【不動産業者なら覚えておきたい】敷金・礼金の法的な定義と原状回復費用について

日頃から私たちが賃貸契約で取り扱っている「敷金・礼金」は、あらためて考えてみるとなんとも不思議な慣習です。

「敷金」は物件や設備などを故意に破損させた場合や家賃滞納時などにおいて、賃貸オーナーの損失を補填する「保証金」の性質を持っているのはご存じのとおりです。

日本以外にも一部の国や地域、たとえば韓国や台湾、シンガポールなどにおいても同様の費用が徴収されています。

これは退去時に費用請求されその支払に困窮するリスクを考えれば、借り主も納得のいく費用だと言えるでしょう。

賃貸オーナーからしても、改修費用の徴収リスクが軽減されるのですから双方にメリットがあるといえます。

ですが「礼金」についてはその限りではありません。

ご存じのように「礼金」は賃貸オーナーにたいする感謝や敬意を表す費用です。

ですから敷金と違い退去時に返還される性質のものではありません。

西日本では「敷引き」として、敷金の金額から一定金額をあらかじめ差し引く契約が行われますが、これは「礼金」が名称を変えているに過ぎません。

筆者の知る限り海外では「礼金」に相当する概念が採用されている国はありません。

人間関係を円滑にするという日本ならではの慣習であるとも言えるでしょう。

借り主からすれば初期費用はできるかぎり抑えたいのが人情で、そのような要望に応えるように「敷礼不要」いわゆる「ゼロ・ゼロ物件」も増加しています。

最近では保証会社の利用が条件とされていることがほとんどですから、賃貸オーナーも家賃滞納リスクについて備える必要はありません。

あとは退去時の補修費用についての回収リスクですが、これについても国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」により原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と明確に定義されたことにより、経年変化や通常損耗は請求でなくなりました。

通常、敷金は家賃の1~3ヶ月分が相場ですから、故意・過失・善管注意義務違反による建物価値の減少を復旧する費用の全額を補えることのほうが稀です。

いずれにしても費用請求をしなければならないのですから、敷金を徴収しないからといって賃貸オーナーのリスクが極端に跳ね上がるとまではいえないのです。

今回は、このような「敷金・礼金」について、法的な側面も交えあらためて考えてみたいと思います。

敷金・礼金を徴収できる法的な根拠は?

改正前までは敷金と礼金、どちらも法律で明文化されていませんでした。

ですが2020年4月1日から施行された改正民法において「敷金」については定義付けされました。

もっとも明文化されていない時代においても支払いを免れることはできませんでした。

根底に「私的自治」の原則があるからです。

これは「個人や法人が自己の利益や権利を保護し、契約や行動を自由に選択する権利を共有する」という原則に基づく考え方で、日本だけではなくアメリカやドイツ、イギリスなどにおいても私的自治の原則が認められています。

日本の法律は主にドイツの法学思想に影響を受けていますから、当然に「私的自治の原則」も取り入れられた訳です。

これにより「法に反しない限り自由に契約を結べる」が根底に存在することにより、「慣習法」、つまりは法律や法令に条文化されていなくても長年慣習として定着した場合には法的に一定の効力が認められるのです。

この自由契約の原則があるため、敷金は家賃の1ヶ月としている場合が多いものの、物件によって3ヶ月や6ヶ月であっても、賃貸オーナーは自由に定めることができます。

「嫌なら借りなければいい」という理屈がまかりとおるからです。

もっとも私的自治の原則には法律に反しない、つまり公序良俗に反していことが求められますから社会通念上著しく高額な場合や違法な要求については消費者保護法などの規定が適用される場合もありますので注意が必要です。

敷金や礼金の金額交渉は可能か?

前述したように敷金や礼金は慣習に過ぎませんから自由に交渉できます。

ただし賃貸契約が締結されるまでは賃貸オーナーの方が立場は上ですから、「交渉はまかりならん!」と言われてしまえばそれまでです。

狙い目としては長期間募集を続けている物件でしょう。

ですが交渉の余地はどの物件にもありますから、近隣物件の相場や供給情況などの留意して円滑な交渉を心がけることでしょう。

敷金不要物件のココに注意

少し調べればわかりますが、敷金・礼金不要物件いわゆる「ゼロゼロ物件」は相応数存在しています。

初期費用を安く納めることができますから借主にとっては有り難いでしょう。

ですが同時に退去時に原状回復費用の持ち出しが発生するリスクがあることについては注意を促しておく必要があります。

また退去時に「クリーニング費用」や「除菌代」名目で、その負担を義務としている場合もありますから、そのような物件を媒介する場合には後日トラブルが発生しないよう借り主に充分説明しておく必要があるでしょう。

国民生活センターが全国の消費者生活センターとネットワークを構築していますが、消費者から寄せられている苦情相談情報についてはPIO-NETにより収集されています。

それによれば2020年4月の民法改正に併せ「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の判断基準が明確になったからでしようか、原状回復を巡る相談件数は減少傾向にあるとされています。

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ですが寄せられている相談内容について詳細に見ていくと「ゼロゼロ物件」の退去時トラブル相談は増加傾向にあるようです。

「クリーニング費用」や「除菌代」については契約書に具体的な金額として記載されていこともありトラブルも少ないようですが、そもそもの話として「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では「ハウスクリーニング費用を全額借主負担」とするという特約を推奨していません。

強行法規に反している訳ではありませんから「無効」であるとまでは言えませんが、賃借人のみの負担とした場合には法律上、社会通念上の義務と別個に「新たな義務を課している」と受け取られることもあります。

金額が妥当な範囲内であることはもちろん、客観的、合理的理由が存在し、かつ賃借人が特約による義務負担について了承しているという前提が大切です。

このような原状回復費用の適用判断についてのトラブルは敷金の有無によらず発生しうるものですが、退去時にまとまった金額として請求されることになるため露見しやすいといった部分もあるのでしょう。

原状回復トラブルを回避するためにも改正民法の理解が必須

契約内容はもとより貸主・借主の性格的な傾向、知識の程度など様々な要素により原状回復トラブルは発生します。

意図せず巻き込まれれば余計な労力が必要です。

揉め事なく退去が完了するのが何よりでしょう。

2020年4月1日から施行された民法の一部を改正する法律により、民法の債権関係分野について全般的に見直しがされたことにより「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が改正された訳ですが、ガイドラインでは明らかに通常使用などの結果とはいえない損耗、及び手入れ・管理の不備などによりその損耗が拡大した場合に原状回復義務があるものとして取り扱うとしました。

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それ以外にも「賃貸物の修繕に関する要件の見直し」、「賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化」、そして「敷金に関するルール」が明確にされています。

改正後の民法,敷金に関するルール

改正前は不明確であった敷金の定義が、「いかなる名目によるかを問わず、賃貸債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付と目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭(民法622条の2第1項)」としたのです。

これにより、敷金・保証金など名目がどうであっても担保目的としての性質を有しているものは「敷金」として取り扱われることになったのです。

これにより敷金を受け取っている賃貸人は、「賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」とされました。

ですから賃貸借契約が終了した場合の敷金変換債務については、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を遵守し、差し引く場合の原状回復費用について通常損耗の判断基準を明確にして精算する必要があるのです。

この通常損耗であるか否かを明確に判断するためには入居前そして明渡し時の状態を確認して判断する必要がありますから、確認リストは詳細に記載しておくことが大切です。

入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト

前述したように国民生活センターなどへの原状回復費用に関しての相談件数は民法改正以降減少傾向にありますが、それでも少ないとはいえない相談が寄せられています。

その詳細な内容を見ていくと、入居時前の情況確認が詳細に行われていれば発生していなかったであろうものが散見されます。

そのようなトラブルを防止する意味でも、改正民法のうち622条の各条項(敷金返還請求権の発生時期・賃借権の移転における敷金変換債務の承継の有無)などについては条文を読み込み正確に理解すると同時に、経年変化に関しての判断基準について正確に理解しておくことが重要だと言えるでしょう。

まとめ

今回は敷金と礼金の法的な見解、そして原状回復について解説しました。

文中で解説したように民法改正により定義やルールが明確になったことにより、敷金返還トラブルは減少していますが、インターネットの普及などにより知識格差も少なくなり賃借人が理論武装して交渉してくることが多くなってきています。

それに対応する私たちは改正法についての理解をより深め対応していく必要が生じているのです。

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