「不動産の日」をご存じでしょうか?
秋口には年内入居を意識して不動産取引が活性化する傾向はありますが、そこで「ふ(2)どう(10)さん(3)」の語呂合せから例年9月23日を「不動産の日」として「全国宅地建物取引業連合会(全宅連)」が制定した日です。
現在では「全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証)」と共同で開催されています。
あくまでも団体が制定した日ですから、マイナーな「感」はいなめませんが、それでも昭和59年から始まっていますから38年もの歴史があります。
もっとも不動産の日だからと言って大々的なキャンペーンが組まれる訳ではありませんが、毎年、楽しみなのは消費者ニーズと現状把握を目的としたアンケート調査を行うことです。
不動産の日(9月23日)から11月末まで、インターネットにより買い時の理由・賃貸物件契約時の不安のほか、既存住宅の抵抗感など消費者心理の傾向を知る意味で有益なアンケート結果が、だいだい翌年2月に一般公開されます。
全宅連・全宅保証共同の公式ホームページを活用したアンケート募集ですので、履歴としては2008年以降の結果ではありますが、近年14年分以上の消費者意識変化を比較することができるのですから、活用しない手はありません。
そこで今回は、執筆時点では最新の2021年「不動産の日アンケー結果」から、近年の消費者意識の変化や居住志向性の変化について解説していきたいと思います。
どのような質問がされているの?
時代の変化や法改正にあわせ設問は見直されていますので、まったく同じ設問が繰り返されている訳ではありません(質問数もことなります)
「不動産は買い時だと思いますか?」など買い時であるとする理由や購入するときのポイントなどは定番ですが、新型コロナウイルスの影響や緊急事態宣言下における住み替えに関してや、天災への対策、ハザードマップの認知度などは法改正や時代を反映して行われている質問です。
そのような観点から、過去のアンケート結果を順番に見ていくと、時代の変化による消費者動向についてもおぼろげに見えてきます。
全宅連のホームページでは、以下のサイトで開くページから「不動産の日アンケート結果」を選ぶことにより、過去のアンケート結果一覧を見ることができます。
アンケート結果
興味深い意識変化
2021年は「買い時だと思う(10.5%)」、「買い時だとは思わない(25.6%)」残るのは「分からない」という回答でした。
ちなみにアンケートを始めた初回である2008年の回答では「買い時だと思う」が22.8%でした。
初回アンケートから14年の間に、買い時だと思う方は約半数にまで減っているのです。
もっともいきなり半数に減った訳ではありません。
2008年以降2年間は「買い時だと思う」方が増加し、2010年には31.5%にまで達しています。
もっともこれをピークとして以降は一進一退を繰り返しますが、2016年以降からは連続して減少をしています。
2022年のアンケート結果については来年2月の公開まで待たなければなりませんが、全国平均で公示価格が上昇に転じた影響が、一般消費者にどのような影響を与えるのか興味深いところです。
冷静に考えればこの「買い時」の判断はわたしたちプロの不動産業者でも難しいものです。
不動産価格が上昇基調であれば買い時なのか、逆に下降が続けば底値買いが有利に働くのかの判断は、経験と綿密な情報収集によってしかできません。
もっとも不動産を販売する立場としては「上昇傾向にある今が買い時!」や「不動産価格が下がっている今が先行投資の意味で買いどきです」なんて言い方をするしかありませんが、本当の買い時については価格だけではない様々な要素が複雑に絡み合いますか一概には言えません。
ですがどのような時代においても、顧客が必要に迫られ不動産の購入を希望しているのであれば、前項のような言い回しは適当に言っている訳ではありません。
欲しいと思ったときが不動産の買い時であるのは間違いのないことだからです。
さて一般の消費者が「買い時」であると判断する理由についてですが、2021年は「住宅ローン減税など各種支援制度の充実や今後の不動産価格の上昇を見込んでの先行買い」のほかにも住宅ローン金利が上昇傾向にあることから「今のうちに購入するのが得だ」などが理由としてあげられています。
反対に買い時だとは思わない理由としては「不動産価格は下落に転じる(28.8%)」で、次いで「収入不安(26.5%)」や「天災が心配(9.6%)」と続いています。
つまりは先行きの不透明感により買い時ではないと判断しているのです。
ですが買い時であるかどうかを問わず「機会があれば住宅を取得しよう」とする意識は高いことが伺えます。
2021年に「買い時だと思う」と回答した方が10.5%しかありませんが、機会があれば購入したいと考える「持ち家は派」は79.6%も存在しています。
過去のアンケート結果を見ても「持ち家派」は常に70~80%後半と高い水準で推移しており、平均すると約80%になります。
外部要因によらず、多くの方が不動産を所有したいと考えているのです。
持ち家派である理由ですが、14年間の全アンケート結果で「家賃を払い続けることが無駄に思えるから」が1位を独占しています。
不動産営業において現在の家賃金額を聞き取ることは基本ですが、そこから「その金額は〇〇万円借りた場合の支払い金額と同じですよ。賃貸は何年住んでも、柱一つ自分の物にはならないけれど……」なんて、家賃金額を住宅ローンの支払に置き換えるのは常套テクニッテクではありますが、家賃の支払いを無駄と考える方が圧倒的に多く、またどのような時代でも不動産を取得したいとの意識は高いのだと理解できていれば、このような家賃比較のセールストークをさらに洗練させていくのは効果的だと言えるでしょう。
ついで持ち家に多い理由としては「落ち着きたい」と「持ち家を資産と考えているから」ですが、こちらは質問年度により順位が入れ替わっています。
ちなみに2021年度は「家賃を払い続けることが無駄に思えるから(53.5%)」で「持ち家を資産と考えているから(32.1%)」で「落ち着きたい(28.5%)」との結果でした。
ちなみに2012年は「落ち着きたい(43.7%)」で「持ち家を資産と考えているから(37.6%)」でした。
不動産価格が上昇基調に転じることにより「資産形成を意識」した持ち家派が増加していることが分かります。
購入ポイントは時代により変化している
アンケート結果を利用して消費者意識を分析するには単年度の結果をみて推測するのではなく、様々な時代の変化、つまりは外部要因を勘案しながら過去の調査結果と比較検討することが大切ですが、中でも「購入を検討するポイント」を比較すると興味深い変化が見て取れます。
2021年の回答では購入を検討するポイントの1位が「価格(61.1%)」で、次いで「生活環境(50.1%)」、「交通の便が良い(39.5%)」と続きます。
生活環境や交通便よりも価格を優先しているのですね。
ところが2012調査では「生活環境(62.1%)」、「交通の便が良い(59.4%)」、「日当たりや方位 (38.9%)」と、環境や交通便など生活利便性を重視する意識が高く「価格(38.6%)」は第四位でした。
不動産価格よりも住み心地や利便性を重視していたのですね。
この傾向は公開されているアンケート調査結果2008年~2017年まで間で確認することができます。
ですが2018年以降は価格重視に転じています。
2018年といえば、国土交通省が発表する公示価格の住宅地平均価格が、大幅に上昇に転じた年です。
それまでは住環境など選択肢にも余裕があった時代でしたが、2018年以降から続く不動産価格の高騰をうけ、まずは購入できる金額を重視して、環境などは二の次となっている意識変化が見られます。
なんとも世知辛い気もしますが、これが現実なのでしょう。
防災意識も高まりを見せている
防災意識の変化にも注目が必要でしょう。
近年台風や大雨などの影響による大規模災害が多発したことから、2022年8月より「水害ハザードマップの説明の義務化」が施工されていますが、不動産の日アンケートではそれ以前の2011年に発生した「東日本大震災」以降、防災に関する意識調査を実施しています。
当初「東日本大震災後、住まいに関する意識についてどのような変化がありましたか」という質問でしたが、現在は「天災に対する住まいの意識」に変わっています。
ですが天災に関しての意識変化を比較するのには貴重な情報です。
2021年の調査結果では、築年数や建物構造について意識するかたが増加しています。
同時に緊急避難所や防災マップや地盤状態にたいする意識も年々、高くなっています。
物件紹介時や重要事項説明時には、このような顧客の意識変化を念頭にいれ説明をおこなうことが大切です。
情報収集がネット中心に移行した時期
近年の傾向として、物件情報を集めるのはインターネットが中心であることについては説明するまでもないでしょう。
ですが2008年のアンケート結果では「不動産情報誌(44.9%)」が最も高く、次いで「オープンハウス(41.8%)」で、インターネットの利用に分類できる「不動産会社のホームページ(38.4%)」は第三位でした。
さらに遡ると、2008年には新聞折り込み広告も第三位に入っています。
インターネットが1位を記録するのは2010年からで以降は連続首位を独占しています。
現在の状況を見てもインターネットが主流であることは間違いなく、今のところその状態が変化する要素は見当たりません。
また、そのようなインターネット主流の時代において、顧客が「あると便利」と考える情報の回答結果は興味深いものです。
物件写真は分かりますが、それ以外に周辺相場の情報や物件紹介動画が望まれていることです。
不動産ポータルサイトの中には、エリアを指定して平均的な相場を検索できるシステムを導入しているものもありますが、自社のホームページなどにもそのようなページを導入すると閲覧率や問い合わせの増加につながるかも知れません。
また物件紹介動画も要望が高く、一部の不動産業者がフェイスブックなどのSNSなどを利用し物件紹介のショートムービーなどを投稿していますが、効果が高いとの話を耳にします。
積極的に採用を検討してみてはいかがでしょうか?
不動産屋に対しての意識変化は?
最後に不動産業者にたいしての意識調査結果をご紹介します。
まず不動産業者にたいするイメージですが「良い」、「普通」が多少、上昇しています。
この質問は2014年から始められましたが、その時には「不動産屋は悪い(40.7%)」でした。それから8年間で随分とイメージが改善されたのですから喜ばしいことです。
アンケートの続く質問結果で「不動産店の担当者に対して、最も期待すること」の回答結果もまた興味深いものです。
圧倒的に求められているのが「優秀な担当者」です。
優秀な不動産担当者と一口に言っても、どのようなタイプの営業マンを「優秀」と考えるのか悩むところではありますが、この不動産営業マンに求める資質に関しての質問は2018年から行われていますが、当初は以下のような対応をしてくれる営業マンが「優秀」であると回答されていました。
2021年は以下のような回答結果です。
質問の表現方法もアンケート年度により変化していますので、その回答も同様に変化しているのですが、意味合いは同じであると考えられます。
つまり「豊富な知識に裏付けされ分かりやすい説明をしてくれる」、かつ「メリット・デメリットを包み隠さず伝えてくれる」接客マナーは営業マンとしては当然のことですから、このような対応ができる営業マンを、顧客は「優秀な営業マンである」と評価しているのです。
まとめ
今回は「不動産の日アンケート」の13年間結果を比較検討しながら、興味深い部分をピックアップして解説をくわえました。
このアンケート結果の比較だけで、顧客の不動産に関する動向が確認できるとまでは言えませんが、年代ごとに変化する質問や内容やその回答結果を見るだけでも、時代の流れや意識変化の一部を確認することができます。
今回の解説はあくまでも筆者が比較した私見によるものですが、見方や考え方によってはこれらの情報により新たな販売手法や顧客へのアプローチ方法を考えるキッカケにもなるでしょう。
外部要因により間違いなく不動産にたいしての行動や意識は変化しています。
常に最新情報の入手を心がけると同時に、学び、意識して対応策を講じることにより時代の変化に影響をうけない「強い」不動産業者であり続けることができるのではないでしょうか。