【ハザード情報はマップだけではない】自然災害伝承碑活用のススメ

重要事項説明にハザードマップを用いての当該地に関する説明が義務とされており、皆様、実務で活用されていることと思います。

ですがハザードマップを用いて説明をしている途中、よくある質問として「昔、この地域はどんな場所で過去にどのような災害があったの?」などと聞かれたことはないでしょうか。

そのような質問をするのはごく少数派でしょうが、筆者は過去、何度かこのような質問を受けたことがあります。

説明義務があるわけではありませんから「分かりません」でも問題はないのですが、ちょっとした小ネタにもなりますし「伝承碑によれば大正時代に台風による大規模災害が起こり、その再発防止のため治水工事が行われ……」などスラスラと答えることができれば、顧客のアナタを見る目が尊敬の眼差しに変わるかも知れません。

もっとも自慢することが目的ではなくても、取り扱う地域には精通していたいものです。

何を聞いても即答できるという知見の深さは、少なからず顧客の信頼度に比例するからです。

その他大勢の不動産営業から一歩抜きん出たいと望むのであれば、地域発展の歴史について知見を有していることが必要でしょう。

そのような過去の地震・津波・洪水・噴火といった自然災害の状況や教訓を後世に伝える目的として作成されている「自然災害伝承碑」はご存じでしょうか?

自然災害伝承碑は慰霊碑や記念碑、モニュメントなどの形状で全国におよそ2,000~3,000基残されていると言われています。

もっとも近隣の住民にすら知られていない伝承碑も数多いことから、その実数が正確に把握されている訳ではありません。

国土地理院地図では、全体のうち47都道府県415市町村1402基もの自然災害伝承碑について情報が公開されています。

今回は「主たるエリアの災害歴史に精通する」ことを目的として国土地理院地図を積極的に利用するメリットについて解説します。

国土地理院地図を使いこなす

地図アプリとしてはグーグル・マップやヤフーマップのほか、不動産業者であれば地番等を確認するためゼンリンマップを利用しているでしょう。

それぞれ独自に便利な機能がありますから目的に応じ使い分けをされているかと思いますが、不動産業者であれば忘れてならないのが国土地理院地図です。

もっとも国土交通省管轄の国土地理院から公開されている地図ですから、すでに利用されている方も多いでしょう。

あらためて説明の必要はないかも知れませんが、今回のコラムは不動産初心者にたいする啓蒙活動を目的としていますのでこのままお付き合いください。

まず地図を公開している国土地理院は測量法を所轄する国家行政機関です。

主な業務は公共測量に関する助言を行うことですから、そのため日本唯一である国家地図作成を行える国土交通省の特別機関です。

地理院地図は下記のURLで開くページから「地理院地図を見る」をクリックすれば確認することができます。
https://www.gsi.go.jp/

国土地理院,国土交通省

今回は地図の具体的な使用方法を解説することは目的としていませんので、使用方法などについての説明は割愛しますが、ユーザー登録が必要であるものの測量成果・点の記・基準点配置図などの閲覧を行うこともできます。

もっとも私達、不動産業者に基準点が必要とされる業務はほとんどありませんから、一般的にはよく利用されている機能として以下のようなものが挙げられるでしょう。

1.第二次大戦から現在までの年代別写真を確認

第二次大戦から現在までの年代別写真

2.地図から災害リスクを確認

地図から災害リスクを確認

3.過去の災害写真などにより被害状況を確認

過去,災害写真,被害状況

4.地形断面図の確認

地形断面図

5.地図や写真を3D化表示して確認

地図,写真,3D化

これ以外にも標高や住所の確認のほか、地図上で地点を指定して距離や面積を測る機能のほか、磁北線や方位線・当距圏を表示できる地図ツールが豊富に使用できます。

このようなツールを利用して査定書等を作成すれば、一味違う資料が作成できるのはもちろん、ハザード情報についても災害リスクをビジュアルとして提示できますから説得力のあるものになるでしょう。

自然災害伝承碑は国土地理院地図で確認

宅地建物取引業施行規則が改正され、重要事項説明時には水防法に基づいて作成された「水害ハザードマップ」を活用した水害リスクについての説明が義務化されました。

この際に利用するハザードマップについては、水防法に基づき作成された物を利用する必要があり、具体的には「市町村が配布する印刷物または市町村のホームページに掲載されているもので、最新のもの」と限定されています。

つまり水害に関しての説明においては、他の印刷物等を使用することはできないという理屈なのですが、災害リスクは水害だけではありません。

近年では2021年7月の熱海市伊豆山土石流災害が記憶に新しいところですが、それ以降も台風の影響等による大量の雨で土砂災害が発生するなど購入する側として考えれば、水害リスク以外に関しての情報も欲しいでしょう。

土砂災害防止法は平成13年4月に施工された法律ですが、熱海土石流による被害を受け政府が危険箇所の一斉点検を命じ、その結果を受け改正都市計画法が同年4月1日から施工されています。

これにより災害レッドゾーンにおける開発行為が原則禁止とされたほか、市街化調整区域の開発について厳格化されました。

熱海市土石流については開発業者の杜撰な造成工事が明るみにされるなど、人為的な原因も指摘されていますが、災害後の一斉点検結果を見ても全国1,357箇所で盛土造成に問題があるとの報告結果が国土交通省庁によりまとめられています。

このような現状を考えれば顧客が水害以外の災害リスクに関しても懐疑的になり、私達、不動産業者に質問をしてくる可能性は高いと言えるでしょう。

そのような顧客に納得してもらうには、過去における災害と再発防止のためにおこなわれた措置などの情報を提示して説明をするのが得策です。

また他社とはひと味ちがう視点からの説明は、結果的に顧客の信頼を得ることにつながり選ばれる不動産業者となることができるでしょう。

そこで利用をオススメしたいのが前項で解説した国土地理院地図の自然災害伝承碑と今昔マップです。

冒頭で自然災害伝承碑については簡単に解説しました。

国土地理院地図では下記のように自然災害伝承碑が「緑」のマークで表示されます。

国土地理院地図,自然災害伝承碑

地図を拡大してこの「緑」のマークをクリックすれば下記のように自然災害伝承碑が表示されます。

自然災害伝承碑

さらに表示された画像をクリックすれば、下記のように詳細な説明を見ることが可能です。

自然災害伝承碑,詳細

これにより現地まで足を運ばなくても自然災害伝承碑を確認することができ、過去にどのような災害がどの程度の規模で発生したのかを確認することができます。

なぜ過去の災害を知る必要があるのか

少し前の時代、不動産のプロは少なからず地元に精通し「この界隈はその昔、田園地帯で……」などとよどみなく説明ができたものですが最近はそうでもないようです。

もっとも主要となる顧客世代が地域における歴史に興味を示すことも少ないでしょうから、無理をして覚える必要がないといった側面もあるのでしょう。

ですが当該地の災害リスクについて知ろうと思えば、歴史を紐解き過去の災害の規模等を知っておくことは必要です。

例えば土砂災害だけを見ても、国土交通省により公開された情報によれば令和3年度の全国発生件数として972件発生しています。

土砂災害発生件数,推移

昭和57年から令和3年までの土砂災害発生件数を時系列で表したものが上記のグラフですが、土砂災害発生件数が増加していることがお分かり戴けるでしょう。

平成24年から令和3年の10年間と、平成14~23年の過去10年間の合計を比較すれば1.3倍も件数が増加しています。

治水や造成技術は進歩していますが、危険地域等の安全性を確保するための措置が追いついている訳ではありません。

盛土造成だけを見ても全国1,357箇所において不適合が指摘されているのですから、土砂災害警戒区域等の整備が完全となるのにはまだまだ長い年月が必要とされるでしょう。

さらには地球温暖化が原因とされる気象変動による大雨の増加なども土砂災害発生件数の増加に影響を及ぼしているのでしょう。

ですが幸いなことに土砂災害の発生件数は増加していても、それによる人的被害や家屋倒壊件数は、比率として平均値が減少傾向にあります。

土砂災害発生件数,H23〜R3

耐震性能など一般住宅の剛性が高くなったことや、ハザードマップによる避難所に関しての説明が義務化されたことも減少の要因となっているのでしょうから、私達、不動産業者は顧客の大切な財産である不動産と尊い人命を守るという観点からも、現行法で定められた水害ハザードマップの説明に留まらず、過去の災害傾向から地域の特異性を学び、正確な情報を顧客に提示する必要があるのではないでしょうか?

まとめ

しつこい営業は嫌われます。

一昔前の不動産営業は「夜討ち朝駆け」が当たり前で、そのようなしつこさを熱心さと捉える一定の顧客層が存在していました。

年配の社長などは現在でもその意識が残っているようで「契約するまで会社に帰ってくるな!」と社員に激を飛ばすこともあるようですが、さすがに少数派でしょう。

ですが顧客と人間関係を構築し、信頼を得ていれば頻繁に連絡をしても差し障りが生じるものではありません。

何となく波長が合うといったケースもあるかも知れませんが「どれだけ有益な情報を与えてくれるか」を判断基準として、顧客は営業マンを選択しているのではないでしょうか?

顧客の望む要望を的確に把握し、物件情報等を提示する場合においても公共交通機関や坪数など物件概要に記載され説明を受けなくても見れば分かるような内容ではなく、一般の方では判断できない災害リスクなどについて、具体的な資料などを提示し説明する営業マンは、こちらから売り込まなくても顧客の信頼を得ることができるでしょう。

そのように顧客から選ばれる「ひと味ちがう営業マン」を目指すのであれば、他社とは違う視点の資料を作成し提示する必要があるのでしょう。

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