筆者は御覧頂いているコラム等の執筆以外に不動産実務、その他にも不動産コンサルを業として活動していますが、コンサルティングは一般の方以外にも不動産業者からの相談も相応にあります。
一般の方からの相談案件と違い、不動産業者からの相談案件は入り組んだ内容のものが多く、知識不足というよりも「説得に同行してもらえないか」や、宅地建物取引業法の観点からこのようなケースでの判断はどうすれば良いのかなどの相談です。
そのような相談の中でも群を抜いて多いのが「私道」に関してのトラブルです。
通行・掘削同意書に「判」をもらえず取引が停滞するケースや、同意はするけれども「高額な費用(ハンコ代)」を請求されるなど、とかく問題の起こりやすい私道ではありますが、私道の共同所有者のうち一人でも居所不明であった場合なども頭の痛い問題です。
登記義務化が施行されれば、いずれ登記識別情報による所有者調査で居所を確認できるようになるのでしょうが、現在のところは特殊なスキルの必要なサルベージ作業とも言えるほど、ちりばめられた情報から所有者調査をおこなうといった、まるで探偵業のような調査を実施しなければ所有者へたどり着くことができません。
このような問題の全てが解決できるという訳ではありませんが、土地利用の円滑化に向けた民法改正が昨年、行われました。
この改正に準拠する形として、とかく問題の多い共有私道に関し、「共有私道の掘削・工事同意に関する研究」が法務省でおこなわれ、その報告を基に作成されたガイドラインが公開されているのはご存じでしょうか?
登記義務化も含めた土地取引円滑化に向けた改正民法の施行は来年4月からですが、このガイドラインも同時に運用が開始されます。
この「所有者不明私道への対応ガイドライン」は下記URLから確認することができます。
https://www.moj.go.jp/content/001372972.pdf
今回は来年度に備える意味も込めて今回改訂された第2版となる「所有者不明私道への対応ガイドライン」をもとに、法務省としての見解や法律を背景とした私道についての考え方について解説します。
ガイドラインは不動産業者の必読書?
民事基本法の解釈適用では、「私道」に関してのトラブルは個別具体的な事案の内容に応じて裁判所で判断されるべきものですが、私道の共有者やその一部が所在不明の場合、売買における同意書の入手など緊急性の高い事案において裁判の提訴はおよそ現実的といえません。
そのため様々な方法によりなし崩し的に処理されているか、もしくは放置されてしまうケースが多く、裁判例の集積も得られない状態となっています。
そこでガイドラインでは、研究会がヒアリングしたうち発生頻度の高い支障事例について議論を重ね、法務省としての指針を示すという画期的な内容となっています。
筆者も含め私道問題で頭を悩ませる不動産業者は多いでしょうから、ある意味では「必読の書」と言えるかもしれません。
私道の「型」は2種類
ガイドラインでは実際に存在する複数所有の私道を2つの「型」として定義づけ、それらの総称を「共有私道」としています。
私達、不動産業者は「型の違い」を理解して、今後は使い分けをする必要があるでしょう。
共同所有型私道
私道全体を複数の者が所有し、民法第249条以下の共有(共同所有)の規定が適用されるもの。
相互持合型私道
私道が複数の「筆」で成り立ち、隣接宅地の所有者等が私道の各筆をそれぞれ所有し、相互に利用させ合うもの。
行政主導の私道維持管理でも、頭を悩ませる問題点
私道について私達、不動産業者が頭を抱えるのは「通行掘削同意」の了承が得られない場合と、私道の所有者不明であるケースが多いと思います。
頭を抱えるのは民間だけではなく、行政主導で道路維持管理を計画した場合にも同様の問題が支障となっているようです。
助成制度を運用するのにしても私道所有者全員の「同意」が必要とされ、他の私道所有者から私道助成の申請があり協力しようにも、所有者の一部が所在不明であった場合には原則として申請を却下せざるを得ないのです。
私道ではあっても道路として一般の交通に利用されることから、公共性を有していますから路面の陥没などがあった場合、安全確保のため所有者負担なしでも行政が簡易舗装などの補修を実施したいのですが所有者不明の場合には「全員同意」の原則論を考えれば下手に手出しできない状態です。
とくに地方の中小都市の私道は、最後の登記から50年以上経過しているものが支障例の45.6%にも達し、そのうち最後の登記から70年経過が12%、90年経過が7%含まれていることからかなりの確率で「遺産共有状態」であると推測されることから、真の所有者を調査するのも並大抵の労力ではありません。
これらは相続未登記の典型的な事例です。
改正民法による「共同所有型私道」の変更等
改正前においては「私道」など共有物に変更を加える場合には、変更の程度にかかわらず共有者全員の同意が必要とされていました(改正前民法第251条)
この法律により、一部でも所有者が不明であれば私道に変更を加えることができず様々な問題の温床となっていましたが、改正により変更であっても形状・効用の変更が著しくはないもの(軽妙変更)については共有者全員の同意を不要として、「各共有者持ち分の過半数の同意により可能」とする(改正民法第251条第1項、第252条24第1項)としました。
この場合における変更は下記の2つになります。
●形状変更
外観・構造等を変更する行為
●効用の変更
機能や用途の変更
これにより軽妙変更を含む共有物の管理については、同様の過半数同意で行えることになりました。
軽妙変更の範囲については個別の判判断も必要かと思われますが、法務省の見解としては砂利道をアスファルト舗装にする行為などは一般的な軽妙変更としています。
また改正民法では共有物の保存行為については、各共有者が単独でおこなうことができる(改正民法第252条第5項)としています。
ですが反対派である少数派の意見を、まったく聞かないのは問題があるだろうということから「少数派との協議の機会を設けることがのぞましい」としています。
所有者不明の場合には
改正民法では共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることが出来ない場合には裁判所の決定により、それ以外の共有者全員の同意により変更を加えることができるとするとともに、管理については過半数の同意により行えるとしました(改正民法第251条第2項及び第252条第2項第25 1号)
これは自然人ばかりではなく相続人の存在が不明である場合に適用され、また共有者が法人の場合にも同様に適用されます。
裁判所の決定が必要とされることから難しく考えてしまうかも知れませんが、変更行為や管理に関する事項の工事を特定して申し立て、裁判所から「要件の充足が認められ」、裁判所における公告及び1ヶ月以上の意義届け出期間を経ても異議の届け出がされない場合には、その他共有者による変更・管理の裁判により申立人に告知されます(改正非訟事件30 手続法第85条第6項)
そもそも所在不明ですから、異議申し立ての可能性は著しく低いと推測されますし、異議申し立てられれば所在が確認できることになりますから、少なくても物事は進むでしょう。
民法で共有関係にならない相互持合型私道の変更は?
それぞれが分筆された私道の所有権を有し、相互に利用する「相互持合型私道」は、民法上の共有私道にあたりません。
それぞれの所有者が相互に自己所有の私道を通路として提供しているからです。
ただし相互持合型私道の場合には、各自が所有地(要役地)における便益のため、私道部分(承役地)に通行等を目的とする地役権を有しているとみなされるからです。
要役地の所有者にたいしては、分譲当初から団地形状による通行地役権の設定が明示されており、その権利は売買により所有者が変更されても当然に引き継がれるものだとされます。
新たに購入した所有者も、他の宅地所有者が通行することを認識して購入していますから、登記の有無によらず黙示の地役権が設定されていると考えるのが一般的です。
この考え方は、私道に関しての裁判例において数多く示されています。
相互持合型私道の裁判例において、明示の合意によらず黙示の地役権が設定されているとの見解が数多く示されているからです。
また具体的な通行地役権の設定が存在しない場合においても、他人の土地を通行する目的のために使用する用益物権は、時効取得が認められています(民法第283条)
これら通行も含めた地役権は、水道管の設置などのライフライン整備も含まれるとするのが一般的な解釈ですから、承役地である私道部分が損傷して通行に支障がある場合などにおいては道路補修の工事を実施することが出来ると考えられ、この場合には他の承役地所有者にたいして当該地の修繕を求めることもできるとされています。
このような見解から、相互持合型私道に通行地役権が設定されている場合には、そもそも「通行・掘削同意」は不要であり、当然の権利としてそれらを行うことが出来ます。
また必要に応じて「通行・掘削同意」を取得する際にも、他の所有者から「ハンコ代」等を請求されても応じる必要はありませんし、「判子を押さない!」という根拠も存在しないことになります。
この地役権の考え方は、理解して覚えておくとよいでしょう。
まとめ
今回は戸建てに関する私道に関して解説しましたが、ガイドラインにはこれ以外、「団地内私道における共有関係」や、「相続財産管理事件手続き」のほか、「所有者不明土地・建物管理制度」などの見解が載せられています。
少々、専門的な法律用語も多く読みこなすのには手間取る場合もあるでしょうが、不動産業者としてはいずれも学んでおきたい内容になっています。
総ページ数は51P程度のものですので、通読されることをお勧めいたします。