インターネットにとって変わられ、最近、少なくなったのが紙媒体による不動産広告です。
とくに新聞購読率の目安となる「一世帯当たりの部数」については、2000年には1.13あったものが、2022年には0.53にまで減少しています。
デザインや印刷・折込料金まで考えれば新聞折込費用は割高ですから、住宅購入適齢期の世帯が新聞を購読していないとの予測が成り立つのであれば、わざわざ折込広告を入れる必要はないと考えるのも当然さと言えるでしょう(競合が少ないとの理由から、あえて新聞折り込みにこだわる業者さんもいますが)
一昔前ですと、GWなどの休み前は新聞が2つ折り以上にならないほど大量の不動産広告が織り込まれていました。
このように新聞折込は激減しましたが、変わらずによく目にするのは「ポスティング広告」です。
賃貸住宅や分譲マンションの集合ポストには、毎日のように「売り求む」や「特選物件販売」などのチラシが投函され、管理の良くない賃貸住宅ではポスト口に入りきれないチラシの残骸がしおれて垂れ下がっている光景をよく見かけます。
「やることがないのならチラシでもまいてこい!」なんてのはスパルタ系不動産業者の常套句ですが、効率が良いとまでは言えないものの、「1,000枚巻けば1件は問い合わせの可能性がある」と言われるのがポスティングです。
新人はディリーワークとして、また売り物件が欲しい場合には熟練者でも自ら行います。
ほとんどが捨てられる運命ではありますが、目に触れる機会が増えれば「反響」が得られる可能性もある。
効率が良いとまでは言えませんが、一定の効果があるので廃れず続いて居るのでしょう。
このように不動産業者であれば少なからず経験しているポスティングですが、分譲マンションの集合ポスト脇に「勝手にチラシを投函しないでください。発見次第、警察に通報します」なんて張り紙を目にしたこと、もしくは実際にポスティングを行っていて居住者や管理人見つかりに「不法侵入で警察に通報しますよ」なんて言われたことはありませんか?
実際にポスティングが「罪」に問われることはあるのでしょうか。
今回は、このような疑問に回答いたします。
ポスティング自体は「違法」ではないが……
筆者も新人の頃、意地悪な先輩に「ポスティングは違法行為だから見つかったら通報され、最悪逮捕されるから気をつけろよ」なんて脅されましたが、結論から言えばポスティングは「違法」ではありません。
日本は法治国家ですから法に反せば取締の対象とされますが、そもそもポスティングを取り締まる法律は存在していません。
さらにポストは外部からの配布物を投函してもらうために存在しており、入れて良いものとそうではないものが指定されている訳ではありません。
このような理由から「ポスティングは違法」という言い回しは、根拠が存在しない「噂」に過ぎないということになるのです。
方法により「違法」とされるケースに注意
前項で解説したようにポスティング自体は「法」に抵触する訳ではありませんが、配布方法により「違法」とされる場合があるので注意が必要です。
具体的には下記の「法」に違反した罪を問われます。
住居侵入罪(刑法第130条)
「正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの退去をしなかった者」が対象とされ、罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
この場合、ポスティング行為が正当理由に該当するかが問題となるのですが、配布をしている私たちは「有益な情報を皆様に」というのが大義名分となり正当事由であるとこじつけたくなりますが、一般的に正当事由は郵便局員や宅配便、市区町村の広報誌などの配布に限られると解されるでしょう。
分譲マンションの多くは集合ポストが建物内に設置されていますが、戸建ては玄関脇のポスト口や外付けポストであり厳密には建物に入った訳ではないことから「住居侵入罪は成立しない」と屁理屈を言う方もおられますが、「本条の建造物は、家屋だけでなく、その囲繞地を含む(最大判昭25.9.27刑集4.9.1783)」との判例が存在しています。
この場合の囲繞地は、民法解釈による他の土地に囲まれて公道に通じていない土地について、周りを囲んでいる土地のことではなく、刑法で定義された「建物に接し、柵などで周囲を囲んでいるなど、建物の付属地として建物の利用に供されている土地」つまりは「敷地」も含まれるとされているのです。
戸建ての玄関にポスト口があるため敷地内に侵入し投函する行為や、分譲マンションの集合ポストに投函するため敷地内に入る行為は「住居侵入罪」を構成しうると理解しておいた方が良いでしょう。
軽犯罪法(第1条第1項第32号)
住居侵入罪は刑法ですが、とても似ている軽犯罪として「立入禁止場所等の侵入の罪」があります。
罰則は1日以上30日未満の刑事施設への勾留、もしくは1,000円以上1万円未満の科料とされています。
住居侵入罪の場合、建造物と敷地が柵などで区切られ明示されている部分に侵入することが構成要件とされますが、「立入禁止場所等の侵入の罪」は侵入する場所が限定されません。
もっとも住居侵入罪が成立した場合には「立入禁止場所等の侵入の罪」も形式的に同時成立するとされていますからそれほど詳しく覚える必要はありませんが、正当事由のない他人地(建物含む)への侵入は該当するとだけ理解しておけば良いでしょう。
この法律における「立入禁止場所等」とは、他人の立入りを禁止する正当な権原を有する者(所有者・管理者)が、立入禁止の意志を表示していると客観的に認められる場所とされています。
ですから集合ポスト脇の張り紙はもちろん、エントランス前に「住人以外の敷地内立入禁止」などの立札がある場合には意志が表示されていると解されます。
さらに住人や管理人に見咎められ、「勝手にポストに投函しないでください!」と言われた場合に速やかに退散しない場合、警察に通報され最悪「逮捕」されても致し方がないことになるのです。
ですから「勝手にチラシを投函しないでください。発見次第、警察に通報します」という張り紙がある場合には、その旨が警告されていると理解し許可のない投函は控えた方が良いでしょう。
まとめ
今回は、不動産業者の間でも賛否のあるポスティングの違法性について解説しました。
文中で解説したようにポスティング自体は「違法」ではない。
ただし、ポスティングは所有者から望まれている行為とまではいえませんので、許可を得ない敷地内への侵入は法に触れる行為となります。
とはいえ、恐れてばかりではポスティングができません。
戸建ての場合は無理もありますが、分譲マンションなどで管理人が常駐している場合には許可を得る。
それができない場合で張り紙のあるマンションの場合は投函しない、また住人や管理人などから注意を受けた場合は謝罪し速やかに撤収することが大切です。
筆者が企業に属していた時代、部下が管理人にポスティングを注意され逆上し言い返したことにより警察を呼ばれ、身元引受けに行ったことが何度もあります。
上席や同僚の迷惑になりますし、何よりも属する企業の評判を下げる結果になりかねませんので注意する必要があると言えるでしょう。