【今後の不動産動向を予測する!】国土形成計画による重要課題

不動産業といえば、土地や建物の売買や賃貸斡旋など取引実務の面がクローズアップされがちです。

ですがコロナ禍による顧客指向性の変化、それにともない加速した不動産DXなど、根強い「土地神話」などに支えられた事業経営から、流通システムや評価、事業方式などに関してのコンサルティング業務など、より高い付加価値を提案できるスキルが求められています。

つまり従来型の「経験やカン」に頼ったものではなく、知識集約的に様々な情報を精査し提案できる能力です。

査定や集客システムのほか間取り作成も含めた広告作成アプリなど、従来であれば相応の経験と知識がなければ手を出しづらかった業務も、システムを利用すれば未経験者でも遜色のない出来栄えの物が簡単に作成できるようになりました。

知識や経験ばかりでは業績を上げることが出来ない時代の到来です。

「企業がビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活用して競争上の優位性を確立すること」がDXの定義ですが、利用する側には提供されたシステムを柔軟に、かつ最大限に活用していくことが求められます。

国土交通省主催の「不動産DX関連」意見交換会などを視聴すると、率先して導入している企業においても様々な問題点を抱えながら試行錯誤しているのが実情です。

典型がトップダウンによりシステムを導入したものの、社員は使いこなせずに機能不全に陥っている状態です。

そのような状況では、新たなシステムを導入しても社員は反発するばかりです。

システム利用方法についての説明会などを開催してもやる気が見受けられず、「シラケた」ムードが蔓延しているような状況ですね。

不動産DX化は、これから業界全体が生き抜いていくために絶対に必要とされるものなのですが、そのような危機感を持つ経営陣と、日々の業務に忙殺される現場には意識的に大きな隔たりがあります。

現場はそれでなくてもやることが多いのに、何の役に立つのか理解できていないシステムの利用方法について説明会を開催され、さらに全員強制参加と言われても不満が募るばかりで逆効果です。

不動産DXを成功させるには、現場レベルで現在の不動産業界のおかれている現状や将来的な動向を理解し、そこから自分たちが生き残るためにどのような対策が必要とされるか、それらを率先して解消していく手段として新たなシステムを導入し慣れ親しんでおかなければならないといった理解が不可欠です。

経営陣には「導入に至った経緯や、必要性」までを含め情報をオープンにし、すべての社員を巻き込んで時間をかけて理解を深めていくといった体制づくりが望まれます。

理解を深めるには、まず不動産業界の現状と将来的な動向を正しく認識することが大切です。

そのような認識を深めるのに利用できるのが「国土形成計画」など政府により公開されている情報です。

そこからは現状の問題や検討されている課題、そして法整備まで含めた対策の方向性までを確認することができます。

今回、解説に利用した「国土形成計画の中間とりまとめ」は、下記のURLから全文を確認することができます。

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudoseisaku01_sg_000151.html

国土形成計画の中間とりまとめ

全体で57Pほどですので、それほどのボリュームではありません。

これらの情報を読みこなせば、「なぜDXを早い段階から導入し学ばなければならないか」などについても理解を深めることができるでしょう。

今回は、そのような目的から「国土形成計画中間取りまとめ」により開示された情報をもとに解説します。

そもそも「国土形成計画」って何?

現行の国土形成計画は平成27年(2015年)に策定されました。

とはいえ閣議決定されたのは2008年(平成20年)です。

目的は「多様な広域ブロックが自立的に発展する国土を構築するため、分野別施策の基本的方向を定める」とされ、それ以前に存在していた「全国総合開発計画」に代わるものとして策定されたのですが、なんせお題目ばかりで即効性にとぼしく拘束力もほとんどありませんでした。

民間を巻き込まなければ達成できない計画であるのに、行政主導で進められ民意に即しているとはいえない状況です。

それではせっかくの計画も「絵に描いた餅」になりますから、改められたのが前述した現行計画です。

ところがその後、新型コロナウイルス感染症の拡大によるテレワーク増加など、従来と異なる価値観が生まれ、暮らしや働き方、そして住居に関する考えかたも急激に変化しました。

計画を策定しても時代の変化についていけない状況です。

そこで時代の変化も取り入れながら計画を見直す必要が生じ、令和3年(2021年)6月に国土審議会計画推進部会に属する長期展望専門委員会が激変した住環境も含め調査を開始しました。

調査目的は2050年度までに達成したい「国土の在り方」、つまりは長期展望を達成するために必要とされる情報収集と対策の立案です。

28年後の「国土の姿」ですから近未来と言った感じもしますが、それまでに必要な国づくりのポイントを1.ローカル2.グローバル3.ネットワークの最大活用とし、それらをどのように組み合わせ民間と創生できるかが重要であると結論付けられました。

国土審議会計画部会は「国土長期展望」の報告を受け、新たな国土形成計画と国土利用計画について審議するために設置されましたが、昨年の9月から12回にわたり議論を重ねてきました。

それら議論内容を整理し中間として取りまとめたものが今回、解説している「国土形成計画(全国計画)中間とりまとめ」です。

中間とはいえ、計画の基軸であるとされていますから全ての問題を解決するため必要とされる「原理」を示したものです。

私達、不動産業者が政府の考える土地施策を先読みして備えるには、この基本的な「原理」を理解しておく必要があるでしょう。

日本における重点課題

現在、日本が抱える課題として「国土形成計画」では①人口減少・少子高齢化②巨大災害の発生③気候変動への対応、これら3つの課題に対して影響の暖和や軽減等の対策をどのように講じるかが重要であるとしています。

日頃から漠然と「最近、何となくおかしいよね?」と考えているこれらの現象は、あらためて考えるまでもなく変化しているのです。

それでは、それぞれの現状について解説していきましょう。

①人口減少・少子高齢化

総務省統計局により推定された日本人口は最新のもので1億2550万2千人とされています。

推定総人口で信憑性が高いのは1950年調査以降のものです。

2022年の時点、つまり1950年以降72年間において、近年10年間の連続減少幅拡大は特筆すべき状況です。

少子化についてはいまさら解説も必要ないと思いますが、国土形成計画の中間とりまとめでは2050年に日本人口は1億人を下回ると試算されています。

それだけならまだしも、1億人を下回る人口の37.7%は高齢者になると予測されています。

ほとんど1人が1人の高齢者を支えるという構図ですね。

つまるところ少子高齢化が一段と加速するということですが、それにより地域活力の低下・地域の人材不足・生活サービス機能の低下・医療体制・介護需要の増大・国土の管理水準の低下など、これらの課題をどのように解決するか議論が継続されています。

日本,人口と高齢化率の推移

②巨大災害の発生

近年、「日本も含め世界的に大規模な地震の発生が多くない?」と思うことがあるかも知れませんが、気のせいではありません。

日本近郊で地震の発生源となる南海トラフ・日本海溝・首都直下型などの地震が、ある意味で切迫状態であると指摘されています。

記憶の新しい熱海土石流災害は人的な原因も多分にあるとされていますが、背景にある大雨の影響は無視できません。

洪水・土砂災害の激甚化が頻発していますが、これらは気候変動の進行が根底にあり今後、更に悪化していくことが予測されています。

日本は太平洋ベルト地域や首都圏に人口や産業が集中している傾向が高く、端的に言えば「災害リスクの高いエリアに人口が集中している」状態だということです。

このような災害に備える意味でも、人口の分散化は必要だとされているのです。

③気候変動への対応

筆者がコラムで何度も取り上げている題材の一つが、「世界的な気候変動を防止するため」というテーマですが、大局的に考えれば何とも難しく考えがちですが、なんてことはない個人が意識して「電気の使用量を減らす」、「モトは取れないけれど太陽光発電の搭載を検討する」などの小さな行動の積み重ねです。

最近でも日本各地で「連続猛暑日の記録更新」など報道されましたが、地球温暖化による極端な高温・大雨の増加は世界的な傾向です。

日本も2050年までに「カーボンニュートラルを実現する」として、民生部門においては2025年から新築住宅にたいし「省エネ基準」の適合が義務化されました。

カーボンニュートラルの起点は2013年度ですが、2030年までに起点比較46%削減が目標とされています。

そのために建物全般の断熱性能を引き上げると同時に、再生可能エネルギーの導入を国・地方公共団体・企業・民間にたいし積極的に取り組んでいくとされています。

カーボンニュートラル,温室効果ガス

その他の課題について

その他の課題としてあげられているのが、東京など都市部における一極集中の緩和です。

都心部には若者を中心とする地方からの転入が継続しており、その中でも女性の流出が直接的に地方衰退の要因に繋がっていると指摘されています。

いわゆる「嫁不足」問題ですね。

筆者が男性だからという訳ではないのですが、地元に根を張り地域復興に尽力しようと考えても、結婚適齢期の女性がこぞって都心部へ流出してしまえば何ともやるせない気持ちになるでしょう。

ですが医療・福祉・教育・交通・買い物利便性など、日々の生活に必要な機能は間違いなく都心部のほうが充実しているのですから、若者を中心として流出していくのを阻止することは現状を維持しているだけでは困難です(そもそも就職先もありませんから)

地方創生により都心部の一極集中を緩和するためには、上記に列記した「日々の生活に必要な機能」を充実させると同時に、「生活に必要な所得を確保」するため産業の成長・創造、そして地方ならではの潤いのある生活を持続させるために自然・文化・芸術・娯楽といった文化的な生活に必要な機能が確保されている必要があります。

そのような状況の中で不幸中の幸いであったのが、コロナ禍により普及が促進されたテレワークや、ネット環境さえ構築できれば都心部にオフィスを構えている必要がないと地方へ本社機能を移転した企業が増加したことでした。

インターネットの普及によりグローバル化は進行していますが、それに伴い世界における日本の相対的な地位は低下していると指摘されています。

自由にどこでも仕事ができる環境が構築されるということは、反面として取引先が日本だけではなく世界が相手になるということですから、国際競争力を高めていくことが重要であると言われています。

日本,国際競争力,推移

何とも大きな話で、「地方の不動産屋である私達に国際競争力と言われてもねぇ……」と考えられる方も多いとは思いますが、時折、筆者のもとに前触れもなく英文のメールが届くことがあります。

「イタズラ、もしくは詐欺?」とも思えますが、個人からの発信ですので拙い英語力で翻訳してみると、どうやら「日本で所有している不動産を売却したいので相談にのって欲しい」とのこと。

無下にでもできないのでメールのやり取りをすると、所有地は沖縄や新潟、山形なんてものありました。

まさに日本全国です。

筆者の活動拠点は北海道が中心ですから、「同じ日本でも距離があるので、手がけるのも難しいのですが……」と返信をしても、「なんで?日本の土地だろう」と納得してもらえません。

現地へ出来向き経費倒れにならないのであれば観光旅行もかねて出張するのですが、必ずしもそのような物件ばかりではありません。

そのような場合には個人としてのネットワークを活用し、エリアの業者に引き継ぎます。

このような実例はミニマムではありますが、グローバル化が進展したことによる影響であるとも言えるでしょう。

「不動産業は地元が強い」と長らく定説にされていましたが、確かに地元に根を張った業者の優位性は揺るがないものの、不動産購入年齢層のほとんどがインターネットを情報収集の拠り所としている現在では、限定された市場に留まらず対応していく能力が求められています。

契約締結や重要事項説明もIT化され、内見や打ち合わせもZoomで行える時代ですから地域を超えて集客し、不動産ビジネスを展開していける業者が今後も発展を続けていけるのではないでしょうか?

官民創生がキーワード

「お役所仕事はあてにならない!」などは良く聞かれる言葉です。

確かに行政は手順を遵守する必要があり、スピード感に欠ける面もありますが、これからの時代は「民の力を最大限に発揮する官民共創」が重要であると国土形成計画で位置づけています。

これまでに解説した各重点課題は、昨日今日に指摘されたものではありません。

古くから指摘され、そのような方向に進まぬよう先人が多大な努力を払ってきたにも拘わらず実現したものです。

この点については「国土形成計画」中間取りまとめでも「行政主導では抜本的解決に至らない」と、反省の弁とも受け取れる内容が記載されています。

そのため新たな発想として令和版解決原理とされたのが①官民共生②デジタルの徹底活用③生活者・事業者の利便の最適化④分野の垣根を超える、の4つです。

これらの基本原理は相互に連携し、解決されていく必要性があるとされています。

グローバル化の進展に伴い国民の価値観は多様化し、その変化スピードも後付の対策では手に負えない状況となっています。

このような問題の解決は官民の多様なステークホルダーが連携・協働して解決にあたらなければ目標を達成することなど不可能でしょう。

そのために重要課題とされたのが下記のような内容です。

令和版解決原理,重要課題

これらの課題を解決するため、「国土形成計画」中間とりまとめではかなりのページを使い具体的な対策を上げています。非常に興味深くまた内容も深いので興味があれば読むことをお勧めします。

まとめ

最近は不動産市場の地域優位性は崩壊しつつあると指摘されています。

地元不動産業者が商圏範囲のプロファイルに関して優位性を保ってきていた構図が、ネット検索やアプリの利用が増加するにつれ、それらを効率的に提供している先進的な企業を中心として需要エリアに縛られない動き方をしている業者が実績をあげています。

この傾向は顧客の情報収集の変化により早い段階から指摘されてきました。

新聞の購読数が低下したことにより、従来は週末に大量に折り込まれていた不動産広告は減少しました。

現在では顧客が賃貸や購入物件情報を得るのに利用するのは圧倒的にインターネットです。

筆者を含め不動産業者の多くは「場当たり的な思考」を持つ方が多く、薄々感づいてはいても行動に反映されません。

日々の業務に汲々としているため念頭から消えている場合も多いのですが、人ありきの側面を持つ不動産業界の未来は手放しで明るいわけではありません。

様々な情報を入手して自ら考える「先読みの能力」を持ち、時代に即して行動することが何よりも大切ではないでしょうか。

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