筆者は不動産コンサルタントとして一般の方から相談を受けていますが、新人向け教育訓練を目的とした業務研修も行っています。
その際に知り合った若手の不動産営業からも様々な相談を受けることがあります。
そのような経緯で知り合った若手営業マンから、つい先日「解体後の物件を媒介し取引も終了しているのだが、重要事項説明で行った宅内の引き込み管(水道)が、説明をした口径と異なっていたことからクレームとなり困っている」との相談を受けました。
詳細を聞き取りながらも重要事項説明書に添付された「給水分岐管管理図」を確認すると、思い込みによる説明がなされていたことが分かりました。
当該地に接するのは位置指定道ですが、公道に埋設された本管から流量測定室まで口径30mmが埋設され、私道と隣接する直前の止水栓で口径20mmのVP管(塩化ビニール管)にジョイントされています。
当該宅地内へはそこから分岐された13mmのCOP(銅管)で引き込まれています。
当該宅地内に20mmで引き込まれていれば問題はなかったのですが、解体前の建物が築50年にであったことから、メーター交換や引込管増径工事を行わず従来の13mm管を利用していました。
これは給水分岐管管理図で確認できる内容です。
ですが、現地調査の時点では解体工事も終了して更地になっており水道メーターも撤去されていました。
つまり現状を確認できない状態です。
そこで敷地内引込配管については「無し」と説明したのですが、実際には宅地内の止水栓まで13mm銅管で引き込まれていました。
それが事実と異なるとしてクレームになったのです。
解体業者は、13mm管では新築する際に要をなさないだろうとの気配りから既存メーターの撤去申請を行ったのでしょうが、現地確認を行いメーターが撤去されている事実は確認していたとしても、
「メーターが撤去されていれば同時に敷地内配管も撤去されている」というのは営業マンの思い込みに過ぎません。
メーターはあくまで貸与物ですからその撤去は水道局が行いますが、敷地内配管は土地所有者の所有物ですから、解体業者に撤去を依頼していない限りはそのまま残されるのが通常です。
ですから相手方が主張しているように宅地内に13mm管が引き込まれている事実は動かしようがありません。
説明としては給水分岐管管理図のとおり敷地内引込を13mm管としたうえで、不動産会社のミカタから提供されている下記「役所調査のミカタ」の記載例を参考にして特記事項を記載しておけば問題も生じなかったでしょう。
各種引込管等は将来的には取替えが必要かも?
ライフライン(電気・ガス・上下水道)対象不動産建物について増改築、再建築を行う際、既設の飲用水・ガス引込管、水道メーター、汚水・雑排水の排水管および排水設備等(以下総称して「各管および設備」という。)について、後記工事が必要となる場合があり、工事には費用が生じます。
なお、飲用水の引込管の取替えや新設を行うときには、工事費用等の他に、局納金を納付する必要があります。(水道メーターの新設や増径を行うときは、局納金以外に水道利用加入金も必要になります。)
(1)既存管の老朽化による各管および設備の取替え
(2)飲用水の引込管の口径(容量)不足による管取替え
(3)水道メーターの口径(容量)不足によるメーター取替えおよびそれに伴う引込管増径工事
(4)飲用水・ガスの引込管の管種変更のための管取替え
(5)その他、予定建築物の規模、位置・間取り等による各配管位置変更、または各管および設備の撤去・新設
残念ながら相談のケースでは説明責任を免れることはできません。
撤去を含めメーター新設費用や引込管増径工事の費用について折り合いのつく範囲で負担する旨を申出て、円満に解決するのが得策だと回答しました。
これと同様のケースは珍しい話ではなく、従来はそれほどの水量を必要としていなかったことから古い住宅に13mm管が引き込まれていることは多いものです。
買主が更地を購入する目的の多くは、その建物を建築することですから宅内への引込口径は切実な問題です。
よくある話ですが二世帯住宅を建築する際、世帯ごとの生活費をはっきりとさせるため、水道メーターを増設したいとの話が出ます。
ご存じのように、その場合には前面道路に埋設されている水道本管からの引込が新たに必要になるため、その距離によって金額は変わりますし、申請費などの諸々だけでも最低で25万円以上必要になります。
今回はこのようなミスを防止する観点から給水分岐管管理図の読み方と、現地調査の注意点について解説します。
水道調査手順について
さて前項のケースで営業マンは手順どおり調査を行っていましたが、現地で水道メーターが撤去されていたことから宅地内配管を「無し」と説明して問題が生じました。
水道管の調査は敷地内配管と前面道路配管について、それぞれの有無と配管種別・位置・深さ・口径を確認することです。ちなみに敷地内の分水栓までは水道局、それ以降、敷地内配管(給水装置)の所有権は個人となり、その管理は個人が負担します(ただし宅地内であってもメーターや受信機は個人の所有物にはなりません。水道局からの貸出物になります)。
調査は基本的に水道局もしくは管轄部署で給水分岐管管理図(写し)を取得し、それを持って現地に趣き整合性を確認します。
その際には、前面道路の埋設管の位置・口径・材質、ついで敷地内への引き込み管の位置・口径・材質、そして私設管の有無のほか、位置・口径・材質についてを確認します。
ちなみに給水分岐管管理図については、東京都を初めとした一部の地域で電子閲覧が可能となっています。
例えば東京都の場合、利用できる対象者は私たち宅地建物取引業者のほか建設業許可・不動産鑑定業者の登録・建築士事務所の登録をしている方に限られています。
登録が受理されれば発行されたログインIDとパスワードによりサイトを利用し、水道局に出向かずとも図面が閲覧できます。
余計な移動時間や手間が省けますので大いに利用したいものです。
事前準備の重要性
給水分岐管管理図などを取得してから現地調査を実施しますが、その際には水道管だけではなく敷地と道路との取り合いや境界鋲・電気・ガス・汚水・雑排水・雨水についての調査・確認が必要です。
現地調査に出向く前には事前にこれらについての整合性を確認するために必要な各種図面を取得しなければなりません。いわゆる役所調査です。
現地調査の目的は各種図面と現状に齟齬がないかを確認するのも目的の一つですから、事前準備が大切なのは言うまでもありません。
項目が多すぎて何から調査すれば良いのか戸惑うことがないよう、無料で提供されている「スマホで役所調査メモ」などのアプリも活用し、漏れ落ちのない事前調査を行うことが大切です。
覚えておきたい記号の意味
埋設されている配管の口径を目視で確認することはできませんから現地では図面が頼りになります。
給水分岐管管理図は全ての管が線で表示されていますが、下記のように表示されている線種で口径の違いが確認できるようになっています。
もっとも一般的な住宅地の本管は50mm以下である場合がほとんどでしょう。
そこから測量測定室や止水栓を経由して30もしくは20mmなどの口径に分岐され敷地内に引き込まれます。
敷地内に設置される水道メーターも、この引き込まれる配管の口径サイズに合致していますが、一般家庭の場合は20・25・30のいずれかでしょう。
口径を引き上げれば一度に使用できる蛇口の数(水量)も増加しますが、基本料金も利用する水量に関わらず増額されますので太ければ良いというものではありません。
管の種類には亜鉛メッキ鋼管や塩化ビニル管・ステンレス管など様々なものがあり、材質により特徴もことなると当時にデメリットも生じます。
もっとも、本管の管理や交換は水道局の管轄ですから、気にするのは敷地内配管だけです。
使用されている管の種類については下記に掲載されている記号で確認できます。
図面には配管種別以外にも、仕切弁や空気弁、止水栓や25mm以下の水道メーターなどが記号により表記されています。
全てを覚える必要はありませんが、基本的なものだけ覚えておけばひと目見て判断できるようになるでしょう。
特に注意したい他人管埋設と他人地利用のケース
水道管の調査で注意したいのは、更地などの場合も水道メーターや敷地内への引込の有無・口径や管の種別のほか、前面道路が私道である場合の私設管についてですが、それだけではありません。
旗竿地などの場合に多い「他人地埋設」や「他人地利用」について注意が必要です。
例えば下記図のような場合、建築物Cは公道から直接敷地内へ引き込む工事は可能ですが、建築物Bについては、どのように考えても他人地を利用せず水道を敷地内に引き込むことはできません。
そもそも建築物Bの敷地は囲繞地ですから再建築は不可ですが、居住していれば水道を利用します。
後先を考えず分筆して販売できれば、後のことはなるようになるとして販売された事例ですが、似たようなケースは古い住宅地の場合よくみかけます。
建築物Aの売却を手掛ける場合には、買主が将来において不利益を受けることがないよう、売主の責任においてB・Cの水道分岐状態をクリアにしておく必要があります。
新たに引込工事を行うのが最善ですが、費用などの面ですぐに無理な場合には覚書などを締結して、建替時には引き込みをしなおす旨について約定しておく必要があるでしょう。
まとめ
今回は説明内容と実態に齟齬があったことによるクレーム事例から、水道調査について解説した訳ですが、この例によらず思い込みや表記ミス、分かりづらい表現であったことが災いしてクレームに発展することは多いものです。
特記事項などについての模範的な表記例は、記事中で紹介した「役所調査のミカタ」記載例文集を参考にしていただければと思いますが、例えば地積測量図が法務局に備えられていたとしても、古い時代、具体的には昭和30年~50年頃に作成されたもののほとんどは寸法が「間」、面積は「坪」で表記されています。
さらに寸法も5~10センチ単位で表記されているなど、現在の測量レベルから見れば驚くほど精度が低いものです。
そのような場合には現地調査時に仮測し、精度が疑われる場合には事前にその旨を説明しなければなりませんが、図面自体が存在し現地調査を実施していれば、調査不足を糾弾されるいわれはありません(実測した方が確実である旨の助言は必要でしょうが)
原則論にはなりますが、宅地建物取引業法において重要事項説明義務は過失責任と解されています。
つまり説明義務違反であると糾弾するためには故意又は過失により説明を怠っていたという事実が必要であり、無過失による責任まで負うものではありません。
必要とされる図面を取得し、特段の疑うべき事情がない部分について実際との齟齬が生じても、ただちに義務違反とされる訳ではありません。
ですが、余計なクレームを受けることは本位ではありませんから、漏れ落ちのない調査を心がける必要があると言えるでしょう。