高額な不動産ですから、詐欺の対象にされることは多いものです。
独立行政法人国民生活センターの調査によれば不動産関連の詐欺事件は全体として年々、減少していますが、20代の不動産詐欺による相談件数は年を追うごとに上昇しています。
もっとも、あくまで相談ですので詐欺事件としてカウントされた件数ではありません。
この中で特に多いのが、ワンルームマンションや海外不動産などの投資に関しての相談です。
実際に筆者のもとにも、ワンルームマンション投資などの営業電話がよく架かってきます。
大体は社名や名前も満足に名乗らず、早口で一方的にまくし立てるようなトークを展開しますが、「確実に儲かります!」なんてNGワードを平気で連発され辟易します。
もっとも「そんなに儲かるならアナタが自分で投資しなさい」といって電話を切りますが……。
20歳代の相談件数上昇にもよるのでしょうか、全国宅地建物取引業保証協会が一般消費者向けに、防止の観点から「不動産詐欺解説」動画を下記URLで公開しています(無償)
https://www.hosyo.or.jp/jigyo/seminar.php
興味深いテーマであることから筆者も一通り目を通しましたが、ありがちな不動産詐欺の手口を公開しています。
基本的な内容ではありますが私達、不動産業者も参考になる動画です。
営業トークによっては顧客にたいして心ならずも誤解を与えることもあるでしょうし、不動産業者が詐欺の対象とされることもあるのですから防衛の意味で詐欺の手口を理解しておくことは有意義です。
動画は一本につき約5分程度のものですから、通しで見てもそれほど時間は必要ありません。
不動産業に従事している皆様であれば「濡れ手で粟(あわ)」といわれるように、努力もせず利益だけ得られるオイシイ話など存在しないと理解されていると思いますが、そうは言っても甘言を用いられ言い寄られれば「ひょっとして……」と思ってしまうのも人間です。
今回は、動画で取り上げられたテーマや手口を中心として、詐欺の傾向について解説します。
トラブルのキッカケはSNSが急上昇
まず詐欺被害に合うキッカケについて解説します。
従来は電話営業やアンケート調査、訪問による勧誘などがほとんどでしたが、最近ではSNSがキッカケとなるケースが急上昇しています。
SNSがソーシャルネットワーキングサービスの略で、インターネット上で個人同士が繋がる場所を提供しているサービスであることは説明不要でしょう。
フェイスブックやツイッター、LINEにインスタグラムなど様々なサービスが私達の生活に根付いており、実際に皆様も活用されていることと思います。
不動産も含めた消費者生活相談において、SNSをキッカケとしたケースが2017年は15,709件でしたが、2021年には50,406件と、わずか5年で3倍以上も増加しています。
不動産の場合だとSNSを通じて知り合った人から何度も勧誘され、仕方なく面談したところから始まっています。
その際には長時間に渡る拘束がお約束です。
そして「確実に儲かる」や「家賃は保証される」など、都合の良いことだけをまくしたて、断られると「こんなに時間をかけて説明したのに、それでも社会人か!」と逆ギレするなどのケースが数多く報告されています。
それ以外のトークとして以下のようなものが事例として紹介されています。
「ワンルームマンションのオーナーになれば負担なく資産を持てる。家賃収入を保証する」「定期的な収入を得られるし、老後の蓄えになる」
「空室になっても家賃保証される。老後の年金が少なくても家賃収入があれば大丈夫。築10年のファミリー向けマンションなので、将来家族ができた時に自分が住むことも可能」
「ローンは家賃収入で払える」
「マンションは今後も値上がりする。購入して高く売れば利益が出る。貸せば家賃収入があり、支払いは固定資産税のみだ」
これらの表現は、言い回しは違うものの私達が日頃、トークとして使っているようなフレーズです。
事例には強引に事務所まで連れ込み長時間拘束して契約したケースも紹介されており、契約後クーリングオフを主張する顧客に対し「事務所で契約しているので、クーリングオフはできない」と詰め寄られたと紹介されていました。
確かに事務所で締結された売買契約はクーリングオフの対象とはされませんが……
もっとも、上記のケースでは物件の内見すら行っていないのだとか。
これら公開されている相談内容を見ていくと、必ずしも詐欺とは言えないものや、宅地建物取引業法上では適法なものもありますが、長時間の拘束や根拠を提示せず利益が絶対に確保できると誤認させるような説明がされているケースが多く、少なからず消費者契約法には抵触するものが大半です。
動画で見る詐欺の手法
冒頭で紹介した公開動画は全部で6本ですが、テーマ1は全体を統括する形で「不動産詐欺に対する注意喚起」になっています。
テーマとして取り上げられているのは残る5本で、以下のような内容です。
手付金詐欺
原野商法
地面師
サブリース契約に伴うトラブル
それでは、それぞれの内容について解説していきましょう。
不動産投資詐欺
ここではレントロール詐欺を中心に解説されています。
レントロールとは、不動産の賃貸条件を部屋・賃貸スペース別に家賃・敷金・契約日等の契約条件や賃貸人の属性を一覧としてまとめた表ですが、賃貸不動産の調査や評価を行うため私達にも馴染み深いものです。
収益力の判断材料ですから内容は正しく記載されていて当然ですが、レントロール詐欺においては家賃金額や入居状況などについて虚偽の記載をし、収益力が実際よりも高いと誤認させる手法が用いられます。
動画においても契約書に記載された実際の家賃と、物件資料として渡されたレントロールの数字が違うケースを指摘して、確認するよう注意が促されています。
このような詐欺を回避する方法として、「実際の家賃を調べ、レントロールに虚偽の記載があった時には白紙解約する」などの条項を、対策として盛り込むよう解説しています。
またレントロールが正しいと思わせる手法として、部屋のカーテンを占め入居者がいると装うほか、電気メーターを回すなどの小技を用い満室状態を偽装する手口も紹介されています。
それ以外にも婚活アプリ・マッチングサイトなどを利用して出会うキッカケをつくり、その後、投資物件等の勧誘をするデート商法についても紹介されているほか、二重譲渡詐欺についても紹介されています。
また最近、相談件数が増加している海外不動産投資詐欺についても解説されています。
筆者のもとにもSNS等を通じて知り合いになった方から、海外不動産投資の案内などが送られてくることもありますが、国ごとに異なる法律や不動産知識に欠けている場合には高値で物件を売りつけられる他、実際には存在していない物件を契約させられるなどの危険性があります。
私達もウッカリ手を出すことがないよう注意したいものです。
手付金詐欺
まず一般的な物件購入の流れを通じ、手付金の意味合いについての基本が解説されています。
その後、手付金を支払った後、売り主と連絡が取れなくなる典型的な手付金詐欺の手法が紹介されています。
また物件を抑える意味合いでの申込証拠金と手付金はそもそも違い、正式な契約が行われる前に手付金を支払う危険性について解説しています。
これらの内容は私達にとってそれほど参考になるものではありませんが、防止する手段として相手方が不動産業者を名乗っている場合、実在する業者であるか、また評判はどうなのかを事前に調査すると共に実際に存在する不動産会社の名前を「騙る(かたる)」危険性を回避するため、在籍確認をするなどの必要性についても言及していますから多少、参考になるでしょう。
原野商法
最近ではあまり耳にしなくなった原野商法についても解説されています。
若手の不動産営業マンは、原野商法自体をご存じない場合もあるでしょうから簡単に解説しておきます。
原野商法は1970年代後半から1980年初頭にかけ社会問題にもされた詐欺的販売手法ですが、具体的な開発計画などが存在しておらず値上がりの見込みもない山林や原野を、さも具体的な計画があるように詐称して高値で販売する方法です。
「当該地で開発計画が進行しており、そうなればインフラも整備され土地価格も跳ね上がる」と言ったトークスクリプトは有名でした。
筆者もこのテーマを見た時に「いまさら原野商法?」と思いましたが、2010年以降、原野商法の詐欺被害にあった方々の二次被害が増加しているようです。
一度騙されているのですから、二度目は警戒しているだろうと思いますが取り込む手口は巧妙です。
原野商法の被害者はすでに高齢となっており、負の財産となっている原野などについて、相続に関する悩みを持っています。
「自分が生きているうちに精算したい」という思いが強いのです。
そのような被害者に「所有されている原野を高値で買い取りします」と持ちかけ、言葉巧みに信用させ、あらたな山林や原野を購入させるのです。
訪問販売で押し切られて購入した方の個人情報が売買されているという話を聞いたことはありますが、「騙されやすいタイプ」の方は確かに存在するのでしょう。
一度騙されて警戒している方に、さらに原野や山林を売りつけるのですからなかなか高度な営業スキルを持っているのでしょうが、褒められる行為ではありません。
また動画では原野を相続した世帯に対し、買い取りをほのめかせながら測量や整地料のほか、節税対策費やコンサル料を請求するケースも紹介されています。
存在しない開発計画を説明することは詐欺行為ですが、測量費や整地費用等は実際に必要である場合も多く、原野や山林とはいえ現物は売買される訳ですから、限りなくグレーであるとはいえただちに違法であると指摘することが難しいのも原野商法の特徴です。
開発計画や道路計画が本当にあるのかどうかは、私達、不動産業者であればすぐにでも調べることが可能ですが、一般の方にはそのような知識もないことから、現在でも横行している詐欺なのです。
地面師
登記簿上の所有権を勝手に名義に変更するなど所有者になりすまし、手付金や売買代金を騙し取るのが地面師の手口です。
これは一般消費者だけではなく私達、不動産業者においても地面師の技量が巧みであれば被害の危険性がある詐欺です。
2017年には東京五反田の土地をめぐり、一部上場のハウスメーカーが土地代金約55億円をだまし取られた詐欺が大きく報道されました。
大手ハウスメーカーの土地関連事業部に在籍しているスタッフですから、仕入れ担当として研鑽を積んでいるプロです。
そのような相手を騙すのですから地面師を侮ることはできません。
大型の詐欺の場合に地面師は、まるで映画の配役のように所有者役など割当分担を決め、計画的に犯行に及びます。
主犯格は相応に不動産や法律知識を有し、漏れ落ちなくことを運ぶのですから見抜くのも容易ではありません。
登記事項証明や免許証・パスポートなども偽造し、場合によっては正式な書類等を非合法な手法で入手して提示してくるのですから、見破るのも簡単ではありません。
とはいえ地面師に狙われやすい不動産には特徴があります。
所有者が遠方に住んでいたり高齢者施設に入所していたりなど、真の所有者と遭遇しづらい物件で、かつ希少性の高い物件がターゲットにされる傾向があります。
また抵当権の設定されていない土地のほうが、書類の偽装数が減ることから対象にされやすいと言われています。
このような詐欺を防止するには、徹底して物件調査を実施することが肝心です。
また相場よりも安く金額を提示して購入を急がせるといった特徴もありますから、「何か怪しい」と思った場合には、あえて時間を置くことが必要かも知れません。
サブリース契約に伴うトラブル
サブリースは、サブリース会社が建物所有者から一括で物件を借り上げ、入居者に転貸する方法のことですから詐欺ではありません。
所有者(オーナー)にとっては入居数によらず確実に家賃相当が回収でき、かつ管理や家賃回収など手間のかかる業務も必要とされませんから、収支計画もたてやすく有り難いシステムです。
反面として「家賃保証」や「30年一括借り上げ」などの宣伝文句による印象が先走り、当初の家賃保証額が長期的に継続すると誤解され、定期的な見直しにより家賃が下がる可能性を理解していない顧客との間によるトラブルが増加しました。
定期的な見直しなどについてはサブリース業者に説明が義務付けられていますから、顧客の理解が充分に得られていないなども理由にあるのでしょう。
動画では、定期的な家賃見直しに所有者が同意しない場合、サブリース会社により契約を解除することができるとの条文が約款に記載されていることもあるので注意するよう指摘されています。
また解約を希望した場合にはサブリース会社の同意や合意が必要となる点や、中途解約に伴う違約金の有無についてのトラブルが多いと解説されています。
サブリースは詐欺ではありませんし、正しく説明がなされ所有者も理解している場合においては問題も生じないはずなのですが、実際にはサブリースに伴うトラブルが社会問題であると指摘されるほどに増加しました。
このようなトラブルを防止するため「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が2020年12月から施工されているのはご存じかと思いますが、施工後も目覚ましいとまで言える効果はまだ得られていないようで、国土交通省・消費者庁・金融庁の連名で注意喚起が継続されています。
まとめ
今回は不動産詐欺について解説しました。
解説した不動産詐欺は、私達、不動産業者も加害者もしくは被害者になることが有りえます。
意図せずおこなった説明が、いらぬ誤解をまねく内容として解釈され「まるで詐欺じゃないですか!」と糾弾された経験は、不動産営業に長年従事していれば少なくても一度や二度は経験するでしょう。
同様に「鴨がネギをしょって歩いてきた」美味しい話には大概「裏」があり、よくよく調べて見ると「真っ赤なウソ」が発覚し、かろうじて被害に遭わなかったという経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか?
高額な不動産が詐欺の標的にされるのは致し方がないことではありますが、被害者にも加害者にもならないよう、手口や手法を理解して備えておくことが肝心であると言えるでしょう。