【家って移動できるんだ‼】相談に備え覚えておきたい『曳家』について

皆さんは『曳家』をご存じでしょうか?

曳家は、建物を解体せず別の場所へ移動する際に活用される建築工法のことですが、この技術を援用し、地震の影響等で傾いてしまった住宅を水平に復旧する工事も手掛けています。

このような曳家工事に関し、機会は多くないかも知れませんが、顧客から相談や業者の紹介などを求められることもあるでしょう。

その際に工事方法やおよその金額、信頼できる業者の見分け方などを知らなければ、相談に応じることもままなりません。

例えば道路拡幅のため立ち退き交渉を行う際に必要であるとして、敷地に余裕のある所有者にたいし曳家工事による移動を提案するため、国土交通省では「曳家移転料算定要項」を策定しているほどなのですから、不動産に関わる私たちも最低限の知識を学んでおく必要があるでしょう。

日頃はあまり付き合いがなくても、イザという時に頼れるのが『曳家』を手掛ける会社だからです。

そのような観点から、今回は曳家工事に関しての基本を解説したいと思います。

曳家工法の種類

建物を移動する曳家の工法は、対象となる建物構造により下記の3種類に大別されます。

そのうち木造住宅に対しては、下腰工法、下受工法ともよばれる「姿曳移動工法」が主に採用されます。

具体的には基礎部分に鋼材を通すための穴を開け、鋼材や角材などで建物を下から支えながら移動させる工法です。

曳家工法の種類

「基礎に穴を開けたくない」と言う場合には、基礎部分を含め持ち上げる「総受工法」と呼ばれる手法が用いられます。

この工法は重量に耐えることができるので、主に土蔵やアパート・マンションなどに用いられる工法ですが、曳家移動工法と比較すれば費用は割高になります。

予算を考慮しながら検討すると良いでしょう。

移動する際は、上下水道はもちろんガスなどの配管を全て取り外す必要があります。

また移転先には予め、新たに利用する各種配管工事が必要となります。

さらに移動先が軟弱地盤である場合には、必要に応じ柱状改良工事、既成コンクリートパイル工法などの『地盤補強工事』が必要になる場合もあります。

これにより工事費用も増加します。

移設の総費用に関わる部分ですから、併せて覚えておきましょう。

業者はどう探す?

日本において曳家は、「重量鳶職」系と、宮大工、船大工などから派生した「曳大工」の二派に大別されています。

一般住宅を積極的に扱っているのは主に後者(曳大工派)です。

木造住宅を移動させた場合、どれだけ丁寧に行っても土台の「ホゾ抜け」や駆体の歪みが発生することもありえますから、そのような改修に力を発揮できる「曳大工派閥」が存分に力を発揮できるからでしょう。

とはいえ普段馴染がないことから、曳家工事を検討する場合、保証も含め不安がつきません。特に、移動後の保証に関してです。

誠実に工事を行っている業者がほとんどですが、ごく一部に工事が杜撰で、業界全体の評判を落としているところがあるのもまた事実です。

目先の工事費が安いからと飛びつけば、後悔することになりかねません。

そこで一般社団法人 日本曳家協会のHP(https://nihon-hikiya.or.jp/%EF%BC%89)にアクセスし業者を探すのをお勧めします。

曳家技術者の資格制度について認定作業を行っている協会なので、安心の目安にできるでしょう。

日本曳家協会

協会が認定する資格は、曳家技術指導士、1級曳家技術士、2級曳家技術士の3種類とされ、それぞれ取得難易度や条件がことなります。

国家資格でこそありませんが、試験に合格するためには建設工事の基礎知識や地盤力学、構造物の安定性や関連法規制などの知識が求められると同時に、曳家技術に関しての実務経験も必要とされており、その難易度は高いと言われています。

ですが試験に関する情報が公にされていないことから、信憑性について確認できないのが残念ではありますが、少なくても資格を取得しようとする意識について確認するだけでも、会社を選択する際の参考になるでしょう。

建築士からは曳家工事は胡散臭いと敬遠されるようですが、確かに保証基準を明確にせず、荒っぽい工事を行う業者が多いのは事実です。

ですが切り離した住宅を可能な限り水平に保つため、コンピュータ制御による連動ジャッキを開発するなど革新的な努力を重ねている業者もあります。

協会に加盟している業者は保証基準などを明確にしているところが多いので、それらの情報を参考に探されてはいかがでしょうか?

曳家移転料の算定

曳家工事を検討する場合、気になるのは費用です。

そこでこの項では、国土交通省が策定している「曳家移転料算定要項」に基づき、見積内容が理解できるよう解説したいと思います。

もっとも要項は、木造建築物にたいし「曳家移動工法」により曳家することを前提にしていますので、他の建築物には適用できません。

まず工事費は概ね以下のように分類されます。

1. 純工事費
2. 廃材運搬費
3. 諸経費
4. 廃材処分費

曳家工法の構成

また移動により住宅の補修が必要になった場合にはその費用が、移動先地盤が軟弱である場合は、上記に柱状改良費用などが加算されます。

純工事費は、『曳家基本工事面積✕単価』で算出できます。

ですが単価については地域性もあり一概には言えません。

例えば、滋賀県で曳家工事を手掛けている(有)西川総合建設のHPを見ると、以下のような工事内容での総額が、参考価格として提示されています。

(有)西川総合建設,HP

単価について正確に把握することはできませんが、曳家工事基本面積の算出方法については下記で補足しておきます。

●曳家基本工事面積の算出方法

曳家基本工事面積の算出式は、『1階床面積✕規模補正率✕2階規模補正率✕曳家係数』となります。

見慣れない用語が多いので、さらに解説を加えます。

●規模補正率

単純に1階床面積にたいし補正される係数で、平屋の場合にはこの補正率のみで計算されます。

規模補正率

面積が大きくなるほど、補正率は低くなります。

●2階建補正率

2階建て家屋の場合には規模補正率で求められた数値に、さらに2階補正率を乗じます。

2階建補正率

1階床面積を基準に、1階、2階にたいしそれぞれ補正率を乗じる理由は、曳家工事費が基礎を単位として建物を移動する工法であるためです。

2階建ての場合は1階基礎面積が増えるに従い建物重量が増加し、そのための仮受剤や安全対策費、仮設費が増加します。

そこで平屋とは違う補正率で、再度1階床面積に補正率を乗じ計算する必要があるのです。

●曳家係数

疋距離はもちろん、アプローチ方向を変更する場合に必要となる回転の有無や、高低差・経路に存在する障害物の有無で手数も必要になり、それに応じ金額も変わります。

そこで下記の各係数を必要に応じ読み込み、金額を補正する必要があるのです。

曳家係数は下記表から該当する補正係数を読み取り、1+[ a] +[b]+[c]+[d]+[e]+[f]+[g]で計算できます。

曳家係数

自ら曳家工事の計算をする機会などないでしょうが、見積もりを取った際の内訳について検証するために、基本的な計算方法として理解しておくと良いでしょう。

移設は新築扱いなの?

さて余談として覚えておきたいのが、曳家工事によち移転した場合の建物の扱いです。

移動距離にもよりますが、従来住宅が建築されていなかったところにあらたに家が存在することになるのですから、登記はどうなるのかなど不安になるでしょう。

まず同一敷地内で曳家を行った場合、建物表題登記の申請は不要です。

地番の異なる土地に曳家した場合、建物表題登記の申請が必要となり、その際、建物登記事項として「令和◯年◯月◯日曳行移転」と記載されることになります。

新築した訳ではありませんが、従前地から別の地番へ移設した場合、登記上は旧建物とは別の新たな建物として扱われます。

そこで従前地にたいして滅失登記を行い、移設先地番で表題登記が必要になるのです。

次に建築基準法の観点から解説します。

曳家した住宅が既存不適格物件である場合、同一敷地内であれば移転してもそのままの状態が保持されます。

ただし既存不適格物件のまま、他の地番へ移設することはできません。

例外として特定行政庁により交通上、安全上、防火上、避難上のほか衛生及び市街地の環境保全上で支障がないと認められた場合には、そのままの状態で移設が可能(建築基準法第86条第4項)とされますが、そうではない場合、現行規定に適合させるための改修工事が必要となります。

曳家工事を提案する場合には、このようなポイントについて予め確認し、信頼できる業者の選定や法的な事前手続に注意を払いましょう。

まとめ

今回は、皆さんが不動産業に従事する間、一度も関わることがない可能性もある「曳家」について解説しました。

相談が寄せられて慌てるのは、プロの不動産業者としては避けたいものです。ですから、基本だけは抑えておきたいものです。

曳家工事の金額の目安については、可能であればもっと詳細に解説したかってのですが、曳家工事を専門的に扱う業者自体がそれほど多くはなく、また、工事の精度に関してもかなりのバラツキがあることから、見積内容の読み方などを解説するに留めました。

金額も無論大事ですが、それ以上に移動する際に生じる補修の対応や、移転先が軟弱地盤である場合の第三者保証の有無などを重視することが大切です。

今回は移設に関してを解説しましたが、曳家の仕事には地震などにより家が傾いた際の復旧工事も含まれます。

基本的な考え方は似かよっていますが、業者選定の参考に本記事が役に立てば幸いです。

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