前編に引き続き、不動産業者が理解しておくべきSNS広告について解説していきます。
公正取引委員会の動き
違反が多数確認されるSNS広告に関し、公正取引委員会は調査に乗り出しています。
もっとも調査目的は「デジタル広告の取引実態に関した把握」とされており、あくまでも実態調査です。
報告書は令和3年2月に公開されていますが、その内容はデジタルプラットフォーム事業者を取り巻く取引実態や競争の情況を明らかにし、違反者の行為を未然に防止することが主眼として構成されています。
あくまでもデジタルプラットフォーム事業者と、それを利用する私たち不動産業者などの関係性や問題点について調査は実施されているのですが、残念ながら今回解説している内容に合致しない部分がほとんどです。
ただし、個人情報の不当な取得や利用については参考になる調査結果が報告されていますので簡単に紹介しておきます。
前項で「公正な競争を阻害するような表現」は、企業であるか否かを問わず不当景品類及び不当表示防止法に該当すると解説しましたが、消費者庁はSNSによるそのような広告は事業者によるものであると認定し措置命令を発しているのです。
ただし措置命令を発するには景品表示法第5条第1号(優良誤認)もしくは同法第2号(有利誤認)に該当していなければならず、実際には対応に苦慮しているようです。
公正な競争を阻害するような表現は「正常な商習慣に照らして不当」に該当するとされていることです。
不動産業者においては自社のサービスや物件について虚偽の情報を掲載するのはもちろん、誇大表現などについても該当することになります。
物件についての特徴やスペックなどを、実際よりも過大な表現で紹介した場合や、不当な比較、誤解を与えかねない表現なども同様です。
とくに今回テーマとして取り上げているSNSによる広告は、意図的であるか否かを問わず広告であることを隠したまま投稿するステルスマーケティングの問題が顕在化しています。
このステルスマーケティングについては事業者団体である一般社団法人日本インタラクティブ広告協会やWOMマーケティング協議会が自主規制を定めて防止する取組を行っていますが、誰もが自由に情報を発信できるSNSの特徴もあり対応に苦慮しているようです。
諸外国においてはすでにステルスマーケティングにたいする法規制はすでに行われており、日本は出遅れていることから公取と消費者庁を中心に対策が検討されています。
SNS広告の現状と検討されている対策
前述した「ステルスマーケティングに関する検討会」報告書に目を通すと、現状を理解するのに有効なデータ開示や、不当表示等の対策が検討されています。
インターネット広告の市場規模が年を追うごとに拡大しているのは肌感覚としてお分かりになると思いますが、そのうちSNS上やブログ、動画共有サイトなど、ソーシャルメディアに分類された分野の広告伸び率は、市場規模推計・予測として下記のように著しいとされています。
このようなソーシャルメディア広告はSNSにおける「トモダチ」としてのつながりを利用するケースや、広告主がSNS上で直接広告を行う以外にも第三者であるインフルエンサーが広告主から依頼されて行っている場合もあります。
このようなソーシャルメディア広告についての実態調査が事務局により行われ報告されていますが、それによればインフルエンサーによる投稿100件のうち、およそ20件がステルスマーケティング、つまり「正常な商習慣に照らして不当」であるとして違法性が疑われる広告であったとのことでした。
またレビューサイトへの不正レビュー募集が公然と行われている点も指摘されています。
驚いたことに「広告である旨を明示していない」広告のほうが一般消費者を誘引し売上につながることが多いとの見解も示されているのです。
このような効果を見越しているからなのでしょうか、問題が発覚した場合には謝罪すれば済むとばかりに不当景品類及び不当表示防止法に該当しないようにだけ配慮したステルス広告が公然と行われている実態を明らかにしていました。
このようなステルス広告にたいし、具体的な規制を設けないことは行政が許容していると受け取られかねず、検討会参加者からも長期的なデジタル広告市場全体に対する「害」でしかないとして早急な対応が求められていました。
注意するのは文字情報だけではなく、動画配信時の口頭説明も同様
ステルスマーケティングや広告や不当景品類及び不当表示防止法などの話を入り乱れて解説してきましたので、ここで一旦話を整理しましょう。
まず広告について規制している法律は「景品表示法」です。
この法律で対象となる広告はチラシ、パンフレット、ダイレクトメール、口頭による広告、看板、新聞、雑誌など全てとされており、当然にSNSによる広告も含まれます。
これらの広告については同法第5条により不当表示(優良誤認)等は禁止され、本来の権能は内閣総理大臣ですが、同法により消費者庁長官に委任され、さらに同条第二項の定めにより公正取引員会にその権限の一部が委任されています。
さらに公正取引委員会の認定を受けて「不動産の表示に関する公正競争規約」が設けられています。
このような流れを理解しておけば、私たち不動産業者は「不動産の表示に関する公正競争規約」を遵守していれば、その大元となる景品表示法に抵触することもないと理解できるでしょう。
またSNSは当然として、You Tubeなどの動画サイトで自社の宣伝や物件紹介などのを口頭で行った場合、その解説内容についても広告に分類され規制対象とされることについても理解も必要です。
例えば販売中の家屋内部を動画で撮影し、「ご覧いただけるようにリビングは広々として日当たりも抜群です」とコメントしたとしましょう。
比較対象を具体的に明示していないリビングを広々と表現したこと、また日当たりについて「抜群」と評したことは何気なく使用していたとしても「不動産の表示に関する公正競争規約」で禁止されている誇大表現に該当します。
同じ説明を内見で顧客に行っても証拠が残っている訳ではありませんから、後日指摘されても「言った・いや言わない」となりますが、You Tube動画は削除しても第三者に共有され拡散されている可能性もあります。そうなればもはや消すことは不可能であると言えるでしょう。
「不動産の表示に関する公正競争規約」違反の証拠が半永久的に残ることになるのです。
SNSも同様で、誇大表現が共有され当人が忘れた頃に指摘されるなんてことになりかねません。
意図的ではないとしてもこのような投稿を削除し忘れた場合や拡散された場合、どの時点でも処分対象とされる可能性が残ります。
そのように考えれば投稿の積み重ねがアカウントの育成に繋がるSNS等と不動産広告の相性は悪いといった懸念が残ります。
これは「ミカタ株式会社」が運営する不動産会社のミカタ編集長である野村氏が本稿執筆前に現場からの声として助言してくれたものですが、筆者も同感です。
お手軽に投稿できるからといって、投稿する内容も簡略化して良い訳ではありません。
客観的な情報や具体的なデータの提供、公正競争規約に反しない表現の徹底。販売中である場合には成約などの理由で販売が終了することがある旨などについて明示するなど通常の広告と同程度の配慮が必要であると理解しておきましょう。
また経営者や管理職など責任のある立場の方は、従業者が良かれと思い個人の判断でYou Tube動画やSNSなどで「不動産の表示に関する公正競争規約」に抵触する投稿などを行った場合、事業者にもその責任が及ぶ可能性もあることを理解して指導することが肝要です。
公正取引業協議会の違反事例から学ぶ
先述したようにSNSを含む全ての不動産広告についての違反に関しての違反調査・是正措置・課徴金や違約金についての賦課徴収については、北海道・東北・首都圏など全国9地域に点在する各地域の不動産公正取引業協議会が担っており、そのうち首都圏不動産公正取引業協議会内に不動産公正取引業協議会連合会事務局が置かれています。
各地域の不動産公正取引業協議会から「違約金課徴措置」などの情報は公開されていますが、首都圏不動産公正取引業協議会がホームページ上で公開している「公取協通信」がもっとも見やすく整理されていますので紹介しておきます。
サイトは下記URLから利用できます。
https://www.sfkoutori.or.jp/koutorikyotsushin/
サイトでは違約金課徴のほか警告・注意などについてのバックナンバー情報が掲載されています。
これらを一読すれば、どのような表示が問題とされ処罰対象とされているか理解できます。
違約金課徴のほか警告・注意などの措置の原因とされた媒体は、ホームページとポータルサイトへの必要事項不記載・虚偽表示・おとり広告がほとんどです。
現在までのところSNS広告についての措置命令は確認されませんが、SNS広告で掲載されている情報の程度は措置を受けたホームページやポータルサイトと比較してもさらに危うい内容です。
消費者庁や公取委による見解の待たれているところではありますが、すでに各公正取引業協議会はSNS広告にたいする調査を実施しているとの情報も入ってきています。
SNSだから大丈夫という甘い考え方は捨てて、情報を発信するのであればルールを遵守することを徹底しましょう。
まとめ
今回、SNSを中心とした不動産広告についてのテーマは、「ミカタ株式会社」CEOである荒川氏からの発案です。
先述した野村氏と同様、無法図にルールを逸脱した不動産広告の氾濫に危惧をいだくと同時に、利用者の増加によりこれからもその効果が期待されるソーシャルメディア広告の健全化に期待を寄せている不動産ポータルサイト運営会社としては、注視している題材なのでしょう。
実際に今回のコラムを寄稿するにあたり、公取の動きやステルスマーケティングに関しての対策や検討情況について改めて調査したのですが、健全化を促すためにも違法な広告に関しては厳格化する必要があるとの見解で一致しています。
ルールを遵守して活動している関係事業者からも抑止力となるルールの統一は不可欠であると提言されており、それを受け消費者庁においても取引適正化及び紛争解決の促進のほか官民協議会を開催し、景品表示法の積極的な活用を促しています。
日本において景品表示法の執行を担当しているのが消費者庁と公正取引委員会に分かれていることもあり、デジタルプラットフォーム全般において法執行担当の役割分担の検討も進められているようです。
近い将来、景品表示法に関しての供給主体や責任主体にたいしての位置づけは明確になり、ステルスマーケティングにたいする課徴金制度も導入されることでしょう。
簡単に掲載し効果が得られるSNS広告などを行う場合には、掲載内容や表現についてくれぐれも留意して行うことが大切だと言えるでしょう。