【受け答えが怪しい場合には要注意】認知能力に問題がある場合には契約無効もありうる

読解力や理解力には個人差があります。

とくに不動産に関しての説明は、専門用語を交え説明をする関係上、必要であれば要所で理解の程度を確認する作業が必要です。

ですからこちらの質問に対して的外れの返事が帰ってきても、それは質問の仕方が悪かったのか、それとも専門用語を使いすぎ理解が及んでいないなどの理由も考えられます。

きちんと理解が得られるまで根気よく説明をするしかありません。

ですが、それも程度問題です。

どれだけ分かりやすく説明しても要領を得ない場合、疑いたくなるのが「認知機能」の問題です。

ご存じのように認知機能とは物事の記憶、言葉を使う、計算するなど、問題解決に必要な頭の働きを指しています。

一般的に加齢により認知機能は徐々に低下していくと言われ、とある調査では50歳がその目安年齢であるとされていました。

不動産は、所有権を有する者の自由意思により処分が可能です。ですから売買契約など一定の行為によりもたらされる結果を、当人が認知していないとしても契約自体は有効です。

ですから認知機能の低下や精神上の障害などにより当人の保護を図り、権利を擁護する制度として後見人制度や家族信託制度などが存在しているのです。

このような制度を利用していれば、登記簿にその旨が記載されていますから事前に確認することができます。

ですがやっかいなのは「認知機能に問題があるのでは?」と、私たちが感じた場合の対応です。

今回は認知能力について「問題が伺える」と思われる場合などにおいて、取引をするかどうかの判断基準や、実際に取引をする際の注意点について解説します。

改正民法で新設された「意思能力」は必ず覚えておく

認知能力がやや劣る状態では成年後見制度や家族信託制度が利用されているケースはまれです。

ですから疑わしいと思いつつ、買取や売却などの話を進めていけば突然、親族などが名乗り出て「認知能力が低下しているのに勝手に話をしないでください!」と注意されることになりかねません。

ですから、会話の中で疑わしいと感じる場合、親族がいるのであれば同席して話を聞いてもらうのが最も有効な手段です。

同席が無理な場合でも、その後、配偶者や親族にお伺いをたてるなど慎重に判断していく必要があります。

もっとも私たち不動産業者は医療関係者ではないのですから、認知機能についての判断が正確に行える訳ではありません。

ですから「疑わしい場合は慎重に」と覚えておくしかありません。

不動産に限らず認知能力を原因とした契約トラブルは数多くありますが、裁判所も含めた裁定機関の判断基準は、契約者の意思能力の程度です。

つまり意思能力が欠けている契約行為は「無効」とされるということです。

この場合の意思能力とは「自己の行為の法的結果を認識・判断できる能力」を指しており、認知機能が低下していれば、その程度により意思能力に欠けていると判断されることになります。

ですが2020年4月1日までは、民法において「意思能力」についての具体的な定めは設けられていませんでした。

その代わり「私的自治の原則」という考えにより判断が示されていました。

私的自治の原則とは「自分の自由な意思で形づくった法律関係により拘束されるという」意味ですから、認知能力に問題がある場合には意思能力に欠陥があり、よって私的自治の原則を満たせない以上、契約行為自体が無効であると判断される根拠とされていたのです。

ですが前述したように民法大改正と呼ばれた2020年に判断能力が衰えた人の権利を守る制度が明文化されました。

それが民法第二章第二節【意思能力】で新設された「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする」の一文です。

これにより認知能力が疑わしい相手との契約行為は、意思能力の欠如を根拠として契約無効とされる危険性が飛躍的に高まったのです。

私たち不動産業者は、契約当事者の意思能力に関しては今まで以上に、慎重に見極める必要性が生じたのです。

認知能力の見極めはどうすれば良いの?

前述した改正民法により、意思能力に欠陥がある当事者との契約は常に無効を主張される危険性が高まりました。

後見や家族信託などの制度を利用している場合には、その旨が登記簿に記載されていますから予め備えることも可能ですが、そうではない場合、つまり「何となく認知が疑われる」場合の判断は困難です。

前述したように、配偶者や親族などに同席してもらい意思確認を行うのが最も有効な方法ですが、独居者の場合や親族が遠方にいて同席が難しい場合、もしくは音信不通で居所不明などの場合もあるでしょう。

「怪しい場合には取引しない」というのも明瞭な考え方ではありますが、それではせっかくのビジネスチャンスを逃すことになりかねません。

そこでおすすめなのが携帯電話のビデオ機能などを利用し、意思確認状況などを撮影しておくことです。

また、できるかぎり2名以上の立会で行うようにしましょう(撮影者と質問者も、一度は画像に収まるようにします)

その際には75歳以上の運転免許保有者を対象とした認知機能検査を援用し、組み合わせることをおすすめします。

具体的には氏名・生年月日・住所の質問をした後に以下のようなテスト(質問)を行い、その光景は全て撮影しておきます。

1.時間や日付に関しての見当識

認知機能検査,時間や日付に関しての見当識

2.手がかり再生

認知機能検査,手がかり再生

上記のイラストを用い「この中に花があります。それはどれですか?」や、「人間の体の一部はどこにありますか?」などを質問し、その後はカードを伏せ、記憶を頼りに再度、ヒントを出しながら質問を繰り返します。

これらの検査を終えた後に「これから不動産の売買契約を行いますが、引き渡しを終えた後にどうするかは決めていますか?」「売買契約をすると、このお家は購入者のものになってしまいますが大丈夫ですか?」など、当事者が売買契約後の結果について正しく認識できているかを確認するための質問をします。

このような光景を撮影し記録したからといって認知に関しての契約トラブルを完全に回避することはできませんが、少なくても契約を締結する時点における認知の程度と、意思確認を正しい手順で行っていることの証明はできます。

高齢者の認知能力の低下に付け込んで不当な取引を推し進めたというような「糾弾」は回避することはできるでしょう。

まとめ

今回は認知機能が疑わしい場合における不動産取引について、改正民法についての説明も交え、その対処法について解説しました。

コラム内で解説したように、法改正により「意思能力が欠如」している状態での契約行為については無効とされる根拠が明確になったことにより、認知機能が疑わしい場合には、これまで以上に注意して交渉をすすめる必要性が生じることになりました。

本文中では触れませんでしたが、意思確認と同様に重要なのが販売価格です。

正確には近隣相場などの根拠を正しく明示して、販売価格や買取価格などについて定めているかということです。

不動産の買取を「業」としている場合は勿論のこと、媒介においても所有者が納得して相場よりも安く販売できる場合には、買取であればより多くの転売利益を得ることができ、媒介であれば早期売却が期待できます。

不動産が早期に販売できる要素として立地やロケーションなど様々なものがありますが、中でも「金額」は重要な要素です。

売り急ぎなど、当事者が正しく相場観を認識して市場より安く販売する分には何の問題もないのですが、認知能力がやや低下している当事者にたいし、説明も不充分なまま固定資産評価額の4割に満たない金額で買取を行った業者が「公序良俗に反し売買契約は無効である」とされた判例もあります。

上記の判例は認知機能の確認以前の問題とは思いますが、改正法により意思確認について厳格に定められたのですから、私たち心ある不動産業者は、今まで以上に注意して実務を行う必要があると言えるでしょう。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS