国土交通省の指示により、各地方整備局等が賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者(マスターリース契約事業者)への立ち入り検査を全国一斉に実施し、その結果およそ60%もの業者に法令違反が確認されたと報道されました。
この結果については不動産業界はもとより一般の方も衝撃を受けましたが、情報が公開されたのはつい先月、令和5年5月15日のことです。
その報道を受け、筆者の知人である某賃貸オーナーから「そういえば、ウチのマンションを委託している会社からも定期報告が届いていない。不動産業者は皆、そんなものなのかね?」と業界全体への皮肉とも苦情であるとも言える相談を受けました。
確かに宅地建物取引業者の中には兼業として賃貸管理を手掛けている会社もありますが、そもそもの話として宅地建物取引業と賃貸管理業は遵守すべき法律もことなり、一括りで不動産業としてはならないと説明しましたが、どこまで理解してもらえたのやら……。
国土交通省によれば調査対象は全国97社とされており、対象は「事業規模を勘案した」としていますから具体的な企業名まで公にされていませんが、それなりに名のしれた業者ではないだろうかと推察されます。
賃貸住宅の管理業務の適正化に関する法律が施行されたのは令和3年6月のことですが、令和4年度末現在として国土交通省が把握している賃貸住宅管理業者の登録会社は8,943社とされています。
ですが実際に管理を手掛けている会社はこの程度ではありません。国土交通省が把握しているのは、あくまでも登録が義務となる管理戸数を抱えている事業者に過ぎないからです。
賃貸住宅管理業の登録義務は「事業規模が、当該事業に係る賃貸住宅の戸数その他の事項を勘案して国土交通省令に定める規模未満であるときはその限りではない(同法第三条)」とされ、規則第3条により200戸とされています。
つまり本業としてではなく、少数の管理だけを手掛けている会社も含めれば、その数はいったいどのくらいになるのでしょうか。
そもそも売買や賃貸の斡旋に必要な宅地建物取引業免許は不要で、管理戸数が200戸未満であれば登録も必要ありません。
無論、管理戸数によらず管理を業とした場合には「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の遵守を求められますが、その認知度はどれほどのものでしょうか?
それなりの規模であると推定される業者にたいしての是正指導が、調査対象の60%にも及んだという結果を見る限り、登録を要しない規模で事業を営んでいる会社の状態については容易の想像できます。
「管理を扱う予定はないから関係ない」という意見はあるかも知れませんが、不動産業を営んでいれば様々なしがらみから引き受けざるを得ないこともあるでしょう。
一般の方からすれば、不動産業者と管理業者の違いも理解されていないのですから。
今回は公開された是正結果をもとに、賃貸管理を取り扱う場合の注意点について解説いたします。
今後、厳格化が予想される国土交通省の決意表明
具体的にどのような違反が確認されたのでしょうか。
もっとも多かったのが「管理委託契約締結時の書面交付」です。
次いで「書類の備え置き及び閲覧」、「管理受託契約締結前の重要事項説明」となっています。
国土交通省によれば、これらの違反は意図的に行われている悪質なものを除いては法に関しての知識不足や従業者への周知徹底がなされていないことにその原因であるとしています。
ですが今回検査対象にされた大手業者がそのような状態であるのなら、それ以外はいかほどなのだろうと不安にもなります。
今回の立入検査は法施行後およそ2年経過したタイミングで、法に係る法令の遵守状況を確認するとともに、認知度合いの確認を通じ、法に関する資料の周知・徹底を促すことが目的でした。
それを裏付けるように国土交通省は、引き続き立入検査等による法令遵守の指導を行うとともに、悪徳な管理業法違反に対して「法に基づき厳正かつ適正に対処していく」と、決意表明であるとも受け取れる声明を発表しています。
少ないながらも管理を手掛けているのなら、気を引き締めて再度、法で定められている内容を確認しておく必要があるでしょう。
違反内容の詳細
国土交通省は具体的な指導(抵触した根拠法)件数について以下のように報告しています。
少ないものでは定期報告義務違反や特定賃貸借契約重要事項説明義務違反(各2件)などがあり、その他、誇大広告や標識提示義務(各4件)が見られますが、これらは立入検査でよく指摘される内容ですので特段の解説は不要でしょう。
以外に多いのが従業者証明の携帯義務違反(15件)ですが、これもありがちな話です。
ここでは特に違反の多かった管理受託契約締結前の重要事項説明とその書面交付に注目したいと思います。
先述しましたが、賃貸住宅管理業を営む管理戸数200戸以上の事業者には国土交通大臣への登録が義務とされています。
賃貸住宅管理業は賃貸人から委託を受け「賃貸住宅の維持保全を行う業務」及び「家賃・敷金・共益費その他の金銭の管理を行う業務」とされており、このうち金銭の管理のみを扱う場合には賃貸管理業には該当しません。
維持と金銭管理の双方を業務として取り扱う事業者です。
賃貸住宅管理業者には営業所又は事務所ごとに「業務管理者」を1名以上配置する必要があり、宅建士の従業者5名のうち1名とされるような人数にたいしての配置義務ではなく、人数によらず1名以上配置すれば良いとされています。
さてここで管理受託契約締結前の重要事項説明に話を戻しますが、管理受託契約を締結しようとするときは賃貸オーナーである賃貸人にたいし、管理受託契約の内容及びその履行に関する事項について書面を交付して説明しなければなりません。
これが重要事項説明(法第13条)と書面交付(法第14条)になる訳ですが、売買の重要事項説明とは異なり、必ずしも管理業務者による説明を行う必要はありません。
つまり賃貸住宅管理業者に属する従業者であれば誰でも行えるという理屈です(一定の実務経験や専門的な知識を有する者が好ましいとはしていますが、あくまでも推奨です)
重要事項説明において必要な記載項目は以下の通りです。
語弊があるかもしれませんが、売買や賃借人の媒介行う宅地建物取引業者と比較して管理業務はハードルが低いと感じられる方も多いのではないでしょうか。
それなりの業務を手掛けている98社のうち約60%が是正指導されたのも、このような緩さゆの甘えがあったのかも知れません。
必要な情報はすべてポータルサイトから入手できる
前述したように管理戸数が200戸に達していなければ国土交通大臣への登録は必要ありません。
ですが、登録を要しない件数だから賃貸住宅管理業法を遵守する必要がないという訳ではありません。
管理を手掛ける場合には、たとえ1件であっても遵守が求められます。
実際、売買や賃貸斡旋を広く手掛ける不動産業者が賃貸オーナーに委託され、それほど多くはない件数の管理を手掛けているかたもおられるでしょう。
主業であると考えていなければ「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」について疎いのも仕方がありません。
ですが、何か問題が生じた時、「そんな法律があるなんて知りませんでした!」などの言い訳が通用するはずもありません。
手掛ける以上は守らなければならないルールが存在します。
とくに「かぼちゃの馬車」事件で一躍注目され、一般の方でも知ることの多くなった特定賃貸契約(サブリース)については賃料減額や解約拒否を原因としたトラブルが多発したことにより、2020年12月から「不適切なサブリース業者等の広告・勧誘等への規制」が施行されています。
管理を主業としてはいなくても、賃貸管理はもちろん、サブリースについての相談を受けることもあるでしょう。
そのような場合には、法に準拠する契約書や重要事項説明書を使用しなければならないのはもちろんですが、勧誘方法や必ず説明しなければならない内容などについても厳格に定められています。
特定賃貸契約書や賃貸住宅標準管理受託契約書のほか特定賃貸契約の重要事項説明書などについて、その雛形を有していない場合もあるでしょう。
そのような各種書類の入手も含め、詳細な内容を確認したければ国土交通省が運営する「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」を利用しましょう。
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/pm_portal/administrator_duties.html
現在は管理を手掛けていない方であっても、知識を拡充する意味で一度は閲覧し、今後に備えておく心構えが必要ではないでしょうか。
まとめ
あくまでも建物維持管理や各種金銭についての管理だけを業とした場合、宅地建物取引業免許は必要ありません。
管理戸数200戸を超えていなければ登録も義務とされていないのですから、その範囲内であれば登録もましてや宅地建物取引業免許も有していない個人が、管理業者であると称してビジネス展開できるのです(もっとも、当人が業務管理者でなければなりませんが)
そのような実態もあることから、国土交通省もその実数を把握できていないのです。
登録している賃貸住宅管理業にたいしては、賃貸住宅管理業法により違反者に対して1年以下の懲役や100万円以下の罰金・業務停止命令などを含む各種行政処分が定められていますが、その大半は登録業者にたいするものとして策定されています。
もちろん管理事業者として活動する個人などにたいしても、賃貸住宅管理業法の適切な運営を確保する必要があると認められるとき、国土交通大臣は報告徴収や立入検査などを行い、行為者にたいし各種行政処分を行えるとしてはいます。
ですが強行規定としては何とも曖昧な定めであることは否定できません。
だからといっておざなりにして良いというものではありませんが、たとえ登録不要の件数しか扱わないにしても、定められた関連法に精通し正しく業務を行うことが必要です。
今回の是正指導結果を踏まえ、管理を手掛けている方はもちろんのことそれ以外の方も最低限として法律の概要を理解し適切に業務を営むよう留意したいものです。