宅地建物取引業者は増加の一途です。
ですが業者数の増加にたいし取引件数はそれほど増加していません。
結局のところ、少ない取引を同業他社で奪い合っているのが実情です。
不動産会社の勤務経験なしに開業する方は多くないでしょうから、新規参入される方のほとんどは経験者でしょう。
それならば現在の不動産市況については理解し、開業しても楽には経営を維持できないと理解しているとは思うのですが、新規開業数を見る限りそうではないようです。
平成12年に138,816件あった宅地建物取引業者は減少を続け、平成25年には122,217業者にまで減少しましたが、翌年から8年連続で上昇に転じ直近の2022年は128,597業者となっているからです。
宅地建物取引業は他の業種と比較して新規開業の参入障壁が低いとされています。
とくに媒介を主業とする場合には在庫を抱える必要もないことから、設備投資が抑えやすい。
そのような特徴から少ない投資で楽に稼げると思われるのでしょう、令和4年を例にすれば新規開業6,308業者にたいし、廃業は5,185業者もあります。
宅地建物取引業が8年連続上昇しているとはいっても、開業から廃業数を差し引いた件数がプラスとなり、総体として増加に繋がっている。つまり常に新陳代謝されているというのが実情なのです。
このような理由にもよるのでしょう、宅地建物取引業保証協会などの法定研修に参加すると毎回のように顔ぶれが変わり、見覚えなの無い方を見かけることが多くなりました。
物件確認の電話を受けて業者名を名乗られても、「はて、聞き覚えのない社名だな?」と思われることが多いでしょう。
そのような業者かたら買付証明が出されても、本当に信頼できる業者なのかどうか心配になることは多いものです。
実際に購入者の意志が固まってもいないのに、とりあえずとして物件を押さえるため買付を入れてくる業者もいますから同業者だからと信用できないのが現実です。
初めての業者と共同仲介を行う場合、相手方業者を調査するのは鉄則ですが、ホームページの確認や口コミ情報は基本として、国土交通省により公開されているネガティブ情報の調査も必須だと言えるでしょう。
今回はネガティブ情報とは何かについての説明と併せて、具体的な調査方法について解説したいと思います。
業者のネガティブ情報は検索サイトを利用する
同業他社のネガティブ情報を調査するには幾つかの方法があります。
基本としてはウェブサイトやソーシャルメディアプロファイル、ビジネスディレクトリなどをチェックし、評価やレビューのほか顧客からのフィードバックなどを検索することでしょう。
もっともサイトによっては匿名性であることをいいことに事実とことなる書き込みや同業他社が書いたと思われる誹謗中傷のほか、離職者による意趣返しのような書き込みも散見されますから全てを鵜呑みにすることはできません。掲載内容の確度を勘案しつつ、判断材料の一つとする配慮が求められます。
ついで取引経験者への聞き取りです。取引を行ったことのある業者や関係者に問い合わせること、とくに信頼のおける関係者からの情報は有益で、対象の信頼性やパフォーマンスについて洞察する材料にできます。
それらの調査と前後して確認しておきたいのが、国土交通省が運営する「ネガティブ情報検索サイト」です。
サイトは下記URLから利用できます。
https://www.mlit.go.jp/nega-inf/
利用方法はいたって簡単で上記のURLで開かれるページから、不動産の売買・管理を選択するか、スクロールして目的の掲載部分まで移動し選択するだけです。
サイトでは宅地建物取引業者のほか不動産鑑定業者・マンション管理業者など、不動産の売買や管理を行う業者にたいしての免許停止・業務停止・指示・行政指導について調査できます。
例えば宅地建物取引業者の場合、処分を行うものは国土交通大臣のほか各地方整備局、北海道開発局及び沖縄総合事務局長ですが、一つの事件を契機として複数の行政処分が行われる場合もありますから、それらのカウントは1件としてカウントされています。
情報は1ヶ月に1回を目処に更新されていますが、直近から5年までしか確認することはできません。
これは行政処分等の公開期間を処分実施年度の翌年度から5年間とした「宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準」に準じているからです。
初めての取引先となる新規業者を調査する目的としては充分でしょう。
何を原因として行政処分は実施されているか
処分年月日や事業者名、処分等の種類について「条件指定無し」で検索すると、コラム執筆時点において208件の処分を確認できました。
一覧では処分を行った者や事業者名・本社住所のほか、処分等の種類とその内容まで確認できます。
サイトを利用する目的は初めての取引先について調査するためですが、サイトに掲載されている「処分の概要」は、自社が処分を受けないため日頃の営業手法に問題がないかを確認するために利用できます。
サイトに掲載された処分情報については転載が禁じられていますので、画像としてご覧いただくことはできません。
もっとも筆者が処分概要について一通り閲覧した印象として、重要事項説明書を筆頭に、記載事項に関しての処分が際立っているとの印象を受けました。
たとえば所有権以外の権利や法令の制限などの概要について記載されておらず、説明もされていない。
それ以外にも購入判断に影響を与える重要な事項についての調査を怠ったことによる処分(耐震に関しての不実記載)や、クーリングオフによる解除について記載も説明もされていないなどです。
前述のケースは意図的であるかどうかの判断は難しいのですが、明らかな違反も確認できます。例えば媒介を含む各種契約書において「標準契約約款」によるとしているのに、実際には自社に有利な内容が記載された書面を使用している。
用告示の限度額を超えての報酬受領をしているなどです。
意図的なものを除き、35条書面(重要事項説明書)に関しての記載漏れや説明の不備などは、正しく業務を行っていれば処分など受けていないはずです。
処分庁からすれば、意図的であるかどうかは重要ではありません。
「宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準」の定めに基づき粛々と判断するだけです。
ウッカリミスは誰にでも起こりうることですから、処分傾向について調査した時には心新たに、自らの調査や書類作成に不備がないかに想いをはせることも必要でしょう。
基本に忠実な調査を心がける
あからさまな違法行為は当然としても、重要事項における記載漏れや調査不足による誤った記載、調査しても分からなかったからなのでしょうか、記載や説明が義務とされている項目についての不備などは、未然に防止できます。
調査には相応の知識が必要とされますから、調査担当の習熟度によっては誤った見解や記載を意図せず行ってしまうこともあるでしょう。
そのようなことを未然に防ぐため、不動産会社のミカタで無償提供している「役所調査のミカタ」の利用をおすすめします(宣伝を意図してはいません。それだけこのアプリが秀逸だということです)
経験者であっても、調査漏れが生じることはあるものです。
ただし漏れがあればそれを再調査して正しく記載するのは当然です。
宅地建物取引業者にたいし、契約前までに宅地建物取引士による重要事項説明が義務付けられているのは、とかく不動産は権利関係や取引が複雑だからです。
調査漏れがあったからと言って、説明を省略して良い訳ではありません。
知識格差による弊害や消費者保護の観点から、専門知識と経験、相応の調査能力があると推定される宅地建物取引士により説明が義務付けられているのですから、その内容に不備があることについて容認されるはずなどないからです。
人間にウッカリはつきものですが、近場であればまだしも、遠方物件の調査などにおいては移動時間も馬鹿になりません。
調査漏れがあったことに後から気がついても、気軽に再調査できないこともあるでしょう。
そのような漏れ落ちを防止するためにも「役所調査のミカタ」を利用すれば良いでしょう。
筆者も愛用していますが、初心者はもとより経験者であるからこそ利用したいコンテンツです。
限りなく怪しい場合の対処法
さて、これまで解説した方法により調査をおこなった結果、共同媒介の相手が限りなく怪しい又は問題行動について懸念される場合はどうすれば良いでしょう。
違反行為が懸念される場合には、顧客保護の観点から了解を得たうえで取引を行わないとするのも一つですが、過去に問題があったというだけで取引を行わないという選択をするのは早計かもしれません。
このような場合には取引のイニシアティブ(主導権)を握ってしまうのが得策です。
もっともマウントを取れと言う訳ではありません。
共同媒介の場合、重要事項説明書や契約書の作成を行うのは売り手側業者による場合が多いものですが、売り手側・買い手側によらず相手方業者に懸念がある場合においては契約関連書類についてはこちらで作成するのです。
また連絡の頻度を密にして、問題が生じないようにフォローするぐらいの気持ちを持って丁度良いかもしれません。
解説するまでもありませんが共同で取引を行う場合、書面記載内容を含め一連の取引により問題が生じた場合、その原因が相手方による場合であっても責任を負う可能性があります。
取引の円滑な進行は、それに係る宅地建物取引業者すべてに科せられるからです。
そのために両当事者には相互に両当事者の交渉や調整、取引についての円滑なサポートを行う義務があるとされています。
このような理由から、初めての取引先についての調査はないがしろにしないことをお勧めいたします。
まとめ
今回は宅地建物取引業者の増加傾向には、新旧入れ替わりが背景にあるという実態と、それにより増加する初めての業者との取引前に心がけたい調査について解説しました。
併せて行政庁による処分の傾向についても解説した訳ですが、ネガティブ情報検索サイトを利用して処分概要を確認すれば分かるとおり、意図的ではないと思われる人為的なミスにより処分されているケースが多いのです。
そのような処分概要を見ると同情を禁じえませんが、私たちが扱うのは高額な不動産です。
記載事項については漏れなくかつ正しく記載し、法的に難解な定めについては通釈の及ぶよう説明する義務があります。
ウッカリミスを防止する手段を講じ、ミスのない業務を心がけたいものです。