折衝数は少ないと思いますが、二世帯住宅案件が折衝対象になることもあるでしょう。
基本的には大型案件になるので、住宅営業個人としてもそうですが、会社としても絶対に取りたい案件になります。
営業にとっては大型案件になるとその分歩合も増えるので、この私も二世帯住宅案件は気合が入りましたし、夜がどんなに遅くなろうとも必死になって資料を作った記憶があります。
今回のコラムでは、二世帯住宅を建てたあるお客さんの事例もご紹介します。
住友林業と日本ハウスホールディングスが真っ向勝負で戦った案件ですが、国道一号線沿いの目立つ場所が建築地だったことに加えて、超大形案件だったことが激烈な競合となった一件です。
二世帯住宅の問題点を徹底的に考えた
新築受注で成功するポイントは、家を建てるお客さんの心の内を徹底的に推察することにあります。
前回号でも書きましたが、二世帯住宅を建てて失敗した点に加えて、 二世帯住宅を建てる前に不安なことは何なのか調査したデータを徹底的に調べたのです。
アンケートで見えてきた問題点
アンケートを行った会社は覚えていませんが、二世帯住宅に的を絞ったアンケートが掲載された雑誌を本屋で見かけ、それは即座に購入したのです。
①二世帯住宅で若奥さんが失敗したと思ったこと
・無理をしてでもキッチンを二つ作っておけばよかった
・家の中で 一人きりになれる場所を作るべきだった
・猫じゃなくて犬を飼えばよかった
この他にもいろんな後悔ポイントが載っていましたが、私が営業上最も参考になったのは、二番目に上がっている意見である「家の中で一人きりになれる場所を作るべきだった」でした。
これを見た時に内心「なるほどな」と思ったのですが、専業主婦の奥さんの場合だと、夫の両親と朝から晩まで一緒に一つ屋根の下に居ることになります。
当然のことながら、一人でほっとする時間を作りたいでしょうし、そんな部屋が必要なのですが、ふと気付いた時には逃げ場所が全くなかったというパターンです。
「一人きりでこもれる部屋を作っておけばよかった」
こういうことですね。
二世帯住宅を作ったものの、リビングは親世帯と共同にするのが普通でしょう。
また寝室は当然別々ですが、奥さん専用の部屋を作るケースも一般的にはまずないと思われます。
こう考えると、昼間に奥さんが室内に居るとすればリビングにいないと不自然でしょう。
仮にお母さんがリビングでテレビを見ているとします。
この時奥さんが家にはいるものの、一時間もそのリビングに現れないとなれば、その時間奥さんがいたのは寝室ということになります。
お義母さんからすれば「なんで寝室なんかにこもっているのだろう。 私と顔を合わせるのが嫌なのかね」となりかねません。
ですから、自分の趣味の部屋でもいいですし、名目上は家事室でもいいので、若奥さんの逃げ場を作ることが肝です。
コロナ後という事情を考えると、テレワーク部屋でもいいでしょう。
奥さんが専業主婦ならば、なんだかんだと口実をつけて、パソコンでいろいろやらなくちゃいけないことがある、とでもすればいいのです。
こうすることによって、寝室の横あたりに二畳程度で充分だと思うので、テレワーク部屋を作るのです。
こうしておけば、お義母さんと顔を合わせたくないときは「ちょっとパソコンでいろいろやらなくちゃいけないので・・・」と言い訳をして息抜きをできます。
もう一つだけご紹介します。
「猫じゃなくて犬を飼えばよかった」
こんなアンケート結果も上位に上がっていたのですが、これが何を意味するのかあなたにはわかりますか?
猫は散歩をする必要がありません。
犬を飼っていれば、否応なしに散歩に出ざるを得ないので、それ自体が若奥さんにとっていい息抜きとなるわけです。
ところが、残念なことに猫を飼ってしまったので、それをすることもできずに大きく後悔したということです。
なるほどなぁ~とあなたは思いませんか。
とにかく私は、このアンケート結果を営業折衝で大きく活用したのです。
私が担当したあるお客さん
実際に担当したある二世帯住宅の話をしましょう。
二世帯住宅をご検討中の方でしたが、展示場にやってきたのは30歳の若夫婦でした。
しばらく話し込んだ後、奥さんにこう話しかけました。
「二世帯住宅を建てると、ご主人のお義母さんと同居する形になりますが、その辺りを皆さん不安に感じる奥さんが世間では多いようですね・・・ そこは本音としてどうですか?」
私がこのように問いかけると、奥さんは饒舌に話しだしました。
「そうですよね。義母は結構気が強くて ガンガンくるタイプなんですよ(笑)私が仕事をしていれば問題ないんですけども、当面は子供の面倒もあるので、家にこもらざるを得ないんです。お義母さんがいると子供の面倒を見てもらったりできるのでそこは非常に助かるんですけども、やはり一人になりたい時間も当然あるじゃないですか」
これを聞いた瞬間、心の中で私はガッツポーズ。
雑誌に書いてあったいろいろな解決策を頭に入れていたので、奥さんが一人になれるような二畳ほどの部屋を絶対に作るべきだと自信を持ってその場で提案したのです。
結果的に契約になりましたが、引き渡し後しばらくしてから奥さんにお会いした時に「あの部屋を作ってもらって本当に良かったです!森さんには本当に感謝していますよ~笑)」 と話してくれたことが今でも強く印象に残っています。
大手二社が真っ向勝負した二世帯住宅案件を取材した
私が現役営業マンを引退した後ですが、東海地方に住むあるお客さんを取材したことがあります。
その当時消費者向けの単行本を何冊か連続して執筆したのですが、このお客さんがそれを購入して私に住宅相談を依頼したのでした。
地元の名士ともいえる家系だったのですが、国道一号線沿いに大きな土地を所有しており、そこに80坪程度の和風大邸宅を建てる計画 お持ちでした。
いろいろ検討した結果、木造系の大手ハウスメーカー二社を最終的に残して見積もりとプラン提案をしてもらったのですが、その図面と見積もりを私に見てほしいとの依頼内容でした。
両社ともに大きな差異もなく問題も無かったのですが、最終的には住友林業に決めて無事契約に至りました。
ただ住友林業はお客さんも気に入っていて、特に営業マンの対応を高く評価していたのです。
「妻の生活スタイルを徹底的に聴き込んでくれました」
ご主人がこう話すのです。
ご夫婦は仕事柄和服を着るケースが多く、特に女性である奥様は自宅で着物の着付けをするのはもちろんのこと、多数の和服を持っているので、それを収納するスペースも相当数必要でした。
奥様の自室には板の間の他に、畳を三枚敷いた和室コーナーを設けたプランになっていたのですが、これは住友林業の営業マンが初回面談時に提案してくれたとのこと。
話を詰めていけば、結果として奥さんの部屋に畳を敷くことにはなったらしいのですが、初対面の時点でこの話を提案した営業マンの鋭さと目の付け所に感心したのです。
このご主人はかなりの亭主関白で「俺がこの家を守っているのだ」 とハッキリと口にされるタイプの方でした。
さらに印象的だったのは「私の家内のことをものすごく親身になって聞いてくれたし、こちらが気づかないような提案も複数してくれたのですよね。私も一家の大黒柱として家内と子供が快適に住めるような家を建てる責任があるので、彼のこの提案には一目置いたんですよ」
いかがでしょうか。
私が直接担当した奥さんも、引退後に取材をした奥さんも、営業マンの対応によってこちらにしっかり引き寄せたことが受注に結び付いたことがわかります。
後半の取材案件ですが、文中でご紹介したのは二世帯住宅とは関係なく奥様の仕事内容に着目したことがポイントだと書きました。
しかし、実はこの案件も、ご主人のお母さんの同居があったのです。
前半のケースでは、義理のお母さんと若干の距離感を持ちたいという潜在ニーズを私がキャッチしたわけですが、後半の取材事例では 足腰が弱っている義理のお母さんの実質的な世話をすることになる 奥さんの負担が減るような話も、営業マンからしっかり提案があったとのこと。
どちらも、二世帯住宅特有の問題が絡んでいたのです。
まとめ
二世帯住宅は、住む人数が増えて坪数が大きくなっただけ、と捉えていては受注になりません。
血の繋がっていない者同士が一つ屋根の下で暮らすという、このシチュエーションをもっと真剣に考えてあげましょう。
あっけらかんとした性格の女性であれば平気でしょうが、一般的には同居することに抵抗がある女性が多いでしょうし、大丈夫だと思っていざ同居を開始したら、予想もしない問題が発生することも多々あります。
このような繊細な問題が存在する二世帯住宅。
些細なことにも目を配った営業提案をしましょう。
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