コンバージョンという言葉をご存じでしょうか?
「Conversion」と書かれる英単語で、日本語では「転換」と訳されます。
Webマーケティングの世界において「成果」を意味する言葉として使用され、CVと略されています。成果とは「専売顧客から見込客への転換」つまり、サイト訪問者がサイト運営者の望む行動を取ってくれることが成果であるとされているようです。
もっともこの言葉はWebマーケティングの世界だけでは利用されている訳ではありません。
不動産業界の管轄省である国土交通省においては「用途変更」の意味で使用されています。
代表的なのが増加を続ける空き家対策の一環として「空き家コンバージョン」という言い回しで利用され、つまるところ既存建築物ストックの用途変更による活用を提案しているのです。
わたしたち不動産業者の多くは「あるべきものをそのまま売る」ことに長(た)けていますが、劣化が著しい住宅にたいしては売主に解体して更地売却をすすめ、購入者にたいしてはリフォーム工事や業者紹介をすると言った提案を行っていることでしょう。
建築士などの専門家は口をそろえて「新築よりもリノベーションは難しい」と言いますが、何もない更地に新築住宅を建てるのとは違い、限りある予算の中で機能や性能面など建築物の価値を高める工事を実施する訳ですから、残すべきところと躯体まで含め全面改修する部分の見極めや予算配分が難しいのは理解できます。
専門家でも頭を悩ますリノベーションですから、わたしたち不動産業者においては不慣れな方も多いでしょう。
何よりも建築知識が必要とされますが、残念ながら一朝一夕で身につくものでもありません。
そのような意識もあることから売買とリノベーションは切り離し、直接は関与しない方が多いのかも知れません。
ですが空家対策関連法により外堀が埋められ、手入れがされていない空家などの売却相談は、今後増加していくことが予測されています。
中には「解体費用が高いからそのまま売却してくれ」と要望される方もおられるでしょうから、そのような物件を早期売却するために必要なのは「転用」も含めた総合的な提案能力かも知れません。
今回は国土交通省「空き家対策の担い手強化・連携モデル事業」に採択され、「大阪の住まい活性化フォーラム」で作成された「コンバージョンによる住宅のり活用ガイドブック」を参考に、転用について学んでいきましょう。
用途変更と建築基準法
転用は「利活用」と置き換えて理解しても良いでしょう。
つまり居住用であった住宅を他の用途に変え新たに活用するという考え方です。
ご存じの方も多いかと思いますが平成30年6月に改正された建築基準法により、宿泊施設や飲食店・福祉施設などの特殊建物に用途変更をする際において、床面積が200㎡までであれば、建築確認申請手続きは不要とされました。
また3階建てであっても延べ面積が200㎡未満であれば、小規模な特殊建築物への用途変更として一定の措置で行えるようになり、準耐火構造への改修工事が不要とされています。
ただし延べ面積を200㎡までに抑えたからと言って、増築や大規模修繕を行った場合には建築確認申請が必要とされます。
この場合において建築当時より建築基準法の規制が厳しくなっている場合、規模に応じて現行規定に適合させる(既存遡及)必要がありますので、高額な費用が発生する恐れがありますので注意が必要です。
例外的に建築確認申請が不要なのは以下の要件に該当する場合ですので覚えておきましょう。
ただし建築確認申請が不要であっても、用途変更後に利用する事業によっては消防署への届出や、特定行政庁への許認可が必要となる場合もありますから、事前に確認をして必要な手続きを進める必要があります。
「コンバージョンによる住宅活用ガイドブック」に掲載されている下記のフローを利用して確認すると良いでしょう。
そもそも用途変更は、既存住宅の使用目的を変更する場合であると建築基準法で規定されているために使用される言い回しです。
大規模な修繕や模様替えは建築基準法で、主要構造部の各部位において過半を超える場合に該当しますので、工事を計画する場合には申請不要の範囲内で転用を計画するのが良いでしょう。
転用提案には事業計画立案スキルが不可欠
空家を有効活用するためコンバージョンの提案をする場合、所有者と購入者のどちらにたいしても行うことになります。
わたしたち不動産業者は売買が絡まなければ報酬を得ることができませんから、今回は購入者に提案するためと仮定し、あらかじめ準備しておきたい事業計画書について解説します。
提案する事業計画書の作成について、一連の流れは下記チャートで確認することができます。
最初に行うのは計画物件の位置づけですが、これは近隣環境や市区町村の世帯数のほか、当該物件最寄りの施設の内容などいわばリサーチです。
嫌悪施設の有無などについては重要事項説明に必要な調査ですから、そのついでにマーケット調査を実施するクセをつければ良いでしょう。
この場合には収益物件としての活用ですから、立地や利便性、近隣の賃料相場などを総合的に調査します。
一般的には飲食店舗・民泊・ゲストハウス・オフィス兼住居などへのコンバージョンが、もっとも大規模修繕などを必要とせず転用できる事業ですから、もっとも適していると思われる事業におけるマーケット情報や立地特性、建物状況などを検討して用途変更のコンセプトを考える必要があります。
それにより事業開始時に必要な投資額を算出し、回収が何年でおこなえるかをまとめた資金回収計画書と、売上・原価・経費・税金・借入金の返済・減価償却費などまで盛り込んだ事業計画書を作成する必要があるでしょう。
また事業計画書の作成あたっては国や都道府県からの補助金などが利用できないかについても確認しておく必要があります。
日頃から事業計画書などの立案に慣れていなければ構えてしまいがちですが「事業計画書テンプレート」などとインターネットで検索すれば、無料で利用できるテンプレートが数多くありますので、その中でもっとも利用しやすいと思う書式を利用すれば良いでしょう。
コラムを読んだのを機会と捉え事業計画書の作成方法を学んでおけば、不動産業者として提案できる範囲が広がるでしょう。
また空家の活用方法としてコンバージョンを提案すれば、売買だけにとどまらずテナントシーリングや管理業務までを依頼される可能性が高くなります。
自社の収益率が高まるのですから、学びを深め提案する価値は充分にあるでしょう。
まとめ
世界各国で環境問題の重要性が指摘されていますが、日本ではあいも変わらずスクラップアンドビルドによる「新築信奉」が根強く残っています。
確かに過去に誰も住んだことのない新築は気持ちが良く、可能であれば新築住宅に住みたいという気持ちは理解できます。
ですが公示価格が全国的に上昇に転じ、さらに円安の影響もあり建築資材の高騰は続いている状況下においてはマンションを含む新築住宅の供給価格は、首都圏や政令指定都市などにおいては一般庶民では手の出ない価格にまで押し上げられています。
それだけが原因ではないでしょうが、若い世代の持ち家派は減少傾向が続いており、購入検討世帯においても「新築にこだわらない」とする意見が増加していることが国土交通省による「住宅に関してのアンケート調査」などで確認されます。
であればこれからは既存建築物の有効活用、それも転用を含めた提案力が必要とされる時代が到来すると考え、今から準備しておく必要があると言えるのでないでしょうか。