不動産所有権登記の際、顧客に新住所登記・旧住所登記の説明を行っていますか?
私の印象としては、どちらがよいか正しく語れる不動産仲介の方は少ないように思います。
そこで今回の記事では【購入者目線で考える不動産購入取引】シリーズとして、不動産所有権登記の際、顧客に新住所登記・旧住所登記についてをご紹介します。
具体的には
・新住所登記のメリット・デメリット
・顧客に正しく語れるように準備すること
これらのことについて、まとめたいと思います。
新住所登記と旧住所登記の違い
「新住所登記」は「引越先」の住所で登記すること。
「旧住所登記」は「現在」の住所で登記することです。
登記事項証明書のサンプルをご覧ください。
登記の際に以下の3か所に住所を記載します。
・権利部(甲区)
・権利部(乙区)【新住所登記の場合】
・表題部 ⇒新or旧住所
・権利部(甲区) ⇒新住所
・権利部(乙区) ⇒新住所【旧住所登記の場合】
・表題部 ⇒旧住所
・権利部(甲区) ⇒旧住所
・権利部(乙区) ⇒旧住所
なぜ新住所登記の場合、表題部に旧住所を記載するかというと、
②表題登記を旧住所で登記しても住所変更登記が必要ない。
(表題登記に記載される所有者(住所・持分・名前)は所有権保存登記が行われた後アンダーラインが引かれて抹消される。)
といった理由からです。
では具体的に、新住所登記のメリット・デメリットについてお伝えしたいと思います。
旧住所登記のメリット・デメリットはその反対だと捉えて頂ければと思います。
新住所登記のメリット・デメリット
新住所登記を行った場合のメリットについて解説します。
メリット② 登記費用の節約
メリット③ 住宅ローンの契約がスムーズに行える
メリット① 減税措置に必要な手続きの削減
居住用のマイホームを購入した場合、登記に対して課税される税金「登録免許税」を軽減することができます。
そのために「住宅用家屋証明」というものを取得する必要があります。
「住宅用家屋証明」とは「居住用」であることを証明できるなら税金を安くしますよという書類で、セカンドホームや投資用物件でないことを証明するための書類です。
つまり「購入した不動産へ住民票を移動した」=「自己住宅用」だと判断でき、居住用であることが証明されます。
しかし市区町村は登記上の所有者と実際に住んでいる人が同一人物であることを確認できないと住宅用家屋証明書を発行しません。
つまり登記上の住所が旧住所である場合に家屋証明書を取得するには、新住所への登記変更する必要があります。
最初から新住所で登記していれば登記変更が不要なので、速やかに住宅用家屋証明書を発行してもらえます。
メリット② 登記費用の節約
新住所登記をしておけば、将来、購入した不動産を売却する際に行う「住所変更登記」の費用を節約することができます。
不動産を売却するときには、登記事項証明書の「甲区」に記載された所有者と、印鑑登録証明書・住民票・運転免許証に記載された所有者が一致していないといけません。
しかし「旧住所登記」をしている場合、登記事項証明書の「甲区」の記載事項と、新住所の住民票などでは、所有者についての記載内容が異なることになります。
そこで、所有権移転登記を申請する際に、「住所変更登記」をすることになります。
その場合司法書士への報酬で1~2万円の費用がかかります。
これが「新住所登記」を選択していれば、住所変更登記が不要になり、1~2万円の費用を節約できるというわけです。
また2021年に不動産登記法が改正され、住所変更登記が義務化されました。(猶予期間2026年4月頃まで)
これらの状況も踏まえて新住所登記か旧住所登記かを選択する必要があるように思います。
メリット③ 住宅ローンの契約がスムーズに行える
銀行は新住所登記を求めます。
そもそも住宅ローンというものは、「自己住宅用としてローンを組むのだから、金利は低く抑えてあげよう」という商品です。
そのため本来投資用物件には利用できません。
それなのに投資用物件を購入するのに金利の低い住宅ローンを利用しているケースが多く見つかり、銀行は対策を講じたのです。
融資実行前に融資対象のマイホームへ住民票を移転してもらい、「新住所の住民票」を提出してほしいと求めます。
これにより「購入した不動産へ住民票を移転した」=「自己住宅用に購入した」ということが証明され、融資が実行されるという形式が整うのです。
続いて、デメリットについて解説します。
デメリット② 郵便物が入居前の新居に届く可能性がある
デメリット③ スケジュールがタイトになる
デメリット① 実は法律違反
新住所登記は、法律違反です。
住民基本台帳法 第23条
転居をした者は、転居をした日から14日以内に市町村長に届け出なければならない
住民基本台帳法では、引越”後”14日以内に転入届または転居届を提出することになっています。
新住所登記は引越”後”ではなく、引越”前”に住民票を移転するため、法律違反となります。
しかしこれは司法と行政のギャップと言われており、役所も新住所登記の存在を承知の上で住所変更の手続きを進めます。
もちろん何が何でも新住所登記してくださいというのは幇助にあたりますが、金融機関から新住所登記を求められたら致し方ないことですし、法律に厳しい銀行が求めるわけですので、暗黙の了解で行われているというのが現状です。
デメリット② 郵便物が入居前の新居に届く可能性がある
・建築中で郵便ポストがない新築一戸建ての現場
・中古物件で売主の表札がついている現場
これらの場合、行政からの書類が返送されてしまい、行政に引越していないことが知られる可能性があります。
対策としては、仮の郵便ポストを設置する・表札にテプラなどで名字を貼り付けておく、などが考えられます。
この場合は、居住中の売主が使用しているポストに買主の郵便物が届けられ、混ざってしまうことがあります。
対策としては、引渡日の2週間以上前に住民票を移転する場合、売主に保管してもらうよう依頼するか、郵便局で現在の居住地へ転送手続きをすることができるでしょう。
デメリット③ スケジュールがタイトになる
住宅ローンを借り入れるには、ローン審査の承認後に銀行と金銭消費貸借契約を締結します。
もし新住所で登記する場合、金銭消費貸借契約する時点で住民票や印鑑証明書に記載のある住所を新住所にしなければなりません。
つまり、手続きの順序として
転居届
↓
住民票や印鑑証明書記載の住所を新住所に変更
↓
住宅ローン契約
となります。
ただ住民票や印鑑証明書の住所変更は、役所での手続きなので時間がかかるもの。
さらに新築物件の場合には完成後ではないと住所変更できない場合があるので、新住所で登記したくてもローン契約に間に合わないことも考えられるのです。
顧客に正しく語れるよう準備すること
購入者目線に立って「新住所登記の方がおすすめなのでそうしてください」とだけ言われたら、どう思うでしょうか?
どういうメリットデメリットがあるのか、なぜおすすめなのか・・・そういったことが気になるはずです。
実際に、新住所登記を選択した場合に購入者が被るデメリットもあります。
新住居に仮ポストを設置するなど対応する必要がある購入者からすれば「説明しておいて欲しかった…」と不信感に繋がるのも無理がありません。
口頭での説明でははっきり言ってとてもややこしい説明になるので、分かりやすい資料を用意するのも一つの手だと思います。
不動産仲介業も、ヒトとヒトの取引ですから、正しい説明を行い透明性のある取引を行うことで、信頼感にも繋がることでしょう。
まとめ
住所登記について、これまで説明を曖昧にしていた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そういった「曖昧さ」が購入者からすると不信感に繋がる可能性は十分に考えられます。
これまでの慣習を見直して、改めて誠実に説明・対応できるよう、準備してみてはいかがでしょうか。
《参考》
ゆめ部長の真っ直ぐ不動産仲介「新住所登記・旧住所登記をわかりやすく解説!」
https://staylinx.jp/contents/1223
不動産売買の説明書「新住所登記と旧住所登記のメリット・デメリットをプロがわかりやすく解説!」
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