIP制度」の運用が開始されます。
これにより良心的に太陽光発電事業に参入しようとする業者に向け系統容量は開放され、一般家庭においても太陽光発電の搭載メリットが増加します。
今回は不動産業者なら抑えておきたい再エネ市場の現状と「FIP制度」について解説します。
日本の再エネ活用率と売電価格の推移
「再生可能エネルギーとは?」と質問されれば、多くの方が「太陽光発電」と答えるでしょう。
それだけ「再エネ=太陽光発電」というイメージが強いのでしょうが、再生可能エネルギーは、もちろんそれだけではありません。
太陽光以外にも風力・地熱・中小水力・バイオマスなどによる発電も含まれるほか、太陽熱やヒートポンプで利用される空気中の熱なども再生可能エネルギーになります。
具体的には「エネルギー供給構造高度化法」というあまり馴染みのない法律で定義されています。
法律では「太陽光・風力その他、非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」とされており、ポイントは温室効果ガスを排出しないということです。
世界中で温室効果ガスの排出を抑制しようと合意されたのは2016年のパリ協定ですが、その目的は可能な限り早期に温室効果ガス排出量をピークアウトして、森林などによる吸収量のバランスを均衡させ地球温暖化を防止することです。
そのためには石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料に依存する比率を可能な限り減少させることが必要です。
ですが日本は化石燃料にたいしての依存度が80%を超えています。
残る僅か10数%が再エネ導入容量です。
ただし、これは日本ばかりの傾向ではありません。
資源エネルギー庁が2021年に公表した各国の再エネ導入容量を見ると、圧倒的に進んでいる中国を除き、アメリカは日本の2倍以上導入されていますが、それ以外の国、つまりブラジルやインド・ドイツなどは日本とそれほど変わりません(ただし温室効果ガスの排出量も異なりますが)
温室効果ガスの抑制は世界的な約定事項ですから、日本は何としてでも目標をクリアする必要があります。
そのような背景もあり、再生可能エネルギーの中で民生部門においても比較的導入が容易な太陽光発電の設置件数を増加させるため2012年に導入されたのが「固定価格買取(FIT)制度」です。
目論見通り、それから数年はブームと言えるほど加速度的に導入が進みました。
なんせ、導入当初(2012年)の買取金額は10Kw以上で40円+税、調達期間が20年です。
10Kw未満の場合には42円の買取額で調達期間が10年という破格の金額です。
世界中を見回しても、当時このような高値で電気を購入している国などなく、各国の有識者からは「最初は高く買電して段階的に下げていく考えだろうが、そのような考えでは間違いなくいずれ破綻するだろう」と、指摘されていました。
まさに指摘どおり、毎年、FIT金額が下がるほど新規の太陽光設備導入が減っているのはご存じのとおりです。
図_自然エネルギー財団HP公開資料より
ですが設置台数を一気に加速化させるという目論見は、ある意味で成功でした。
上記の図に記載されている市場システムプライスは電力会社の卸値ではありませんが、2010年からの動きを見ても8~20(円/kwh)で推移しています。
これを見れば、いかに2012年当時の電気買取金額が破格であったかお分かりいただけるでしょう。
「家庭や企業で使用する電気は購入し、造った電気は売りに出す」を徹底すれば、間違いなく儲かる構図でした。
ですから地方の広大な遊休地を借地もしくは購入して、メガソーラー事業がブームを迎えたのも当然です。
もっとも、この卸値と買取値の逆ザヤを補完するため、私達の支払う電気料金に一律で「賦課金」が上乗せされている訳ですが……
その後、当然のごとく買取電気料金は年々引き下げられ2022年からは入札制度に切り替わり10kwh以上で10~11円、未満で17円となっています。
2012年当時の屋根搭載型一般家庭用太陽光発電システムは、発電効率が現在のものに比べて格段に落ち、システム価格も高額でしたが、それでも10kwh未満でしたら、250~300万円程度で搭載ができたと記憶しています。
2021年の売電価格であれば、一般的な日射量の平均値でシミュレーションすれば、早いところでは6~8年でシステム投下分を減価償却し、以降は利益が生まれました。
現在では太陽光発電システムも高性能なものが多く、普及率に応じて価格も下がりましたが、同時に売電価格も下げられていますので、FIT制度が従来のままであれば減価償却には15~20年程度は必要でした。
ですがFIP制度により、そのようなシミュレーション数値も有利に変化します。
その解説の前に、最近、問題視されている市場連動型電気料金プランについて次項で解説します。
私達が顧客に新規太陽光設備の導入を提案する場合に、欠かすことができない知識であるからです。
市場連動型電気料金プラン契約者は電気代が数倍に!!
まず前項で掲載した図で気になった点はなかったでしょうか?
2020年度の年末から年明けにかけて発生した、卸売電力市場の急激な値上がりです。
この時の最高卸売価格は1kwhあたり、なんと251円でした。
もっとも高騰の背景には厳冬による電力需要バランスの悪化やLNG貯蔵量の減少によるLNG発電所の出力低下などの悪条件が重なった背景もありますが「それにしても………」という金額です。
このような異常事態を繰り返さぬよう、経済産業省が2021年2月5日付で一般送配電電気事業者にたいし「卸売電力市場の急激な高騰に対する追加的な対応について」との対応策を公開すると同時に電力・ガス取引等監視委員会に相談窓口を設置し、一般消費者に向けては契約内容の確認と契約切替方法についての周知を実施しました。
背景に電力自由化により台等した新電力会社による「市場連動型プラン」があります。
このプランは日本卸売電力市場(JEPX)の取引価格に連動して電気料金プランの単価が決まりますので、前述した卸売電気が高騰した時期には2020年12月~2021年1月にかけ91.69円(1kwh)にまで達しました。
従量料金が市場と連動する「市場連動型プラン」を採用しているのは自然電力やダイレクトパワー、テラエナジー、ハチドリ電力などですが、それ以外でもエフエネ、ジニーエナジー、みんな電力、アスエネなどの新電力会社は電源調達費など、電気料金の一部が市場と連動するプランを提供しており、市場連動型ほどではなくても電気卸売価格の影響を受けます。
経産省資源エネルギー庁においても、再発防止のためにLNGガスの備蓄量を精査するなど再発防止のため対策を講じてはいますが、地球温暖化の影響からでしょうか、日本各地で異常な大雪を記録しライフラインが断絶したほか、極端な温度変化による影響が確認されています。
売電がメインではなく、このような急激な電気卸売価格の高騰に備える防衛策として、自己消費を目的とした太陽光発電搭載といったアプローチにも活用できます。
蓄電池による自己消費の途もあるが………
屋根搭載型太陽光発電システムの導入が加速した2012年の固定価格買取(FIT)制度開始以降、今年で10年を迎えました。
つまり本年度(2022年)から以降、調達期間である10年が順次終了していくのです。
そのため売電を目的としている場合には不必要であった蓄電池の需要が加速しています。
現在の相場による蓄電池の金額は、メーカーや容量によっても異なりますが、概算で工事費込み100~200万円の範囲のものが一般家庭用としてお勧めできるタイプのものです。
経済産業者が2019年に公表したデータによると、家庭用蓄電池設置の工事費用は平均35万円であるとしていましたが、電気系統の経路や間取り、設置する場合によっては置き場所の確保が必要であることから一概にいえません。
蓄電池本体の金額としては、用途により70~170万円程度の予算を見ておきたいものです。
最近ではポータブル型の移動式蓄電池なども数多く販売されていますが、あまりお勧めはできません。
これらの商品は一見すると金額が安いような錯覚を受けますが、容量は4kw未満ですからkw辺りで換算すると割高になり、そもそも容量が少なすぎますので非常時の電力確保以外の目的以外でお勧めはできません。
10kwh未満の屋根搭載型太陽光発電システムの容量は、多くが4~8kwhですので、それに連動して蓄電池を選ぶとすれば5~7kw前後が主力となるでしょう。
当たり前の話ですが、蓄電池は容量が増加するほどにサイズが大きくなり価格も上昇します。
ですから採用を検討する場合には、サイズも含め価格とのバランスを検討することが大切です。
そして機械寿命にも注意が必要です。
携帯電話のバッテリーをイメージして戴くとよいのですが、以前よりも高性能になったとはいえ蓄電池は充放電を繰り返しますから、寿命はよくて10~15年程度です。
メーカー保証期間も7~15年以内に設定されている場合が多く、実際の耐用年数に連動していることから良心的な保証期間の設定だと言えるでしょう。
一律ではありませんが、各自治体では蓄電池にたいする補助金を拠出しているところもありますので、顧客に蓄電池の採用を提案する場合には予め調べておくと良いでしょう。
ここまで説明しておいてなんですが、筆者の私見として固定価格買取(FIT)の調達期間が終了し、日中発電した電気が自己消費しきれずに勿体ないからといって、慌てて蓄電池の導入を検討することは、手放しでお勧めはしていません。
慌てて搭載しても元が取れない理由
一般消費者向けの記事であればここまで解説しませんが、これは不動産業者様向けの「不動産会社のミカタ」での記事ですので詳しく解説しておきます。
手放しでお勧めしない理由は単純です。
「太陽光発電システムの寿命が先にくるから」です。
太陽光発電システムは、太陽電池モジュール(パネル)と、常時変化する日射量を調整し発電された電気を家庭で使える電気に変換するパワーコンディショナー、そして屋根形状により必要となる太陽電池を搭載するための架台と接続箱・集電盤やモニタ、HEMSなどで構成されています。
写真_パナソニックウエブカタログより
まず構造が単純な太陽電池モジュール(パネル)は比較的寿命が長く20~30年程度と言われています。
パネルの経年劣化は0.27%/年_程度といわれていますが、劣化よりも、パネルに付着した汚れなどを定期的に清掃しておけばそれほど気にする必要はありません。
考えるべきはパワコンで、その寿命は10~15年が一般的です。
つまり固定価格買取(FIT)の調達期間が終了する前後、もしくはそれから数年でパワコンの交換工事が必要になります。
パワコンの交換金額は工事費込みで30~40万円前後が主流です。
またあまり意識されていない部分ですが太陽電池モジュールを屋根に搭載するための架台や、ビスの緩み、腐蝕している場合には塗布などのメンテナンスも必要な時期になります。
住宅が箱の形状で無落雪屋根などの場合にはそれほどでもないのですが、三角屋根などの落雪形状の場合は足場も必要となりメンテナンス費用が増加します。
そこまで細かく計算を始めるとアレもコレもとなりますので、単純計算として一例を上げましょう。
蓄電池設置費用150万円(工事費込)と仮定し、早々に寿命を迎えるパワコンの交換費30万円を合計すれば180万円です。
蓄電池の寿命は先程、解説したように10~15年ですから、計算しやすいよう10年で原価償却すると考えてみましょう。
その場合には18万円/年_以上の収益性がなければなりません。
この場合における収益性とは太陽光発電により得られ電力を自己消費し、それを買電に置き換えた場合の金額です。
さて概算ではありますが年間18万円、月々になおせば15,000円以上もの収益性が果たして得られるでしょうか?(積雪地帯では、屋根に雪が乗っている状態での発電効率「0」として考えることから、月々に必要な収益額は跳ね上がります)
当然としてそれ以外のメンテナンス費用も、先ほど説明したように必要となる可能性があります。
それにより減価償却に必要な収益額も上昇します。
あくまで筆者によるシミュレーション上ですが、極端に電気代が高値で長期間推移するような現象が発生しない限り、よくてイーブン、大半は減価償却すら怪しいと考えます。
ですからFIT期間が終了して蓄電池の搭載を検討する顧客には、元を取るという発想ではなく、地球温暖化防止に個人として協力しつつ、不測の事態に備えるといった視点での提案を心がけた方が良いでしょう。
卸売電力価格の高騰の対抗策は「FIP制度」に活路があり
冒頭で解説した通り、電気価格の高騰を虎視眈々と伺いながらFIT法の高値調達期間を温存しているメガソーラー会社を一層し、2021年には総額2.7兆円も上乗せされ、国民負担を強いた「賦課金」を効率的に運用し、また低減させるための政策が2022年4月からスタートする「FIP制度」です。
FIP制度は「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略ですが、日本よりも再エネ導入率が進んでいる欧州では早い段階から取り入れられています。
FITのような固定買取制度ではなく、売電先である再エネ発電事業者が、卸売市場で売電した時の売電価格に応じて一定のプレミアム(補助額)を上乗せする方式です。
分かりやすく説明すると「基準価格(FIP価格)+プレミアム」が売電した場合に得られる金額となります。
気になる制度開始時のFIP基準価格ですが、現行のFIT制度の調達価格を踏襲するとされています。
ですから2022年度については10kwh以上で10~11円、未満で17円です。
これに、プレミア分が加算されます。
プレミア計算は1ヶ月単位で期待値収入などを参考に見直される「参照価格」と「基準価格(FIP価格)」の差額とされています。
さらに詳しく説明すれば、参照価格は市場価格等により機械的に決定される価格のことです。
これにより個人・法人ともに、再エネに投資するインセンティブが確保されることになります。
電力需要と供給のバランスに応じて変動する市場価格を意識して、自己消費に回すか売電するかを選択することにより、最大の恩恵が受けられる構図です。
ここで、FIT期間終了時に慌てて設置する必要はないと解説した「蓄電池」が登場します。
自己消費を有効に活用するためには、蓄電池の設置が必須だからです。
市場動向を注視する手間は必要ですが、インセンティブを意識しながら最大限活用すれば、新規で太陽光発電システムを導入した場合の採算ラインは飛躍的に高まります。
制度改正されたいまだからこそ、新設に限りはしますが「太陽光発電システム+蓄電池」が最強の組み合わせであると言えるでしょう。
まとめ
今回は図らずも、長い解説記事になってしまいました。
表面上でFIP制度を解説するのは簡単ですが、制度が導入されるまでの経緯も含め、なぜ新設にメリットがあるか、またFIT期間が終了した世帯においては、甘言やブームに乗せられずに充分に検討してから蓄電池などの導入を検討していただきたいという思いがあったからです。
筆者はブームとなった2012年には太陽光発電システムに関して、制度構築も含め太陽光発電システムの導入促進やコンサルティングを実施してきたという経歴があります。
そのような経緯から筆者のもとには太陽光に関しての相談もよく寄せられるのですが、そのなかに「FIT(固定価格買取制度)が終了したので、同じ設備でFIPへの申込みは可能か?」というものがあります。
残念ながら、原則として受け付けられません。
ただし、小売電気会社等に直接売電することは可能です。
その場合にはFIPとは異なりプレミアが加算されることはありませんし、売価も小売電気会社等との取り決めで決定されますので売電価格は安く、自己消費で使用するほうが得です。
FIPの恩恵が受けられるのは、あくまでも新規で設備を設置、事業計画認定を取得した場合のみです。
新たに太陽光発電設備を設置する場合にも、10kwh以上の太陽光発電設備については発電事業終了後の廃棄物費用の積立が2018年4月から義務付けされています。
そのため廃棄物に係る費用総額の算定も含めた事業計画書の提出が必要とされますので、一般家庭の場合には10kwh未満の搭載量で検討したほうが良いでしょう。
いずれにしても今年度、2022年4月からFIP制度が開始されます。
私たち不動産業者も顧客からの問い合わせに備え、ある程度の知識拡充は必要であると言えるでしょう。