最近、「節電方法」についてのネット検索が急上昇しているようです。
理由は2023年6月1日からとされる大手電力会社の規制料金値上げです。
規制料金は電力の小売自由化前から大手電力会社により提供されている電力プランです。
規制料金の値上げには経済産業大臣の許可を必要としますが、原子力発電の再稼働もままならず燃料費が高騰を続ける火力発電に依存したことにより生じた赤字の解消には値上げしか方法がないとして、大手電力会社が足並みを揃えるように許可を申請していました。
これにたいし2023年5月19日に経産省が大手電力会社10社のうち7社(中部・関西・九州の3社は託送料金の値上げのみを申請し、その値上げ幅が少なかったことからすでに認可済です)の値上申請を認可しました。
電力会社によって規制料金の値上げ幅はことなりますが、およそ14~42%の範囲とされています。
国の認可を必要としない低圧自由電力にしていても規制料金の認可を踏まえ値上げされましたから、どのような契約体系であっても実質的な値上げは免れないことになります。
これまでも段階的に値上げは実施されており、給湯や暖房など全てに電気を使用するオール電化住宅などは、消費者から電気料金が2倍近くになったとの声も聞こえていましたが、今後さらに負担が重くなることが予想されています。
このような情況から、住宅を新たに購入(もしくは借りる)される方はもちろん、電気料金の値上げで頭を痛めている方々も「省エネ」に注目するようになったのです。
このような情況から、今回は顧客からのありがちな質問である「節電」に関して解説したいと思います。
基本はこまめに電気を消すこと
家庭でできる節電の筆頭と言えば「こまめにスイッチを切る」ことです。
長時間使用しない電気製品についてはプラグを抜いておくのも待機電力の浪費を抑える意味において有効です。
待機状態による消費電力は機種や台数によって変化しますから一概には言えません。
ですが資源エネルギー庁によれば一般家庭における消費電力のおよそ5.1%であると推定されています。
資源エネルギー庁による試算では一世帯あたりの年間消費電力量の目安は4,432kwh/年としていますから、その5%といえば221.6kwhにあたります。
参考までに東京電力の2023年6月1日時点の従量電力Bで計算すれば約7,000円/年になります。
待機電力を抑制するだけで年間、これだけの節約になるのです。
またよくあるのが「ながらテレビ」。見てもいないのにつけっぱなしにしておくことはよくありますが、見ていないなら消してしまいましょう。
たとえば55型液晶テレビの場合、時間あたりの電気料金は2~4円です。
フルHDか4Kかによって消費電力も変わりますが、電気代目安は3,400~6,700円/年になります。
電気はこまめに消す・必要のない家電製品はプラグを抜く・見ていないテレビは消す。
たったこれだけのことで年間1~2万円程度、電気代を節約できるのです。
電気消費量の大きい家電と節電のために必要な小ネタを知っておく
前項で節電の基本について解説しましたが、次に電力消費量が大きな家電について考えて見ましょう。
分かりやすいのはエアコンと冷蔵庫でしょう。
どちらも快適な暮らしを実現するために不可欠な家電ですから、使用しないという選択肢はありません。
ですが一工夫するだけで節電は可能です。
まずエアコンについてですが、温度設定を夏は高め、冬は低めに設定するのが基本です。
ただし極端に過ぎれば健康に影響しますから程々が必要です。
不動産のプロとしては扇風機やサーキュレーターを併用する方法についてアドバイスしたいものです。
温かい空気は上に冷たい空気は下に行くのは感覚的に理解できると思いますが、これは「対流」と呼ばれる現象です。
これは温度や密度の違いによる流体(気体や液体など)運動のことですが、加熱された空気は分子が熱エネルギーで活発化し密度が低くなります。
これにたいし温度の低い空気は密度が高くなります。
これにより軽く温かい空気は上へ、冷たい空気は下へ沈んでいくことになるのです。
対流は時間をかければやがて均一になりますが、その動きはとても遅いものです。
住宅の省エネルギー分野において調査・分析をしている気鋭の専門家、東京大学准教授の前真之氏がその著書「エコハウスのウソ」で語っていますが、「空気は働きものじゃない」というのが現代の通説です。
自然対流のみで効果を得ようとするのは極めて不経済。
そこで扇風機やサーキュレーターを併用して強制的に撹拌するのです。
エアコンを暖房として使用する場合、設置位置はエアコン正面、かつ風の向きは天井。
冷房時においてはエアコンを背に風は正面壁側にむけます。
これにより冷暖房効率が高まりますので、節電に効果を発揮します。
また併せて利用したいのが太陽熱です。
夏場はカーテンで遮熱、冬場はレースまで開け可能な限り熱エネルギーを取り込みます。
太陽光が物体にあたると一部の光を吸収し、光エネルギーを熱エネルギーに変換します。
ご存じ「輻射熱」です。
室内を快適温度で保つには、この輻射熱をうまく利用することも大切です。
またフィルター清掃は2週間に1度は清掃を行って目詰まりを防止することにより、約4%もの節電につながると言われています。
また室外機の吹出口の前に物を置くと運転効率が下がりますので併せて助言したおきたいものです。
ついで冷蔵庫です。
ドアの開閉時間を短く、かつ不必要な開閉を行わないのは基本です。
また食品を詰め込みすぎない、熱いものは冷ましてから入れるというのが分かりやすい工夫です。
ですが不動産のプロとしては配置についても助言しておきたいものです。
見た目を意識するあまり、冷蔵庫を隙間なく設置しようとする方が多いのですが、それでは効率的な放熱ができなくなります。
旧式なものを除けば背面に隙間は不要ですが、側面については最低1センチ以上、上面は5センチ以上の隙間が必要だと覚えておきましょう。
開口部にも一工夫
熱はそのほとんどが開口部を通じ移動します。
つまり窓・玄関などからです。
とくに断熱性能を引き上げたいのは「窓」です。
根本的に断熱性能を引き上げるにはサッシを枠ごと高性能なものにしなければなりませんが、新築ならいざしらず既築住宅は大掛かりな工事が必要となります。
「大掛かりな工事はちょっと……」という場合にお勧めなのがインプラスサッシ。
つまるところ二重窓です。
これなら工事も一日で終了します。
手間としても施行時に邪魔となる窓まわりの家具を移動する程度です。
「空気は優秀な断熱材である」ことについては、温熱環境に興味のある方ならご存じでしょう。
インプラスサッシは内窓の性能はもちろんですが、既存窓と内窓の間にある空気層が断熱効果を発揮します。
これは空気の熱伝導性が極めて低いことによるもので、例えば木材の熱伝導率は0.140w/m・kにたいし空気は0.023w/m・kしかありません。
熱伝導率が低いほど断熱効果が高くなりますから空気は優秀な断熱材といえるのです。
賃貸の場合はさすがにインプラスサッシリを設置する工事はさすがに行えません。
その場合には遮光・断熱・保温性などの優れたカーテンを採用して窓まわりの断熱効果を引き上げましょう。
通常のカーテンより割高にはなりますが、熱を通さないフイルムが入っていたり表面がコーティングされているなど高い断熱効果を発揮してくれます。
その中でも究極と言われるのが空気層を断熱材として利用するハニカムブラインドです。
ZEH普及を目的として活動するPVソーラー協会のオリジナル商品(本部_茨城県)ですが、名称どおりハニカム(蜂の巣)形状の構造に空気を閉じ込めることで断熱性能を増したブラインドです。
写真のとおり見た目は和紙のブラインドにしか見えませんが、その中に空気を閉じ込めて断熱効果を高めている、いわば可変性断熱材と言える商品です。
住宅性能とデザイン性を競う様々なコンテスト(ハウス・オブ・ザ・イヤー・エナジーなど)などで受賞した住宅の採用実績も豊富で、筆者も窓からの冷気でお悩みの方に紹介して好評を得ています。
しがらみもありませんので宣伝する目的はありませんが、商品性能が高いのを実感していますので紹介させていただきました。
まとめ
筆者は以前、ご覧いただいている不動産会社のミカタで「売却理由はオール電化住宅だから!」というタイトルのコラムを寄稿したことがあります。
今回、この記事を書くにあたりインターネットで電気代高騰・悲鳴・オール電化住宅などをキーワードに検索すると、掲載記事が上位に出てきました。
それだけ電気料金の値上げに関して注目度も上がり、同時に「既築住宅を購入する選択肢としてオール電化住宅はアリなのか」について興味を持つ方がおられるということのなのでしょう。
旧型の電気タンクや蓄熱型暖房機の場合、COP1.0(定められた温度条件での消費電力1kwあたりの冷房・暖房能力を表したもの)です。
つまり1kwの電力で当価値の熱エネルギーしか生み出せません。
そのような機種を冬季にフルに利用すれば寒冷地などでは月の電気料金は10万円を超える請求金額になることもあります。
実際に筆者も電気代を安くするために何か良い方法はないかとの相談をよく受けますし、ネットニュースでもよく見かける話題ですから大げさな話ではありません。
COP3.0以上の性能を誇るエコキュートやネオキュートなどに交換すれば大幅に電気代を下げることも可能です。
そのような工事にたいし経済産業省・環境省・国土交通省の3省合同で2023年3月から実施している「住宅省エネ2023年キャンペーン」により補助金も支給されますが、例えば給湯にかんして言えば460Lもの貯湯タンクの交換です。
設置場所によっては建具を枠ごと外し、場合によっては壁を部分的に破壊しなければ交換できません。
そのような既築住宅については節電について提案をするのが現実的でしょう。
節電方法などに関しての知見を増やし、有益な提案できるようになればオール電化住宅を手掛ける際の足がかりができるでしょう。