【2022年9月1日から施行開始!】不動産表示規約の改正点を徹底解説

昨年10月に速報としてコラムで紹介していた不動産表示規約・同施行規則についてですが、改正案については令和3年10月22日に第19回通常総会において承認されていました。

記事を執筆した時点で施工日までは決定していませんでしたが、その後、規則については2022年2月18日に、規約については同21日に、公正取引委員会及び消費者庁の認定・承認を受けたことにより2022年9月1日からの施工が決定しました。

ご覧戴いているコラム執筆時点からですと、施工まで約1月しかありません。

不動産広告表示についての規則や規約は、新聞折込や雑誌等の広告物にだけ適用されるものではありません。

自社のホームページや不動産サイトに掲載している物など、インターネットに掲載されている物件は当然として、ポスティング広告や顧客に渡す案内資料等、広告物全般に適用されるルールです。

不動産サイトであれば運営元が指摘してくれるでしょうが、自社ホームページ等においては社内の誰かが気づいて訂正しなければ放置されがちです。

広告の表示内容(表現含む)が表示規約等に反している場合、故意・過失を問わず「おとり広告」とみなされる可能性もあり、厳重警告・違約金の措置といった処分の対象になることもあります。

その判断基準である不動産表示規約・同施行規則が9月1日から施工されるのですから、それまでに自社のホームページはもちろん、ポスティング原稿のフォーマットや顧客に手渡ししている案内資料まで含め、表示等に漏れや違反表示がないか全て確認する必要があります。

とはいえ、改正点や表示ルールを理解していなければ確認のしようもありません。

そこで今回は、施工される不動産表示規約についてのポイントと基本ルールについて解説します。

なお、今回のコラムは不動産公正取引協議会連合会による「表示規約同施行規則主な改正点」で掲載されている図等を使用し、筆者が独自の視点から補足して解説を加えています。

もととなる資料は下記のURLからPDFで確認・ダウンロードすることができます。

https://www.sfkoutori.or.jp/webkanri/kanri/wp-content/uploads/2022/06/20220601_kiyaku-kaisei_leaflet.pdf

また不動産表示規約・同施行規則の全文を確認したい場合には下記URLのページからダウンロードが可能となっています。

公正競争規約の紹介

コラムと併せて確認し、より理解を深めることをオススメいたします。

距離の表示ルールが大きく変更された

今回の改正で、まず注目したい改正点が距離の表示方法についてです。

駅や商店街・生活利便施設等までの距離表示のほか、電車等の移動時間等について具体的な記載方法が明示されているからです。

確実に覚えておきたい変更点について下記①~③にまとめましたので、それぞれを解説していきます。

①分譲戸数2以上の団地の場合

販売戸数が2以上の分譲地等の場合、1団として開発された団地から駅や商店街までの距離(時間)を表示する場合、団地内で最も近い区画を起点としていることがほとんどでした(つまり、最短距離のみ表示する方法です)

9月1日以降この表示は認められません。

「最も近い区画と遠い区画からの所要時間、両方の併記が必要」とされます。

駅から,所要時間,表示

上記図のように、最も近い区画である「A」と、最も遠い区画である「G」の両方、表示としては「〇〇駅まで徒歩2~5分」といった表示方法です。

また時間ではなく、距離のみで表示することが新たに認められました。

上記図の場合だと、「〇〇駅まで160~400m」と表示できるということです。

②ラッシュ時の所要時間は分けて表示する

これは、緩和されたと言える内容です。

従来は「通勤時の所要時間が平常時の所要時間を著しく超えるときは通勤時の所要時間を明示する」とされており、あくまでも所要時間の長い方のみを明示することが求められていました。

改正により「朝の通勤ラッシュ時の所要時間を明示し、平常時の所要時間をその旨を明示して併記できる」と改正されました。

ラッシュ時,所要時間,表示

注意点としては、併記が認められているとはいえ通常時がメインではなく、あくまでもラッシュ時などの通勤時間帯が「主」とされる点でしょう。

また従来は「乗り換えが必要とされる場合には、その旨を明示すること」と規定されていましたが、「乗り換えをするときは、その旨を明示し、所要時間に乗り換えに概ね要する時間を含める」に変更されました。

乗り換え,ラッシュ時,所要時間,表示

注意点としては乗り換えに要する時間や待ち時間までを含めて表示が求められている点で、単純に電車等に乗っている時間ではないことです。

細かい話になりますが、所要時間の表示については「〇〇駅から徒歩」の表示のように、駅から物件までの時間(距離)を表示するのが一般的でしたが、「物件から最寄り駅まで」の明示に変更されました。

あくまでも物件が「先」ということですね。

所要時間,記載方法

具体的には下記のような表示に統一しなければならないということです。

「〇〇駅から当該団地まで徒歩5分」⇒NG
「当該団地から〇〇駅まで徒歩2~5分」⇒○

ウッカリしやすいところですので注意しましょう。

③マンションやアパートは出入り口を起点に

マンション等の場合、出入り口を起算点として距離(時間)を表示することが明文化されました。

所要時間,表示,起点

分譲マンションの場合には特に注意が必要だと思われますが、接道しているアプローチ等が起点ではなく、あくまでもメインもしくはサブエントランスからの具体的な距離です。

サブエントランス,マンション

ちなみに所要時間の表示については、これまで「物件からの道路距離を記載すること」が明文化されていました。

そのため徒歩の所要時間を表示する場合には距離の併記が必要とされてきました。

先程も解説しましたが、この条項が緩和され徒歩所要時間の表示、もしくは距離のみの表示だけでも良いとされたので覚えておくと良いでしょう。

物件からの道路距離,表示

特定事項の明示義務は必ず再チェック

前項で解説したのが、主な改正ポイントです。

インターネット等で「不動産表示規約・同施行規則の改正」についての記事を見ると、多くはこれまでに解説した距離表示などの部分だけを紹介しているだけです。

もちろん重要ではあるのですが、筆者が今回の改正で注目しているのは「特定事項の明示義務」です。

媒体によらず不動産広告を作成する場合、広告会社や制作会社などに依頼することが多いと思いますが、彼らは広告についてはプロですが不動産業者ではありません。

不動産に関する法令や各種規制に通じている訳ではありません。

ですから「特定事項」に関しては知識が及ばず見落とされることもあるでしょう。

この点についてチェックするのは、不動産業者の皆様です。

それでは改正されたポイントを見てみましょう。

とはいえ改正されたのは規則第7条第11項のみです。

特定事項,明示義務,物件

崖の上もしくは下の宅地を販売する場合、擁壁等に覆われていない法地については、それにより建築に制限が必要とされる場合にはその旨を、具体的に表示することが義務付けられました。

図では擁壁に覆われていながけに隣接していることから、「主要構造部分を鉄筋コンクリート造にする必要がある」と例示していますが、表示する内容は物件の条件によりことなります。

どのように表示するかについては不動産業者である皆様が考えなければならないでしょう。

もともと特定事項の明示義務は不動産表示規約・同施行規則で定められています。

具体的には、下記のような条件に該当する場合です。

特定事項,明示義務,物件,条件

これらの条件に該当する宅地等を広告する場合には、その旨を表示しなければならないことが義務付けられています。

今回の改正ではこれら特定事項の表示方法について具体的な表現を求められたのは規則第7条第11項(がけ地における建築制限)のみですが、消費者が誤解をまねくことがないよう、これら特定事項に該当する場合、可能であれば具体的な表現を心がけたいものです。

特にインターネット広告においては文字数制限などの影響もあるのでしょうか、筆者が掲載写真を見ただけで具体的な明示が必要だと思われる物件についても、特段の表示もされず概要だけ記載されているケースが散見されます。

意図してそのような掲載をしているとは思いませんが、先に上げた広告制作会社の知識不足や、特定事項の明示義務を知らない不動産業者の方が多いことも理由ではないかと推察されます。

不動産の公正競争規約

不当表示を取り締まる不動産公正取引協議会・公正取引委員会・宅地建物取引業法にたいしては、「知らなかった」「社員が勝手に掲載した」などの言い訳は通用しません。

おとり広告,3類型

今回の改正に基づき掲載物件を訂正する際には、特定事項の表示についても併せて確認し、必要に応じて文言を追加するなど訂正されるとよいでしょう。

別表に追加された事項

表示事項(別表)に新設(追加)されたポイントについても解説しておきます。

まず不動産公正競争規約別表4~別表9のインターネット広告をする場合における必要事項に、「引き渡し可能年月日(賃貸においては入居可能時期)」「取引条件の有効期限(分譲物件のみ)」が追加されています。

不動産,インターネット広告,必要事項

別表4~9は上記に該当する物件です。主に新築分譲であると理解すればよいでしょう。

ただし、注意点が一つ。

ご存じのように「新築」と表示できるのは築後(検査済証記載日付)1年未満です。

それ以降は未入居であっても「新築」と表示できず、「築後未入居物件」などと表示しなければなりません。

別表4~9に「中古」と表示されている箇所があるのは、そのような理由も一つです。

不動産,インターネット広告,必要事項

また別表5「新築住宅・中古住宅・新築分譲住宅で残戸数が1戸のもの」に、「1棟売りマンション・アパート」が追加されています。

広告をする際には「1棟売りマンション・アパートである旨や、建物内の住戸数・各住戸における最大と最小の専有面積・建物の主たる部分の構造及び階数の表示」が義務とされました。

覚えておきたい緩和事項

今回の改正は表示方法が具体的になることを目的としている物が多いのですが、厳しくなったばかりではありません。

これまでより表示のルールが緩和されたものもあります。

ここではA~Eの緩和事項について、それぞれ解説します。

A.名称使用について

「〇〇湖前団地」など、海や湖沼、河川や堤防については直線で300m以内であれば団地名称等として使用できることになりました。

また街道についてはこれまで接道していない状態での使用は禁止されていましたが、直線50m以内であれば使用できるように改正されました。

名称使用,物件

B.未完成物件のイメージ写真使用方法

未完成物件については、これまで販売されている建物の現物であると誤認されないよう「規模・形質・外観が同一」という、建売り住宅以外で満たすことは困難な条件が定められていました。

そのためイメージパースなどの3D画像で広告掲載していたのですが、イメージはさほどよくありません。

改正により以下の条件を満たすという前提はあるものの、柔軟に他物件の外観写真を使用することが認められました。

1. 取引をする建物を施工する者が過去に施工した物件であること。
2. 構造・階数・仕様が同一であること。
3. 規模・形状・色等が類似していること。

未完成物件のイメージ写真使用方法

注意点としては、掲載写真は似通った物件にすぎない事から写真サイズに留意する(あまり大きくは表示せず控えめに)他、外観デザインが異なる部分については但し書き等でその旨を表記しておかなければならないことでしょう。

C.二重価格表示の要件

二重価格表示については、「有利であると誤認されるおそれ」の観点から、規約第20条で規定され、例外的に認められている施行規則第13条及び14条の要件も厳しいものでした。

今回の改正により、多少ですが緩和されました。

ただし下記の①~⑤の条件を全て満たしている必要があります。

①従来の「公表時期」が「公表日」に、「値下げの時期」が「値下げの日」に変更され、それらが記載されていること。

②比較対象とする価格は「値下げ直前の価格」であって「値下げ前2ヶ月間(従来は3ヶ月)にわたり実際に公表されていた価格」が記載されていること。

③値下げの日から6か月以内に表示するものであること(つまり二重価格が表示できるのは、値下げ日を起算点として6ヶ月目までです。それ以降、二重価格表示は認められず、値下げ後の価格のみ表示することになります)

二重価格表示の要件

④過去の販売物件の公表日から二重表示価格を実施する日まで物件の価値に「同一性」が認められるもの。

同一物件であることは当然ですが、求められているのは「同一性」です。

例えば当初の広告では景品表示法に反しない程度(取引価格の10分の1又は100万円のいずれか低い価格の範囲)の外構オプションや家電サービス等を含めて価格を表示していたものが、値段を下げる時点でそれらのサービスを「無」とした場合においては、広告に同一性が認められないと判断されるのではないかと考えられます。

解釈が分かれる内容ですが、従来広告との「同一性」については注意するようにしたいものです。

⑤土地・建物(売買物件)について行う表示であること。
賃貸物件については賃料値下げの二重表示は認められていません。
あくまでも販売価格の表示のみに限定されています。

上記の要件を全て満たし、必要事項を表示することにより下記のように二重価格表示が認められます。

二重価格表示の要件

D.予告広告・シリーズ広告に1棟リノベーションマンションが追加

予告広告・シリーズ広告に1棟リノベーションマンションが追加

不動産表示規約別表6に規定された予告広告等については新築分譲マンションと総戸数もしくは販売個数が2以上10未満の「小規模団地」のみとされていましたが、新たに1棟リノベーションマンションについても予定広告を表示することが可能になりました。

E.予告広告の特例

予告広告を掲載するにあたっては、第5条の「予告広告に係る必要な表示事項」で定められた表示事項の全てを備えていることが求められています。

ただし第9条「予告広告の特例」に該当する場合には、第5条で規定された表示事項の一部を省略することができるとされています。

ですが第9条は「予告広告を行った媒体と同一の媒体を用い、かつ、当該予定広告を行った地域と同一又はより広域の地域において実施する場合」という、何とも使い勝手の悪いものでした。

ネット広告には「地域指定」なんて概念はないですから、同一の媒体(ネットによる予定及び本広告)であっても、地域が特定できず掲載することができないという解釈になるからです。

そこで前述の条項はそのまま、新たに「インターネット広告により実施する方法」が追加されました。

不動産,予告広告の特例

つまりネットで予定広告を実施し、本広告も同様にネットで行えるようになったということです。

ただし上記のように本広告を実施する予定時期等については予め表示しなければなりませんので、その点については注意が必要です。

まとめ

いかがでしたか?

多少、長くなってしまいましたが改正ポイントのほとんどは解説させて戴きました。

不動産の公正競争規約の全文は、冒頭で紹介した不動産公正取引協議会連合会のホームページで確認することはできますが、71Pにもわたる規約集ですから目を通すだけで一苦労です。

とはいえLDK表示できる場合の大きさ(帖数)等など、意識しなければウッカリと見落とす詳細な定めが公正競争規約では定められていますから、時間に余裕がある時に一度は目を通しておいたほうが良いでしょう。

また冒頭でも多少、触れましたが折込やインターネット等に掲載する広告のみが公正競争規約の規制対象ではありません。

ポスティング広告や顧客に手渡しする販売図面などについても、すべて対象とされます。

広告表示,規約,物件

公に配布をしていないことから目につきにくく、発覚しづらいという点はあるかも知れませんが、だからといって根拠なき二重価格の表示や、抜群・希少・特選など禁止されている特定用語を多用しているものが表沙汰となれば、間違いなく処罰の対象とされます。

おとり広告

また実際に厳重警告以上の措置がとられた事例報告で多いのが「おとり広告」です。

とくに顧客の目を引く希少性の高い物件を、契約締結後も掲載しているケースです。

広告の校正が間に合わず不本意ながら掲載されるケースはあるでしょうが、最近の主流はインターネット広告です。

物件の入れ替え作業もそれほど労力は必要ありませんから、掲載が一定期間を超えると言い逃れも苦しいでしょう。

売却済みであるのに広告を掲載し続け、問い合わせ情報を得ようとする行為は「おとり広告」の典型的な例として処罰されますので注意しましょう。

今回、解説したもののうち強化された規定についてはただちに変更して表示をすることが認められています。

ただし緩和された規定については、9月1日以降でなければ現行規則に違反する恐れがありますので注意しましょう。

※本記事内で使用している画像については「不動産公正取引協議会連合会 表示規約同施行規則 主な改正点 2022年9月1日施行」より引用しております

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