【認知率が4割未満って本当?】不動産のプロを自認するなら、必ず抑えておきたい改正空家対策特措法について

不動産に関してのクラウドサービス事業を手掛ける『㈱いえらぶGROPU』が、2023年12月11日に公開したアンケート結果を見ると、『改正空家対策特措法』について不動産業者の認知率の低さが確認できます。

偏差はあるのでしょうが、都心部の業者では約7割が「知らない」と回答しているのを見ると、顧客からの相談にたいし対応できているのか不安を覚えます。

改正空家対策特措法

出典元:改正空家対策特措法を知っている不動産会社は40%未満、都内では30%に届かず|空き家に関する状況調査(いえらぶGROUP)

同じアンケートで空き家の相談や取引件数についての質問をしていますが、地方圏では73.9%、都市圏で60.2%もの方が「増加している」と回答しています。

ですが、本格的に増加するのはこれからです。

前回(平成30年)の総務省による土地統計調査で全国の空き家数は849万戸とされていますが、野村総合研究所の試算によれば、2038年には2,303万戸にまで増加するとされています。

この数は全住宅件数の、およそ31.5%にあたります。

空き家及び空き家率の推移

改正法は令和5年12月13日からの施行されていますが、来年(2024)4月には相続登記も義務化されます。空家相談が本格化するのは、それ以降からでしょう。

否応なく今後、ますます増加していくのです。

そのような相談者にたいし、「改正法については詳しくありません」では通用しません。

私たちに急務とされるのは、具体的な改正ポイントについて理解を深めることです。

そこで今回は、必ず抑えておきたい『改正空家対策特措法』について解説いたします。

なぜ改正されたのか

空家対策特別措置法が改正されたのは、冒頭の解説でお分かり戴けるように増え続ける空家を減少させるためです。

様々な理由で発生する空家は程度問題として許容されるにしても、近隣に悪影響を及ぼし、かつ倒壊の危険性が生じる管理不全空家を放置することはできない。

空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律

そのような空家の増加を抑制するため設けられたのが『空家対策の推進に関する特別措置法』、私たちが「空家対策特措法」と呼ぶ法律です。

同法第5条では空家所有者の責務について「周辺の生活に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する空家等の施策に協力するよう努めなければならない」と規定されています。

努力義務に違反しても刑事罰はもちろん、行政罰などの制裁を受けません。ただし旧法においても「特定空家」に指定された場合にはその限りではありませんでした。

除去や修繕、立木の伐採などについて助言、指導、勧告、命令とすすみ、最終的には行政代執行まで認められています。ですがその予備軍である「管理不全空家」にたいしては効力が及ばないものでした。

ですから、「所詮は努力義務だから」と軽視する方が一定数存在していたのです。

ですが改正により、そのような甘い考えは通用しなくなりました。

正しく理解しておきたい改正ポイント

今回の改正で、必ず押さえておきたいのが下記の2点です。

●特定空家増加の防止措置強化
●所有者特定のために必要な情報収集に関しての権限強化

まず1つ目の「特定空家増加の防止措置強化」について解説します。

特定空家増加の防止措置強化

焦点は『管理不全空家』の増加防止です。

まず「管理不全空家」の定義について解説しますが、空家対策特別措置法において、「適切な管理が行われていないことにより放置すれば『特定空家』になる恐れのある空家」とされています。

これは「特定空家予備軍」と覚えておけば良いでしょう。

旧法においても特定空家に該当するのを防止するために必要な「指導」、それによっても改善が見込まれない場合には、措置を「勧告」できる権限が市区町村には認められていました。

ですが「勧告」は、当事者にたいし「こうしたほうが良いですよ」と、公的な立場から勧めているに過ぎません。確信犯にたいしては効果が薄かったのです。

理由は単純に、「罰則」が設けられていなかったからです。

自治体はこれまでも特定空家の増加を防止するため、独自に条例を制定するなどして努力を重ねてきました。空家対策に関する実態調査結果を見ると、積極的にそのように行動した78の自治体については、およそ36.8%の空家について管理不全状態が改善されたとの報告もあります。

ですが残りの63.2%(大半の自治体はそれ以上)の空家については改善されていません。

空家が放置される理由は、遠方に住んでいるため管理できない、費用がないなど理由も様々でしょうが、適切に管理しなければ劣化が進み、放置を続ければやがて居住できない状態に陥ります。そうなれば残る選択肢は解体しかありません。

ですが解体には相応の費用が必要ですし、解体すれば住宅用地特例が適用されず固定資産税が高くなってしまう。

それなら利活用の方針が定まるまで放置しておこうと考える。

そこで、勧告まで進んだ空家には「住宅用地特例を除去」する改正が行われました。

住宅用地特例は居住用家屋に賦課される固定資産税のうち、敷地にたいしての税負担を軽くするために設けられている課税標準の特例措置です。

具体的には次の通りです。

●小規模住宅用地(200㎡まで)
課税標準額の6分の1を価格として計算(固定資産税)
課税標準額の3分の1を価格として計算(都市計画税)

●その他住宅用地(200㎡を超える部分)
課税標準額の3分の1を価格として計算(固定資産税)
課税標準額の3分の2を価格として計算(都市計画税)

勧告を受けても放置を続ければ、その結果、特例措置が除去され、固定資産税が最大で6倍になるのですから、所有者も緊急に対応する必要が生じるでしょう。

強権発動の壁

旧法でも特定空家に対しては、勧告から命令、最終的には行政代執行による除去までが認められていました。

所有者の所在が明確であれば、除去の費用は当然に請求できます。

支払わない場合には国税徴収法により所有者の財産を「差押」ることもできます。

強権発動の壁

ですが、所有者の所在が判明していなければなかなかに難しいのです。

特定空家に指定されているとしても、不動産は個人の財産です。強権発動するにも手順は煩雑ですし、所有者の居所が不明の場合は立て替えた費用の回収も困難です。

そのような理由から市区町村は、なかなか行政代執行による解体まで踏み切れなかったのです。

そのため、所有者の調査における市区町村の権限を強化することが必要でした。

これが今回の改正における、もう一つのポイントです。

個人情報保護法の「壁」を乗り越えられる権限

ここでは改正ポイントの2つ目となる「所有者特定のために必要な情報収集に関しての権限強化」について解説します。

市区町村は管理不全空家などの所有者を特定するため、これまでもかなり高度なノウハウを有し調査を行ってきました。ですが、超えられない「壁」が個人情報保護法でした。

マイナンバー制度はすでに運用されていますが、それはあくまでも行政が効率化のため情報を一元化したに過ぎず、民間が有する個人情報とは異なります。

電力会社等を始めとする各種インフラを、まったく利用せず生活するのは困難ですから、その情報を合法的に入手できれば所有者の特定が加速されます。

ですがインフラ等を提供している各社は、市区町村から情報提供を要請される趣旨について理解していても、これまでは個人情報保護方針から逸脱して情報を開示することはできませんでした。

そもそもの話ですが、各社が定める個人情報保護方針は「個人情報保護法」に基づき作成されています。保護方針を定める際、根拠法としている個人情報保護法第27条において「次に掲げる場合を除くほか(法令に基づく場合など)、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」と定められているからです。

「法令に基づく場合」の見解については諸説あり、一般的には法令・法律のほか法律に基づいて制定される「政令」、「府省令」、地方公共団体が制定する「条例」までは含まれるとされています。

ですが勧告を始めとして、自治体からの命令、訓令、通達などは該当しないとされてきました。

ですからインフラ各社は、市区町村からの要請があっても情報開示要請にたいし積極的に応じることはできなかったのです。

ですが空家対策特別措置法が改正され市区町村の権限が強化されたことにより、各社は情報提供に関しての比較衡量を行っています。

その結果、「情報提供による利益が、秘密を守られる利益を上回ると認められる。故に第三者への情報提供は可能」であるとして保護方針を改正する会社が増加しているのです。

すでに日本郵政は改正空家法に基づく情報開示について応じることを表明していますし、電力会社・ガス会社・携帯電話会社なども追随する動きを見せています。

もはや「そう簡単に見つからない」なんてのは思い込み過ぎないのです。

市区町村からの情報公開要請に応じて情報を提供する場合、事前に個人情報保護方針の改正が必要な場合もありますが、「その他法令に定めのある場合」などの文言が記載されている場合には、改正せずとも開示できるでしょう。無論、その場合に個人の同意は必要ありません。

各自治体の多くは、すでに所有者不明調査に対するマニュアルを改定し調査に乗り出しています。

所有者特定のために必要な情報収集に関しての権限強化

この動きが加速すれば、これまで把握できなかった所有者も特定され、それにより貸し倒れリスクを懸念して踏み切れなかった行政代執行も発令しやすくなるでしょう。

特定空家の除却など

もっとも所有者が特定されたからと言って、いきなり行政代執行に踏み切られる訳ではありません。

改善を促す文章の送達から始まり、助言や指導、勧告、命令、戒告の手順は従来どおりです。

特定空家の除却など,基本的な情報の収集

今回の改正により所有者特定が容易になり逃げ隠れ出来なくなった点、そして管理不全空家と判定され勧告まで進んだ場合、固定資産税が跳ね上がる点、この2つを理解して、顧客から相談が寄せられた場合、「放置を続けることになんのメリットもありません、なぜなら……」と説明できるよう、知識を拡充しておくことが大切なのです。

まとめ

今回は改正空家対策特別措置法について、不動産業者の理解が不足しているというアンケート結果から、改正をなぜ行う必要があったのか、そしてどのような改正が行われたのかについて解説いたしました。

空家対策特別措置法全体について詳細に解説できた訳ではないですが、必ず抑えておきたいポイントについてご理解いただけたでしょうか?

改正により、これまで「そう簡単に罰則が適用されることはないだろう」と様子見していた空家の所有者も、アクションを起こさざるおえなくなるでしょう。

そこに私たちのビジネスチャンスが生まれます。そのような相談が顧客から持ち込まれた時に、あまり詳しくないとは言えないでしょう。

すでに施行済みなのですから、取り急ぎ理解を深めておきたいものです。

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