空家対策特別措置法が施工され、もはや「空き家」を放置することは不利益しか生みません。
特別措置法により市町村長は「立入調査の実施」を所有者に通知するだけで、了解を得ずとも立ち入り調査を実施し、結果、管理不足により経年劣化が著しく倒壊の危険性が高いなど、問題ありとされたものについては「特定空家」に認定し、相応のペナルティを課すことができるようになりました。
法施行の背景には1988年以前から増加を続ける「空き家」にたいし、地域住民の生命・財産保護・生活環境保全などの観点から各地自体が「空家条例」を制定するなど個別に対応してきましたが、増加を抑止するまでには至らず、その状況を重く見た政府が特別措置法を策定したという流れがあります。
特定空き家に該当しなくても、管理が適切に行われていない空家は安全面や防犯面、ゴミの不法投棄や放置など、近隣住環境の悪化をまねく可能性があります。
さらに今後は不動産登記の義務化が控えていますから、「未登記で所有者も分からないだろうから放置してもバレないだろう」という甘い考えは通用しなくなりますし、それ以前に執筆時点の令和4年6月15日直近だけでも、同年6月14日に京都で行政代執行による解体がおこなわれるなど、勧告や命令・戒告に従わない場合に強制的な手段を講じる自治体のニュースを耳にすることが多くなりました。
もはや放置空家にメリットなしです。
具体的な目的もなく所有していることにメリットがないことを、私達、不動産業者が正確に理解して所有者に説明が出来れば、賃貸転用や売買、解体しての更地運用など様々な提案をおこなうことが可能となり、結果、不動産ビジネスの「種」になるのではないでしょうか?
そこで今回は「空家対策特別措置法」の基本と、行政代執行までの流れについて解説します。
特定空き家とは
冒頭で解説したように、空家対策特別措置法により個人の財産である空き家にたいして、たとえ所有者が不明であっても自治体には立ち入り調査を実施する権限が付与されています(空家対策特別措置法第9条)
これは通知だけで足りるとされていますから、所有者の承諾は必要ありません。
調査の結果、同法第2条で定める下記要件に合致した場合には「特定空家」とされます。
特定空家にたいしては解体の推奨などの助言・指導(同法第14条1項)が実施され、それによっても改善が見られない場合には「固定資産税等の住宅用地特例の除外」などの勧告が行われます。
それでも従わない場合には命令がなされ、50万円以下の過料が課かせられます(同法14条3項)
特定空家に指定された場合には、このように段階的に厳しくなるペナルティが課せられている訳ですが、その判断基準は国土交通省による「特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針」というガイドラインに準拠する形で各地自体が個別方式やランク付け方式などを採用し、独自に認定基準を設けています。
つまり一律ではないということです。
もっとも少数の担当者による主観で判断されないよう、市町村長・学識経験者・地域住民・その他市長が必要と認める者などで判断するとしています。
ただし、法律ではこのような構成メンバーによって協議会を組織することが「できる(同法第7条)」としているだけで、「組織しなければならない」とはされていません。
そのため自治体によって協議会の構成メンバーにはバラツキもあり、専門的な見解から客観的に認定されていると言い難い自治体も存在しているようです。
行政代執行までの流れ
前項により、特定空き家の認定については自治体によりバラツキが認められる状況はありますが、いきなり行政代執行による解体に踏み切る訳ではありません。
ガイドラインに準拠する形で慎重に討議し、助言や指導など適正な段階を経て、それでも対策を講じず放置されるのであれば、最終的に強制的に「解体」するということです。
つまり必要な措置を取るように「勧告」し、その勧告によっても必要な措置を講じなかった場合、相当の猶予期間を経過してから「命令」を発し、それでも履行されない、もしくはその履行が充分ではない時、または定められた期限までに完了する見込みがない状態と判断されれば、下記法律の定めに従い行政代執行(解体等)が実施されます。
また行政代執行の措置により発生する費用は、同法第14条10項で「市町村長は、その者の負担において、その措置を自ら行い」と定められているように、解体費用等は全額、所有者に請求されます。
「自業自得」であるとはいえ、所有者には相見積もりによる価格交渉などが期待されない、割高な解体費の全額が請求されることになります。
その支払いができない場合、「租税特別措置法」や「滞納処分と強制執行との手続きの調整に関する法律」に基づき、差し押さえが実行されます。
参考までに、「自己破産すれば支払いを免れる」と勘違いしている方もいるようですが、解体費は税金と同様に扱われますから免責されません。
強制徴収されます。
もっと、多くの場合には更地となった土地を差し押さえ公売が実施され、不足が生じた場合にはそれ以外の動産などの財産を差し押さえすることが多いようです。
これまでに解説した特定空き家の認定から、それ以降の行政代執行までの流れを表にしたものが、上記の図です。
「空家を放置することは不利益しかない」と、顧客を説得するためにも覚えておくと良いでしょう。
まとめ
相続問題でこじれて処分できないなど、所有者にはそれぞれ放置している理由も存在してはいるのでしょう。
とくに不動産価格が低廉な地方都市などでは、売却しても解体費用すら捻出できないなど切実な悩みもあるかと思います。
上記のような事例では、「老築危険家屋撤去補助金」や「都市景観形成地域老築危険家屋撤去補助金」などの名称で、各地自体が独自に解体費用の1/5~1/2程度の範囲内、具体的な金額としては上限として50~100万円程度を補助してくれる制度を設けられています。
将来入居や賃貸転用など明確な所有目的があり、かつ管理が適切に行えるのであれば良いのですが、それ以外の場合、速やかに売却してしまうのが得策です。
売却しないとしても、手入れができない放置状態となるなら解体して更地にする。
特定空き家に認定され、固定資産税等の住宅用地特定除外で税金が跳ね上がり、さらに50万円以下の過料、最後に行政代執行による割高な解体費用が請求されるぐらいなら、先んじて手を打つべきです。
私達、不動産業者は地域の美観や安全を損ねる空家の所有者にたいして「放置にメリットなし」と説明し、売買仲介などのビジネスに繋げるため理論武装が必要であると言えるでしょう。