電気料金の値上げや、2025年4月からは東京都が一定要件に合致する場合に搭載を義務とした影響などにより、これまでとは違った観点から注目されているのが太陽光発電です。
つい先日も新人営業マンから、「結局のところ太陽光発電って元が取れるんですか?」との質問を受けました。
結論から言えば、余程上手く活用できている人を除き「大半の方は元がとれない」というのが筆者の見解です。
ただし外的要件の変化、例えば著しい電気料金の高騰などにより、投資に見合うリターンが得られる可能性はあります。
本来、再生可能エネルギーの積極的な導入は、二酸化炭素排出を防止して地球環境を改善するためです。
損得勘定で論じるべきではありません。
ですが個人として採用する場合、やはり損得勘定で判断されるのは仕方がないでしょう。
元が取れない一番の理由は、固定買取価格が下落しているからです。
FITが開始された当初(2012年)、およそ40円/kWhであった固定買取金額は、2024年度では10kw未満(固定期間10年)で17円/kWh、10kW~50kW未満(固定期間20年)で11円/kWhまで下がっています。
当初の売電価格と比較すれば、約4分1です。
もっとも、売電価格だけで「太陽光発電を搭載するのは損」と早合点してはいけません。
普及により値下がりした太陽光発電システムの金額も考慮しなければならないからです。
上記の表は資源エネルギー庁が公開している、10kW以上のシステム費用平均値です。
これを見ても太陽光発電のシステム自体の価格が下がっているのは確認できます。
もっとも太陽光発電の搭載を「損得」で判断するには、売電金額やシステム価格、補助金の額や電気料金、諸条件により変化する発電量のほか、最終的な撤去費用まで勘案する必要があります。
ある程度まで普及が進んでいることから、太陽光発電を搭載した中古住宅の取扱は、否応なしに増加していくでしょう。
ですから私たちは太陽光発電についての最新情報を継続的に学び、リスクやメリットの理解を深め、顧客の質問に対して明瞭に回答する必要があるのです。
今回は再生可能エネルギーを自家消費することの有用性や、固定買取期間終了後の活用方法を中心に解説します。
理解しておきたいFITとFIPの違い
現在の売電方式は、FITとFIPが混在している状況です。
どちらも太陽光発電の固定買取制度ではありますが、FITの買取価格が電力市場の影響を受けないことにたいし、FIPは電力市場の影響により時期や時間帯により買取価格が変動します。
もっともFIPは、再エネ事業者に電力市場を意識した供給を促すことが目的としています。
そのため対象は10kW以上の新規認定(要件を満たしていればFITからFIPへの移行は可能)とされていますから、一般家庭の屋根に搭載されているシステム容量を勘案すれば、あまり関係がないでしょう。
諸説ありますが、この2つの買取制度のどちらが優れているかについては一概に判断できません。
余談ですが、「FITって2019年に終了したのでは?」と質問されることがあります。
2009年11月から余剰電力買取制度の適用を受けていた住宅にたいする買取期間が、2019年11月以降、順次終了しているだけのことです。
FIT制度自体が終了している訳ではありません。
固定買取期間終了後はどうすれば良い?
FITが終了する住宅は、システムの普及率と比例して増加していきます。
固定買取期間が終了した場合、選択肢は下記の3つです。
①他の買取先に売電する
②完全自家消費に切り替える
③システムを撤去する
まだ利用できるシステムを撤去するのは現実的ではありませんから、実際は①と②のいずれかでしょう。
1995年の電気事業法改正により、発電部門は原則として参入が自由になりました。
いわゆる「電力小売全面自由化」です。これにより小売電気事業者数が一気に増加しました。
その結果、余剰電力の買取先も増加し、FITが終了しても売電先で悩むことはありません。
ですが問題は売電金額です。
FIT制度に基づき余剰電力を購入しているのは、北電、東電、関電など各地域の大手電力会社です。
買取価格は一般より高額ですが、それは再エネ賦課金により補填されているからに過ぎません。
例えば筆者が活動する北海道で、FIT期間終了後に継続して北海道電力に売電する場合の金額は、執筆時点(2024年2月)で8円/kWh(消費税込)です。
10年前の売電金額はおよそ37円/kWhでしたから、随分と値下がりした印象を受けるでしょう。
ですが実際は、単純に値下がりした訳ではありません。
各電力会社の買取金額は、実際にはそれほど変動していないからです。
電気使用料に連動して徴収される再エネ賦課金については、「なんで太陽光発電も搭載していないのに負担する必要があるんだ!」との声を耳にします。
法で定められたのだから仕方もありませんが、FITが終了すればその恩恵は受けられません。
蓄電池を設置して自家消費に切り替える、もしくは少しでも有利な売電先を探す必要があるのです。
完全自家消費のネック
1kWhあたりの電気料金は、契約している電力会社やプランによって異なるため一概に言えません。
ですが公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会によれば、現在の目安単価は31円/kWhとしています。
この金額を目安としても、売電するより自家消費する方が得なのは分かるでしょう。
稀に勘違いしている方もおられますが、売電契約していても発電した電気がすべて売られている訳ではありません。
日中、自宅で使用している電気については、発電した電気が優先して利用されています。
使い切れない電気を売る、つまり「余剰売電方式」なのです。
買電より売電金額が安いことについて説明は不要でしょうが、太陽光発電を搭載して最もメリットがあるのは自家消費です。
一般家庭における電力使用量は、夏場は13~16時がピーク、冬場は比較的フラットであるとされていますが、共働き世帯が増加している現代では日中だけで発電した電気を自家消費することは困難です。
そのため発電した電気を有効に自家消費するためには、蓄電池が必須です。
一日あたりの電力使用量は標準的な2人世帯で7~8kWh程度、それ以降、家族数が増えるごとに使用料も増加し、6人家族以上になると20kWh以上使用しているケースもあります。
夏場は時間帯によらずエアコンを使用しますから、2人世帯でも15~18kWh使用する例は珍らしくありません。
このように考えれば、夜間帯の電気を補うために必要な蓄電池は5~7kWh程度は必要で、家族数が多い場合、10kWh以上の物を選択しなければ不満が残る結果になるかも知れません。
その場合の問題は、その容量の蓄電は価格が高いということです。
蓄電池も普及により、価格は下がってきてはいますが太陽光発電システムほどではありません。
性能やメーカーによって金額にばらつきはありますが、定価ベースで5~7kWhの蓄電池は120~200万円が主流で、10kWh以上になれば300万円以上です。
無論、定価で購入する訳ではありませんが、設置には工事費なども必要ですから相応の出費は覚悟しなければなりません。
太陽光発電の寿命は20年以上(パワコンを除く)とされていますが、FIT期間が終了していればすでに10年は経過しているということです。蓄電池の寿命はおよそ10~15年とされています。
FIT期間を終了し自家消費に切り替えようと蓄電池の購入を検討する場合、投下した費用に見合うリターンが得られるのか、総合的に判断し検討する必要があるのです。
撤去費用はどれくらいかかるの?
先述したように太陽光発電システムの核をなす太陽電池(太陽光パネル)の寿命は20年以上、商品によっては30年以上持つ場合もあるでしょう。
地域や諸条件によって寿命は変化しますが、総じて耐久性が高いと言えます。
もっとも、太陽光パネルだけでシステムが成り立つ訳ではありません。以下のような物が必要です。
●専用分電盤(発電した電気を家庭で使用するために必要)
●接続箱及び専用配線
●架台(太陽光パネルを屋根に設置するために必要な専用架台)
このうちパワコンの寿命は10~15年。
つまり、太陽光パネルを寿命まで利用するためには最低でも1回、交換が必要であると覚えておく必要があります。
交換費用は工事費込で22~30万円が目安です。
また専用分電盤の寿命は8~15年が目安とされており、こちらの交換費用は8~10万円が目安です。
太陽光パネルを設置するために必要な架台の寿命は20年以上とされています。
通常は太陽光パネルの寿命が尽きるまで交換の必要はありませんが、自然環境の影響を受ける可能性の高い部材ですので、定期的に劣化状況を確認することが必要です。
必要部材の交換や適切なメンテナンスを施しても、20年以上経過後、いずれ太陽光パネルは寿命を迎えます。
気になる撤去に必要な費用は作業費・人件費・仮設足場代の合計額ですが、一般的な搭載量であればおよそ20~30万円が目安になるでしょう。
結局のところ太陽光発電を搭載して得をしたのかどうかを確認するには、以下のような計算結果で判断するしかないのです。
設置費用+交換・メンテナンス費用-(売電金額+家庭で利用した電気と買電金額の差額)-撤去費用
太陽光発電の搭載を検討した場合に販売・施工業者から提供されるシミュレーションの多くは、予想発電力や想定売電額などで構成されており、メンテナンスや交換費用、撤去費用等は考慮されていないことが多いでしょう。
機械寿命は個体差もあり一概には言えませんが、忘れてはならない費用です。
太陽光発電の搭載について相談を受けた場合、もしくはシステムを搭載した中古住宅を媒介する場合には、それらを理解した上で説明する必要があるのです。
まとめ
冒頭で解説したように、今後、太陽光発電を搭載した中古住宅を扱う件数は増加していくでしょう。
実際に「太陽光発電搭載の中古住宅」をキーワードに検索すれば、相応の数が確認できます。
「すぐに太陽光発電を始められる」、「発電や売電に関する実データがあるので、収益に関する判断が容易である」などの理由で、中古市場でも好意的に受け入れられているようです。
もっともFIT制度を利用して売電している場合、固定買取期間の残期間について正確に説明する必要がありますし、名義変更手続きも必要です。
それ以外にも今回解説した太陽光パネルやパワコンなどの機器寿命のほか、売電せず自家消費する場合についての考え方など、顧客に質問された場合に備え理解しておかなければなりません。
「太陽光発電が搭載されているので、電気代が節約できますね」など、メリットだけを強調して販売すれば、トラブルが生じた場合に説明義務違反を問われるかも知れません。
媒介物件の付帯設備について、業者の説明責任はどこまで必要かについては様々な意見もありますが、それを理由として争わえた判例を見る限り、「売主には説明義務があり、媒介業者には調査・説明義務を負う」としているケースが散見されます。
物件状況報告書などに正しく記載するよう促せば、媒介業者の調査義務は果たされるという見解は間違っていませんが、太陽光発電については、売主自身が正確に理解していない可能性が懸念されます。
必要な伝達事項が正しく記載されているかどうか、また設備機器の保証書などが全て揃っているかどうかの確認は、媒介業者にあると言えるでしょう。
私たちに理解が及んでいなければ、そのような指摘もできません。
そのために私たちは、知識を学んでおく必要があるのです。