【やはり競売物件は一癖ある?】不動産業者なら覚えておきたい競売の執行妨害について

最近では価格が上昇傾向にあることから以前ほどは注目されない「競売」ですが、時折、うまく買受できれば利益が出そうな物件を見かけることがあります。

不動産業者としては、そのような情報を見逃さないよう活動エリアの期間入札スケジュールの把握はもちろん、定期的にBIT(不動産競売物件情報サイト)を閲覧したいものです。

BIT,不動産競売物件情報サイト

競売参入に「ウマミ」がなくなったのは、「民事執行法上の保全処分等の強化」、「保全処分に関する相手特定の暖和」などにより、従来は職人芸とも言われたほど難しい要素のあった占有者との立ち退き交渉が比較的容易におこなえる(通常は交渉もせず、裁判所に引き渡し命令を申し立てるでしょう)ようになったからです。

これにより一般入札者が増加、結果、競落価格が高額になる傾向が高くなり、物件によっては流通価格と遜色ない価格で競落されています。

競り合って高値で買受人となり転売しても、手間を掛けるほどの利益が得られません(誰も手を出したがらないような物件を競落し、うまく売り抜けられれば話しは別ですが)

そのような理由から筆者も最近は入札に参加していませんが、ときおりエリア外などで目ぼしい物件を見かけることがあります。

平均落札額

そのような物件についてはチェックしておき、時期をみて売却結果を照会し価格動向を確認するようにしています。

無理をしてまで入札するメリットは少なくなったとはいえ、それは手を加えるなどして再販する私たち不動産業者の考え方であって、一般の方からすればやはり競売物件は流通価格から見れば「お得感」はあるのでしょう。

FKR(不動産競売流通協会)の公開データを見ても2022年度は売却基準価格にたいし東海・近畿などの首都圏では「倍」の金額で落札されています。

もっとも落札者属性を見れば一般(個人)より法人比率の方が高いのですから、再販し利益が得られると判断して一般入札を上回る金額で落札しているのでしょうか?

落札者属性

冒頭で「専有者との立ち退き交渉が容易になった」ことが一般の競売参入を増加させたと解説しましたが、最近、競売の執行妨害があからさまではなく、外形からはそうであると断定できない巧みな方法に変化していることはご存じでしょうか?

「競売」や「任売」に関するコラムの寄稿や、セミナーを実施しているからでしょうか、筆者のもとに時折、相談が寄せられます。

詳細に話を聞き、その手法を分析すると「なるほど、よく考えているね」と感心することもしばしばです。

今回は知っておいて「損」はない、最近の競売妨害手法について解説します。

なぜ、そのような巧みな手法が用いられるのか

筆者が不動産業界に入った時代(およそ32年前)、ディープな金融会社は平気で3番抵当以降の抵当権を設定していましたし、また格安で賃貸借契約を締結し物件専有するなどは常套手段でした。

中には後順位の債権者から依頼されたのか、反社会勢力が占有を誇示するため玄間などに看板を掲げていることも多かったものです。

これらは、競売の執行妨害を意図したものです。

平成22年4月1日に福岡県が全国に先駆け「暴力団排除条例」を施工して以来、各公共団体もそれに追随しました。

それにより反社会勢力による民事介入も表面上はなりを潜め、さらに競落後の明渡し請求手続きが簡素化されたことにより最近では露骨な占有は影を潜めました。

ですが外形から執行妨害であると判断するのが困難な、巧みな手法による競売妨害は一定件数確認されています。

具体的には一般の買受人は躊躇するような居室状態をわざと作り上げ、事故物件であると思慮される状況を意図的につくりだし、保全処分による占有排除を免れて手続きを遅らせるなどです。

それにより占有状態を不明にし、買受人に立ち退き料を請求します。

グレーな手法なので明確に妨害行為であると糾弾するのも困難で、立ち退き料についてもそれほどには高額な金額を請求しないことから、薄利多売、つまりは数を重ねることにより利益を積み上げているようです。

ご存じのように通常の建物明渡請求は裁判所に提訴を提起する必要があります。

ですが競売の場合、競落後代金納付が終われば裁判の提訴を経ず引渡命令の申し立てをすることができ、最短3~4日で引き渡し命令が発令されます。

ただしこれは占有者が旧所有者である場合に限られ、第三者、さらに複数の人間が占有している場合などは民事執行法第83条第3項の定めにより「審尋」が必要とされ、引き渡し命令が発せられるまで1ヶ月以上必要になります。

執行官への強制執行の申立て

大体は引渡命令に対し不服申立(執行抗告)してくるからです。

占有者による執行抗告が認められれば引渡命令は確定せず通常裁判に移行しますが、悪意の専有者による執行抗告など認められるはずがありません。

もっとも引き渡し命令が発せられても悪意の占有者は立ち退きません。

ですから引き渡し命令発行後、続けて建物明け渡しの強制執行を申し立てる必要があります。

その際には家屋内の残置物などを搬出する必要もありますから、その作業手間や搬送費用が必要になります。

占有排除手続きが簡素化されたとはいえそれなりの手間は必要ですし、また裁判による引渡し命令の発行より安いとはいえそれなりの費用(各申し立て、残置物搬出などの費用)が必要です。

法知識のない方は申し立て手続きすら重荷に感じるでしょうし、「多少の金額を支払っても、出ていってくれるならそのほうが楽だ」と考えるでしょう。

近年、悪意の占有者はそのような買受人の心理につけこみ薄利多売で立ち退き料を狙っているのです。

理解しておきたい競売妨害の分類

競売の執行妨害方法は様々ですが、ここでそれらの手法について分類してみましょう。

立退料取得型

もっとも伝統的とも言える競売妨害の手法ですが、専有を排除しようとする権利者に立退き料の支払いを持ちかけることで、根拠のないもしくは不正な利益を得ようとする手法です。

利用利益収受型

執行手続きを遅延させることにより、差押から買受までの期間を長期化させる手法です。

この間は買受人がいる訳ではありませんから、裁判所の目をかいくぐり占有排除されなければ長期間物件を自由にすることができます。

例えば第三者に物件を転貸するほか、自らの配下などに利用させそれによる利益(賃料)を収受する手法です。

筆者が一般の方や投資家などから「入札しても大丈夫なのか基礎調査をして欲しい」と依頼され調査を実施すると、まれに第三者への転貸が確認されることがあります。

この手法は現在もっとも多く用いられているのかも知れません。

転売差益収受型

仮差押などの前後を問わず不法な占有を行い、買受人を牽制する手法です。

このような状況を演出し、債権者に「このままでは適正な金額での買受人は現れないのではないか」と危惧を抱かせることを目的としており、その後、任売売却を持ちかけます。

債権者が合意すれば任意売却により自らが買受け人となります。

占有している当人が退去すれば何も問題はなくなるのですから、安価に仕入れた物件を転売し差益を取得することができるのです。

道義的にも法的にも許される行為ではありませんが、直ちに「違法である」とできないことから反社組織のフロント企業などが任意売却の変法として用いることがあります。

もっとも金融機関がこのような相談に応じることはありませんから、債権者が個人や法人の場合に行われているようです。

このような「型」はさらに細分化されており、例えば外国人を多人数住まわせ、占有者を特定させないようにする手法は「行為類型」に分類されています。

また戸建てなどの競売物件においては、敷地内に大量の産業廃棄物を積み上げるほか、室内に大量の動産を残置させ、「この状態では売れないのでは?」と債権者に思わせ任売を持ちかける「転売差益収受型」の変法である「強制執行費用増加型」に分類されています。

まとめ

今回は最近でも見かける競売の執行妨害について解説しました。

競売物件のうち僅かな事例として確認されているだけですから、実際にはそれほど神経質に構える必要はありません。

ですが巧妙な立ち回りによる妨害がいまだに存在しているということは覚えておく必要があるでしょう。

物件種別の内訳

近年では任意売却という手法が広まった影響もあるのでしょう、競売申し立て件数は年々減少しています。

債務者としても、うまく売り抜けられれば多少なり売却益が受け取れる可能性もあり、また債権者主導であるとはいえ表面上は通常売買ですから、引き渡し時期もある程度調整できるといったメリットもあります。

債権者としても確実に債権回収できるのであれば、任売でも競売でもどちらでも良いのです。

インターネットで「任売」と検索すれば、かなりの件数、任売を扱う不動産業者がヒットします。

このような様相は「任売ブーム」とも言えるのでしょうが、そこに旨味を見いだしたのでしょうか、巧みに執行妨害を行い任売を持ちかける事例が確認されているのは本文で解説したとおりです。

悪しき手口などを知ることによりそれに対抗することができ、また顧客から相談にたいして適切な助言を行うこともできるようになるでしょう。

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