【相隣トラブルで多い騒音問題】受忍限度と法的な見解について

分譲・賃貸に限らず発生する相隣とのトラブル。

分譲マンションであれば隣や上階から聞こえる「音」の問題やペット可物件の場合には鳴き声のほか共有部分における使用状況、戸建てにおいては越境や境界問題など数え上げれば様々な原因があります。

中でも「音」に関しての問題は相隣トラブルの原因として上位にあげられるでしょう。

相隣トラブルの解決は当事者同士の話し合いがもっとも有効な手段ですが、近所との付き合いが希薄になっている現在では最善な方法とも言い切れず、話の持っていきかたよっては、さらにこじらせる原因になったりします。

当事者間による話し合いで結着がつかなければ、残る解決方法として市区町村に設けられた公害苦情相談窓口に苦情を申し立てるほか民事訴訟・民事調停など法律の裁きによる解決方法が考えられます。

ですが近所で「事」を荒らげるのは本意ではないでしょうから、できれば話し合いで解決する手段はないものかと多くの方は考えるでしょう。

そのような場合に私たち不動産業者に仲裁相談が持ち込まれる場合があります。

ですが、私たちは弁護士ではありません。

私たち不動産業者は最低限必要とされる民法を始めとした法律に通じていますが、あくまでも不動産取引に関してのプロですから公害関連、ましてや民事訴訟などの相談に応じることはできません。

そうは言っても「不動産に関連する問題なのだから、不動産業者であれば対応できるでしょう」と思われている方が多く、また自身が取引に関与した顧客からの相談であれば無下に断ることもできないでしょう。

今回は総務省がまとめた公調委や審査委員会が受け付けた一般家庭(個人商店を含む)を発生源とする公害紛争事件の傾向と、騒音に関しての判例を交え、同様の相談が寄せられた場合の判断基準を学んでみましょう。

音は公害問題?

冒頭で「音」に関して市区町村窓口として公害苦情相談窓口をあげましたが、音は公害問題に該当するのでしょうか?

そこで公害の定義について考えてみましょう。

環境基本法第2条3項で公害とは「環境保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気汚染、水質の汚濁、土地の汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭によって、人の環境または生活環境に係る被害が生じることをいう」とされています。

つまり近隣を発生源とする「音」はもちろん、騒音・振動などは公害になるのです。

また条文にある「相当範囲」についての解釈ですが、これについては昭和45年11月1日付けで総理府総務副長官が「被害者は多数に及ぶ必要がなく、一人であってもよい」と通達した内容が現在においても踏襲されていますので、音の問題について市区町村に相談する場合、その窓口は公害苦情相談のセクションになるのですね。

音に関してのトラブル相談はどのような内容のものが多いの?

マンションなど集合住宅において上下間、隣家から寄せられる音に関してのクレームは定番ですが、戸建てなどにおいても隣接する住宅のエアコン室外機からの騒音やペットの鳴き声などが多く寄せられています。

とくに室外機からの騒音については問題とされるケースが目立ちます。

日中であれば日常生活音が発生しているのでそれに紛れてしまいますが、夜間においては、たとえ窓を閉めていても聞こえるものです。

室外機の「音」は騒音値や音圧として、単位はデシベル(db)で示されます。

騒音の目安,都心・近郊用

一般的に公害と認定される音は常時60db以上とされていますが、これは室内で使用する1m以内にある洗濯機や掃除機の音に匹敵するレベルですからかなりの騒音です。

あたりが静かな深夜帯などにおいて常時60db以上の騒音が響くのであれば、有無をいわせない公害問題なのですが、深夜帯における室外機騒音の目安は40db以上とされています。

これ以上の音が夜間帯に発生していれば、文句がでるもの致し方がないということです。

ちなみに40dbは図書館や閑静な住宅地の昼間における「音」程度なのですが、あたりが寝静まる夜間においては、これ以上の騒音が発生すれば睡眠障害など身体への影響を及ぼす可能性が高いとしてWHOにより指摘されています。

睡眠障害,デジベル

騒音による健康被害は睡眠障害のほか、それによる虚血性心疾患・生活習慣病・心臓血管系疾患のリスクが向上するとされており、たかが「音」の問題とはいいきれないのです。

音に関しての判例

騒音に関しての裁判は数多く、原告の要求が認められたものや棄却されたものなど多数存在していますが、最近の傾向としては損害賠償や侵害行為の差止め請求が認められるケースが多くなっているような印象を受けます。

東京都のファミリー向けマンションで上階から聞こえる子供が走ったり飛び降りたりしての騒音について争われた裁判においては、騒音値が50~65デシベルが毎日発生していたことから慰謝料の請求が認められ、被告が主張した厚手の絨毯を敷いて対策を講じているなどの主張は退けられました。

またエアコンの室外機音に関して争われた裁判においても、発せられる騒音は受忍限度を超えているとされ損害賠償が認められています。この裁判では原告が市役所や騒音測定業者に依頼して5回に渡る騒音調査が実施されましたが、うち4回について50デシベルを超える騒音が確認され、それにたいし裁判所が「受忍限度の判断基準は昼間において50デシベル以内である」としました。

似通った判例をみても同様の判断基準が確認されることから「音」の許容範囲は日中において50デシベル、夜間帯においては40デシベルを超えると騒音とされると考えられます。

この場合、音のレベルを超えることは受忍限度を超えると同義になります。

裁判所の判断基準は、受忍限度を超える騒音を発生させてはならない、ただし音を発生させないことは不可能であるから、対象となる騒音の値や回避可能性・発生者の誠意や対策などを総合的に判断していることが伺えます。

相談された場合には、発生している音を確認するしかないのだが

筆者の経験ですがたとえばマンションの場合、音を発生源であるとして階下などからクレームを入れられているケースと、その反対に上階の音がウルサく何とかできないかなど相反する立場での相談が持ち込まれます。

夜間帯に音が発生する行為を控えればよいのですが、たとえばピアノ演奏などの場合は別として、夜間に室内を移動しないなんてことは不可能ですし、エアコンの室外機などについても必要に応じて稼働させている訳ですか、猛暑日や厳冬期などにおいては稼働させないことによる健康被害が危惧されます。

そのようなケースで仲裁に入る場合、下記のようなポイントは下記の3点です。

●音は常時発生している状態なのか(一過性の重量衝撃音などは対象になりません)
●どの程度の音が発生しているか
●発生している騒音を規制する法律は何か

まず騒音が常時発生しているものなのか、それとも瞬間的に発生し、その時間はいつ頃なのかを見極めることが必要です。

騒音公害の定義に「人の環境または生活環境に係る被害」とあるように、一過性のものであれば受忍限度の範囲であると判断されるからです。

次にどの程度の「音」が発生しているかを確認しなければなりません。

前述した判例から日中50デシベル・夜間40デシベルを常時(あるいは反復継続して)超えている場合において、はじめて受忍限度を超えると判断されている傾向が高いことから、騒音被害を訴える居室などにおいて具体的にどの程度の「音」が聞こえるかを測定する必要があります。

測定には測定・騒音計を用いますが、性能により開きがあるものの5,000円ぐらいから市販されています。

あまり使用頻度が高いものではありませんから、わざわざ購入したくない場合には各自治体では貸出を行っていることもありますので確認してみましょう。

また測定結果を調停や裁判で用いる場合には自治体や専門業者による測定結果でなければ証拠能力に欠けますので、自ら測定する場合は和解などの交渉材料とするためであると覚えておきましょう。

続いて一言で「騒音」といっても下記の図をみていただければお分かりになるとおり、発生源により対象となる法律が違います。

対象となる騒音,関連法

そもそもですが、生活騒音については法律が存在していません。

あったとしても各自治体による条例だけなのですが、条例は騒音規制法・振動規制法に基づき建設作業や拡声放送・指定作業などを実施する際において事前の届けを定めたものですので、上記の図において便宜上、各地自治体条例によるとはしていますが一般家庭から発生する生活騒音は、法律による規制対象外であると覚えておきましょう。

そこで各自治体は、生活騒音について「お互いの話し合いで解決してください。それが難しいようであれば法律の専門家や裁判所の民事調停など紛争手続きをご検討ください」といったスタイルが共通しています。

騒音発生防止に効果的な方法は

騒音防止に必要なのはまず気配りです。

環境省でも「その音だいじょうぶ?」として、下記のような気配りが大切であるとしています。

1. 時間帯に配慮しましょう
2. 音がもれない工夫をしましょう
3. 音を小さくする工夫をしましょう
4. 音に小さな機器を選びましょう
5. ご近所との付き合いを大切にしましょう

具体的には階下への音漏れを緩和する手段として防音マット・防音シートの採用、もしくは毛足の長い絨毯を併用して敷くなどは効果的です。

上階にたいしての音漏れを防止する方法として、戸建てであれば上下梁間の懐にグラスウールなどを充填するのが費用対効果の高い方法ですが、多少コスト高になりますが下階天井に遮音シートや吸音材などを施工する方法が考えられ、この方法は戸建てにかぎらずマンションでも可能です。

隣室への音漏れ防止には、界壁に本棚などを置くなど居室のレイアウトを変更するだけで効果を得ることができますが、本格的に考えれば遮音シート・吸音材などを壁に施工する方法になるでしょう。

また窓からの音漏れは厚手のカーテンに変更するだけでも効果が得られますが、インプラスサッシなどにより二重構成にすれば防音のほか断熱性を高めることができます。

以上の方法は、あくまでも居室から音を漏れさせない、もしくは音の侵入を防止する手段ですが、エアコン室外機の稼働音などは、機械本体が外にあるのですからこれらの方法で解決することはできません。

エアコンの室外機はヒートポンプ方式ですが、稼働時にファンが回転しこの「音」が騒音の発生源です。

各メーカーのスペック表でPWL(音響パワーレベル)として確認できますが、稼働音は50~70デシベルが主流です。

前項で判例による判断基準は日中50デシベル・夜間40デシベルを常時(あるいは反復継続して)超えている場合と解説しましたが、室外機から発生する音はその範疇を超えている訳です。

ですから隣家の窓に面するように室外機を設置すればクレームが入るのも当然で、新たに設置する場合には近隣に影響を与えないかを検討し、設置する必要があるでしょう。

すでに室外機を設置していることによりクレームになっている場合、場所の移動を検討する必要があるでしょう(実際に筆者も新築営業時代には、何度も隣家からのクレームにより室外機の移動をおこなってきました)

騒音発生防止,家庭用ヒートポンプ

隣家方向に室外機を設置するのではなく、見栄えはよくないのですが正面道路側に移動するなどです。

また防振ゴムなど防音対策商品もありますが、正直に言って効果が高いとはいえません。

発生源との位置関係を見直すしか根本的な解決にはいたらないでしょう。

まとめ

今回は相隣関係のうち騒音に関してのトラブルについて、生活騒音を規制する法律は存在していないこと、そこから基本的に個人が「音漏れ」に配慮し生活するしかない点について解説しました。

解決策としては誠意を持って話し合い改善策を講じるのが近道で、発生する音の程度による受忍限度を理解しておくことにより、騒音トラブルに関しての相談が持ち込まれた場合には基本を理解しておくことにより有益なアドバイスができるようになるでしょう。

規制する法律が存在していないのですから、最終的には調停などによるほか制限を設けることはできないのですが、その際にも発生している音が受忍限度を超えているのかどうかなど、測定する必要性も含め理解を深めておきたいものです。

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