【分筆前の土地で一部だけを売買することはできますか?】一物一権主義にたいする誤解

『一物一権主義』という用語をご存じでしょうか?

「一つの物の上には、同じ内容の物件は一つしか存在せず、また一個の物件の客体となるのは一個の独立の物のみ」という民法第175条の定めによる基本原則です。

土地を例に上げれば理解しやすいと思いますが、一筆の土地にたいし「所有権」という物権は一つしか存在しません。

「共有持分があるじゃないか!」と思われるかも知れませんが、それは共有持分権を複数人で持ち合っている状態に過ぎず、一物一権主義に反していないのです。

私たちは日常、不動産を「物件」と称していますが、本来の意味としては「物」、つまり物品全般を指す言葉です。物件と言われて不動産を思い浮かべるのは、法的な取り扱いの特異性や慣習として根付いているからに過ぎません。

今回、解説するのは「物権」ですが、「物件」と「物権」、読みは同じですが意味するところはまったく違います。

物権は所定の物を支配する権利のことだからです。

一つの物にたいし支配権は一つ。

これは感覚としても理解できると思いますが、それでは一筆で広大な面積を有する土地について、その一部だけを分筆せずに売買すること、それにより購入者は所有権を取得することはできるのでしょうか?

分筆を行っていない土地であれば、売買により一筆の土地の所有権者が2名存在することになりますから、基本原則である一物一権主義に反することになります。

ですが答えは「できる」です。

その理由については後述しますが、今回は少し不思議な「物権」についての考え方について解説したいと思います。

物権の種類

物権は物を支配する権利ですから、所有権に限らず占有権、地上権、質権、借地権、先取特権などが挙げられます。

もっとも物権は民法第2編で定められている以外、新たに創設することはできません。

ですから「物権」の数は限定的だと言えます。

研修などで一物一権主義について説明していると、「所有権以外に抵当権が設定されているじゃないですか。それに抵当権は一つの不動産にたいし複数設定されていることもありますよね?」と質問されることがあります。

一物一権主義を狭義に捉えれば、所有権が設定されている物権にそれ以外の物権が設定されることは原則に反すると考えてしまいます。

ですが、これらはまったく違う性質の物権です。

「同じ内容の物権」が一筆の不動産に存在していることにはなりません。

つまり一物一権主義という原則があっても、同じ物権でなければ一つの不動産に存在することが認められるということです。

続いて抵当権という物権が一つの不動産にたいし複数存在し得る理由を考えてみましょう。

ご存じのように抵当権には一番、ニ番と順位が定められています。

これによりそれぞれが異なる物権となるからです。

ただし、一物一権主義にも例外は存在します。

例えば分譲マンションにおける区分所有権です。

一棟の建物である不動産にたいし、区分された部分ごとに複数の所有権が存在している状態ですが、これは区分所有法という特別法が存在しているからです。

法の基本原則となるのは憲法ですが、わずか103条(執筆時点)では全てを包括することはできません。

そこで憲法のほか民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、商法も含めた六法が存在し、さらにそれらを補完する意味合いで様々な法律が存在します。

法条文にはお約束のように「その他定めがある場合を除き」との一言が盛り込まれていますが、この他の定めに該当するのが特別法で、これは一般的な法律や規制では適切に対応できない、特別な事象に限って適用される法律です。

事象に該当する場合には特別法が優先されますから、一棟の建物である不動産にたいし複数の所有権が存在しても問題がないのです。

一筆の土地の一部だけを分筆せず売却できる理由

ミニチュアハウス ,芝生

冒頭の、分筆前の土地についてその一部だけを売買できる理由について考えてみましょう。

これが行われると一筆の土地にたいし所有者が複数存在することになります。

ですから一物一権主義に反すると考えがちです。

筆数が複数交差する広大な原野を思い浮かべてください。

この場合、筆数の有無によらず、目に入るのは連続した大地です。

測量図図面などを手に境界標(設置されていればですが)を確認しなければ、一見しただけで筆ごとの所有権がどこまで及んでいるのかを把握できません。

登記簿に記載される一筆は、人為的に区分された個数です。

ですが売買契約においては筆単位で契約しなければならないとはされておらず、必要な範囲を自由に定めることができる契約自由の原則が存在します。

日頃、筆単位で契約している私たちからすれば不可思議な考え方に思えますが、昭和30年の最高裁による判断において「売買の当事者間において具体的に特定している限りは、分筆手続未了前においても、買主は売買により『その土地の一部』につき所有権を取得できる」とされているのです。

ただし、売買により所有権は取得できても登記はできません。

2024年4月1日から相続により不動産を取得した相続人にたいし、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務化されますが、あくまでも原因が相続である場合のみの規定です。

一般的な売買による場合などの登記に関しては、従来どおり任意のままです。

所有権を取得しても、登記しなければ第三者への対抗力が発生しません。

要するに、分筆しなくても一筆の土地の一部を売買することは可能で、それにより所有権も取得できるが登記をすることはできない。

結局のところ第三者への対抗要件を具備するため分筆と所有権移転登記を検討する必要があるのです。

登記と物権は別物と理解する

ビジネスマン,電球

物権が所定の物を支配する権利であることは先述しましたが、これは契約などに基づき成立する法的概念に過ぎません。

書面によらず「売ります・買います」の諾成でも契約は成立しますが、それでは「聞いた話と違う」などと紛争を誘発しかねませんから、内容を証する書面として契約書を作成しているだけなのです。

余談になりますが、民法の考え方を解説しておきましょう。

第176条で「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定められています。

これを通俗的に説明すれば、動産・不動産に関わらず売買契約(意志が表示された)が成立した時点で物権の設定及び移転が効力を発揮することになります。

つまり物理的な引き渡しや代金決済が未了の状態であっても、契約と同時に所有権を始めとする物権は移転してしまうということです。

ただしこれは法的な意味合いにおいて物権が移転するだけであって、第三者に対抗できない不安定な状態です。

対象が動産であれば物の受け渡しを持って所有権を主張することもできますが、持ち運べない不動産は物権を有しているだけではそれを証明するのは困難です。

そこで民法第177条で「不動産に関する物権の変動と対抗要件」が定められ、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他法律に定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」としているのです。

所有権を移転してもらうには、登記義務者(売主など、登記により不利益を受ける者のこと)の協力が不可欠です。

代金が支払われてもいないのに協力する登記義務者はいませんから、法的に契約により物権が移転してはいても、代金請求権があり、かつその支払を確認してからでしか登記に協力しない(もちろん、移転していないのですから登記により対抗要件は具備している訳ですが)とできるのです。

まとめ

今回は一物一権主義を題材に「物権」とは何か、そして登記との関係性について解説しました。

何とも理解しづらい内容になってしまいましたが、私たちが疑問を抱かず行っている一連の取り引きでも、それを紐解いていくと様々な法律が複雑に絡み合っていることが分かります。

民法が主となることは疑いようもありませんが、宅地建物取引業法や建築基準法、都市計画法や不動産登記法に国税法など数え始めればきりがないほどです。

これらの法律全てに精通することはさすがに困難ですが、時に疑問な部分を掘り下げ六法全書片手に思索に興じるのは自己のスキルアップに役立つことでしょう。

営業マンにも差別化が求められる昨今、学びが無駄になることなどないのですから。

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