「国民総背番号性である」として賛否あるマイナンバーカードですが、普及促進に向けテレビCMも数多くが露出され、地方行政も公式HPで加入促進のページを公開する他、マイナポイント年内キャンペーンが盛大に行われ街中でも特設会場が設けられています。
このマイナンバーカードを制度として支える法律は「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用に関する法律(マイナンバー法)」で、税と社会保障に限定されない行政手続きまで含めることを示唆した法律名称が用いられています。
この法律に基づき、2024年秋頃を目処に健康保険証を廃止(2021年10月から任意のマイナ保険証はすでに導入されています)してその機能をマイナンバーカードに統合するとしたことから「本来は任意のはずであるマイナンバーカードが事実上強制になるではないか!」と反発を招いています。
番号法を詳細に読み込むと、法定受託業務が中心とされてはいるものの、附則では「民間の活用を視野に入れる」ことまで記載されていますから、万が一情報が漏洩した場合には納税・所得・預貯金などはおろか健康診断の結果などまでが「丸裸」にされてしまう訳です。システム技術上や法制度の不備をチェックする個人情報保護委員会の責任は重要だと言えるでしょう。
ところでこのような番号制が、全ての不動産について割り振る準備が進められているのはご存じでしょうか?
国土交通省を中心に進められている「不動産ID」です。
現在、私たち不動産業者が調査を行う場合、まず登記情報を入手して調査を開始するかと思いますが、住所・地番の表記ゆれなどにより、調査目的の物件であるか直ちに判断できないことがよくあります。
住居表示が実施されている地域であっても17条地図が整備されておらず、地積測量図も存在していない状態においては公図から地番を特定しますが、ご存じのように公図は「縄伸び」している場合も多く、現地を特定するのにも慣れが必要ですし、現況との整合性については熟練した営業マンでも頭を悩ませるものです。
ましてや一般の方や不動産初心者などは目的地番にたどり着けないことも往々にあるでしょう。
これは不動産関連情報の連携・蓄積・活用について管轄による温度差もあり、それらの情報が統合されていないことも原因の一つであるといえます。
そこで不動産を一意に特定できるように整備する手段として、全国の不動産に共通コードを割り振ることで不動産関連情報を一箇所で蓄積し活用できるようになり、結果、広く的確な情報発信の促進につなげることができる。
これが「不動産ID」の目的です。
今回は「不動産ID」とはどのようなものか、またそれにより便利になる点と懸念されるポイントなどについて解説したいと思います。
不動産IDルールの基本的な考え方
今回は令和4年3月31日付で公開されている国土交通省不動産・建設経済局による「不動産IDルールガイドライン」及び、それ以降に開催されている不動産IDルール検討会の内容なども含め解説していきます。
まず不動産IDについての基本的な考え方についてです。
不動産IDルールガイドラインに基づき、識別番号を登録し、活用を含めデータベース化する主体は「不動産関連情報を保有するもの・活用するもの」とされています。
これにより行政に限らず私たち不動産業者や民間企業、個人に至るまでが主体とされます。
これら主体は自らが保有する不動産関連情報を不動産IDに紐づけ、それらの情報をどのように連携させるかについては発意・主体間の交渉に委ねるとされています。
番号の割り振り方法など一定のルールは設けるけれども、活用方法などについてはあくまでも「あなた方にまかせます」という考え方なのですね。
ですから国が一元的なデータベースを作成して不動産IDを発番するのではなく、あくまでも主体から提供された不動産情報を収集・蓄積して提供するといったシステムの構築を想定しているのです。
この点でマイナンバーカードの基本構想とは大きく違うことが分かります。
不動産IDによる利点
不動産IDによりどのような利点が生じるのかについて解説したいと思います。
あくまで想定として、下記のような点で活用メリットが生じると考えられています。
●住所の表記揺れや同一住所・地番に複数の建物(テラスハウスなど)がある場合など、一義的に不動産の特定が可能になります。
●社内・関連会社などで物件データベースをID管理すれば、物件情報の名寄せ・紐づけが容易になるほか、ID管理している会社同士が主体間としてデータをやりとりした場合、IDを突合せるだけで同一物件であるかなどの判断が容易になります。
●物件ポータルサイト上においてID活用が導入されれば、検索機能の向上や重複物件の一括表示や成約案件などの掲載終了が可能になるなど、事業者・表示者間の利用性向上に役立ちます。
●空間情報、たとえばまちづくりや物流情報システムなどと連携されることにより、不動産関連分野以外でも一義的に不動産の特定が可能になります。
これ以外にも不動産IDを入力するだけで、紐づけされた築年数や大きさ、修復歴やハザードマップ情報などを参照し、物件ごと最適な火災保険商品と金額を即時に算出することができるシステムが計画されています。
あくまでも利用方法は基本的なルールを遵守したうえで主体に委ねるとされていますから、今後、様々な活用方法が考案されていくことでしょう。
不動産IDの基本ルール
不動産IDは不動産番号(13桁)と特定コード(4桁)の17桁で構成される番号で統一されます。
まず13桁の不動産番号は、不動産登記法及び不動産登記規則に基づいており、一筆の土地・建物ごとに不動産登記簿の表題部(通常右上)に記録されている符号です。
次に4桁の特定コードですが、これは不動産番号だけでは物件を特定できない区分所有建物(マンションなど)などにおいて割り振ります。
ご存じのように不動産番号は一棟の建物に対し割り振られている番号ですから、分譲戸数が何戸であっても不動産番号は同一です。
その状態では物件を特定することができませんから、専有区画ごと番号を割り振ったのが「特定コード」です。
特定コード4桁のうち前2桁は階数、残りの2桁は号室を割り振ります。
例えば12階の5号室であれば特定コードは「1205」となります。
ちなみに戸建て住宅など不動産情報のみで物件を特定できる場合には、特定番号は「0000」とすることが定められています。
また非区分建物(商業用)においては、個々の部屋に対する利用目的ではなく、建物全体の利用目的から判断します。
つまり店舗面積の専有状況に合わせ専有・フロアのどちらかを採択し前2桁が定められた階層コード、残り2桁が階数として特定番号を割り振ります。
個人情報との関連は?
不動産ID単体では特定の個人を識別することはできませんが、登記簿上の不動産番号を保有(もしくは調査)していれば容易に所有者を特定することができます。
その際に「個人情報保護の問題が生じるのでは?」と考えられますが、もともと所有権登記は所有者の住所・氏名などを公の帳簿に記載して一般公開することにより、権利関係などの状況を誰でも分かるようにすることが目的ですから、現在の個人情報保護法などの範囲内で実務を行っていれば、不動産IDを活用する際に新たな対策を講じる必要はないと考えられています。
もっとも紐づけして情報公開する場合には、その性質により適切な利用目的の公表や第三者への情報提供にたいして同意が必要となる場合も考えられますので、ケースごと適切な措置は必要となるでしょう。
結局のところ、どんなメリットがあるの?
不動産市場の透明性が向上することにより、不動産取引の活性化が期待されています。
また私たち不動産業者の各種調査も簡素化され、従来は管轄部門を移動して調査しなければならなかった調査項目が、一元的に行えるようになる可能性が期待できます。
また未利用地や所有者不明地の探索に活用できるとされています。
もっとも一般の方も、不動産業者を介さず同様の情報を入手できるようになることから、物件情報を秘匿したい場合などはあえて登録を控えることも予想され、そのあたりが今後の課題であると言えるでしょう。
現在、不動産業各社において進められているDXと、不動産IDは親和性が高く、その両方を活用することにより業務効率化は著しく高まることが期待されています。
まとめ
諸外国と比較して、幅広い主体で共通して用いられる番号が存在していないことから情報の透明性に問題が生じるとのことから検討された「不動産ID」ですが、まだその趣旨・目的・ルールやメリットについて浸透はしていません。
ガイドライン自体は令和4年3月31日付で公開されており基本的なルールは整いつつありますが、ID情報の蓄積が少なく、国や自治体が保有する都市計画情報やハザードマップ情報など、ID活用を見込めるデータについて整備されているのが現状です。
もっとも国土交通省自体が不動産IDルール検討会を開催している状態なのですから、普及はもう少し先のことになるでしょう。
ですが具体的な番号割り振りのルールは決定しているのですから、自社保有の物件情報などについては不動産IDによるデータ整理を行っておいてはいかがでしょうか?
いずれ全ての情報は一元化されていくのですから、今から作業を進めていけば入力や紐づけ作業で後々、慌てることもなくなるでしょう。