様々に行われている類似アンケート結果によれば、不動産広告はおよそ8割以上がインターネットを利用しているとされています。
調査対象や件数などにより平均値も変化しているようですが、集客にネットが欠かせないという根本的な部分について、もはや異論を挟む余地がないと感じられるほどです。
ネット広告を大別すれば、自社で掲載や更新・運用までをこなす物と、外部メディアなどの力を借りる物に大別されるでしょう。
前者は自社のホームページを筆頭に各種ポータルサイト、You Tube動画の配信などが該当します。
後者は検索エンジンの結果と連動して表示されるリスティング広告のほか、自社サイトに訪れたユーザーを追跡して他のサイト閲覧中に広告を配信するリターゲティングなどが含まれます。
どちらが優れていると簡単には評価できませんし、費用対効果についても一概には判断できる訳でもありません。
自社の広告宣伝費や求める結果などの効果を検証しながら、時代の変化にあわせ試行錯誤していくほかないのでしょう。
費用対効果で言えば、個人として気軽に発信できるSNSを集客目的として利用している方が一定数以上存在しています。
例えばフェイスブックやインスタグラムを覗けば、個人として物件紹介やオープンハウスの案内、物件内部を動画で紹介しているケースです。
ご存じかと思いますが、個人としての投稿であっても実体が不動産広告の体であれば例外なく不動産公正競争規約や景品表示法の規制対象とされます。
ですから公のルールに反していれば勧告・罰金などの対象になるのも当然です。
このようなSNSで情報発信する場合の注意点については、令和5年6月1日から公開されている不動産会社のミカタ『【SNSでの不動産広告の規制】SNSだからと甘く考えてはいけない理由(前編・後編)』との記事で詳細に解説しています。
詳しくお知りになりたい方は下記URLから一読ください。
さて、今回取り上げたいのは本年(令和5年)10月1日から施行されている『改正景品表示法』についてです。
改正法ではとくに『ステルスマーケティング』の規制が強化されています。
SNSによる情報発信は費用もかからず、誰でも気軽に利用できるのが利点です。
情報の発信内容を工夫すれば効果も十分に期待できるのですから、個人営業が主体である不動産業ではとても有り難い物です。
SNSはX(旧ツィッター)やフェイスブック・LINEのように写真・文字が中心になる物と、Instagram、TikTok、YouTubeのように画像や動画、つまりビジュアル要素が強いものに大別されますが、どれを広告目的に利用するかは求めるターゲットや使い勝手、相性を勘案し自由に選択すれば良いのですが、それらを利用して広告を行う場合、不動産公正競争規約や景品表示法などに抵触しないこと、さらに言えば強化されたステルスマーケティング規制に該当しないことが絶対条件となります。
そこで今回は消費者庁から公開されている『事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック』を参考にSNSで広告を行う場合に注意したいポイントについて解説したいと思います。
ステルスマーケティングってなに?
ステルスマーケティングを端的に表現すれば「広告であるにもかかわらず広告であることを隠している広告」と表現するのが妥当でしょうか。
つまり賃貸・売買物件について表示した場合、それが法人・個人を問わず事業者によるものであると一般の方が判断できれば良い(当然に不動産公正競争規約や景品表示法などの規制を受けます)のですが、そうではない場合は不当表示に該当します。
もっとも分かりやすいステルスマーケティングとしては、口コミサイトのレビューでしょう。
例えばアマゾンで商品を選ぶ際、5段階の☆評価を参考にする方は多いでしょう。
同額で機能やデザインに遜色がなければ、より評価の高い方を選ぶ方が多いのではないでしょうか。
商品を実際に購入した方々の意見であると認識され、購入検討者としては少なからず参考になると考えるからです。
食べログの評価を判断基準として店舗を選択する場合も同様です。
ただしその前提として、実際に利用した方々の真摯な意見であることが求められます。
ガイドブックでも『広告であることが分からないと、消費者が商品を自主的かつ合理的に選べない』点について警告を発していますが、そのとおりです。
フォロワー数の多い、いわばインフルエンサーと呼ばれる方が「◯◯不動産から紹介された物件は最高‼」なんて投稿すれば宣伝効果は高い。
それが真摯な意見なら良いのですが、実際に購入や利用もしていないのに上質なものであると投稿したのなら問題です。
副業を検討している方に利用者の多いクラウドソーシングサービスなどにおいては、よく口コミサイトへの書き込みを有償で募集しているのを見かけます。
これらは広告の体裁ではありませんが、相応に宣伝効果を発揮し、それにより実際よりも優良だと誤認させる結果になりかねません。そのような行為はステルスマーケティングに該当するのです。
処罰対象は事業者
媒体を問わず不動産広告に該当する場合、すべからく不動産公正競争規約や景品表示法の対象となります。
そのため表現や掲載内容についてルールを遵守する必要はありますが、言い換えればそれらを遵守している限り問題は生じないともいえます。
それではステルスマーケティングの場合はどうなるか。
じつは書き込んだ人間、例えば依頼され書き込みしたインフルエンサーなどは処罰対象とされません。
対象は商品・サービスを供給する事業者になるのです。
ステルスマーケティング告知についての管轄は消費者庁ですが、調査の結果として違反行為が認められた場合、措置命令が発せられます。
具体的には違反表示の差止め、再発防止策の構築などについての命令ですが、表示内容に優良もしくは有利誤認が確認される場合、景品表示法の措置が合わせて講じられるのです。
遵守しなければならない理由
法律では『契約自由の原則(私的自治の原則)』が定められています。
契約は当事者の合意により成立するのだから、それにたいし国家は干渉せずあくまでも自由意志を尊重するという原則です。
ただし企業と個人の契約行為においてはとくに、個人間であっても情報の量や質、交渉力には差が生じるのが一般的ですから、常に対等な関係で契約が成立するとは言えません。
そこで実質的な平等を図り、社会的・経済的弱者を保護するため契約自由の原則も制限され、例外的な特別の制度が設けられているのです。
ただし、契約自由の原則を修正するだけでは不完全です。
一般消費者が誤認しないよう、商品を提供する側にたいし表示や広告方法などのルールを設け、適切に情報が提供されるよう配慮しなければなりません。
この表示にたいしてのルールが景品表示法であり不動産公正競争規約なのです。
景品表示法は、不当な表示によって消費者の利益を害するおそれがある場合に、消費者庁が措置を講じることができる目的で制定されているのにたいし、不動産公正競争規約は不動産公正取引協議会連合会により自主的に制定された規約です。
ただし自主的な制定ではあっても規約に違反した事業者にたいする警告や違約金を課すなどの是正措置を行うことが認められています。
これは景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)第31条の定めに基づき、不動産公正取引協議会連合会が内閣総理大臣及び公正取引委員会の認定を受けているのです。
つまり不動産公正競争規約はたんなる団体としてのルールとして定められているのではなく、根拠法として景品表示法があるということです。
事業者が第三者になりすまして行う表示とは
ステルスマーケティングであると判断された場合、その処罰は投稿をした個人ではなく事業者に及ぶことについては前述しました。
これらは客観的に見て、第三者の自主的な意志による表示内容と認められない場合が判断基準となります。
当然にサービスを利用した顧客が、心から満足して意見を寄せているものまで取り締まろうと言う趣旨のものではありません。
それでは事業者の表示とする判断基準はどのようになっているのでしょうか。
まず事業者が自ら行っている表示は当然として、『事業者と一定の関係性を有する者』つまり従業員や子会社の人間などについても、地位や立場、権限や担当業務、表示の目的などの実態を踏まえ総合的に考慮して判断するとされています。
つまり従業者が企業の了解を得ず自己の判断でステルスマーケティングを行った場合、直ちに企業に害が及ぶことはありませんが、その可能性は十分にあるということです。
例えばフェイスブックを利用してのオープンハウスの告知。
営業個人として繋がっている方にたいしての告知なのでしょうが、数点の写真と価格・住所程度の情報は記載されていても交通機関や土地建物㎡数に用途地域など、およそ不動産公正競争規約で定められている情報が欠落しているのをよく見かけます。
文字数の問題で全てを記載できない場合、詳細な情報が確認できるリンク先などを貼り付けるなどの措置をすれば良いのですが、それすらもされていない。
酷いときには取引態様も記載されていませんから、売主なのか媒介なのかすら判断できない状態です。
事業者であれば広告に記載しなければならないルールは少なからず把握しているでしょうから、これは営業マン個人が会社の了解も取らず自己の判断で告知している可能性は高いのでしょうが、その場合でも企業は「従業員が了解も得ず、勝手にやったことだから‼」では通用しない可能性があるのです。
また事業者が明示的に依頼・指示を出して第三者に表示させた場合や、そうではない場合であっても第三者との関係性や提供する対価の内容によっては、表面上利害関係がないように装ったとしてもステルスマーケティング、つまり事業者による広告だと判断される場合があるのです。
意図的にステルスマーケティングを行う場合は別として、痛くもない腹を探られることがないよう備えるためには、消費者庁から提供されている下記『管理上の措置の指針』を読み込んでおくのが良いでしょう。
景品表示法第26条で事業者には「不当表示等を起こさない体制整備を行うことが義務」とされていることを理解して、取り組む必要があるということです。
まとめ
他社に先んじて多くの物件を販売したい、より多くの優良な売り物件を確保したいと考えるのは、不動産業者の皆が思うことです。
どちらもが売上に直結するのですから当然ですが、この思いは実質的に個人商店の特色を持つ不動産営業についても同様でしょう。
問い合わせを増加させるためには他社より注目を浴びなければならない。
そのため情報発信の媒体を吟味して、キャッチなどの表現についても目を引くフレーズを考える。
それは事業者として当然の行為なのですが、そこには厳然たるルールが存在します。
何をしても結果が出れば良いという無法状態ではありません。
とくに「広告であるにもかかわらず広告であることを隠している広告」、今回解説したステルスマーケティングについては改正が強化されたことを理解して、意図せずルールに違反することがないよう留意したいものです。