【住宅性能の引き上げは世界共通の認識事項】G7サミットで再確認された環境持続性について

2023年5月19~21日の3日間に渡り広島県で開催されたG7サミット(主要国主要会議)は無事終了しました。

これにより日本でのサミット開催は7回目を終えたことになります。

解説するまでもありませんが、G7サミットは日本を含めフランス・米国・英国・ドイツ・イタリア・カナダの7カ国と欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して毎年開催されている国際会議です。

サミットにおいては世界経済、地域情勢など地球規模における課題について意見交換が行われます。

気候変動への対策や持続可能なエネルギー推進をテーマとして扱うのはSDGsですが、世界的な規模における環境保護に関して国際協力の必要性を訴え、SDGsの環境目標の達成に向け支援するのはG7サミットの役割です。

今回の広島G7サミットにおいても個別声明として「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」が公開されています。

気候危機に対処し、遅くとも2050年までにネット・ゼロ排出を達成するため、世界規模でクリーンエネルギーへの移行を加速させるべく行動することを再確認した訳です。

さて世界規模での取組については規模が大きく、私たち不動産業者にはピンときません。

ですが難しく考える必要はありません。日頃取引している不動産において省エネルギーの必要性を説明し、積極的に省エネ対策を推奨するだけのことです。

「塵も積もれば」のたとえではありませんが、そのような地道な努力が結果として二酸化炭素排出量の抑制、ひいてはネット・ゼロ排出の達成に貢献できるのです。

懐かしい言い回しではありますが「できることからコツコツと」と言ったところでしょうか。

とはいえプロの不動産業者たるものG7サミットで協議された「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」の概要については理解しておく必要があるでしょう。

そのような知見が顧客に説明する際にも役立つからです。

そこで今回は、G7開催で見直された環境持続性について解説します。

発端はパリ協定

遅くとも2050年までに「ネット・ゼロ」、つまり大気中に排出される温室効果ガスと除去される大気ガスを同量のバランスに保つ状態にすることが共通目標とされたのは2015年の国連気候変動枠組み条約締結国会議で採択されたパリ協定によるものです。

パリ協定とは

パリ協定に基づき各国がネットゼロ誓約を行い、2050年目までに目標を達成する義務を負ったのです。

これにより上昇を続ける地球規模の平均気温を産業革命以前と比較して2度以内(努力目標は1.5度以内)になるはずなのですが……実際には各国政府が期限内に完全な履行を達成するための法規制を制定しても、埋められる排出量ギャップは40%にとどまるとされています。

理由は幾つか挙げられていますが、政府対応の遅れや意欲不足が最も問題であると指摘されています。

それにより民間による協力が得られていない。

つまり「笛ふけど踊らず」の状態が続いているのです。

冒頭でも紹介しましたが、広島G7サミットにおいて2023年5月20日に協議された「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」をご覧になれば一目瞭然ですが、エネルギー移行のコストを下げるために必要なインセンティブ効果の最大化や、廉価で持続可能なエネルギーを供給するクリーン・エネルギー・サプライチェーンをグローバルに確立する必要性、クリーン・エネルギー技術の推進などが必要であると論じていますが、正直なところ腑に落ちるような内容ではありません。

筆者が仮訳の文章を読んだからなのか世界的な規模での共通ルールを再認識することが目的であったからなのか定かではありませんが、大局的見地による再確認の域を出てはいませんでした。

つまり「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」とは何かと問われれば「目標を達成するために必要な研究開発の強化、効果的なインセンティブを与える取組強化」の再確認が行われたと回答するしかないのです。

自然災害の発生率増加は異常気象が原因

しつこいくらいに何度も計画が再確認されるのは、地球温暖化対策が世界的な喫緊の課題であるからです。

世界平均気温が上昇を続ければ、各地で甚大な自然災害が多発します。

すでに日本においても豪雨や洪水、土砂災害などの発生率は高まっており、その原因としてあげられているのが降水量の増加です。

もっとも気象庁の公開資料によれば2022年における降水量の基準値(1991~2020年の30年間平均)の偏差は-71.5mmとされていますから、長期変化傾向で見れば降水量が増加しているとはいえません。

日本の年降水量偏差

ですが着目すべきは大雨の発生件数が増加しているという点です。

具体的には1時間に80mm以上、3時間降水量150mm以上、日降水量300mm以上の強度が強いとされている雨は、そのいずれもが1980年頃のデータと比較しておよそ2倍にまで達しているということです。

つまりは全体の降雨量は一定であっても一気呵成に降る頻度が増加し、それにより河川の氾濫や土砂崩れの発生率も上昇、私たちが提供している住宅への被害や道路などのインフラにも被害が及んでいるのです。

全国アメダス

それだけではありません。

降雪地域においては大雪に見舞われる頻度も増加し、その後、例年にない気温上昇により雪解けが加速、それによる地盤への影響による雪崩・土砂災害のほか、住宅地においても屋根からの落雪被害や雪下ろし中の事故が増加しているのです。

各国の取組情況と成果

まずEU(欧州連合)は早くから温室効果ガス排出量削減目標を設定し、パリ協定以前の2003年から気候変動政策を加盟国共通のものとして取組んでいます。

それ以前の2001年から再生可能エネルギー電力指令、2003年のバイオ燃料指令、2006年にはエネルギーサービス指令を採択し先進的な取組の成果が着実に表れています。

EUの二酸化炭素排出量の推移

もっとも加盟国により削減度合いについてはバラツキもありますが、住宅・建物分野における環境対策については足並みが揃っており「建物のエネルギー性能に関する指令」に基づき、性能と効率化に取り組んでいます。

とくにエネルギーマネジメントシステム(EMS)導入については監査が盛り込まれており、再成可能エネルギーの導入についても具体的な数値により包括的に扱われています。

国別で見た場合の「二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合及び一人当たりの排出量」によれば、一人あたりの二酸化炭素排出量において日本は米国・ロシア・韓国に続いて第4位となっています。

国別の排出量を見れば中国が断トツになっていますが個人の排出量においては至って少なく、国土面積や人口が多いことから総体的に排出量が増加しているだけのことです。

二酸化炭素排出量,主要国

それにたいし国別、個人別の両方で排出量の高いのが米国です。

トランプ政権下時代の2019年11月4日には「パリ協定により地球温暖化対策に巨額の支出を迫られている。

そもそも二酸化炭素排出が気候変動に影響を与えるという意見は科学者の陰謀に過ぎない」と持論を展開し、パリ協定から正式に離脱していました。

もっとも現大統領のバイデン政権はその発足にあたり、エネルギー及び環境政策に関連して7項目に渡る政策構想を打ち出し、就任後1週間でパリ協定への復帰を含め30件以上もの地球温暖化対策に関する大統領署名を行ったのは記憶の新しいところです。

さらにバイデン大統領は「我々はもはや、我が国の通商政策を温暖化対策目的から切り離すことはしない。

また他の諸国による地球温暖化対策取決め違反行為者にたいしては新たな強硬措置を講じる用意がある」と、脱炭素化措置への同調を半ば他国にも義務付ける方針を声明として発しました。

無論、世界的にこのような方針を表明したのですから自国にたいしての政策も厳しいものになっています。

炭素を排出する汚染者(法人)に対しては炭素汚染費用を全額負担させるとの法律を制定し、企業経営者にたいしては個人的な説明責任を負わせ、その内容によっては懲役刑を科すというのですから徹底しています。

また現在は一部の州に限られていますが、新築される住居やビルについて太陽光発電の設置が義務付けられています。

このような各国の情況を見れば外交に弱い日本は各国との同調路線を強化するしかなく、二酸化炭素排出量削減目標を是が非でも達成するために、今後、義務化も含め様々な取組が行われていくことでしょう。

不動産業者にはどのような貢献ができるか

前述した自然災害の発生を誘引する気象の変動を民間レベルで抑制することはできません。

ですが、個々の努力の積み重ねが結果的に温度上昇を抑制できることは疑いようはありません。

それでは私たち不動産業者としては一体、どのような貢献ができるのか考えて見ましょう。

1.啓蒙活動

もっとも、地球規模での気象変動がもたらす未来について語られてもピンとはきません。

地球温暖化防止が喫緊の課題であることは日頃のニュースで嫌というほど見聞きしています。

改めて説明しても「大変ですよね」と言った感想にとどまり、それでは具体的に自分が何をしようかと考えることは多くありません。

日々の暮らしに忙殺され、すぐに頭の隅からも消え失せてしまうでしょう。

そこで、具体的なメリットを提供する必要があります。

2.断熱リフォームなどの提案

一定レベルの性能を満たしている新築住宅や省エネルギー基準をクリアしている場合には必要ありませんが、そうではない既築住宅の場合、適切な断熱リフォームや再生可能エネルギーシステム搭載の提案をすることです。

説明においては世界的な温暖化対策のためという大局的な見地からではなく、断熱リフォームを行うことにより住宅のエネルギー消費量が削減(つまり電気代やガス代などが安くなる)できるという点を強調し、可能であれば性能による具体的なランニングコストの違いなどの情報の提供を行う必要があるでしょう。

まとめ

地球温暖化対策は日本に限らず、全世界において喫緊の課題です。

一昔前は二酸化炭素排出量と地球温暖化との因果関係において懐疑的な見解もありましたが、現在においては科学的な研究や国際的な合意により間違いのない事実であるとされています。

文中で解説したように、主要国の取組は日本と比較して一歩先ゆく政策が実施されています。

東京都が先駆けとして、一定数以上の建築件数があるハウスメーカーにたいし太陽光発電システム搭載を義務化したことにより物議をかもしましたが、コラムでも解説したように他国においては珍しくもない取り決めです。

市井の反応を考慮しながら段階的に対策を勧めている国に先んじて決定されただけのことです。

省エネ基準適合義務化は2025年4月からとされていますし、今後、国の政策として地球温暖化対策は順次、なし崩し的に義務とされていくことでしょう。

そのような時代に備えるためにも、今回、解説したような地球温暖化が及ぼす影響や対策を講じる必要性について理解を深め、率先して顧客に説明し啓蒙活動を行うと同時に「快適な暮らしは住宅性能により左右される」として、省エネ設備の導入や断熱リフォームなどを提案していくことが私たち不動産業者の責務といえるのではないでしょうか。

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