不動産業者に「仮登記」を知らない方はいないでしょうが、どのような時に使用するのかも含め、実際の業務において適切に利用している方は多くないでしょう。
私達が利用する仮登記の目的は「本登記まで時間がある場合など、他者への二重売買を防止する権利保全」です。
契約から決済まで1~2か月など比較的短期で、契約当事者に問題が見当たらない場合には必要ありませんが、決済までの期間が長い場合、または不動産屋としての「カン」が、何やら危険信号を鳴らす時に仮登記は有効な手段です。
手付の保全だけであれば「供託」により安全性は確保できますが、それ以外の場合で「保全」を検討した場合、筆者は「仮登記」の利用を推奨しています。
現在は契約当事者であれば登記申請がオンラインで行うことができますので、手順さえ覚えてしまえばさほど難しいものではありません。
今回はあまり利用されていない仮登記についての基本説明も交えながら、実践的な利用方法について解説します。
仮登記の基本
まず仮登記の基本をおさらいしておきましょう。
仮登記は、登記法により利用できる条件が下記1号・2号に限られています。
売買により権利変動は行われたが、登記申請に必要な手続き条件が備わっていない場合2号仮登記
物件移動が生じていない状態で、将来的な請求権を保全する必要がある場合
注意点として仮登記は、本登記と違い第三者にたいし対抗要件を持たないことです。
あくまでも仮登記後において、事後に第三者が本登記をした場合(この行為自体が二重売買ですから違法性が問われますが)において、仮登記を本登記に改めることにより、本登記をした第三者にたいし優先されるという性質を持つだけです。
つまり目的は防衛としての「保全」ですから、後順位の所有権登記名義人による不動産の利用を阻止できるような権利ではありません。
ですから事後、本登記を行った者が物件の占有をしても、「立ち退き要求」をする権利はなく、またそれを事前に防止する手段もありません。
もっとも仮登記設定がある物件に、事後、本登記を行い物件専有するような手口はバブル崩壊後に反社が行っていた占有手法ですから、現在では通用するものではありません(これ以外にも日付を改ざんして破格の安い賃料で、賃借権を主張しての占有など、いろんな手口がありましたが)
このように対抗要件を持たないのが仮登記だとする一方で、仮登記は「順位保全効」により、仮登記を本登記に改めた場合においては過去に遡って対抗力が生じるのだから、対抗力を持つとの考え方も存在しています。
所有権に関する仮登記申請の種類
仮登記申請は所有権移転に関連する「保全」が目的ですから、登記原因は委任状や登記原因証明情報(契約書等)に基づいての「所有権移転仮登記」が多いかと思いますが、その他「売買予約」「贈与予約」「代物弁済予約」などの仮登記があります。
登記法では仮登記の申請ができる条件について、同法第105条1~2号で下記のように定められています。
一 第三条各号に掲げる権利について保存等があった場合において、当該保存等に係る登記の申請をするために登記所に対し提供しなければならない情報であって、第二十五条第九号の申請情報と併せて提供しなければならないものとされているもののうち法務省令で定めるものを提供することができないとき。
二 第三条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。
これに基づき、共同申請・単独申請・売買予約・条件付所有権移転仮登記などに分類されています。
債権保全の仮登記担保権
これまで紹介したように、私達、不動産業者が仮登記を利用する場合、所有権の順位保全が目的ですが、実務の多くは金融機関による「債権保全」のため利用されています。
登記事項証明で見かける仮登記は、むしろこれらの方が多いでしょう。
これらは「仮登記担保権」と呼ばれ、不動産の金銭的価値を重視し、債務不履行の際にも優先的に弁済を受ける権利を確保しつつ、あわよくば先順位の抵当権を圧縮して抹消させ、債権の行使して不動産を取得します。
競売を経ずに不動産を取得するための仮登記としては、所有権移転のほか、「代物弁済予約」や「停止条件付代物弁済予約」などが登記担保権として使用されています。
ドラマや小説の「ネタ」になりやすい少額債務で、はるかに金銭的価値の高い不動産を奪い取るという暴利行為ですが、現在は担保目的としての所有権移転仮登記等は「仮登記担保法」で規制されたことにより、利害関係人の調整も難しくなり現在ではあまり見かけなくなりました。
売買予約の仮登記は、必ずしも仮登記担保権を目的としていない場合もありますが、実質的な内容を確認することにより判断ができるでしょう。
いずれにしてもこれらの仮登記が設定され、登記権利者が金融業者などの場合にはトラブルが予見されることから注意が必要です。
安い・簡単な仮登記申請
私達、不動産業者の存在意義は、専門性の高い不動産取引を安全に問題なく実施することですから、プロとして万が一に備え、適正に保全行為を採用するのは責務だと言えますから、そのような意味において、仮登記は使い勝手の良い手法です。
なんせ、登録免許税が安い。
仮登記の登録免許税は物件評価にかかわらず一筆_¥1.000円です。
相手方の同意は必要ですが、契約当事者であれば司法書士の手を借りず登記申請ができます。
申請書については法務省ホームページの下記のURLで、各種登記申請様式を提供していますので、必要事項を入力するだけで作成することができます。
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
それよりも便利なのは、登記・供託オンライン申請システムである「登記ねっと・供託ねっと」を利用することでしょう。
https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/download_soft.html#SogoSoft
自己所有のパソコンで「申請用総合ソフト」をインストールすれば、登記申請書の作成のほか、管轄法務局にインターネット経由で送信できるようになっています。
システムでは申請書の作成・送信(申請)・添付ファイルへの電子証明の付与・処理状況の確認が可能です。
また名称からも分かる通り、「供託」手続きも行うことができます。
注意点としては電子証明書が必要だということです。
もっとも申請内容によっては必要・不必要が分けられており、仮登記は必須、供託は目的により必要・不必要に分けられていますので、利用前に確認が必要です。
オンライン申請では不動産登記だけではなく、商業・法人登記や、電子証明関係・動産譲渡登記・成年後見登記なども行うことが可能となっていますが、司法書士の独占業務に抵触する行為、つまり「司法書士法の規定により、司法書士でないものが、他人の依頼を受けて、業として登記手続きを代理すること、及び相談に応じること」は司法書士法で禁止されています。
宅地建物取引業法の無資格者に関する定めと同じく「報酬の有無に関わらず、業として反復継続・または反復継続の意思をもって行う」場合は、この定めに抵触します。
当事者であればシステムを利用して申請は可能ですが、登記相談や当事者を代理して申請書の作成等をおこなうことはできませんのでご注意下さい。
くれぐれも「出来る=行ってよい」ということではないということです。
筆者も顧客から相続に関しての登記相談などはよくありますが、「法務省のホームページなどから申請書をダウンロードすることもできますし、オンライン申請も可能ですから調べてみてください」と、誘導することを徹底しています。
まとめ
賢く利用すれば「使える」仮登記ですが、不動産業者が積極的に利用しているという話はあまり耳にしません。
もっとも仮登記自体が、宅地建物取引士試験の勉強でわずかに「学んだ」程度で、一体、何のために存在しているか理解されていないからでしょうか。
解説しましたが、仮登記をもっとも有効に利用しているのは金融関係です。
とくに合法的に債権を保全する手段として、下火になってとはいえ「仮登記担保権」が利用されています。
筆者は過去に何度も仮登記担保権を行使しようとする金融業と、債権に絡む紛争でやりあったことはありますが、金銭債権などにかんしては下手な不動産業者では「歯が立たない」レベルで法の盲点や、債権者心理を誘導することに長けています。
私達、不動産業者が仮登記を利用するかどうかは別としても、顧客を守るといった意味から「仮登記」について理解を深めておく必要はあるでしょう。