工務店が建売をやるメリット、デメリットについてはこのコラムで以前取り上げましたが、今回は負の部分に焦点をあててみましょう。
かなりのレアケースにはなりますが、売るのが難しい土地を仕入れてしまい、販売に苦労した実例を解説していきます。
自社の建築技術には自信を持っているものの、建売業者ではないので土地の選定方法に関するノウハウの蓄積がなかったことによる失敗事例です。
はじめて手掛けた建売は大成功
中部地方にある小規模のF工務店。
つい最近までは純粋な新築工事のみを請け負い、安定した業績をあげていました。
しかし、受注が安定しているときにビジネスのウイングを広げようということで、建売業務も手掛けることにしたのです。
最初に行ったのは、土地を購入し4区画に割った敷地に建売を建て、その中の1棟を期間限定の街角モデルハウスに設定しました。
販売を開始してから3カ月で3区画は完売。
それから10ヶ月間に渡って街角モデルハウスを稼働したのち、こちらも販売にかけすぐに売れました。
最初の建売販売が成功した要因は?
はじめて手掛けた建売は成功したわけですが、これにはちゃんと理由がありました。
この現場は私も自分の目で見ていますし、たまたま周辺の地理にも明るかったこともあり、周辺状況もよく分かっていました。
①近隣の建売も売れていた
真っ先に挙げられる成功要因の一つがこれ。
近隣ではちょこちょこといろいろな業者が建売を販売していましたが、その売行きは傍から見ていても好調だったのです。
造成工事が始まり、建物がすべて出来て販売告知をした途端、4区画のうちすでに2区画は売れているといった物件が多かったのです。
ある地元の業者が手掛けた4棟の建売案件がありました。
これは4棟が横並びになっている案件でしたが、真ん中の2棟は両隣に挟まれていることもあり日照、採光、通風などに難がある事は一般のお客さんでもすぐに分かる物件でした。
しかし、その2棟も程なくして完売したのです。
業者がある程度値引きをしたかもしれません。
そのあたりの事情は私は推測するしかないのですが、住みやすい地域と認識された場所でもあり、多少の難があっても立地をお客さんが評価するであろうということが容易に推測できたのです。
②犯罪が少ない地域だった
県警のホームページには載っていないのですが、他の地域に比べて今回の建売地域は、窃盗犯、侵入犯などの犯罪が少ないというデータがありました。
意外かもしれませんが、このように公になっていない地域の治安情報は、入手しようと思えば実は可能なのです。
情報公開されていなかったにも関わらず「〇〇あたりは治安が良いんだよね」と専らの評判の地区でした。
③大きな都市の住所が取れた
私は学生時代に、東京都の練馬区に住んでいたことがあります。
大学時代を新聞奨学生として、奨学金をもらいながら通っていたのですが、朝日新聞の新聞販売店が練馬区にあり、私の配達区域は練馬区と埼玉県の新座市に跨がっていました。
道一本隔てただけで南側は東京都練馬区、お向いさんは埼玉県新座市となるわけです。
人によって価値観は違いますが、何が何でも東京都の住所を取りたい人であれば、若干値段が高くても東京都側の土地を購入するはずです。
今回も建売販売に成功した場所も、ある大都市とその隣の小さな町との境にある物件だったのです。
しかし、大都市とはいえ端っこであるがゆえに、他と比べれば価格は安めに抑えられていました。
しかし、住所はその大都市になるわけです。
この謳い文句がものすごく響いた、と社長も話していましたが、これも成功要因だったことは容易に想像がつきます。
二回目に手がけた建売は大苦戦
調子に乗って土地の仕入れを焦った社長
初めての建売に成功したF工務店の社長は、引き続き大急ぎで次の土地を仕入れにかかりました。
一見すると大きな問題はなさそうな土地だったのですが、問題はその周辺環境にありました。
現地の写真を私は手元に持っていますが、今でもこれを見ると「無茶な場所に建てようとしたよな」とつくづく思います。
写真を掲載することができませんので、文章でこの立地条件を説明しましょう。
問題点1・・・ 水害がたまに起こる
建売販売の5年前にも、付近一帯が水に浸かったことがあります。
また、50年前までさかのぼると、同じ規模の水害が4回もあった場所でもありました。
若い方や他の都市から来た方にはわかりませんが、地元民や年配の方であれば、その事情は皆さん周知の事実でした。
問題点2・・・ 大規模な産廃処理施設
敷地から直線距離で600m程度なのですが、かなり大きな産廃処理施設が存在していました。
敷地から見ても、その大きな工場の建屋がはっきりと見えます。
「あれは何ですか?」とお客さんから聞かれれば、正直に答えざるを得ません。
気にならない方には気になりませんが、少しでも心に引っかかってしまったら、この場所はダメでしょう。
問題点3・・・ 敷地の東側が 建築資材置き場
恒久的なものなのか臨時なのかは定かではありませんが、私が現場に足を運んだ時は、工事現場で使うような鉄板が山と積まれ、さらには会社名が書かれたバックホーやユンボが3台置いてありました。
問題点4・・・ はす向かいが葬祭場
笑ってはいけないのですが、この現場で土日に現場見学会をやった時、こちらは紅白幕をテントの周りに巻き付けた状態でイベントをやったのです。
しかし、はす向かいでは葬儀を執り行っているわけですから、白黒の幕が外からも見えるわけです。
火葬場ではないので気持ちの問題といえばそうなのですが、やはり「なんだかなあ・・・」というところではないでしょうか。
問題点5・・・ 裏側にある 倒産した建築会社の廃屋
2年前に倒産した建築会社の事務所が裏側にあったのですが、それがいつ解体されるのか全く見通しがついてなかったことに加え、当時の経営者が社屋で自殺を図ったのです。
自殺の件についてはお客さんに告知義務がありませんので、現場の接客ではその話は一切出ませんでした。
でも、これは事実なのです。営業上は自殺の問題は関係なかったのですが、潰れた会社の廃屋が建物の裏にあるというのは気持ち良いものではありません。
結果的には何とか売りましたが・・・
こんな素朴な疑問を社長に私は聞いたのですが、社長からははっきりした返事はなかったです。
気が急いていたこともあり、何となく直感で「ここなら安くていいんじゃないか」という感じで仕入れたのが、どうやら実情のようでした。
そして、最終的には一年以上をかけて、この4棟の建売も何とか販売しました。
しかし、4棟のうちの2棟は、かなりの値引きをしたようです。
具体的な金額は聞いていませんが、とにかく相当な金額を値引いて、塩漬けになるぐらいだったら売り切ったほうがいいという判断で処分したのです。
本記事執筆講師が動画にてわかりやすく解説
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